『機動戦士ガンダム 水星の魔女』のビジュアルクオリティ向上にも大きく寄与! AMD×旭プロダクションコラボPCこだわりの基礎設計を紐解く
『機動戦士ガンダム 水星の魔女』のまさに制作真っ最中、助っ人的に導入されて大いに活躍。本田氏曰く、まさにガンダムのような働きを見せたというAMDコラボのマシンが、今回紹介する「旭プロダクション アニメーション制作 撮影処理/VFX 使用スペックモデル|WA7A-C231XB/AP」だ。
現場の声に応えるかたちで設計された、理想のバランススペックともいうべきこのコラボPCが、最新アニメの実制作の現場でどのようにビジュアルクオリティに寄与したのか。そのメイキングとともに、こだわりぬかれた構成を紹介していこう。
高難度な撮影カット制作を実現する、最適なバランスのPC
『機動戦士ガンダム 水星の魔女』のみならず、さまざまなアニメ作品において処理負荷の高い撮影パートを請け負い、そのポスト処理においてビジュアルクオリティを一段高いステージへと引き上げる―――。そんなプロフェッショナルたちが集うのが、今年で50周年を迎えるアニメ制作の老舗、旭プロダクションだ。
撮影パートを祖業とし、現在ではアニメ制作の全行程を担うだけのスタッフが集う。またデジタル作画においても、フルデジタルのスタジオをいち早くサテライト開設するなど、業界に先駆けてデジタルに積極投資する企業でもある。
「‟撮影”はうちの祖業であり、いまもスタッフは常時50~60人、1クールに10本以上担当します。特色ある撮影監督と班構成で、様々なオーダーに対し最大限に答えられる体制を持っていて、かつアニメの撮影といえば旭プロダクション、という自負もあります」と語るのは、同社システム班のマネージャー、本田拓望氏だ。
本田拓望 氏
旭プロダクション
管理本部 人事総務部 システム班
マネージャー
クリエイターにとってストレスの少ない制作環境を提供すべく、常に現場の声を聴きながら、PCからサーバーまわりまで同社のすべてのシステムの管理運用、ならびに導入までを担当している。
「その弊社だから、というわけではないですが、撮影というパートに対しては、もっとマシンパワーを割り当ててしかるべきという思いがあった。なので今回のコラボPCの標準タイプとしても、まずは‟撮影処理/VFXモデル”を開発しよう! ということになったんです(本田氏)」。
本田氏の思いもあり、AMDと旭プロダクションのコラボ企画としての制作向けPCの開発がスタート。本スペックを重視してコストバランスをとりつつ、何より制作現場のニーズに沿った構成を探っていき、それがTSUKUMOの参画により実現することとなった。
こうして開発されたコラボPCが試験的に1台導入されたのが、『機動戦士ガンダム 水星の魔女』の制作終盤だった。既存のマシン環境では、「撮影用のAfter Effectsプロジェクトが開かなくなったり、低解像度でしかプレビューが再生されない、レンダリングで落ちる、など厳しくなっていましたね」と振り返るのは、主に本作品の撮影監督を補佐するかたちで重たい撮影カットを任されていた山杢 光氏だ。
山杢 光 氏
旭プロダクション
技術本部 撮影部 撮影課
撮影監督
「作品終盤では物語の盛り上がりに合わせてビジュアルはますます豪華になり、重なるレイヤーは100以上、3Dレイヤーあり作画レイヤーあり、さらにそれに対してマスクを切ってエフェクトアニメーションを掛けたり、といった感じでとにかく重くなっていきます(山杢氏)」。
「水星の魔女なら、メインの被写体のほかにも動き回るガンビッドやビーム、バーニア、爆発といったすべてが別素材で、それらに全部After Effects上で処理が入って、さらにエフェクトで3D空間を構成して……みたいな感じで。そうした本当に重いプロジェクトデータが、本機の導入によってフルサイズでもプレビューしながら調整できるようになった。これは本当に助けになりましたよ(山杢氏)」。
本田氏曰く、これはAdobeツールの利用における厳しい処理をすべて実行している状態。
「リアルタイムのRAMプレビューには、膨大に組まれたレイヤー数ぶんメインメモリを喰いますし、3Dレイヤーがあれば当然GPUも使いますし、その再生には常にCPU/GPU/メモリがフル稼働します(本田氏)」。
