ゲームや遊技機、テレビCMなど、さまざまなジャンルでCGを制作しているイメンスグラフィティ。使用ツールや制作フローを案件に応じて柔軟に変えることで作業効率や品質を高めており、新規的なアプローチも積極的に取り入れている。
今回は、そういった制作体制を採用する意図や作品づくりのポイントなどを伺うとともに、作業用PCとしてマウスコンピューター「DAIV」シリーズを導入する理由やその使い勝手についても語ってもらった。
テクニカルに強いベテランスタッフ指揮のもと、ジャンルに応じて柔軟にワークフローを構築
CGWORLD(以下、CGW):まずは、会社の成り立ちや変遷などを教えてください。
松村彰氏(以下、松村):もともとフリーランスとして働いていましたが、20代に別のフリーランス数人を誘って2009年にイメンスグラフィティを設立。現在の社員数は26名、2023年7月には15期目を迎えます。制作ジャンルとしてはゲームや遊技機、あとはテレビCMをなど幅広く手掛けています。
設立から4~5年ほどは新入社員を採用することもなく、自分たちでやれる範囲の仕事をこなしてきました。しかしその後、「そろそろ新人をきちんと育てていかないと、スタッフ間の世代が開いてしまう」ことに課題を感じ、新人採用や人材育成に着手しました。
さらに、もともとフリーランスの集まりで「ゼネラリスト」しかいなかったのですが、新人スタッフに順序だててスキルを身に着けてもらうことや専門性を高めてもらうことを意図して、特定の作業を専門的にこなす「スペシャリスト」の部署を新たに設立。そこへ新人を配属するとともに、業務の分業制も導入しました。
イメンスグラフィティ
テレビやWeb、ゲームからイベントまで、さまざまな分野のCG映像を手掛けるCG映像プロダクション。2009年に設立され、現在のスタッフ数は26名。フリーランスが集まって創業しており、会社として「個々の働き方を自由に選択できる」よう、業務体制を工夫している。
HP:https://www.immegra.com/
Twitter:@ImmenseGraffiti
CGW:他社と比べて、自社の強みは何だと考えますか?
松村:各ディレクターは、これまでの経験を活かし、それぞれの案件に応じて最適なツールやワークフローを選定できます。そのため、幅広いジャンルの案件に対して「柔軟に対応できる」という点は強みの1つであると思います。
また、私も含めた各ディレクターそれぞれが最新技術やツールのリサーチは常に行なっており、社内での情報共有も活発です。この点を活かし、ツールの調査から選定、導入までを、スピード感をもって行なえることが弊社の特徴と言えると思います。
例えば、現状ではMaya、3ds Max、After Effectsあたりがメインツールとなりますが、「別のツールを使った方がより早く効率的にゴールへたどり着けるのではないか?」となれば、積極的に新しいツールの使い勝手を試してみます。そして、そのツールが実際に使えるとわかれば、すぐに導入するといった具合です。最近だとUnreal EngineやリアルタイムVFXツールのEmberGenは、その流れで新たに導入しました。
松村彰 氏
代表取締役。フリーランスとして、アニメやゲームのほかTV放送用のCG映像制作を手掛けたのち、業務の幅を広げるため、当時のフリーランス仲間と共にイメンスグラフィティを設立。後に新卒の受け入れや教育を目的として関連会社グラプロを立ち上げる。
Unreal EngineやEmberGenなどをフル活用してさまざまな課題や要望に応える
CGW:実際に制作してきた映像をもとに、EmberGenの使用メリット等を教えてください。
江原敬彦氏(以下、江原):鹿島建設のコンセプトムービー『ミライのカジマ』の制作を例に、Unreal Engineの使用メリットをご紹介させていただきます。このムービーでは「ドローンで撮影したような広い画で、棚田の風景を見せる」というカットがあり、草木のアセットを大量に配置する必要がありました。これを実現するためUnreal EngineのFoliage機能を使用したことで効率的に作業を進められたと思います。さらに、他のDCCツールに比べて高速にレンダリングできる点も、少ない待ち時間でカットチェックを可能にし、スムーズな進行に寄与しました。
江原敬彦 氏
Specialist TM / アニメーションセクション Director / Digital Artist。フリーランスのゼネラリストとして、アニメやゲーム、企業のイベント、遊技機、CMなど、幅広いジャンルの映像制作を手掛ける。近年はアニメーションに比重を置き、アニメーションセクションを率いて活動している。
CGW:制作時にこだわった点などがあれば解説してもらえますか。
瀧崎將史氏(以下、瀧崎):例えば、冒頭のカット(0:01~0:05)は「人に代わって自動運転の機械が棚田を耕す」という内容で、画づくりにあたっては棚田に詳しいクライアントの知識や意見を積極的に取り入れました。これにより、説得力のある画に仕上がったと思っています。
また、これは中盤に登場する月面シーン(0:30前後)も同様です。自律自動で動く重機に関しても、技術開発者や建設現場を知るプロの意見をもとに作成したことで、空想の世界でありながらもリアルな世界観になったと感じています。
瀧崎將史 氏
Generalist TM Director / Digital Artist。CG系の専門学校を卒業後、別会社でCGデザイナーとして7年ほど従事。転職後はフリーランスとしてイメンスグラフィティに参加する。前職の経験を活かし、ゼネラリストとしてさまざまな案件に携わるとともに、若手の育成も担う。
CGW:逆に、苦労したところなどは?
