CGでラーメンを作る極意!「WHO'S NEXT?」2024 背景・プロップ部門の覇者に聞く制作のこだわり。
CGWORLD主催の学生CGトライアル「WHO'S NEXT?」2024 第1弾で、見事に背景・プロップ部門で1位を勝ち取った玉木匠翔氏。受賞した作品『ラーメン』は、湯気や具材の質感などが見事に再現された高クオリティなCG作品。今回は、玉木氏に制作のこだわりを伺うとともに、マウスコンピューターのノートPC「DAIV R6」の使い勝手やパフォーマンスを徹底検証してもらった。
Substance Painterと出会い背景モデラーを志す
CGWORLD(以下、CGW):経歴を教えてください。
玉木匠翔氏(以下、玉木):幼い頃から絵を描くことや図画工作の授業が好きで、中学生の頃、趣味でCGを始めました。その後、進路を考えた時、CGの道に進むことを決意し、ECCコンピューター専門学校に進学しました。
CGW:今後はどのような道に進まれるのでしょうか?
玉木:希望していた背景モデラーとしての就職が無事に決まりました。
CGW:おめでとうございます!背景モデラーを志された理由を教えてください。
玉木:授業でSubstance Painterを使用する機会があり、その際に汚れなどの質感を付け加えることで、どんどんリアルな表現になっていく過程がとても楽しいと感じました。そのため、そういった質感表現が多く求められる背景の分野に進むことを決めました。
CGW:現在、作品づくりに使用されているツールについて教えてください。
玉木:Mayaでモデリングを行ない、テクスチャはZBrushで色を塗り、Substance Painterで質感を付けています。
徹底したインプットと柔軟な発想で生み出される表現技法
CGW:「WHO'S NEXT?」2024 背景・プロップ部門で1位を受賞された作品『ラーメン』についてお聞かせください。この作品でラーメンを題材に選ばれた理由を教えていただけますか?
学生CGトライアル【WHO'S NEXT?】
— CGWORLD.jp (@CGWjp) June 14, 2024
背景・プロップ 部門
第1位:『ラーメン』 105点
玉木 匠翔 さん(ECCコンピュータ専門学校)
「おいしそう」に見えるかを第一に考え制作。ラーメンを食べに行くたび写真を送ってくれた友人に感謝。https://t.co/dYTM3ulGKq#CGWJAM pic.twitter.com/L1InFc0Fw0
玉木:難しそうだったから、というのが大きな理由ですね。だからこそ、食べ物をテーマに挑戦したいと思っていました。どの食べ物に取り組むか考える中で、ラーメンはチャーシューや卵、麺、野菜など多様な具材があり、それらがさらにスープに浸かっているため、非常に難易度が高い題材だと感じました。それならば、あえて挑戦してみようと思い、ラーメンを選びました。
CGW:あえて難しい題材に挑戦され、見事1位を獲得されたのですね。作品の制作にはどれくらい時間がかかりましたか?
玉木:全体の制作期間は約2ヶ月で、そのうち1ヶ月ほどをプリプロダクションに充てました。
CGW:そのプリプロダクションの具体的な内容について、もう少し詳しく教えていただけますか?
玉木:ほとんどがラーメンに関する情報収集ですね。「とにかくラーメンを美味しそうに見せること」をコンセプトにしていたので、美味しそうに見えるラーメンの画像や写真を厳選してリファレンスとして集めていました。
さらに、集めたリファレンスを見ながら、なぜそれが美味しそうに見えるのか、またなぜそう感じるのか言語化しました。文字に起こすことで、作品のどの部分を強調したいのかが明確になり、強調したい部分を引き立たせるために、どこを省略するべきかもはっきりと見定めることができました。
CGW:特にこだわったポイントについて、もう少し詳しくお聞かせいただけますか?
玉木:半熟卵の黄身のとろみ感の演出ですね。リファレンスを分析していた際に、卵は光を感じるぐらい黄身の透明感を誇張すれば美味しそうに見えるのでは?と考えていたので、サブサーフェイスを通常より強く入れ、最終的に光って見えるぐらいの誇張した表現にしました。
また、料理を描く際にはハイライトの入れ方が大事だと別のアーティストから聞いたことがあったので、どのようにハイライトを入れればより美味しそうに見えるかを考えながら制作しました。
玉木:それから、料理の温かさを表現する手法は限られているため、「湯気は必ず入れるべきだ」と考えました。ただし、湯気を入れすぎると背後の要素が見えなくなってしまいますし、逆に少なすぎると冷めた印象になってしまいます。そのため、友人や家族の意見を参考にしながら、湯気の量を慎重に調整していきました。
CGW:周囲の方のご意見を参考にされたとのことですが、他にもそのような例はありますか?
