アニプレックスのグループ企業として、数々のTVアニメや劇場アニメ、アニメーションCMなどの制作を手掛けるCloverWorks。演出や作画、仕上げ、撮影、美術などアニメーション制作に必要な部門を組織しており、所属スタッフは約180名、外部協力スタッフなども含めると300名を超える規模を誇る。
同社には、機材やソフトの選定・導入を担うシステム管理スタッフは3名が在籍している。今回は管理スタッフの一員である、倉澤太一氏に、アニメーション制作の職種ごとで求められるPCスペックの違いを語ってもらった。また、同社で導入実績のあるマウスコンピューター「DAIV」シリーズのメリットについても伺った。
管理対象スタッフ数は約350人、「突発的な増員」や「制作部門の多さ」はアニメならでは
CGWORLD(以下、CGW):始めに、貴社の概要やこれまでに手掛けてきた作品について教えてください。
倉澤太一氏(以下、倉澤):当社は元々、アニプレックスの子会社であるA-1 Picturesに属する「高円寺スタジオ」という位置づけでした。その高円寺スタジオが、2018年4月に新たなブランドとして「CloverWorks」へとスタジオ名を変更。さらに同年10月に、A-1 Picturesの事業の一部を会社分割する形で「株式会社CloverWorks」として設立されました。
これまでに担当してきた作品には、『その着せ替え人形は恋をする』や『ぼっち・ざ・ろっく!』、『青春ブタ野郎』シリーズなどがあります。また今年度は、『ホリミヤ -piece-』『SPY×FAMILY(Season 2)』などを手掛ける予定です。
CGW:会社の規模感や組織体制について教えてください。
倉澤:現在の社員数は約180人で、今年の新卒は26人。フリーランスのクリエイターなども含めると総数は約350人にものぼります。
また、アニメ等の制作に関わる部門としては、作品全体のスケジュールを管理する「制作」、カットの内容やレイアウトを決め絵コンテを作成する「演出」、絵コンテを基に原画や動画を描く「作画」、線画で描かれたキャラクターなどに色を塗る「仕上げ」、各部門から上がった素材を合成し、エフェクトなどを加えて映像をつくる「撮影」、作品内の世界や空間を表現する背景画を描く「美術」などが挙げられます。
CloverWorks
アニプレックスの子会社であるA-1 Picturesから、2018年10月に新設分割したアニメーション制作スタジオ。数多くの人気TVアニメや劇場アニメ、アニメーションCMなどを手掛けている。
ホームページ:https://cloverworks.co.jp/
Twtter:@CloverWorks
CGW:システム管理スタッフはそれらの部署の機材導入、システム管理を一手に担っているそうですが、アニメの制作現場ならではの課題や特徴などは何でしょうか。
倉澤:当社の場合、進行状況によっては「新規のフリーランスが突発的に何人も入ってくる」というケースがあります。さらに、フリーランスが希望した場合は作業用のPCを「当社で用意する」ようにしているため、そのようなケースだと「必要な台数のPCをなかなか迅速に用意できない」という悩みがあったりします。
また、「部門によって求められるPCのスペックがそれぞれで異なる」というのも特徴的です。最近は徐々に統一されつつありますが、それでも部門によってニーズは違うので、そこは気を使ってPCを選定しています。
倉澤太一氏
業務グループ業務部部長。以前は他社でアニメの制作進行などに携わっていたが、現在は専属でシステム管理を担当。システム管理に「面白さ」を見出したことや、作品制作よりも「会社全体の役に立てる」と感じたことが、転身の理由だという。
演出・作画スタッフ向けは「コンパクトさ」を重視。近年は必要なメモリ容量が上昇気味
CGW:各部門で使用しているPCについて、選定ポイントや具体的な構成などを教えてください。
倉澤:まず演出・作画スタッフ向けは、とにかく物理的に「コンパクト」であることが重要です。なぜなら、現在使用している作画机が大型とはいえず、しかも棚も備えているため「筐体サイズの大きいPCを設置できない」という状況にあるからです。さらに、演出・作画はスタッフの総数が多いため、ストック用PCの保管スペースという観点からも「場所を取らないコンパクトサイズのPCの方が助かる」という理由があるのです。
なお、現在採用しているPCはマウスコンピューターのデスクトップPC「MousePro S」シリーズ。スペックはCPUがCore i7シリーズ、メモリは16GB、GPUは4GB以上のVRAMを搭載したモデル、SSDは512GB、価格は20~30万円といったイメージです。ただ、最近はメモリが16GBだとやや不足がちになっているため、32GBにシフトしている状況です。
CGW:メモリがこれまで以上に必要となっている要因は?