瀧崎:技術面で、当時はまだNanite機能に対応していないUnreal Engine 4を使っていたため、ゲームエンジン特有のLOD(Level Of Detail)の処理にはかなり苦労しました。なお、これについてはアセットの軽量化やメモリ消費の削減などで対処しました。
CGW:アセットについてはどのように対応したのでしょうか。
江原:植物系のアセットは、マーケットプレイスで購入した素材や会社で所有していた3Dモデルを主に使用しました。棚田の地形は、国土地理院の3Dデータを基にUnreal EngineのLandscape機能で作成。柵や小屋、家などは、Mayaや3ds Maxなどで新規に作成しました。そのほか、棚田や月面で働く機械・重機などは、クライアントからいただいたデザインを基に作成しています。
CGW:EmberGenについてはどうでしょうか。
江原:EmberGenは、2023年3月にローンチした比較的新しいリアルタイムVFXツールで、炎や煙、爆発などの流体シミュレーションをGPUベースでリアルタイムに生成できる点が大きな特徴です。
江原:既存のシミュレーションソフトでエフェクトを作成すると、シミュレーションだけで1日かかることもありましたが、EmberGenは出力までが驚異的に早いので、結果を見ながら調整回数を重ねられる点が強みです。それだけに、EmberGenを見つけたときは即導入を決めました。
弊社では、主に遊技機関係のエフェクト作成のために使用しています。近年は遊技機のエフェクトでも3D的な空間表現などが必須になってきているため、メインエフェクトでの使用から雰囲気を少しプラスするための素材利用まで、幅広く活用しています。
しかも、従来の3Dソフトであれば「出力するほどではない」と考えていた素材も、EmberGenであればシーンに合わせて気軽に試作することも可能です。これにより、制作物のクオリティ向上にもつながっています。
CGW:EmberGenのサンプルのエフェクトは、どういったシーンでの使用を想定して作られたのでしょうか?
瀧崎:この爆発エフェクトは、3D空間で遠目に置いて使用することを想定しているので、細部にこだわるというよりは雰囲気を出すために作成しました。細かく見ていくと、吹き出す炎はメインエフェクトとなるので、近場で見ても十分に耐えうるクオリティになっています。一方、煙のエフェクトは足元に雰囲気を足すために配置しており、自然な感じで広がっていく煙を使用しました。
瀧崎:EmberGenには、設定できるパラメータが無数に用意されており、エフェクトの詰め具合も細かくコントロールできるので、その点はとても便利だと感じています。
ただ、それぞれのエフェクトが「近場で見るもの」なのか、それとも「少し雰囲気を出して見えればいいもの」なのか、そのあたりをきちんと押さえておくべきしょう。そうしないとなかなかゴールにたどり着けず、せっかくのシミュレーションの速さを活かしきれないので、エフェクトの詰め具合には気を配る必要はあるでしょう。
CGW:ちなみに、案件に関わらず、いま注目している新技術やツールなどはありますか?
