こんにちは、パーチの長尾です。本連載は「カラーマネジメントの導入に必要な情報をすべて伝える」ことを目的に、全 12 回で連載していました。そして今回は、連載後にいただいた質問や相談を受けて、追加で解説する必要性を感じたものや、新しく出てきた情報などをご紹介することになったのでよろしくお願いします。
3DCG 業界では、カラーマネジメントと同じような意味でリニアワークフローという言葉がよく使われています。もちろんこの連載でも第 5 回でリニアワークフローについて解説していますが、その際にリニアワークフローという言葉としては解説しなかったので、今回はカラーマネジメントとリニアワークフローの違いや、その関係について詳しく紹介していきたいと思います。リニアワークフローは、カラーマネジメントと同じような意味で語られることが多いんですが、実は違う物です。一緒にして考えてしまうと導入がうまくいかなかったり、期待はずれに終わったりすることが多いようなので、注意が必要ですね。
ちなみに、あなたがリニアワークフローを導入する目的はなんでしょうか? 「色が合うようにしたい」という方が多いようですが、実はリニアワークフローだけを導入しても色を合わせることができないんです(よくセミナーでこの話をすると驚かれます)。
では、その理由や、色を合わせるために必要なことを見ていきましょう。
リニアワークフローの目的
リニアワークフローの目的は、3DCG ソフトを他のソフトウェアやハードウェアで使用されている「色の濃度管理」と一致させることです。私たちが何気なく行なっている PC による制作作業では、裏側で【ガンマ】というものを使った濃度管理が行われており、これを意識することでリニアワークフローが理解できるようになります。
PC 内ではデジタルデータが動いていますが、それを直接見ることはできません。私たちは必ずモニタを通じて見ることになります。そのモニタですが、PC から送られてきた信号に対し【常にガンマという濃度調整】を行なっています。一般的な PC モニタは、PC からの入力信号にガンマ 2.2 という値のカーブで出力信号を変換して、モニタ表面に発色しているんです。
ところがこのままでは、PC 内のデータを見るときに必ず濃度が変わってしまい、撮影などを行なった画像は現実と違う明るさで見えることになり、大変困ります。そこでその問題を解消するためには、図 1 のように、PC 内のデータがあらかじめそのカーブを相殺するような濃度になっていればいいわけです。そのためカメラやスキャナなどの入力デバイスは、撮影時にすでに【逆ガンマカーブ】をかけてデータを保存するようになっています。
図 1「制作時に行われている濃度調整」
では、3DCG データはどうかというと、初めから現実世界のシミュレーションを行なっているため、ソフトウェア内での演算でガンマなどの濃度調整を行うとまずいことになります。そこで濃度調整のカーブがかかっていない、直線(リニア)な状態で処理が行われるのです。
図 2「画像の不一致がおこる」
そのため図 2 のように、3DCG のデータをそのまま実写合成などに渡してしまうと、濃度が異なった画像同士になり、違和感のある仕上がりになってしまいます。
図 3「不一致の解消」
そこで図 3 のように、3DCG のデータに撮影同様に逆ガンマをかけて渡すことで、違和感のない仕上がりにします。
これがリニアワークフローの目的と効果です。今の説明では 3DCG の出力データのみの話でしたが、このほかにテクスチャなどの入力時の問題を解消したり、3DCG 制作中の作業ウィンドウやレンダリングウィンドウなどがモニタに正しく表示されない場合に問題を解消するのもリニアワークフローの役割となります。この点について、より理解を深めたい場合は、本連載の第 5 回「"現実世界"と"3DCG のバーチャル世界"の間で色情報をやりとりする考え方」を参照してください。
カラーマネジメントの目的
リニアワークフローは【ガンマ】という濃度の問題を解消しましたが、色はガンマがコントロールしている【中間の濃度調整】の他にも【色相や彩度】【白や黒の色や明るさ】など複数の要素で変化してしまいます。そこでカラーマネジメントでは、特定の色基準(カラープロファイルや 3D LUT など)を用いてシステム全体を管理していくのですが、カラープロファイルの中身を見てみるとガンマ以外に 2 つの値が記述されていることがわかります。その様子が分かるよう、以下に本連載第 2 回の図を再掲載します。
図 4「カラープロファイルの中身」
入出力機器の発色特性を正しく記述するには、ガンマの他に、ホワイトポイント/ブラックポイントの値と、RGB 各色の値が必要