「実は、すべての制作素材が集まってきて1つにまとめる場所であり、かつ後工程に位置するため作業時間も限られる、という‟撮影”こそ、アニメの最終クオリティを担保するために重視すべき工程であり、そして一番マシンパワー的にも考慮してあげるべきパートなんです。本モデルはそれを念頭におきながらコストバランスも踏まえて最適な構成を組めて、実際に性能的にも充分な実績をあげることができたと思いますね。
安くて良いPCは市場にたくさんありますが、各パーツに一切の妥協無く、メモリが基本128GBで構成されている点では唯一の存在と言えます。正直な所、単純な撮影作業だけなら制作向けPCでもできるが、ワンランク上の撮影処理までストレス無く行いたいなら撮影向けPCの方が絶対安心です。
クリエイターモデルは数あれど、超実践的で現場の声を100%反映させて、1段階上の攻めたモデルがつくれたのはTSUKUMOさんとAMDさんとのコラボPCだからこそ! と思っています(本田氏)」。
コラボPCだからこそ実現できた撮影カットメイキングを紹介
そしてここからは、実際に山杢氏が手掛けた直近作品の撮影パートにおいて、「撮影処理/VFX 使用スペックモデル|WA7A-C231XB/AP」が活用された実例を紹介していこう。
合わせて、撮影処理が入る前後での完成カットの比較(ビフォー/アフター)も掲載する。いかにアニメの画づくりにおいて、撮影パートによって品質を上げているのか、このビフォー/アフターを見ればよくわかるはずだ。
『機動戦士ガンダム 水星の魔女』 撮影パートメイキング
『機動戦士ガンダム 水星の魔女』においては、まさに最終盤のところ、第23話以降に本PCが導入され、重たいカットの撮影処理に貢献した。画面は、第23話、カット216のAfter Effects作業状態。
山杢氏「23話のカット216はとにかく重たくて。特殊に構成されたエフェクト空間で、メカのキャラ処理があってバーニアやビームがあって、3Dのガンビッドが多数あって、それらに全部エフェクト掛けて。そんな中でビームを避けながらぐるぐると飛び回って、敵のメカを爆破する、というような複雑な構造です」。
「これがまず既存環境だと、仮組み状態のAfter Effectsプロジェクトが1/3とか1/4画質でしかプレビューできないという事態でした。そうなると、動きはレンダリングして確認するしかないんですが、もちろんレンダリングには時間がかかるし、最悪落ちたりなんてこともあります。それが、このPCの導入後にはフル画質でプレビューが動くようになった。つくった動きの確認がすぐできるようになり、もちろん作業時間は大幅な短縮になりました」。
山杢氏「第24話のカット297Bは、
特殊効果というか。8パターンくらいのマスクアニメーションをつくって、マスク境界にもエフェクトをかけて違和感を無くしつつ、発光パーティクルを吹き出しながら消していっています。このカットの処理についても、既存のPCでは性能的にも、作業時間的にも実現不可能だったと思いますね」。
『シャングリラ・フロンティア』 撮影パートメイキング
山杢氏がテレビシリーズとしては初の撮影監督を務める、『シャングリラ・フロンティア』。10月より放送となる本作では、制作当初よりこのAMDコラボPCが、本格的に活用されている。画面は、あるカットにおけるAfter Effects上でのキャラ処理画面。
山杢氏「ゲームの中に入るという物語設定上、キャラクターには発光やパーティクルなどエフェクト処理がさまざまに入るため、このキャラ処理を最初につくっていきます」。
「色彩設計からカラーモデルをもらい、色を抜いて、各パーツごとに処理を乗せていく。ただ普通にいるだけのサンラクが、色味や質感調整、光の入り、主線への処理など含めて、実は50以上のレイヤーで構成された状態になっています。このキャラクター処理をつくるのが一番重い作業ですね」。
「各カットの演出や明暗、構造に合わせて調整できるよう、ベースとなる状態を作らなければならないので。ビフォー/アフターの画像で見ると、小さくてわからないかもしれませんが、素の状態とは鳥頭の質感とかは全然変わっています」。
山杢氏「あるカットでの、撮影処理のわかりやすいビフォー/アフターですね。『シャングリラ・フロンティア』のようなゲーム系のビジュアル表現では、こうした武器や魔法なんかのパーティクルエフェクトが多くなります。こうしたエフェクト処理の多くは、実は撮影パートまで来てはじめて追加されるもの。比べてみてもらえれば、完成画のクオリティを大きく左右するものだとわかると思います」
制作のプロならではの着眼点による、性能強化のこだわりとは?
