8月6日、渋谷のライブハウス WOMBにてクラブイベント型のミュージックアートフェス「NIGHT HIKE」が初開催された。ボーカロイド曲を流すクラブイベントはこれまでにも複数開催されているが、「NIGHT HIKE」は、DJによるパフォーマンスに加え、イラストレーターによるライブドローイング、映像作家によるトークセッションなど、ネットカルチャーのあらゆる側面を楽しむことができる新しいクラブイベントとして誕生した。
「NIGHT HIKE」の全体像
音楽と共に、ネットカルチャーの“夜”へ。ネットカルチャー黎明期から、音楽と映像が一体の形で存在していたボーカロイド曲。ネットミュージックの代表格であるボーカロイド曲の影響を受けた作品はもちろん、いまや、音楽とイラスト、映像は切り離せないものとなり、分野を超えた相互作用のなかで作品に新たな楽しみ方が生まれている。音楽がすべての点を結ぶ核となり、様々なクリエイターが活躍できるチャンスがいくつも広がっている。このようなネットカルチャーの歩みをバックグラウンドに開催されたのが「NIGHT HIKE」だ。
イベントは、3つのフロアに分かれて行われた。
1Fラウンジでは、イラストレーターによるライブドローイング、映像作家によるトークセッションがおこなわた。
一方で4F(※3Fは関係者席)、ハウスミュージックやVTuber楽曲などの多ジャンルを横断し、さらなる深海へと潜っていくようなプレイを得意とするDJたちによるコアな空間が広がっていた。
観客が揃って同じステージを観るのとは異なり、気軽に行きたい方向へと足を伸ばすことができるのが、「NIGHT HIKE」のスタイル。時間や場所に縛られないからこそ、観たステージに対する感想は人それぞれとなる。
私の「NIGHT HIKE」
「niL」氏、「ろるあ」氏によるライブドローイング
15:00を過ぎたころ、1Fのラウンジに足を運ぶ。ハウスミュージックが淡々と流れる薄暗い空間で、Eveの楽曲『遊生夢死』のMVや楽曲『藍才』のジャケットアートワークを手がけたイラストレーター「niL」氏が、iPadを使用し、黙々とイラストを描いていた。
ここは、0の状態からひとつの絵が完成するまでの過程を見せてくれる場だ。流れる音楽のテンポに合わせるように、ペンを使って線を引いたり色を塗っていくniL氏。その滑らかさから、イラストを描く行為が流れる音楽と自然と溶け合っていく。音楽からインスピレーションを受けて一枚のイラストが生まれる──そんな今の音楽シーンを表す景色が目の前に映るイラストからあふれだした。
私たちは普段、すでに完成された状態、つまり作品そのもののを鑑賞し楽しんでいるが、その背後にあるクリエイターたちの制作に励む姿を直に目にすることは少ない。今回niL氏が絵を描く姿を目の当たりにし、これまで見えていなかった、MVを構成するイラスト、アニメーション、音楽、それぞれを担当するクリエイターの隠れた努力を想起した。
音とイラストの距離を埋めていくようなあまりにもシームレスな心地よさに、気付けば心が奪われていた時間。女性の横顔が映る美しいイラストが完成するかと思いきや、そんな予想は斜め上から裏切られることになった。
「NIGHT HIKE」が共有するのは「ナイトハイクのように、その瞬間でしか味わえない新たな気付きや感動と興奮、そして、まだ見ぬ心躍るモノに遭遇するような、創造的で価値ある特別な時間と体験」。女性の身体(山)を登りきり、達成感を感じている小人が描かれているイラストは、まさに「NIGHT HIKE」を表したイラストだった。
— (@NilililN25) August 7, 2023
『NIGHT HIKE』8/6
90分 ライブドローイング
初めての体験で沢山の刺激を頂きました!
最後まで見て下さった方、サポートして下さったスタッフの皆様、本当に有難うございました!
