GPU技術でクリエイターをサポートするNVIDIA。今年も新しいサービスや製品を発表している。ここではジェネレーティブAIを活用したサービス「NVIDIA Picasso」とコンパクトなSFF(Small Form Factor)のGPU「NVIDIA RTX 4000 SFF Ada世代」を紹介しよう。CGWORLDアドバイザリーボードメンバーの澤田友明氏(コロッサス)にも各製品のクリエイター向けメリットについてコメントをもらっているので、合わせてチェックしてほしい。
コロッサス/シニアデザイナー
澤田友明 氏
欲しい素材をジェネレーティブAIで生成
日々進化するAI 技術。最近特に注目を集めているのがジェネレーティブAI と呼ばれる、入力したテキストを元に画像などを生成するジャンルだ。ごく短時間で画像を生成できるため、うまく利用できればクリエイターの創作活動をサポートできる可能性がある。
そこでNVIDIA は同社の開発者向けイベント「GTC 2023」で「NVIDIA Picasso」を発表した。クラウドサーバー「NVIDIA DGX Cloud」を利用し、テキストから画像、動画、3D モデルを生成できるサービスだ。機能はAPI で提供され、パートナー企業はSDK を利用して自社製品やサービスに組み込む。
エンドユーザーはそれを通して「NVIDIA Picasso」を利用するという形だ。AI の演算はNVIDIA のサーバで行うため、ユーザー側のPC に高性能なCPU やGPUなどは不要だ。
例えば、冒頭にある猫の画像は英語で「顔に(インドの)ホーリー祭風のペイントを施したかわいい猫の写真、背景にはカラフルなスモーク」と指示している。素材の画像をAIで生成できれば、素材サービスで適した画像を探す手間を省けるようになる。
3Dモデルを生成すれば、背景の植物や建物など量が必要な素材をひとつひとつ作る必要がなくなる。このように、ジェネレーティブAIを活用することでクリエイターは作業効率を上げ、注力すべき作業により長い時間集中できるようになる。
AIの抱える課題のひとつに、利用するデータの問題がある。例えば画像を生成するジェネレーティブAIは、機械学習を行う際に大量の画像を学習用のデータとして利用する。この時に他者が著作権を持っている画像や倫理的に問題のある画像などを使ってしまうと、後のトラブルにつながるおそれがあるためだ。企業にとって、学習用データの出所が明らかでないAIは利用しにくい。
その点、「NVIDIA Picasso」はNVIDIAがライセンスを受けた画像に限定してのサービス提供が可能で、安心して利用できる。企業が自前でデータセットを持っている場合は、それを元にAI モデルをカスタマイズすることも可能となっている。
パートナー企業としてAdobe やGetty Images、Shutterstockなどが既に「NVIDIA Picasso」を活用したサービスの開発を始めており、Adobe は同社の「Adobe Creative Cloud」に導入する予定だ。
最新世代のGPUをコンパクトボディに搭載
クリエイターの作業環境には高い演算性能が必要だ。高性能なGPUはボードサイズが大きく、ワークステーションの筐体も大きくなる。しかしいつも大型のワークステーションを設置できるとは限らない。
そんな時に利用されるのがSFF(Small Form Factor)の小型筐体だ。当然内部スペースは狭いため、搭載できる拡張ボードの サイズは限定される。「NVIDIA RTX 4000 SFF Ada 世代」はSFF向けとして史上最高の演算性能を備えたGPUだ。
特徴は、その名の通り最新のNVIDIA AdaLovelaceアーキテクチャを採用したGPUコアだ。従来のAmpereアーキテクチャを搭載したNVIDIA RTX A2000から最大2倍と大幅に性能が引き上げられている。主要な演算器のCUDAコアは6,144基、AI用演算を担当するTensorコアは192基、レイトレーシングを担当するRTコアは48基。
NVIDIA RTX A2000ではそれぞれ3,328基、104基、26基だったので、演算器の数だけでも2倍弱に増強されている。さらにメモリーもGDDR6を20GB搭載。NVIDIA RTX A2000の12GBからこちらも大増量した。
メディアアクセラレーション機能も強化され、NVIDIA のハードウェアエンコーダー「NVENC」とデコーダー「NVDEC」を2基ずつ搭載している。AV1コーデックのエンコードとデコードにも対応し、最新の動画編集環境で利用できる。
こうした性能向上を図っているにもかかわらず、演算性能以外のスペックは据え置きの点が多い。クーラー部分を含めた寸法は169.55×68.9×32.37mm。高さを抑えたロープロファイル仕様で、2スロット分の厚さという特徴を受け継いでいる。
ボードの最大消費電力も70Wで据え置き。補助電源ケーブルが不要な消費電力のため、筐体内部の配線を増やすこともない。映像端子もMini-DisplayPortを4基と変わっていない。
サイズや消費電力が変わらないことのメリットは、既存環境のアップグレードがしやすくなる点だ。SFFの筐体は内部が狭いため、ちょっとしたサイズアップでも他のパーツと干渉してしまう原因になり得る。消費電力が増えると、電源ユニットの出力不足や発熱の増加など小型筐体ではやはり深刻な問題を引き起こすおそれがある。
「NVIDIA RTX 4000 SFF Ada世代」はNVIDIA RTX A2000を搭載した環境からそうした心配をせず入れ替えられるのも大きな強みだ。
小型のワークステーションでもパフォーマンスが欲しいというクリエイターにとって、「NVIDIA RTX 4000 SFF Ada世代」は心強いパートナーになるだろう。
製品情報
NVIDIA RTX 4000 SFF Ada世代
コアアーキテクチャ:Ada Lovelace
GPU メモリ:20GB GDDR6
最大消費電力:70W
CUDAコア数:6,144
出力端子:Mini DisplayPort 1.4a×4
PCIe:PCIe 4.0 x16
その他:NVIDIA Mosaic,QuadroSync II対応
TEXT_宮川泰明(スプール)