倉澤:近年は、演出や作画の作業でも多くのレイヤーを重ねるようになっているため、そこでメモリが必要になっているようです。さらに、演出・作画スタッフの中には作業中に「多くの資料を開き、それらをスピーディーに閲覧したい」というニーズがあるため、高速に動作するビューワーソフト「PureRef」が人気なのですが、それがメモリをかなり使うようです。
CGW:なるほど、そのあたりは映像の進化やニーズへの対応が背景にあるわけですね。一方で、20~30万円の価格帯であればかなり良いスペックのPCを用意できると思いますが、そこまでのPCを用意する理由は何でしょうか。
倉澤:会社の方針として「クリエイターの作業効率とトレードオフしてまで、機材にかかる経費を削っても意味がない」という考えがあるようです。そのような方針もあり、自分としては「クリエイターが気持ち良く作業でき、それぞれの能力を最大限に発揮できるような環境を作り出す」ことが重要だと考えます。
CGW:そういった考え方は、実際に働くクリエイターにとって大きなメリットになりますね。ちなみに、演出・作画スタッフの作業は基本的にすべてデジタルへ移行済みでしょうか。
倉澤:現状では、紙とデジタルが半々といった感じでしょうか。長年、紙で作業してきた人がすぐにデジタルへ移行できるわけでもないので、そこは段階的に進めている状況です。
ただし、紙は物理的な保管の手間や運送費などが発生するため、デジタルと比較するとどうしても時代にそぐわないコストがかかる印象です。そのため、会社としては基本的にデジタル化をさらに進めていく方針です。
CGW:あと、周辺機器についてはどうでしょうか。
倉澤:入力デバイスについては、デジタル化している演出・作画スタッフのほとんどが液晶タブレットを使っており、ペンタブレットを使っている方はほぼいません。また、液晶タブレットのサイズは22インチと16インチに分かれており、デジタル作画オンリーの方は22インチ、紙の作画もやる方は16インチを選んでいるような状況です。これは、小型な16インチの方が「液晶タブレットをどかして机の上を空けたいときに便利」という理由があるからです。
撮影スタッフ向けは「ハイスペック」かつ「安定性」を重視したPC構成
CGW:では次に、撮影スタッフのPCの選定ポイントを教えてください。
倉澤:まず、CPUはこれまでだとミドルクラスのXeonやCore i7シリーズでしたが、今後はより高性能なCore i9シリーズの時代かなと思っています。というのも、撮影作業後のレンダリングは基本的にレンダーサーバーを使っているのですが、ローカルの作業PCでテスト的にレンダリングを行うこともあるからです。レンダリング時間の短縮などを考えると、今後はCore i9シリーズを選んでいくことになるでしょう。
メモリは、他部門よりも多い64GBですが、これはAfter Effectsの仕様が大きく影響しています。さらに、取り扱うデータサイズの増加や「表現がリッチになってきた」という変化も理由の1つです。実際、最近は重ねるエフェクトの数が増えているので、そのあたりの要望に応えようとすると撮影は「64GBが下限になりつつある」と感じています。
GPUは、安定的な運用の観点からQuadroシリーズを選択しており、スペック的にはQuadro RTX 4000クラスを選択。筐体は別メーカーのワークステーションになるのですが、価格は50万円程度となります。
ちなみに、撮影は本当にクリティカルな部門で、制作工程のなかでは終盤の作業を担っています。そのため、納期・放送日を間近に控えた状況で作業することも多く、作業が止まってしまうと最悪の場合は放送できなくなる可能性もあり、かなり気を使って環境を整えている感覚ですね。
CGW:その感覚は価格からもわかりますし、ハイスペックで安定性にも優れたPCが求められていると感じました。そういった点を踏まえると、もしマウスコンピューター製品で選ぶのであればDAIV FXシリーズが選択肢になりそうですね。
仕上げスタッフ向けはノートPCを選択、「在宅勤務」と「画面のレスポンス」がキーポイント