凄く楽しかったです!#NIGHT_HIKE pic.twitter.com/PKoYjtDxoC
続いて登場したのは、『クライマキナ』のキャラクターデザインを手掛けるイラストレーター「ろるあ」氏。同氏の作品は、白を基調とした繊細でコントラストの効いた光を感じるような色使いと、視点が思わず中心に向かってしまう奥行きを感じる構図が印象的だった。
またライブドローイングの最中、目に止まったのは同氏の隣に、「クリエイターによる、クリエイターのためのPC」がコンセプトの、DAIV FX-A7G7Tが置かれていることだった。DAIV FX-A7G7Tは、90分間エラーなしで同氏のライブドローイングをサポートし、高速なデータ処理能力を示した。音楽とイラストが一緒になることで、流れる音楽とイラストによる相乗効果が高まり、至高の演出が叶っていた。
ボカロP・「いよわ」氏によるDJプレイ
17:00、2Fへ移動すると、2021年に投稿した代表曲『きゅうくらりん』がYouTubeで3000万回再生を越えるボカロP・「いよわ」氏によるDJプレイが。
ステージで思いのままに動く姿が印象的で、観客もそれに全力で応えようと声をあげていた。自身のオリジナル曲だけでなく、流行のJ-POPやアニメソングもプレイするいよわ氏。しかし、彼が「リミックスやります!」と宣言したり、自らのオリジナル曲を披露すると、観客はさらに盛り上がった。やはり、代表曲『きゅうくらりん』(yuigot Remix)はイントロが流れた時点でフロアは盛り上がっていた。不規則なメロディが泳ぎ、生み出されていく心地よいグルーヴ。言葉はなくても、音だけで通じ合える心地よさが同氏の曲には存在している。
ラストには、バーチャルYouTuberの「名取さな」がスクリーンに登場。登場の勢いそのままに「まさかのサプライズゲストとしてやってきました!実は名取は、いよわさんに作ってもらったオリジナルソングがあるんですよ。いよわさん、せっかくなので歌わせてください!」と名取さなが呼びかけると、いよわが作詞作曲編曲を手がけた『パラレルサーチライト』が流れた。名取さな氏の呼びかけの後には観客からの大きな歓声が上がり、「NIGHT HIKE」というイベントを全員が楽しんでいるのが伝わってきた。
「okadada」氏の登場
いよわ氏の次に登場したは「okadada」氏。全国各地のクラブイベントで活躍するDJのひとりだ。ネットレーベル「maltine records」やbandcampで楽曲をリリース、大規模な都内のクラブイベントをはじめ、大小、場所問わず野外フェスからコアなパーティーへの出演等、幅広い活動で注目を集めている。そんな同氏の活動を物語るようにあらゆるジャンルのサウンドをつなぎ合わせた重低音が鳴り響く骨太なプレイを展開。自然と踊りを誘うようなokadada氏のプレイに呼応し、観客もリズムを刻むような動きに。
「しまぐち ニケ」氏 ×「ぽぷりか 」氏 トークセッション
18:30、再び1Fラウンジに戻り「しまぐち ニケ」氏と「ぽぷりか」氏のトークセッションに備える。しまぐち ニケ氏は、バーチャルアーティスト・理芽のMVなどを手がける映像作家。Bivi氏と組んだ映像制作ユニット「擬態するメタ」名義でも「ずっと真夜中でいいのに。」のMVなどを制作している。ぽぷりか氏は、「ヨルシカ」をはじめ、数多くのアーティストのMV制作を手がける映像制作チーム・「Hurray!」の代表である。制作に対するこだわりや、考え方などフリートークが展開されるなかで、ハイライトとなったのは、「映像作品におけるすべてのシーンにクリエイターの努力が刻まれていることを忘れないでいてほしい」とのぽぷりか氏からの言葉だった。
ぽぷりか氏:「ごはんを食べながら作品を見れないんですよね(笑)。僕は1カット1カットにこだわって作品を作っている。今見ている作品も誰かが自分と同じように作品を作っていると考えたら、目を離したその一瞬に映っていたであろう大事な何かを見逃すような気がして.....」
しまぐち ニケ氏:「そんな風に作品を見てくれている人がいると思ったら嬉しいですね。自分の作ったものをしっかりと見てくれる人がいる、そう感じることができたらクリエイターはみんな少なからず喜びを感じると思います。」
