大阪・天満橋にオフィスを構える株式会社オルガンソフト。アミューズメント分野のコンテンツ企画・開発・制作で成長を続け、今年で創立17周年を迎えるプロダクションだ。特筆すべきは、TVアニメ作品に劣らぬハイクオリティなオリジナルコンテンツを、企画から実装まで一貫してプロデュースする底力。パチスロ『十字架』シリーズを筆頭に、社内の開発チーム「teamVamp」が遊技機向けのオリジナルコンテンツ開発に心血を注いでいる。ここでは、そんなteamVampが手がけた最新作『賞金首Angel』映像のメイキングを通じて、同社の魅力に迫っていく。
機種概要
『賞金首Angel』
メーカー:ネット株式会社
稼働開始日:2024年7月22日
www.net-fun.co.jp/showkinA
※筐体画像は開発中のものです
遊技機向けオリジナルコンテンツ開発チーム「teamVamp」
左から
S氏:デザイン部門オーサリングリーダー、サブマネージャー
N氏:企画部門プランナー、副主査
M氏:デザイン部門3D、主任
F氏:デザイン部門3D
CGWORLD編集部(以下、CGW):本日はオルガンソフト・teamVampの皆さんにお話を伺います。まずは皆さん、自己紹介をお願いします。
S氏:2015年に中途入社して以来ずっと、コンポジットとオーサリングを担当していまして、今はリーダー業務も兼業しています。
N氏:2016年に入社しました。オルガンソフトは5社目なのですが、経歴としてはこれまででいちばん長く在籍させてもらっています。
M氏:2017年に新卒2Dデザイナーとして入社しましたが、3Dの魅力にハマり3Dデザイナーに転身しました。現在は主任として3D全般とリーダー業務を行なっております。
F氏:2021年新卒入社で、3Dデザイナーとしてモデリングからシーン構築までひと通りを担当しています。
CGW:皆さんteamVampのメンバーということですが、teamVampとはどういったチームですか?
S氏:ひと言で言うと、ネット株式会社から依頼され、合同でゼロからオリジナルコンテンツを開発するチームです。そもそもオルガンソフトは遊技機映像コンテンツの企画・開発を軸にした会社ですが、ネット株式会社からパチスロ『十字架Ⅲ』の開発依頼を受けた際に、社内でアニメ作画をメインにした制作チームを結成したんです。その後も『十字架Ⅳ』、『十字架Ⅴ』と同じチームで開発を続けていまして、『十字架Ⅴ』の依頼時に、ネット株式会社からブランディングについて提案を受けました。それでこの開発チームを「teamVamp」と名付けました。
CGW:なるほど。『十字架』シリーズをきっかけにアニメ作画中心のチームができたと。
N氏:はい。アニメ作画やセルルック3Dのオリジナルコンテンツを、企画からキャラクターデザイン、2Dデザイン、3Dモデリング、映像作成、液晶表示まで丸ごと手がけています。
CGW:社内でワンストップでコンテンツ制作ができる体制なんですね。ちなみに、御社はAmazon Kindleで『十字架Ⅲ&Ⅳ ビジュアル設定資料集』も出版されていて、そういった活動までされている点でも、希有だなと感心します。
teamVampの最新コンテンツ『賞金首Angel』
N氏:最新作の『賞金首Angel』はネット株式会社の人気作『賞金首』シリーズをteamVampがリニューアルしたスマスロの作品です。マカロニ・ウエスタンをアメコミ風にアレンジしたキャッチーな世界観を舞台に、ダブルヒロインのふたりが新たなストーリーをくり広げるという内容になっています。
CGW:どのようなワークフローでコンテンツを制作されるのですか?