松村:EmberGenと同じJangaFX社が開発している「LiquiGen」は、非常に期待しているツールの1つです。LiquiGenはEmberGenの液体版といった位置付けになりますが、水の表現を綺麗に描くことは現状だとなかなか難しく、時間もかなり必要なので、将来的に製品版を導入すれば、制作環境の大きなプラスになると考えています。
そのほか、AIを活用して複数の画像データから自由視点の3Dシーンを自動生成する「NeRF」(ナーフ)や、同じくAIで実写シーンにCGキャラクターを自動合成する「Wonder Studio」なども、非常に気になっているところです。
DAIVは安定性に優れてコスパも秀逸、PC管理スタッフからも高評価!
CGW:現在、制作現場にはマウスコンピューターのデスクトップPC「DAIV」シリーズを30台以上導入されているとのこと。DAIVを選ぶようになった経緯は何でしょうか?
松村:じつは、2019年ごろまでは別メーカーのPCを使っていました。しかし、メインツールを3ds MaxからMayaに変えてGPUレンダリングが主力になると、作業PCで重視するスペックもCPUからGPUに変化しました。
そういった背景を踏まえ、新しい条件に合うPCを探していくなかで試験的にDAIVを導入したところ、現場からの反応がすこぶる良かったのです。そこからDAIVを選ぶようになり、いまでは30台以上になったという経緯があります。
CGW:となると、現在のPCの構成はGPU重視になりますか?
松村:現状だとそうですね。ただ、最近はどんどん価格が上がっているので悩ましいところではあります。最初にマウスコンピューターのデスクトップPCを購入したときは20万円程度で構成してもらったのですが、現在は必要な要件を踏まえると30万円で収まればいい方でしょう。
CGW:大きな負荷のかかる作業は何でしょうか。
瀧崎:Unreal Engineの描画ですね。実際、先ほど紹介した鹿島建設の案件では、当時使っていたGeForce RTX 2080 SUPER 搭載のDAIVではややスペック不足だったので、GPUを強化したモデルをマウスコンピューターに用意してもらいました。
CGW:DAIVを実際に使ってみた感想は?
江原:弊社の場合は事前に「どの程度までなら負荷をかけても大丈夫か」をテストしてから現場にPCを導入しているのですが、それを踏まえて使っていることを抜きにしても「非常に安定している」と感じます。
松村:経営者目線でいえば、やはりコストパフォーマンスに優れている点はとても魅力的です。現場の要求スペックをクリアしたうえでのコスト感は無理のない範囲で現実的ですから、十分に導入を検討できるレベルだと思います。
また、PCを管理するスタッフからは「本体が軽いうえに、キャスターが付いているので移動時に助かる」や「スペック等の相談をすると最良の提案が返ってくる」といった称賛の声がありました。さらに、24時間のサポート対応も高く評価しており、Unreal Engineの案件でGPUに起因する不自然な挙動が起きた際には、迅速な修理対応のおかげで「作業のタイムロスが一日で済んだ」と喜んでいましたよ。
イメンスグラフィティが導入している「DAIV」のポイント
イメンスグラフィティでは、スタッフ用の作業PCとしてDAIVシリーズを多数採用。もっとも新しいモデルはデスクトップPC「DAIV Z7」で、DAIVシリーズの総導入数は30台を超える。
DAIV Z7は、高性能なインテル第12世代CPU「インテル Core i7-12700F プロセッサー(現在販売中のモデルはCore i7-12700 プロセッサー)」やエントリークラスのGPU「GeForce RTX 3060」を採用しており、高いスペックと優れたコストパフォーマンスを両立するデスクトップPC。イメンスグラフィティではメモリを64GB、SSDを1TBに強化することで、使い勝手と作業効率をさらに高めている。
DAIV Z7
- CPU
インテル® Core™ i7-12700F プロセッサー(12コア【Pコア 8、Eコア 4】 / 20スレッド / Pコア 2.10GHz、Eコア 1.60GHz / TB時最大4.90GHz【Pコア 4.90GHz、Eコア 3.60GHz】 / 25MBキャッシュ)※現在販売中のモデルはインテル Core i7-12700 プロセッサー
- GPU
GeForce RTX 3060 / 12GB
- メモリ
64GB(16GB×4)
- ストレージ
NVMe接続 1TB SSD
- OS
Windows 10 Pro 64bit
問い合わせ
株式会社マウスコンピューター
TEL(法人):03-6636-4323(平日:9~12時/13時~18時、土日祝:9~20時)
TEL(個人):03-6636-4321(9時~20時)
https://www.mouse-jp.co.jp/store/brand/daiv/
TEXT_近藤寿成(スプール)、EDIT_小倉理生