玉木:はい、例えば、最初は海苔は、もう少し透けて見えるような質感だったのですが、母から「実際の海苔はこんなに透けていない。もっとパリッとしていて、意外と黒みが強い」と指摘を受け、質感を修正していきました。また、海苔には意外かもしれませんが、金属質感を表現するためのMetalnessも取り入れているんです。
CGW:えっ、海苔は金属ではないはずですが…?
玉木:確かにそうなのですが、Metalnessを加えたほうが海苔らしい質感が出たんです。僕は、一枚絵の完成度が上がるのであれば、その物質の本来の特性とは異なる表現を取り入れることもあります。前述した玉子もその一例ですね。こういった誇張表現は多用していますね。
CGW:ラーメン以外の要素で、特にこだわった点はありますか?
玉木:実は、机の質感にもかなりこだわっています。先ほどのハイライトの話とも関連しますが、机の表面を意図的に少しヌメヌメさせたり、テカテカさせたりしています。そうすることでラーメンがより美味しそうに見えるのではないか?という思いで実験的に加えた演出です。実際にこの演出をしたことで美味しそうに見える度合いが増しているかはわかりませんが(笑)。
CGW:では次に、具体的な作業工程について教えていただけますか?
玉木:たとえば玉子を作る場合、まずMayaで球体を出してから形を伸ばし、玉子のサイズ感に調整します。その後、ZBrushで黄身の部分をスカルプトしていきます。私は少し変わったタイプで、ZBrush上でペイントを行うことが多いです。そのため、ZBrushで塗装をした後、Substance Painterで質感を仕上げていく手法をとっています。
CGW:ZBrushでペイントを行うのには、どのような理由があるのでしょうか?
玉木:ZBrushでは「頂点ペイント」という手法を使って、頂点に直接色を付けることができます。一方で、Substance PainterではUV展開を行い、UVマップ上に色を塗って、そのテクスチャをモデルに貼り付けるという作業が必要です。しかし、ZBrushではUV展開をしなくて済むため、テクスチャが伸びてしまうといった問題が発生しにくく、より細かな色表現が可能になるんです。
CGW:なるほど、そういった利点があるのですね。では、モデリングやテクスチャの作業が終わった後は、どのような工程に進まれるのでしょうか?
玉木:次はライティングと構図の調整に進みます。ライティングに関しては、料理を美味しく見せるための定番テクニックとして、逆光を当てる方法を取り入れました。これは、料理写真の撮影方法を調べたときに知ったセオリーをそのまま参考にしています。
構図に関しても、できるだけダイナミックに見えるよう工夫をしました。加えて、私は直線的な表現を画の中に入れるのはあまり好きではないので、ポリゴン数が増えてもなるべく直線を消すように心がけています。たとえば、机の奥に段差を作った際も、少しポリゴンを調整して、真っ直ぐなラインにならないようにわずかにガタつかせています。
CGW:直線を避けることにこだわる理由は何でしょうか?
玉木:直線があると、どうしてもCG特有の硬い印象が出てしまうと感じるんです。
CGW:これからCG業界を目指す学生の方々に、何かアドバイスがあれば教えてください。
玉木:とにかくインプットをたくさん行うことをお勧めします。逆に、無理にアウトプットを急がなくても良いと思います。私自身、家ではゲームをしたり、アニメや映画を観たりと、ほとんど引きこもりのような生活を送っていますが(笑)、そういった経験が制作に活きている実感があります。ゲームをしているときも「なぜここで感動するのか」「なぜ恐怖を感じるのか」を言語化するようにしていて、そのおかげで物事を深く観察する力が身についたと感じています。自分の場合は、インプット6、アウトプット4くらいのバランスで制作を行ってきました。
アドオンなどを使えば、誰でもリアルな表現を簡単に作ることができる時代です。しかし、だからこそ、もう一歩先の「自分らしい表現」を見つけないと、業界で活躍するのは難しいのではないかと思っています。ひとつひとつの技術はあくまで「表現手法のひとつ」に過ぎないと捉え、自分が伝えたいものを表現するためのツールとして習得していくことが重要だと思います。
デスクトップPCの性能にひけをとらない「DAIV R6」
DAIV R6-I9G70SR-A
- OS
Windows 11 Home 64ビット
- CPU
インテル® Core™ i9-13900HX プロセッサー
- グラフィックス
NVIDIA® GeForce RTX™ 4070 Laptop GPU
- メモリ容量
32GB(16GB×2/デュアルチャネル)
- M.2 SSD
1TB (NVMe Gen4×4)
CGW:現在使用されているPCのスペックを教えてください。
玉木:CPUがIntelのCore i7-10750、GPUがNVIDIAのGeForce GTX 1660 Ti、ストレージはSSD1TB、メモリは16GBです。
CGW:現在使われているPCについての不満点や、次にPCを買い換える時に求める点はありますか?
