「次世代の女性クリエイターを育てる」奈良女子大学とアドビが共創する3DCGワークショップをレポート!
「古都奈良で次代を担う女性の人材を育てます」と謳う国立大学、奈良女子大学。文学部、理学部、生活環境学部に加え、2022年に日本の女子大学初となる工学部工学科を新設し、未来の女性エンジニアを育成する教育機関として注目を浴びている。
こうした奈良女子大学の教育方針に共感したアドビが、学生たちに最新の3DCGツールの魅力を伝えるため、10月30日(水)に学生向けワークショップを開催した。このワークショップでは、Adobe Substance 3D Stagerを用いて、クリエイティブなビジュアル制作のプロセスを学ぶ機会を提供した。
講師には、bestat株式会社で活躍する3DクリエイターのRieringo氏を迎え、テーマとして「化粧品広告ビジュアルの制作」を設定。実践的なデモンストレーションを通じて、3DCGの楽しさを伝えた。本記事ではワークショップの企画の経緯から開催当日の様子までをレポートする。
奈良女子大学 工学部のアート&デザインへの取り組み
今回、3DCGワークショップの舞台となった奈良女子大学は、昨年度・今年度と2年連続で文化庁の「大学における文化芸術推進事業」に採択された国立大学だ。
今年度は推進事業の一環としてアートコミュニケーション人材育成プログラム「あ³」を開催。入江泰吉記念奈良市写真美術館と連携し、企業の技術者や芸術家による講演やワークショップを組み込んだプログラムを通して、芸術文化や先端技術を学ぶことができる。
2022年に日本の女子大で初めて新設された工学部は、生体医工学や情報、人間環境、材料工学といった専門領域を備え、さらにCGやアート、デザインにも注力している。
「私たちは“知恵の工学”と名付けたのですが、力の工学だけでなく、情報テクノロジーを活用し新しいサービスを生み出していく人材を育成する学部を目指して新設しました。そのため美術系の職員として私が参加することになったんです。」と語るのは工学部で造形美術・造形教育の教鞭を執る長谷圭城教授だ。
長谷圭城氏
奈良女子大学
学長補佐(女性エンジニア育成担当)
工学部 教授
また、工学部は入学後に学びながら自身の専攻・卒業分野を決めていくことができるリベラルアーツ型のスタイルを採用。スペシャリストのみを育成するのではなく、より視野の広いマネジメントスキルを持ったエンジニア人材を育成することを目的としたシステムだ。そのため、デザインを学んでから情報を専攻したり、生体医工学の知識をつけてから人間環境を専攻するというような、多彩な学びの選択肢がある。
アドビユーザーである長谷教授がSubstance 3Dのセミナーを企画
自身も古くからのアドビユーザーであるという長谷氏は、授業でもAdobe PhotoshopやIllustratorを中心に、Creative Cloudをふんだんに活用しているという。「1回生の授業には、思いついたらつくってみて、失敗したらまた挑戦するというハンズオンの課題を数多く取り入れています。そういった試行錯誤のプロセスにおいてアドビ製品の使いやすさが大いに役立っています」(長谷氏)。
こうした授業方針に共感したアドビは、昨年度、文化庁の事業第一弾としてPhotoshopの使い方講座と画像生成AIの入門講座を主催。これが非常に好評を博したことを受け、今年度はSubstance 3Dファミリーの中でも特に初心者に扱いやすいSubstance 3D Stagerを活用したワークショップを企画した。
「学生には多様な学びの選択肢を提供したいという思いから、今回のワークショップを通じて3DCGの可能性を伝えたいと考えました」と、企画を担当したアドビ株式会社 教育事業本部 執行役員本部長 小池晴子氏は語る。
小池氏は、理系分野に進む女性の学生を応援する思いからも、「今回のワークショップが、次世代の女性クリエイターたちの新しい可能性を切り開くきっかけのひとつになればと思います」と語った。
「工学部には、学園祭用の景品をBlenderやSOLIDWORKSでモデリングして3Dプリントする学生もいれば、こちらが簡単に紹介しただけで自発的に3DCGを触り始める学生、自分で調べながらUnityでゲームをつくり始める学生など、3DCGに興味を持つ学生がたくさんいます。だからSubstance 3Dを使ったワークショップは面白そうだと思い、アドビの小池さんに相談してみました」と長谷氏。
単なる3DCGツールとはちがい、ルックデヴやテクスチャリングの業界標準ツールとなっているSubstance 3Dシリーズ。Creative Cloudアプリの一員として、PhotoshopやIllustratorをはじめとするデザイン&アート制作ツールとの連携がしやすい点が、長谷氏がSubstance 3Dを推す理由となった。
また、奈良女子大学工学部も保有しているCreative Cloudの学生ライセンスパックでは、教育機関向けAdobe Substance 3D Collectionののサブスクリプションライセンスが含まれていることから、それらを有効に活用し、学生に視野を拡げてもらうという思惑もあった。
