2023年8月4日(金)、CGWORLDとオートデスクのオンラインフェス「Autodesk Day 2023」が開催された。全11のセッションでは、Maya、3ds Maxをはじめとするオートデスク製品の深掘りや、クリエイターによる制作事例のメイキング、学生CGトライアルの受賞者座談会など、幅広い内容をラインナップ。3DCG制作に役立つノウハウやアイデアを伝える1日となった。
本記事では「『バイオハザード:デスアイランド』実写監督の撮影技法を持ち込んだレイアウト・アニメーションの舞台裏」の模様をレポートする。
イベント概要
Autodesk Day 2023
日時:2023年8月4日(金)
時間:11:00〜19:00
参加対象:3DCG制作に携わる方、これから目指す方など
参加費:無料 ※事前登録制
会場:オンライン配信
cgworld.jp/special/autodeskday2023/
Information
実写撮影の技法をフルCG作品に取り込む
宮本 佳 氏
Quebico株式会社|CEO / Producer
『バイオハザード:デスアイランド』COプロデューサー / CGプロデューサー
渡辺 一基 氏
モグ株式会社|CEO / Animation Supervisor / Director
『バイオハザード:デスアイランド』アニメーションスーパーバイザー / リードレイアウトアーティスト
本作の監督は『海猿』シリーズなど実写作品で知られる羽住英一郎氏。Quebicoと羽住監督とのタッグはNetflixで配信したフルCGの連続ドラマ『バイオハザード: インフィニット ダークネス』(2021)に続いて2回目となる。
「前作の制作時は羽住監督と共に作品づくりができることに興奮をすると同時に、実際には緊張のなか手探り状態でスタッフ一同無心で食らいついて頑張った記憶があります。今回、運良く2回連続して作品づくりができるということで、今度は落ち着いてスタッフ一同もっている力を十分発揮して、羽住監督の実写での素晴らしい実績をCGでも再現するという思いで挑みました」とCOプロデューサー/CGプロデューサーを務めたQuebicoの宮本 佳氏はふり返る。
CGチームの使用ツールはオートデスク製品が中心。メインツールにはMaya、レイアウトの一部にMotionBuilder、アニメーション制作の進行管理にShotGridを使用した。
セッションでは、アニメーションSVを務めたモグ株式会社の渡辺一基氏が、レイアウトからアニメーションまでを大きくVコンテ、モーションキャプチャ、レイアウト、フェイシャル、アニメーション、レンダリングの6工程に分けて解説した。
実写の芝居を撮影・編集したVコンテ
本作の最大の特長とも言えるのが、役者を使って撮影・編集したVコンテの活用だ。「フルCGなのにと思われるかもしれませんが、このやり方は羽住監督が提案した手法です。やはり実写で撮影して、どういうことがしたいかを制作スタッフに示すのが一番伝わりやすいということでした」と宮本氏。
絵コンテを描くのではなく、カメラを回して全編を実写で撮影し、どこでどういう演出を施すかを決める。この方法で画の8~9割はVコンテと最終レンダーがほぼ同じという、驚きの一致率となった。
「CGの現場で一番大変なのは、つくり込んでつくり込んでやっぱり違ったというパターン。羽住監督とのタッグではそれがほとんどありません。だからCGチームは3DCGのクオリティの追求にフォーカスできました」(宮本氏)。
具体的には、まずは字コンテに監督がどう撮りたいかを書き込み、次に、仮の背景とプロップをつくる。
実写撮影の現場では、CGチームはVコンテ用の実写撮影の様子をカメラマンの姿を含め撮影。この映像がCGチームの資料となった。
「実写の人たちがどう動くのかを知らないスタッフも多いのですごく参考になりました。カメラがしゃがんだり回り込んだりしている様子がわかるだけでも全然違います。羽住監督の作品を撮影してきた経験豊富なカメラマンさんだったので、テクニック面でもとても参考になりました。それと、これがあることで監督がどう撮りたいかがわかるので、次の工程のモーションキャプチャの香盤表をつくるのもすごく楽でした」と渡辺氏。
セッションでは宮本氏が、実写撮影の現場はCGの現場とは異なる文化で、そこが面白いところだとふり返った。「実写畑の特徴をひと言で言うとライブ感。お互い畑が違うので、しっかりコミュニケーションを取ってお互いが寄り添う良いかたちで進められました」。
渡辺氏も「羽住監督はCGにすごく寄り添ってくれました。『カロリー』という言葉をよく使っていて、CGでそれをやるのは『カロリー高いの? 低いの?』みたいに尋ねてくれていました」とふり返る。
Vコンテ撮影時にはレンズとレンズワークをメモ
渡辺氏が本作でこだわったのが「レンズワーク」。撮影のその時々でどういったレンズを選び、画角を決めていくかを表す言葉だ。
「実写ではレンズワークは当たり前。ですがCGは後から変更できるので、これまではあまりシビアに考えてこなかったと思います。今回、実写の文化、実写のエッセンスをCGに取り入れるということで、このレンズワークは特に大切にしました」(渡辺氏)。
本作ではVコンテ撮影時に、渡辺氏ともうひとりが交代でカメラマンの側に付き、使用しているレンズの情報とレンズワークをメモ。撮影はSony PXF-FS7(センササイズ24.7✕13.1)で行われた。