N氏:まずはキャラ説明やストーリーフローをメーカーにプレゼンします。OKが出たらメーカーと相談しながら映像仕様書を切り、スケジューリングと制作物の監修を進めていきます。設定やストーリーにはかなりこだわっていまして、本編に直接関係のない部分でも、細かいところまで設定を起こしています。
S氏:そして、2D作業(キャラクターや小物デザイン、絵コンテ)や3D作業(キャラモデリングや背景)を同時進行で進めることで、さらに世界観を詰めていきます。
M氏:3Dについては、主人公と敵キャラ(モブ/強モブ)を作成しました。キャラの完成後は背景込みで制作を進めて、その後シーン構築(アニメーション)をしていきます。
N氏:絵コンテが完成したら、カットごとに作画、3D、ハイブリッドと選別します。そして3DシーンはteamVampで完結、作画はアニメ制作会社にお願いして、コンポジットで各素材を合わせていきます。ここまでが一連のながれです。
CGW:なるほど。ストーリーアニメとして考えると、全部でどのくらいの尺になるのですか?
N氏:メインストーリーとしてはおおむね1時間を下回るくらいです。遊技機には演出として分岐がありますので、その差分や3Dカットを含めたら倍くらいですね。カットで言うと、作画が400カット程度、差分を含めたら2,000カットを越えます。
CGW:劇場版アニメ1本分じゃないですか! ツールはどのようなものを?
S氏:2DはCLIP STUDIO PAINT、After Effects、Photoshop、illustrator。3Dは3ds Max、Substance 3D Painter、Pencil+、After Effects。オーサリングではAfter EffectsとBlenderを使っています。Blenderは、主にロゴなどゼロから用意しなくてはいけない画をつくるときに使用します。
CGW:遊技機分野の “オーサリング” とはどういった作業を指すのでしょうか。
S氏:本来、コンポジットは映像制作、オーサリングは制御工程に渡すデータへの変換作業を指しますが、遊技機業界では3DCGの合成、映像編集、エフェクトなどを全部ひっくるめてオーサリングと呼ぶことが多いですね。
2Dワーク:設定のつくり込みと社内での総作画監修
CGW:ではここからは、各工程ごとにメイキングを解説していただきます。まずは2Dのキャラデザインですね。
N氏:「アクア・マリン」と「ローズ・クオーツ」のダブルヒロイン、右の「シトリン」と「アメジスト」はサポート役です。デザインには半年近くかけました。各キャラクターには性格や口ぐせ、表情などといった細かい設定を事前に用意していて、それを踏まえて制作を進めました。
N氏:キャラクター以外の世界観表現の一例として、主人公が乗るバイクなども用意しました。ナンバープレートやステッカーも、今回のポップなアメコミ風世界観に合わせてデザインしています。実際の映像ではほとんど映らないものばかりですが、こういうもののつくり込みが世界観に深みを与えるので、手は抜きません。
N氏:そしてこちらが総作画監修の様子です。キャラクターデザイナーが色指定の資料づくり、仕上げの作画監修までを社内で行なっています。なので、どんな工程を経ても最終的なデザインにブレが出ないという、ハイクオリティな画づくりが可能です。ここも当社の特徴のひとつかもしれないです。
CGW:それは強いですね。
N氏:こちらは絵コンテからアニメ作画ができるまでの一連となります。途中で大きく絵が変わっているのがわかるかと思いますが、レイアウトから作監監修時に大きく修正を行い、最後に設定通りのキャラクターとなるよう力を入れています。
N氏:その他にもいろいろなコスプレ設定も用意して、演出として遊びを用意したり、あるいは、アメコミらしさを出すために社内で4コママンガを作成して、演出として取り入れるといった工夫もしています。
S氏:こちらは演出のアイコンです。世界観が「西部劇」と「近未来」なので、それを意識して、ネオンサインをデザインに取り入れています。Element 3Dで作成しているため、自由に角度を変えて見せることができます。
3Dワーク:作画とハイブリッドのモデル
CGW:では続いて、3DCGのメイキング解説をお願いします。
M氏:はい、今回teamVampとして初めての主人公3Dキャラでしたので、とても力を入れました。こだわったポイントのひとつは人体の補助ボーンです。今作は主人公がバイクに乗る場面が多いため、バイク騎乗時に見映えするようにボーンのしくみを考えました。
CGW:なるほど。具体的にはどういった部分でしょうか。
F氏:ハンドルを握るため腕を前に出したときに、肩周りがやせ細らないように補助ボーンのしくみを整えたり、肘や膝など曲がる部分は角が丸まってしまうのを防ぐため3ds Maxのスキンモーフでエッジを保つようにしています。今回こういったポイントをケアしたことでこの作品の売りでもある「コミカルさ」をキャラに反映できたと自負しております。
CGW:こちらは本作の3Dモデルと表情集の資料ですね?