ここまで見てきたように、アニメ制作の現場において既に大きな実績を上げている「旭プロダクション アニメーション制作 撮影処理/VFX 使用スペックモデル|WA7A-C231XB/AP」。
即座に成果を上げられているのは、「実は、単にCPUやメモリ、グラフィックスといった、目につきやすい部分のスペックのみによるものではない」と本田氏は言う。実際のところ、企画に全面協力した本田氏のこだわりによって、制作現場で使うマシンとしての“基礎性能”ともいうべき部分を強化していることが大きいとのことだ。
旭プロこだわりの基礎性能強化 その1 「帯域幅(マザーボード)」
まず本田氏が重視した基礎性能のひとつが、マザーボード(プラットフォーム)を最新仕様とすることだ。
「たとえばですが、最高速度が160km/hのクルマに乗っていても、道路の制限速度が40km/hなら出せるのは40km/hですよね。でも高速道路に乗れれば、クルマが同じでも倍の80km/hで走れます。これがPCで言えば、いわゆる帯域幅に当たるもの。この帯域幅を広げるのが、CPUやメモリ等を稼働させるマザーボードです」。
「たとえば、CPUのソケットがAM4からAM5に変われば倍近く帯域が広がり、PCI Expressの4.0から5.0になればこれも帯域が倍になる。これはつまり、CPUもSSDも、要はクルマでいう制限速度が上がるということ。これがいろんな処理に対して、想像以上に効いてくる。帯域幅を最新にしておくことでスピードは上がるし、先々まで長く使える可能性も高くなります(本田氏)」。
旭プロこだわりの基礎性能強化 その2 「高耐久のストレージ」
制作プロダクションの現場で扱われるPCは、巨大かつ大量の素材データを日々扱うため、当然ながら一般的なPCの使い方よりストレージの負荷が高い。つまり、壊れやすくなるわけだ。
「今のSSDは、とにかく何を使うにしても速いものは多いですが、ウチのようなところではとにかくストレージが長く持たない。ほとんどは24時間365日使う想定の製品ではないので、1年と持たずに壊れてしまったりします。そうなると復旧やらで手間もかかるし、その耐久性はぜひとも強化したいポイントなんですね」。
「なのでSSDには、高耐久を売りとするSeagateのFireCuda 530を採用してもらっています。うちで1年壊れないなら、普通は5年くらいは壊れないはず。期待しています(本田氏)」。
旭プロこだわりの基礎性能強化 その3 「冷却機構は“空冷”」
これも耐久性に関わることとして、制作プロダクションとして多数導入する前提のあるPCなら、「水冷は選ばない」と本田氏。経験として、特にケース内に収める簡易水冷の場合はラジエーターが壊れたり、冷却水がなくなったりといった管理の負担が増えるのだという。
「外部にポンプを置いて回す完全水冷ならより耐久性はあるのかもしれませんが、その場合、今度は物理的に置く場所が問題になります。そもそも、制作現場の室温って25度前後に保たれているはずで、それなら空冷で問題ないはずなんですよ。今の空冷ファンは性能も高くしっかり冷やしてくれる。静穏性を重視したり、個々で管理するPCなら水冷もありだとは思いますが、一括管理するプロダクションのPCとしては、シンプル機構の空冷が一番ですね(本田氏)」
こうしたこだわりスペックのPCを、コストバランスを保って実現できたのは、やはりAMDプラットフォーム採用によるところが大きい、と本田氏は語る。
「最新の帯域幅をサポートすること、またそのCPUだけでないプラットフォーム含めた導入コストにおける対費用効果として考えても、選択肢は最初からAMDのみでした。性能的に見ても安定性の面でも、もはやAMDプラットフォームのデメリットはないですし、1台当たり数万違えば、それが何十台となれば数百万の話。今ではウチは、レンダーマシン除くすべてがAMDマシンになりました。今回も、やはりこれだけの要望を詰め込んでこのコストパフォーマンスを出せたのは、AMDだからですよ(本田氏)」。
そしてこのコラボPCは、フリーランスのクリエイターや、CGやアニメ、動画制作を学ぶ学生にも向くはずだ、と本田氏は考えている。
「今回の撮影VFXモデルって、動画編集をやる人、とどのつまりはYouTuberやVtuber、LIVE 2D制作者なんかにも向いている。必要スペックが似通っていますからね。そして、それに10万ほど上乗せしたのが3DCGモデルで、それでも50万までいかない。今回構成させて貰ったモデル達はTSUKUMOさんに我儘を聞いてもらい手の届く価格帯に収まっています。いきなりオーバースペックのPCを使っても意味はないですが、かといって自分の周囲でも25万くらいでPCを購入したけど結局は1年以内に増強してトータルで35万超えた、なんて話を本当に良く聞きます。この構成のPCが、動画系でもCG系でもアニメ系でも、迷えるフリーランスの方や学生さんに届けばと本当に思います(本田氏)」。
TSUKUMO「旭プロダクション アニメーション制作 使用スペックモデル」では、今回メインで紹介した「撮影処理/VFX 使用スペックモデル」をベースモデルとしつつ、そこから4つのプロダクションモデルを展開している。