CGW:では続けて、仕上げスタッフのPCについて教えてください。
倉澤:仕上げスタッフの現在のPCは、すべてワークステーションタイプのノートPCになっています。これはコロナ禍の最中である2020年に導入したため、「在宅勤務への対応」というのが選定の大きな理由の1つでした。
さらに、仕上げのスタッフは「画面のレスポンスを気にする」というのもポイントで、自宅からのリモートデスクトップではどうしてもレスポンスが劣るため、自宅でも快適に作業してもらうためにノートPCを選びました。なお、スペックのグレードは演出・作画スタッフ向けとほぼ同等のイメージです。
CGW:仕上げスタッフが使用しているツールは?
倉澤:アニメの制作現場で昔から使われているRETAS STUDIOのペイントツール「PaintMan」やPhotoshopですね。PaintManは、テレビ等で流れるアニメに使われる素材を塗るために使用。Photoshopは、色彩設計スタッフが色を作ったり、ポスターやBD・DVDのジャケットに使われる版権イラストなどを塗ったりする際に使っています。
CGW:ノートPCの価格はどの程度だったのでしょうか。
倉澤:コロナ禍で在庫が少なく、納期優先で購入したため約40万円と高額になってしまいました。しかし、本来であれば演出・作画スタッフ向けと同じ20~30万円で調達したいところです。また、デスクトップPCであっても持ち運び可能な小型筐体であれば、会社と自宅にキーボードとディスプレイを用意し、状況に応じて持ち運ぶことで運用も可能だと考えています。そのため、今後はノートPCではなく「小型のデスクトップPCでも良いのではないか」という思いはありますね。
CGW:そういった今後の対応は、筐体サイズやコストパフォーマンスがカギを握りそうですね。
美術スタッフ向けは作業スピードを重視して「ストレージ容量」を強化
CGW:最後に、美術スタッフのPCの選定ポイントを教えてください。
倉澤:美術は少し特殊で、ローカルのストレージ容量がポイントです。スタッフからは「ストレージを大容量にしてほしい」という要望があったので、SSDに加え4TBの内蔵HDDを採用しました。ただし、これは「作業するファイルのデータ容量が大きいから」というわけではなく、どちらかというと作品のシリーズが終わるまで「データを手元に置いておきたい」というニーズがあるからと聞いています。
そもそも、作業で使っているPhotoshopのファイルは1つ1つのデータサイズがそれなりに大きいため、毎回サーバーから読み出すのはさすがに億劫です。そのため、ローカルの作業PCにすべて保存しておき「スピード感を重視したい」という理由もあります。
そのほか、CPUやメモリなどは演出・作画や仕上げスタッフ向けとほぼ同じで、Core i7シリーズと32GBといった感じです。
CGW:美術スタッフの使用ツールは何でしょうか。
倉澤:ほぼPhotoshopです。ただ、一部のスタッフが3Dの背景も制作するようになったため、3ds Maxを使っているケースもあります。そのため、3D背景のスタッフは撮影スタッフ向けに近いスペックのPCを使用中です。直近で導入したPCはマウスコンピューターのDAIVシリーズで、メモリは64GB、価格は30万円程度になります。
故障しない「品質の高さ」や安定した「納期」がマウスコンピューターの魅力
CGW:マウスコンピューターのPCを多く導入しているそうですが、そのきっかけは何だったのでしょうか。
倉澤:初めて導入したのは2020年。デジタルでの作業を今後増やしていこうというタイミングだったのと、コロナ禍が始まったことで在宅勤務に対応する必要があったことから、演出・作画スタッフ用としてデスクトップPCのMousePro Sシリーズを100台導入したのが始まりです。
また、それ以降も必要に応じてその都度で購入していますが、選んでいる製品はほぼDAIVシリーズです。そのほか、私は以前にグループ会社の機材調達も担当していたのですが、弊社の兄弟会社であるBoundary(3DCG制作)もDAIVシリーズを多く導入しています。
CGW:マウスコンピューターのPCの魅力は?