玉木:MayaとSubstance PainterとZBrushを同時に開きつつ、リファレンスのためにchromeを起ち上げて……というマルチタスクが多いので、メモリはいくらでも欲しいですね。
CGW:今回の検証を通じて感じた「DAIV R6」の印象を教えてください。
玉木:ノートPCでありながら、デスクトップPCに引けを取らないほどのパフォーマンスを発揮できる点に驚きました。例えるなら、動物のチーターのように非常に俊敏です(笑)。まず、パワーが圧倒的で、レンダリングのスピードがとても速かったです。CG制作はレンダリングをしながらブラッシュアップを繰り返す作業なので、レンダリングが速くなると作業効率が格段に向上します。
また、個人的に特に気に入ったのは、ディスプレイが240Hz対応で非常に滑らかな動きを見せる点です。普段使用している機材は60Hzまでしか対応していないため、その違いを強く実感しました。この点については、一枚絵を制作している私よりも、アニメーターや動画制作をしている方々にとって、より大きなメリットだと思います。
CGW:筐体のデザインについてはいかがでしょうか?
玉木:これほど高いパワーを持ちながらもコンパクトなノートPCなので、気軽に持ち運べる点がとても良いですね。例えば、学校に持参して、昼休みなどの合間の時間に作業ができるのは大きな強みだと感じました。
検証結果
検証1:ArnoldのCPUレンダリング時間
CPU性能を検証するため、MayaとArnoldを使用してCPUレンダリング時間を測定した。設定1(サイズ2480px × 3508px、Sampling 3/2/2/2/3/1)、設定2(サイズ2480px × 3508px、Sampling 2/1/1/1/2/1)、設定3(サイズ1240px × 1754px、Sampling 2/1/1/1/2/1)の3つの条件でレンダリングを行った結果、現行機ではそれぞれ「1時間29分59秒」「19分51秒」「4分54秒」という結果になった。
これに対し、検証機では「30分12秒」「6分19秒」「1分14秒」と、大幅に短い時間でレンダリングを完了した。現行機と比較すると、設定1では298%、設定2では314%、設定3では397%の速度向上を記録しており、検証機が現行機に対して圧倒的な性能差を見せる結果となった。
検証2:Substance Painterの起動時間の比較検証
現行機では起動に3秒かかっていたところ、検証機では2秒に短縮され、起動速度が向上していることが確認できた。
検証3:PhotoshopでのAI生成の処理速度
PhotoshopでのAI生成の処理速度も167%と大幅に速くなり、さらにnclothシミュレーションの処理時間(100フレーム)では183%の速度向上がみられた。
検証4:マルチタスク性能
マルチタスク性能についても検証を実施した。Maya、Substance Painter、Microsoft Edgeを同時に起動した状態でCPUやメモリの使用率を測定したところ、CPU使用量は2%、メモリ使用量は48%、GPU使用量は30%となり、複数のアプリケーションを同時に起動してもまだ十分な余力があることが確認できた。玉木氏は「総合的に見て、高い負荷がかかる作業環境でも安定したパフォーマンスを発揮できる」とコメント。
- CPU使用量
2%
- メモリ使用量
48%
- GPU使用量
30%
検証5:Unreal Engine5の動作
最後に、Unreal Engine 5の動作をFPS(フレームレート)で検証した。Lumenを使用した際、約50万ポリゴンのデータではおよそ80FPS、NaniteとLumenを併用した1200万ポリゴンのデータでは約20FPSという結果になった。玉木氏は、「今回はArnoldを使ってラーメンを制作しましたが、より広範囲なシーンを作成する際にはUnreal Engine 5を使用することもあります。また、個人制作でもUnreal Engine 5を活用するクリエイターが増えてきているので、これほど高スペックな環境があると非常に心強いですね。」とコメント。
TEXT_オムライス駆
INTERVIEW&EDIT_中川裕介(CGWORLD)