「色を合わせる」という言葉には、いろいろな期待が込められていると思います。例えば、社内の作業者が使っているモニタの色を一致させる、外部協力会社と一致させる、モニタと印刷物を一致させる、現物の色とシェーダーの設定値を一致させる、などなど。そこで、カラーマネジメントの目的は「色を総合的に管理し、上記のすべてを実現すること」になります。具体的には、図 5 のように全ての入出力デバイスとソフトウェア、そしてそれを運用するワークフロー(パイプライン)のルールを設定し、全行程で色をマッチングさせていきます。
図 5「制作の全行程で色がマッチングする」
カラーマネジメントとリニアワークフローの関係
では、カラーマネジメントとリニアワークフロー、この 2 つの関係はというと「リニアワークフローはカラーマネジメントの一部」ということになります。図 6 を見てください。リニアワークフローは、「3DCG ソフトウェアのデータの入出力を管理する手法」です。一方、カラーマネジメントは「全てのハードウェア・ソフトウェアを管理する手法」なので、リニアワークフローはその中に含まれるというわけです。
図 6「リニアワークフローはカラーマネジメントの一部」
ですので、どちらか一方だけを行えば「色が合う」のではなく、両方を行うことが必要なのです。もしリニアワークフローだけを導入して「なぜ色が合わないのか?」と悩んだことがある方はこれですっきりしたのではないでしょうか。ただし、リニアワークフローは 3DCG ソフトウェアの入出力時のデータ管理ですので、その概念を拡張して、前後のソフトウェアの管理手法まで含める場合があります。これはすでにカラーマネジメントの一部(一部分のソフトウェアの説明)のことを指しているわけですが、やはりこれだけでは色を合わせることができませんので、そうと知りつつ全体を考えてみると、「色が合わない」という混乱を防ぐことができます。
あなたに最適なガンマ値は?
リニアワークフローは【ガンマ】のみを取り扱う手法でしたが、ソフトウェアによって設定方法が異なります。本連載第 5 回では 3ds Max、第 6 回では Maya の設定方法を紹介していますが、3ds Maxは「数値」で指定し、Mayaはカラープロファイルで指定します。
そのため、カラープロファイルのガンマ値を知っておかないと、各ソフトウェア間でマッチングを取る設定ができません。そこで、本連載第 3 回で掲載した図の内容を拡張し、以下に掲載しますので、業務内容に合わせて活用してください。
図7「業務内容と推奨カラープロファイル一覧 拡張版」
自社の業務内容に合わせて色基準を選定するための一覧表
今回は、3DCG 業界で利用されることが増えてきたリニアワークフローとカラーマネジメントの関係について解説しました。「色を合わせる」には、両方が必要で、リニアワークフローがカラーマネジメントの一部であることがわかりましたね。本連載ではどちらの導入方法についても具体的な方法が解説されているので、参照して、自社にあったワークフローを構築してみてください。
最後になりましたが、カラーマネジメント関連で、素敵なお知らせがあります。7 月に、大阪、東京で、EIZO さん主催のカラーマネジメントセミナー(無料)が開催されます。私たちパーチも登壇しますが、今回は、トヨタ自動車さんやマーザ・アニメーションプラネットさんもカラーマネジメント導入企業として登壇されるとのこと、普段なかなか聞くことができない他社の取り組みを聞けるチャンスです! また、会場ではカラーマネジメント対応モニター「ColorEdge」の全ラインナップが展示され、出力紙との色合わせや 3DCG ソフトウェアでのカラーマネジメントを見て触って体感できるスペースも用意されているとのこと。さらに、3DCG でのカラーマネジメント運用についてまとめられた、小冊子のプレゼントもあるそうです。
カラーマネジメントを導入して、作業の効率化や制作物の品質アップを実現したいという方は、この機会をお見逃し無く! 詳細は以下のリンク先からご確認ください。
「EIZO セミナー for クリエイター (大阪 7/17 東京 7/26)」
http://www.eizo.co.jp/event/seminar/color_matching/eizo_cgseminar.html
TEXT_長尾健作(パーチ)
▼Profile
長尾健作(ながおけんさく)
広告写真制作会社(株)アマナにて、3DCG制作などの事業立ち上げを行なった後、(株)パーチ を設立。広告業界・製造メーカーに向けて、3DCGによる新しい広告制作手法の導入/制作サポートを手がける。各種セミナーでは、制作業務の効率化・コスト削減を実現するためのノウハウを提供。
パーチのカラーマネージメントの導入をサポートするWebページ
perch-colormanagement.jp/
▼ Powered by EIZO
この連載は、EIZO株式会社の協賛でお送りしています。
・EIZOがお届けする「カラーマネージメントに関する基礎知識」
www.eizo.co.jp/eizolibrary/index4.html