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第9回:現実世界の環境を統一する

第9回:現実世界の環境を統一する

こんにちは、パーチ の長尾です。前回(第8回) は、3DCG 空間内の色環境を統一する方法を解説しました。これを実施することで、各シーンごとの色環境のバラツキをなくしたり、マテリアルの共有化が可能になります。これまでの連載で、ハード・ソフトの環境と、3DCG 空間の環境は整いましたね。そして今回は、現実世界で物を観察する環境を統一する方法を解説します。
私たちが製品カタログ等に利用される商品写真を 3DCG で制作する時は、お客様から製品の色と素材感が判るサンプルをお預かりして、それを観察しながらシェーダで色を調整します。他にも建築パースを作る場合や、製品開発のシミュレーション、CM のリップスティック、人間の肌など現物を観察して、厳密な色を 3DCG 化する仕事は多いですよね。でも、普段私たちが使っている照明は 「色を変えてしまう」 という特性があるので注意が必要です。また、照度と色温度が違う照明で観察すると、色付きのサングラスをかけて観察するのと変わらないですよね。これは前回の 「3DCG 空間の環境統一」 と同じことですので、前回を思い出しながら読んでもらうとパッと理解できますよ。
では、いつも通り 「一番大事なポイントを絞り込んで、難しいことをわかりやすく」 してありますので、最後までおつきあいください。

現実世界の照明は嘘をつく

青白い光(色温度が高い)の下と、暖かいオレンジ色の光(色温度が低い)の下で物を見た時に色が変わるのは判りやすい現象ですが、同じ白い光の下で見ても色が変わる現象があります。これは メタメリズム(条件等色)と呼ばれる現象で、厳密な色を再現する場合には非常に困った現象です。この現象は、普段私たちが職場で使っている照明のほとんどに見られるので、その理由と対応策を知っておく必要があります。職場の照明は「白い光」が多いですよね。それから、お洒落で落ち着く「暖かいオレンジの光(色温度の低い)」の照明もあるかもしれません。

評価しやすいオブジェクトの例

「凸凹した波長も人間には白く見えてしまう」
平均して白く見えるようにいくつかのピークを組み合わせて、一般的な蛍光灯の光は作られている

この「白い光に見えている」照明ですが、光の波長で見ると実はかなり 「凸凹」 しているのが判ります。これだけ凸凹していても私たちの眼と脳は平均化して「白い光」として認識してしまいます。

床面とカメラを作る

「吸収されなかった波長が見える色になる」
全ての波長を均等に持った白い光が物質に当たると、いくつかの波長が吸収され、残りが反射される。例えば、紫以外の波長を吸収されると、物質は紫色に見える

リンゴが赤く見えるのは、白い光が当たって、赤以外の波長を吸収するためです。では、赤い波長を含まない光が当たるとどうなるでしょうか? 赤がなく、それ以外の波長が吸収されるので、黒く見えてしまいます。

照明を設定

「欠けている波長を反射する物質は正しい色に見えない」
特定の波長にピークを持ち、それ以外の波長が弱い、一般的な蛍光灯は、弱い波長を反射する特徴を持つ物質の色を正しく見ることができない。実際には複数の波長を吸収・反射するため黒に見えることは少ないが、物質の本来の色を変えてしまう現象が起こる

これと同じことが、ピーク(凸)を持った光で起こってしまいます。強いピーク(凸)の波長の色を強くし、弱い(凹)の波長の色を弱くするという現象が起きます。そのため、照明によって色が変わって見え、観察しながら作ったマテリアルカラーが実物と違ったものになるということが起きています。少しゾッとした方もいるんじゃないでしょうか?
ほとんどの蛍光灯でこの現象 メタメリズム が起きています。違う種類(メーカーやブランド)の蛍光灯の下で見比べてみるとその違いが判ります。判りやすい実験方法は、暗い部屋にスタンドを用意して、数種類の蛍光灯を付け替えてみると、他の照明や壁面や机の反射光が少ないので蛍光灯の影響がより見やすくなります。見るものもたくさんの色が入った印刷物や、様々な色の素材を用意して比較すると良いと思います。物によっては随分変化してドキっとするかもしれませんね。

色評価用蛍光灯

照明には現物の色を正しく表現できているかを示す値があり、これを 「演色性」 と言います。単位は「Ra」で表され、100 が最も高い数値で自然光を表し、正確に色を再現していることを示します。
一般的な蛍光灯は、60~90 の間と低いために現実と違う色になってしまいます。そこで、私たちのように職業上、色に厳しい仕事をしている人たちが利用するのが、色評価用蛍光管 です。この蛍光管の演色性は、Ra98~99 と高く、波長が自然光に近似しているので、正しい色を観察することができます。一般的な蛍光灯と比べて凸凹がなく、どの波長でもきちんとエネルギーがあるので、現物の色を強くしたり弱くしたりすることがありません。

照明を設定

「色評価用蛍光灯の分光特性」
一般的な蛍光灯に比べ凸凹がなく、全ての波長がきちんと含まれているので、物質の吸収・反射が正しく行われ、色を正しく観察することができる

色を厳密に管理する仕事にもレベルがあって、それによって色評価用蛍光管の使い方も変わってきます。もっとも厳しい例として、製造工程や印刷などの成果物のチェックなどの現場では、色評価蛍光管の中でもより厳密に管理製造された物を使用し、専用の観察ボックスを設けています。観察ボックス内は蛍光灯の光をより正確に反射する塗料が利用され、蛍光灯の使用時間も管理されます。
私たちのような制作者の例では、制作デスクにスタンドを取り付け、色評価用蛍光管に入れ替えて利用しているケースが多いようです。または、制作室の蛍光灯を全て色評価用蛍光管に交換する場合もよく見られます。3DCG 制作の色再現性のレベルによりますが、大かたの場合は後者の利用法で十分な精度が得られると思います。

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