ワークショップ企画のアレンジに協力したアドビの小池氏は、奈良女子大学 工学部に対して設立以来強い思い入れがある。「理系に進む女子の学生は令和の今もまだまだ少ないので、奈良女子大学に工学部ができた時から熱くサポートしたいと思っていました。ですから今回の企画も前のめりで支援させていただきました。こうした機会を通して、次世代の方たちに『理系から続く学びの幅広さや、、わくわくする進路がある』ということを伝えていければと思います」(小池氏)。
Rieringo氏によるコスメ製品の3DCG広告ビジュアル制作ワークショップ
ワークショップの具体的な企画と運営を担当したのは、3DCGデザイナー・Rieringo氏(松井りえ/bestat株式会社)。3DCG初心者にも始めやすいSubstance 3D Stagerを使って、化粧品広告ビジュアルを題材に3DCGの第一歩をレクチャーした。
まずはRieringo氏の自己紹介からスタート。女子大学での開催ということもあり、Rieringo氏の女性クリエイターとしての経歴や業界での活躍に、学生たちは強い関心を示していた。
Rieringo(松井りえ)
bestat株式会社
服飾の専門学校を卒業後自身のブランドを立ち上げ、Web・DTP・製品デザイン・EC運営・コンセプトメイクやブランディングまで幅広いクリエイティブに携わる。2021年に3DCG業界に転身。現在は東京大学発のAIスタートアップ企業の3DCGデザイナー兼ディレクターとして、3Dコンテンツの活用提案から制作まで行うなど幅広く活躍中。
▶Rieringo氏のポートフォリオサイト
続いて実際にPCを使ってのワークショップに。ながれとしては、まずSubstance 3D Stagerで3Dシーンを開いて基本的なシーン操作の方法を習得し、ボトルのマテリアル設定方法を学び、Illustratorでラベルを制作してStagerにデータ貼り付け、ボトルを複製してレイアウト、環境光を設定してレンダリングする、というもの。
参加した学生は大多数が授業でPhotoshopやIllustratorを使用した経験があるが、3DCGツールではやはり勝手がちがい、Rieringo氏の「マウスの左クリックでシーンを回転できます」という指示に沿って操作したところ、「お〜」という声も聞こえてきた。
その後も3DCG独特の操作方法に戸惑う学生に対して、Rieringo氏やCGWORLDスタッフ、長谷教授が逐一サポート。
Illustratorで作成した画像データをStager上でボトルに配置するところ、別オブジェクトに貼り込んでしまったり、ビューポート操作の手ちがいでボトルのオブジェクトを見失ってしまったり。
はたまた、Rieringo氏が組み上げたサンプルデータのオブジェクトのパーツをバラバラにしてしまったり、意図しないオブジェクトの色を変えてしまったり……。ちょっとした失敗に戸惑いながらも賑やかに、ゆったりとしたペースでワークショップは進行。
学生はIllustratorで作成するラベルのデザインからボトルや背景のマテリアル変更、オブジェクトの配置など思い思いの作品を制作。それぞれの個性あふれる作品にRieringo氏や長谷氏も感嘆していた。
「え〜、すごい」といった声やそれぞれの作品を見せ合うなど笑い声なども時折混じり、約80分にわたるワークショップが幕を閉じた。
なお、ワークショップ終了後も教室はしばらく開放され、作業を続けたり、Rieringo氏に質問する学生の姿も見られた。
学生が制作した作品の一部を紹介
学生インタビュー「もっと堅苦しいものかと思っていましたが、とっかかりやすかった」
最後に、ワークショップを終えた生徒2名に感想を聞いた。
「3DCGのアプリを触ったのは初めてで、想像していたのよりも簡単で楽しかったです。直感的に想像したことがそのままできたので、『すごい!』と思いました」。
「初めて触るアプリの使い方は自分で勉強するとなるとすごく大変なので、今回その場ですぐに教えてもらえて、とても良い機会でした。それと、Substance 3D Stagerには素材のプリセットがたくさん用意されていて、すぐに作品をつくることができたので『こんな作品が自分で簡単にできるんだ!』とビックリしました」。
「このワークショップを機に今後もCGをやってみたいと思いましたか?」という質問に対しては「思いました! もっと堅苦しく難しいものかと思っていましたが、意外ととっかかりやすくて。次はアニメーションをつくったり、自分の家にある好きな家具を3DCGでつくって、誰かと共有したら面白そうですね」、「大学生の間は自由な時間も多いので、遊び感覚で楽しみながら自分でもCGをやってみたいと思いました」とコメント。
これらの声から、今回のワークショップが学生にとって新たな挑戦のきっかけとなったことがうかがえる。
奈良女子大学 工学部の取り組みとアドビの協力が生み出した本ワークショップ。学生たちは、3DCGの新たな可能性に触れ、自分自身の学びをさらに広げる一歩を踏み出したようだ。
TEXT__kagaya(ハリんち)
PHOTO_中村昭一(レブフォトワークス)