一番ローコストな制作業務モデルでさえ、制作現場のニーズを組み、ストレスなく各業務を遂行できるよう、いわゆる一般的なPCより“盛った”構成となっている。それでいてコストバランスが取れているのが、このモデルの最大の魅力と言っていいだろう。それぞれ、企画者である本田氏に解説いただいているので、ぜひ参考にしていただきたい。
旭プロダクション アニメーション制作 撮影処理/VFX 使用スペックモデル|WA7A-C231XB/AP スペック詳細
- OS
Windows 11 Pro (64ビット版)
- CPU
AMD Ryzen™ 7 7700X (8コア16スレッド、定格4.5GHz Boost時最大5.4GHz、L2+L3キャッシュ40MB)
- GPU
NVIDIA® GeForce RTX™ 4070 12GB (GDDR6X)
- マザーボード
ASUS ProArt X670E-CREATOR WIFI (ATX)
- チップセット
AMD X670E
- メインメモリ
128GB (32GBx4枚) DDR5-4800※ 最大 128GB メモリスロットx4(空き0)288-pin
- ストレージ(システム用)
1TB SSD※ (Seagate FireCuda530 SSD M.2規格 / NVMe Gen4接続)
- 光学ドライブ
オプション (BTOで追加可能)
- ネットワーク
Ethernet 2.5G/10G LAN / Wi-Fi 802.11 a/b/g/n/ac/ax
- Bluetooth
Bluetooth v5.2
- 拡張スロット
PCI Express 5.0 x16スロットx2(空き1) PCI Express 4.0 x16スロットx1(空き1)※
- 電源ユニット
Thermaltake製 定格850W 80PLUS GOLD対応
- ケース
ATXタワーケース (EX-623T-C)
- ファン
フロントx1(140mm)、リアx 1(140mm)
- 外形寸法
220(W)x447(D)x497(H)mm (本体のみ。突起物含まず)
制作/デジタル作画/CGパート用モデルのスペック
制作業務 使用スペックモデル
「事務用の普通のノートPCを渡されて、それでアニメの進行管理をやれっていうのは違うでしょう、という思いで構成しています。素材のチェック業務があるということは、実素材のデータを開いて、見て、扱う、ということ。それができる最低限のスペックがないと、しっかりした仕事はしてもらえないですから(本田氏)」。
デジタル作画 使用スペックモデル
「デジタル作画の推奨環境って、実はずいぶんアップデートされてきていません。作画の人たちもそこまでPCに詳しい人は少ないから声が上がりにくいけど、実際聞いてみたらカクカクですとか、データ開くのを数分待ってます、みたいな話が実はあります。まず、メモリから足りていないんですよ。それに今は作画スタッフがBlenderを使って……といったことも当たり前にある。デジタル作画の転換期は終わりました。作画でも、メモリは128GB搭載して外部GPUを積む。これが当たり前の環境になっていってほしい、という思いですね(本田氏)」。
3DCG制作 使用スペックモデル
「撮影処理/VFX モデルがほぼ全能機というか、ある程度の3D処理を含めて何でもこなせて、しかも3年は前線で戦えるくらいのつもりで組んでいて、じゃあこの3DCGモデルは何かというと、アニメの3DCG班において必要十分を目指したものになっています。少しGPUは強化するんだけれども、QuadroではなくGeForce。CPUについても、XeonでもThreadripperでもなくAMD Ryzenのハイエンド。
100万円をオーバーするような超ハイエンド機を、どれだけの人材が使いこなせるのか?という話で、多くのCGアニメーターにとって必要十分な性能をその半分以下のコストで目指しました。3D系の学生さんや新人への導入をイメージしたモデルになっています。バランス的には最高に良いはずです(本田氏)」。
INFORMATION
作品情報
シャングリラ・フロンティア
2023年10月1日より MBS/TBS系全国28局ネットにて
毎週日曜日午後5時より放送開始!
https://anime.shangrilafrontier.com/
©硬梨菜・不二涼介・講談社/「シャングリラ・フロンティア」製作委員会・MBS
旭プロダクションについて
今年設立50周年を迎える、老舗のアニメ制作プロダクション。アニメーションにおける全行程を担うスタッフが在籍、テレビシリーズから劇場作品、Webアニメまでさまざまな作品に携わる。特に祖業である撮影パートに強みを持ち、1クールに10本以上の作品を担当するなど、“撮影といえば旭プロダクション”という定評もある。
製品についてのお問い合わせ
ツクモネットショップ:shop.tsukumo.co.jp
法人営業部:houjin.tsukumo.co.jp
TEXT__高木貞武 / Sadamu Takagi
EDIT__高木貞武 / Sadamu Takagi、柳田晴香 / Haruka Yanagida(CGWORLD)