“作品に対する感謝”、これは、ライブドローイングをみている時にも感じたことだ。「NIGHT HIKE」は作品ができる過程にもフォーカスすることで、普段は見落としがちな作品に対する有難みを感じられる体験をくれるイベントなのかもしれない。表舞台で活躍するクリエイターの制作のこだわりから、等身大の悩みまでも聞けた貴重な一幕だった。
ラストを飾った「八王子P」氏
20:00、イベントを締めくくるラストには、ボーカロイドのクラブイベントに複数参加経験のある「八王子P」氏が登場。ダンスミュージックをベースにエレクトリックなサウンドが特徴的なボーカロイドシーンの黎明期から活躍してきたボカロPだ。「みなさん、最高の週末を過ごせていますか?」と声をかけ、次々と楽曲をかけていく。
各VJがセレクトした映像が集まった空間のなかでも、とりわけ、初音ミクが登場するアニメーションMVが多かったのが八王子P氏による時間。どこか現実離れしたエレクトロニックなサウンドがこの場所を宇宙空間へと変えてしまったように感じる。ボーカロイドが歌う歌詞や流れるメロディがさらに魅力的に映るような花々しさがあり、片時もステージから目が離せなかった。
驚いたのは、最後に突然、スペシャルゲストの「kz(livetune)」氏が登場したこと。ボーカロイドシーンの黎明期に同氏が作成した『Tell Your World』が流れる。『Google Chrome‟あなたのウェブをはじめよう。”キャンペーンCMソング』として書き下ろされたボーカロイドの歴史に残る同曲は、まさに、「NIGHT HIKE」に相応しい。「君に伝えたいことが・君に届けたいことが・たくさんの点は線になって・遠く彼方へと響く」
「NIGHT HIKE」を終えて
まさに、様々なクリエイターによる想いや努力の連なりを経て創作物ができあがっている真実を教えてくれた「NIGHT HIKE」。作品自体の尊さを感じながらイベントを楽しむということが、今の時代に寄り添った新しい楽しみ方になっていくのかもしれない。聴いたことのある歌詞から普段とは違うニュアンスを感じたのは、「いつもPCやスマホの画面を通じて日常的に接している、音楽・イラスト・映像などの様々なネットカルチャーも、ひとつのイベントという空間に身を置いて、ボーダーレスにそれらを楽しむことで、いつもとは異なる感動や発見を得る」という「NIGHT HIKE」のコンセプトに通じた体験だった。今回は特別に、出演した「いよわ氏」と「しまぐち ニケ氏」にイベントの感想を伺うことができた。
いよわ氏
「普段ボカロPとして活動している自分にとってより視野の広がるような、複合的な熱狂を感じました。あちこちで魅力的なステージが展開されていて、思わず『体が足りない!(笑)』と思わされる贅沢なイベントだったなあと感じています」
しまぐち ニケ氏
「フリートーク中にお客さんにアンケートをとった際、何かしらのクリエイティブに関わっている方が半数くらいだったのでビックリしました。クリエイターの方が勉強だと思って来ても良いし、視聴者の方が好きなクリエイターを見に来ても良いし、いろんな楽しみ方ができるイベントだと思います。」
終演後には、12月10日に「NIGHT HIKE Late 2023」が同会場で開催されることが発表された。貴方の中のすべてのクリエイションに対する見方が変わるのはきっとその日だ。
イベントを支えたDAIV FX-A7G7T
音楽とイラストの共鳴を可能にするDAIV FX-A7G7Tは、クリエイターの鼓動が聞こえるほどに生きたアートの世界を魅せてくれる。
- 型番
FXA7G7TB6ADCW101DEC
- 価格
369,800円(税込)
- CPU
AMD Ryzen™ 7 7700X プロセッサー
- GPU
GeForce RTX™ 4070 Ti
- メモリ
32GB
- ストレージ
1TB (NVMe Gen4×4)
- OS
Windows 11 Home 64ビット
TEXT_小町碧音 / Mio Komachi
EDIT_山下一貴 / Itsuki Yamashita(CGWORLD)、武田かおり / Kaori Takeda
PHOTO_大沼洋平 、Hideyuki Uchino