しかし実写作品の場合、Vコンテ用のカメラと本番用のカメラは異なることが多い。そこでCGチームが羽住監督に「本番を実写で撮るとしたら、カメラは何を使いたいですか?」と質問したところ、監督は当時最新のARRI ALEXA LF(センササイズ36.7✕18.35)で撮影すると仮定。
そこでCGチームは、羽住監督の要望に応えるべく、センササイズの異なる2つのカメラの差を埋めるためのレンズ変換ツールを用意。
「テクニカルSVに相談したら、MayaとMotionBuilder用にレンズ変換ツールをつくってくれました。このツールで変換しながら実写のレンズをCGに反映させよう、ということになりました」(渡辺氏)。CGチームが自ら実写のエッセンスを活かすべく、監督に前向きな提案を行なったエピソードである。
モーションキャプチャ
セッションは次のモーションキャプチャの解説に進む。まずはVコンテを基に「動線図」を作成したという渡辺氏。これは、アクターがどこからどこまで移動して、どこまでをワンショットでモーションキャプチャできるかをシミュレーションするために用いられた。
モーションキャプチャは10日間で収録。次からはCGの工程のため、撮れるものは全て撮り、集められる情報は全て集めるという気持ちで作業したという。「CGの場合、最後に変えるというのが一番辛いので、それがないように。もちろんイレギュラーなことはあるんですけど、それをどれだけ少なくできるかというのがわれわれのテーマでした」(宮本氏)。
レイアウトはMayaとMotionBuilderで
セッションはレイアウトの解説へ。レイアウトは担当者の得意不得意にも対応できるよう、MayaとMotionBuilderの両方で作業ができるようにした。なお、ゾンビが多数出現するシーンや、モーション同士のブレンド、フロアへの接地アニメーション編集などが入るシーンはMotionBuilderの方が適性が高いため、シーンによる切り分けも行なったという。
レイアウトで渡辺氏が特にこだわったのが、「手ブレを自然にする」こと。「動きの幅、カメラの幅に対して揺れ方を調節したかったのですが、やはりそれは手作業でないとできなかったんです」(渡辺氏)。
また、アニメーション時にカメラを修正するのを避けるため、レイアウトの段階で接地を合わせた。「本来はアニメーションの工程でやるんですけど、レイアウトの段階でやってしまいました。キャラクターをちょっと動かしただけで、またカメラの撮り方を変えなくてはいけなくなるので」(渡辺氏)。
インハウスツール「Pipeline」の活用
レイアウトの完成後は、Quebicoのインハウスツール「Pipeline」を活用。これはクラウドサービスプラットフォームのAWS(Amazon Web Services)上でデータの管理と共同作業を一元化する基盤サービスだ。データの収集とシーン構築、作業データのアップロードまで一環して行える。
例えばアニメーターはPipelineに作業するシーンとショットの番号を入力すると、Pipelineが必要なデータを自動でダウンロードし、Mayaのシーン構築まで行なってくれる。作業後は、「アニメーションをアップロードする」と入力することでアニメーションだけが更新されるので、同一ショットの共同作業でもリビジョンの競合などが起こりにくい。
また、Pipelineでは、読み込むキャラクターモデルを、レイアウトで使用した軽量モデル、アニメーションで使用するモデル、最終レンダリングで使用するハイディテールモデルの3種類から選択できる。
そのため、アニメーション作業時にPCのレスポンスが悪ければ軽量モデルに切り替えたり、関節の変形などをしっかり確認したい場合などには最終のハイモデルで確認するといったことが行える。
フェイシャルは『バイオ』のキャラクターイメージを大切に
セッションも終盤、フェイシャルの解説に移った。本作では、レオン(レオン・スコット・ケネディ)やクレア(クレア・レッドフィールド)など、『バイオハザード』シリーズで長く培ったイメージを崩さぬよう、渡辺氏が仕様書を細かく用意して作業者に共有したという。
アニメーションの進行管理はShotGridで
最後の工程はアニメーション。制作の進行管理はShotGridで行なったという。「メディアの管理とステータスの管理がこれだけ柔軟にできるのは他ではなかなかないですね。リモートでいろんなところにスタッフがいるような状況では特に助かります」(宮本氏)。
渡辺氏も「これがなかったらたぶん泣いてました(笑)」と話す。大量に上がってきたアニメーションに渡辺氏がShotGridでペンを使って描いてチェックバックを進めたという。
アニメーションで渡辺氏が特に気を付けたのは武器の握り。軍事アドバイザーの助言を元に、初心者のような握り方を排除した。また、銃のマガジン(弾倉)数や銃弾の計算も行なったそうだ。
「コンタクト(攻撃が当たる)の瞬間も全カット入念にチェックしました」と渡辺氏。モーションキャプチャのデータは遅れていることも多いため、フレーム単位で送り、アニメーションとして最善のかたちになるようにしたそうだ。
TEXT__kagaya(ハリんち)
EDIT_武田かおり/ Kaori Takeda