倉澤:「故障率が非常に低い」という点は大きなメリットだと感じています。他メーカーのPCだと数十台単位で導入すると1台くらいは初期不良がある、2~3年で故障してしまうといったケースも少なくないのですが、マウスコンピューターの製品は現場で乱雑に扱われてもなかなか壊れない印象です。実際、サポートを頼ったケースも1回ぐらいしかないですし、幸い初期不良が1台もなかったことは事実です。それらの点も含めて、この品質の高さは嬉しいポイントです。
CGW:マウスコンピューターは国内メーカーということもあり、クオリティに対しては「非常に高い意識を持っている」と聞いています。国内の長野県に生産拠点を構え、品質チェックも昔から厳格に取り組んでおり、信頼性や安心感についてもこだわっているようです。そのほか、気に入ったところなどはありましたか?
倉澤:「納期が安定している」という点はとても助かっています。冒頭でも少し触れましたが、当社は急に制作スタッフが増えることも多いので、予定通りかつ迅速に納品してもらえることは、機材調達を担う立場としてとても重要です。
そもそも、他社では見積をお願いしても「発注してみないとわからない」と言われることもありますし、納期が1ヵ月~1ヵ月半かかることもざらです。しかし、マウスコンピューターの場合はどんなにかかっても数週間程度。早ければ数日で出荷してもらえるモデルもあるだけに、なる早で対応してもらいたいこちらとしては嬉しい限りの対応です。
CloverWorksが導入した「DAIV」のポイント
CloverWorksでは、スタッフ用の作業PCとしてDAIVシリーズを多数採用。もっとも新しいモデルはデスクトップPC「DAIV Z9-3060Ti」で、Photoshopに加え3ds Maxを使用する背景美術スタッフ向けの構成のものだ。
DAIV Z9-3060Tiは、高性能なインテル第12世代CPU「インテル Core i9-12900 プロセッサー」やミドルクラスのGPU「GeForce RTX 3060 Ti」を採用しており、高いスペックと優れたコストパフォーマンスを両立するデスクトップPC。CloverWorksではメモリを64GB、ストレージのHDDを4TBに強化することで、作業効率をさらに高めている。
DAIV Z9-3060Ti
- CPU
インテル Core i9-12900 プロセッサー(16コア【Pコア 8、Eコア 8】 / 24スレッド / Pコア 2.40GHz、Eコア 1.80GHz / TB時最大 Pコア 5.10GHz、Eコア 3.80GHz】 / 30MBキャッシュ)
- GPU
GeForce RTX 3060 Ti / 8GB
- メモリ
64GB(16GB×4)
- ストレージ
NVMe接続 1TB SSD+4TB HDD
- OS
Windows 10 Pro
問い合わせ
<法人>
株式会社ボーンデジタル
TEL:03-5215-8671(平日のみ:10~19時)
<個人>
株式会社マウスコンピューター
TEL:03-6636-4321(9時~20時)
https://www.mouse-jp.co.jp/store/brand/daiv/
TEXT_近藤寿成(スプール)、EDIT_小倉理生