M氏:はい、表情もこだわったポイントになります。今回、作画と3Dのハイブリッドということで、3Dのアップからフェードで2Dに切り替えたり、従来ではバストアップやウエストアップを作画で対応していたところを3Dで補おうということになったんです。
CGW:なるほど。まさにハイブリッドですね。
M氏:はい。制作段階で正面と斜めの両面から作画監督の監修を受けて、細部まで調整しています。また顔周りに、顎の成形用、目の落ち影調整用、口の位置や角度調整用などコントローラをたくさん用意しているためシーン構築時にどの角度からでも作画に劣らない表情付けができるようになっています。
CGW:背景にも3Dを活用されたのですか?
N氏:そうですね。こういった背景も背景美術の会社に発注せず、社内で3Dで制作しクオリティを担保しているのもteamVampとして大きな特徴のひとつです。
CGW:ここまで社内でやれるのか、と驚きますね。そして3Dのキャラと背景を合わせたシーン構築ですが、こちらも作画レベルの見事なお仕事ですね。
F氏:ありがとうございます。お伝えしたように、モデリングからセットアップまでかなりこだわって制作しているため、シーン構築時にいろんな角度や動きを付けても破綻なく動かすことができ、表情も3D感を抑えた作画らしいクオリティを出せていると思います。
CGW:Mさんは、2Dから3Dに転身し、今ではモデリングからセットアップ、アニメーションまで担当されているのですね。
M氏:最初は3Dに拒否反応があったのですが、3Dスタッフの需要が高いタイミングがあり、試しに始めてみたら面白くてどんどんのめり込むようになりました。もともとアニメやゲームが好きでキャラクターを描いていたこともあり、キャラモデリングでは"我が子を育てる"感覚があります。「この子が世に出たときに恥ずかしい思いをしないように可愛くしてあげないと」と親心で臨んでいます。
オーサリングとカット演出
CGW:オーサリングではアニメ制作とどのようなちがいがあるのでしょうか。
S氏:大きなちがいはフレームレートと解像度、ノイズ処理です。フレームレートは遊技機の場合、基本30fpsでつくります。解像度は筐体の液晶によって変わります。『賞金首Angel』では1,366×768ドット(ドットバイドット)です。
CGW:ノイズ処理というのは?
S氏:アニメの撮影ではTVに合わせた色調整や馴染ませ処理があるのですが、当社ではそれを遊技機映像用にフィルタをつくって適用しています。ちょっとぼかした素材をオーバーレイやソフトライトで重ねて色を馴染ませるという、ディフューズ処理をベースに色味等の調整レイヤーをプリセット化したものです。あとは、アニメ制作と同様にグラデーションで処理する箇所もあります。
CGW:なるほど。確かに画面への馴染みがちがいますね。
S氏:そうなんです。そしてもうひとつは3Dと作画のハイブリッドカットの処理です。(下映像にて)映像の中でも作画から3Dのカットへの切り替わりを自然に馴染ませています。
CGW:バイクの動きと土煙はどのように合わせたのですか?
S氏:3Dのバイクのタイヤの位置情報をAfter Effectsに持ってきて、マッチムーブをしています。ここもオーサリングで対応しました。
CGW:最後に、演出についていくつか実際のカットを例にご紹介いただけますか?
