5月27日(金)、28日(土)の2日間にわたって、CGWORLD主催のオンラインイベント「CGWORLD JAM Online vol.4」が開催された。2日目の「地方におけるアニメ制作の可能性!高知県におけるスタジオエイトカラーズの挑戦ーデジタルを活用した地方におけるアニメ制作実例ー」では、デジタル制作を強みとした地方スタジオのアニメ制作戦略が紹介されたので、レポートする。なお本セッションは、スタジエイトカラーズをはじめ、デジタルによるアニメ制作の現場を支援するワコムのスポンサードによって行われた。
イベント概要
「CGWORLD JAM Online vol.4」
日時:5月27日(金)17:00〜22:00/5月28日(土)11:00〜19:00
会場:オンライン配信
主催:CGWORLD、株式会社ボーンデジタル
cgworld.jp/special/jam/vol4/
アニメ業界全体の課題
本セッションで講師を務めたのは、スタジオエイトカラーズ代表取締役宇田英男氏と取締役の伊藤陽介氏。彼らの経営するスタジオエイトカラーズは2021年に高知県にて設立されたが、まずはその背景やアニメ業界の課題について解説がなされた。
宇田氏によると、アニメ業界は2019年で市場規模が2.5兆円と、10年間で2倍に伸長する成長産業だ。
一方で、アニメ制作市場の市場規模は2,500億円とアニメ市場の10分の1程度しかなく、慢性的なクリエイター不足が続いているという。今後もアニメ全体が成長を続けていくには、新たなかたちでクリエイターを確保することが求められる。
クリエイターの確保のためには、東京一極集中を打開することが求められる。全国にアニメ制作会社は800社以上存在するが、そのうち700社程度が東京に拠点を構えており、地方のアニメスタジオは依然少ないのが現状だ。そこでスタジオエイトカラーズは、当時アニメスタジオがほぼなかった四国を拠点にすることに決めた。
また、宇田氏によると、アニメ業界はデジタル化が遅れていることも課題のひとつだという。
「日本のアニメ業界は、レイアウトや原画を手がける作画工程でまだ紙や鉛筆を使っている現場が多く、デジタル化が遅れていると感じています。特に地方での制作となると、素材の運搬が必要なこともあるため、デジタル対応は大きな課題だと認識しています」(宇田氏)。
スタジオエイトカラーズでは、地方スタジオということもあり、制作は全てデジタルで完結できるようにワークフローが組まれている。
導入しているペンタブレットは液晶の「Wacom Cintiq 16」だ。現在15台が稼働しているが、作画作業は液晶タブレットの方が作業効率が高くなるのでアニメーターには全員に液晶タブレットを提供しているという。
Wacom Cintiq 16について、宇田氏は、「性能面の魅力については、アニメーターそれぞれのポイントがあるかと思いますので、一概に言えないところがありますが、経営的には以前に比べてコストパフォーマンスが上がっている部分は評価しているポイントです。1台10万円をきる価格で以前と同等以上のスペックのため、よりクリエイティブの作業に集中できる環境を社員に提供できていると感じます」と語った。
なぜ高知県なのか
次に、四国地方の中でもなぜ高知県なのか、その経緯が明かされた。
高知県は現在、他地域に比べても人口減少が激しい地域だ。そこで同県では、この課題を解消するために新産業の創出や企業の誘致施策を積極的に進めている。そのような中、企業誘致を目的とした高知県主催のイベント「biz cafe KOCHI」に宇田氏らが出席したことがスタジオ設立のきっかけだという。
県からの支援の一例としては、現在も入居しているシェアオフィスがある。経営層の土地勘がない地方で経営をするということもあり、スモールスタートができる場所は重要だったと宇田氏は語った。
また、地元企業からの強烈なバックアップがあったこともチャレンジのきっかけのひとつとなった。今年に行われた「高知アニメクリエイター聖地プロジェクト」では、高知信用金庫と共同で高知をアニメの聖地にするべく取り組みを進めているところだ。
スタジオエイトカラーズは地域に根差した活動も積極的に開催している。アニメ体験教室では、多くの子どもたちが参加し、アニメ制作の基礎を体験できる。
このような取り組みもあって、前回の採用説明会では155名の参加があり、高知県では注目度の高い企業となっている。現状では社員は13名、うちインターンが3名という構成だが、これからも県内外を問わず採用活動を広げていきたいという。
スタジオエイトカラーズのCM制作舞台裏
次に、スタジオエイトカラーズが手がけたCMの制作秘話が語られた。
同スタジオは高知県に拠点を構えていることもあり、⾼知信⽤⾦庫の100周年を記念したアニメーションCMを2本制作。地元のテレビCMで放送されているほか、YouTubeでも公開されている。
CM制作自体はスタジオが担当したが、キャラクターデザインは高知県出身の刈谷仁美氏、背景には高知県在住の高橋宣之氏と、高知にゆかりのあるクリエイターが参加している。
CMは、高知県の日常とアニメらしいファンタジー要素が融合した映像になっている。その他のCM作品は、YouTubeのスタジオエイトカラーズ公式チャンネルにて、ぜひ楽しんでほしい。
映像制作のこだわりポイント
セッションの後半では、実際にCMの制作を担当した取締役の伊藤氏から、制作する上での「こだわりポイント」がいくつか紹介された。
まず1つ目は、CLIP STUDIO PAINTでの線撮だ。スタジオエイトカラーズは立ち上げて間もないということもあり、スタッフのアニメ制作経験もゼロに近いところから始まっている。そのため、未経験者でも使えるツールを揃えることが必要不可欠だ。
アフレコに向けた動画素材を作成する上では、「線撮」という、アニメーターが描いた現状の素材を動画にする工程がある。通常この工程は撮影専門スタッフに発注するが、同スタジオでは経験の少ないスタッフに工程を理解してもらうため、CLIP STUDIO PAINTでの線撮を行った。
2つ目のポイントは、ラッシュチェック後のTP修正(トレスペイント修正)だ。作業終盤になると、カットごとに映像のチェックが行われる。本来、この工程でリテイクが発生すると、該当するセクションまで戻って修正作業を行う必要があるが、スタジオエイトカラーズではCLIP STUDIO PAINTで素材の修正を行なったため、リテイクの時間を大幅に短縮できた。
こだわりポイントの3つ目と4つ目は、東京にある分室の活用と関連している。作画監督は東京出身であることが多いため、チェックは東京で行う体制になっている。
東京分室では、主に高知スタジオでは対応しきれないキャラクターの顔の修正など、作画監督の作業が必要な箇所を対応することにしている。
「東京分室の編集室はリモートチェックにより大きな効果を出しました。リモートチェック自体は多くのプロダクションで採り入れられてきましたが、完全にリモートで作業を行うことは難しいとされてきました。そこで、弊社では画質の粗さやかくつきを限りなく抑えた状態で流すことが可能なストリーミング配信を共同で開発しています。これにより、自宅でカラーのチェックをしたとしても、編集室とほとんど同じバランスで見ることができるため、TP修正の指示出しやリテイク時間の短縮に大きな効果がありました」(伊藤氏)。
最後に、スタジオから今後の事業計画や中途アニメーターの募集に関する紹介がなされ、本セッションは終了。今後のアニメ制作のあり方を考えさせられる、貴重な講演だった。
TEXT_江連良介 / Ryosuke Ezure
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)