S氏:3つほど、デザイナーの提案をベースに制作した演出カットを用意しました。先述の通り、世界観や設定については事前に細かく用意してありましたし、カットについての草案もありましたが、絵コンテでは細かい指示がない場合があり、デザイナー発信でイメージを膨らませて、社内で相談しながら完成させたカットです。
S氏:こちらは通常ボーナスの演出です。薬莢を飛ばす演出などはデザイナーのアドリブですね。
S氏:「ローズ」ボーナスの演出です。作画の映像素材は他の演出から選定し、背景は一切ないというところから映像をつくりましょうというものでした。オーサリング担当が背景・カメラ・構成を提案した演出で、オリジナル作品案件ではたまにこういった提案等が必要となります。
S氏:そしていちばん派手な「賞タイム(SHOWTIME)」導入部分の映像です。Element 3Dで作成したタイトルロゴアニメーションとなりますが、質感にこだわってAfter Effects内でテクスチャを作成しています。
CGW:気持ち良い演出ですね。遊技機のこうした演出は独特ですが、どういったところがポイントになるのでしょう?
S氏:やはりメリハリのあるテンポ感がまず第一ですね。それと、動きが激しいので、奥行きを利用した格好良い見せ方の意識も大事です。最近はリッチな映像が増えてきたこともあって、さりげない映り込みや高級感のある反射といった質感も重視されます。
N氏:すごく気持ちの良い局面には派手に長めの映像で演出して、そうではない局面ではあっさりというふうに、メリハリを意識するのも遊技機ならではでしょうね。
CGW:なるほど。ユーザー体験とシンクロするような表現が必要、と。
N氏:そうですね。遊技機の特性上、時間をかけずに端的でダイレクトな表現が求められます。パチスロの場合は特にそうで、当たり判定の結果を端的にユーザーに見せるための色やエフェクト、カメラワークなどを駆使した表現力が必要になります。
オルガンソフト・teamVampの求めるクリエイター像
CGW:オルガンソフトで活躍している人材について教えてください。
S氏:やっぱり遊技機に興味をもって取り組んでいる人が活躍している印象です。もともと興味があったという人もいれば、入社後に興味をもったという人もいます。性格的には真面目で情熱のある人が活躍するケースが多いでしょうか。
CGW:なるほど。入社後に伸びる人材には何か傾向がありますか?
N氏:こだわりがある人は伸びてくる傾向が強いですね。あとは、最新の映像表現をチェックしている人。「この表現面白いから取り入れようよ」といったフットワークの軽さが伸びやすさにつながると思います。
S氏:オルガンソフトは制作のフロー全体に関われる仕事が多いので、2D・3D、オーサリングとひと通りに興味をもてる人材が活躍しやすいかもしれません。もちろん、「狭く、深く」タイプの人材も活躍していますが、「広く、少し深く」や「少し広く、少し深く」くらいの人材が多いですね。
CGW:確かに、お話を伺っていて、皆さん守備範囲が広いなと感じていました。
S氏:例えばオーサリングセクションでは、2Dも3Dもある程度知っていて、プログラミングのことも少し知っておく必要があります。ただ、実際は社内でコミュニケーションをとりながら適性を拡げていくという側面もありますから、探究心をもって積極的に交流することに抵抗がなければ、自然に伸びていくだろうと思います。
CGW:特にどのセクションの人材を拡充したいですか?
S氏:全セクションで広く募集をしていますが、オーサリングセクションは少し特殊なぶん人材も少ないので、経験者や興味のある人がいたらぜひ、というところですね。また、キャラクターデザイナーも募集しています。
CGW:今回は最新作の『賞金首Angel』の裏側をたっぷりと解説していただきましたが、これからのteamVampからも目が離せません。
S氏:ありがとうございます。オルガンソフト、teamVampとしては、今後も引き続き『賞金首Angel』のようなコンテンツの制作に力を入れていきます。そして「誰もが知るオリジナルコンテンツを生み出すこと」を目指して、CG制作会社として全力で走り続けたいと思っています!
求人情報
株式会社オルガンソフト
<募集職種>
・2Dデザイナー
・3Dデザイナー
・コンポジター
www.organsoft.co.jp/recruit/index.html
TEXT__kagaya(ハリんち)