「マジか」価格を聞いて思わず唸った。京都大学から転向の個性派インディーゲームクリエイター 中道慶謙氏がクリエイター向けPC「raytrek MV」を検証(前編:Unreal Engine 5 編)
ゲームデザインから3Dモデリング、アニメーション、エフェクト、さらには音楽からマーケティングまで……全ての要素が必要とされるインディーズゲームの領域で、短期スパンで作品を出し続けている中道慶謙氏がサードウェーブのクリエイター向けPC「raytrek(レイトレック) MVシリーズ」を検証。10万円台(2022年12月現在)で購入できるPCはゲーム制作に耐えられるのか?
「面白いものを素早く形にすること」が信条
―― 中道さんはどんなクリエイターなのでしょうか。
中道慶謙氏(以下、中道氏):インディーゲームクリエイターです。個人でゲーム開発を行なって、つくったゲームの販売権をパブリッシャーと契約する、というのが基本的な活動ですね。パブリッシャーを通さずにプラットフォームである「Steam」で販売するというケースもあります。講談社さんのクリエイター支援プロジェクト「講談社クリエイターズラボ」の一期生として参加し、「FAMILY BATTLE タッグアリーナ」というタイトルもリリースしました。
中道慶謙氏/インディーゲームクリエイター
主なゲームタイトルは『SUPER DRINK BROS.』、『SPY RUMBLE』など。2020年11月13日に『SUPER DRINK BROS.』をSteamにてリリースし、以降YoutubeチャンネルやTwitchでもゲーム開発に関する内容で動画投稿やライブ配信活動を行う。 Twitchでは48時間以内に新作のゲームを開発するという企画で『アルティメットババ抜きまーじゃん~3Days~』の制作をライブ配信で行った。講談社クリエイターズラボのメンバーとしても活動している
twitter @nekogameteacher
ーー 中道さんは京都大学に通われていて、在学中にゲームクリエイターの活動を始められたと伺いました。どのようなきっかけがあったのでしょうか?
中道氏:京都大学では神経科学を勉強していました。専門の学科はなかったので、色々な学部の関連する授業に参加して研究をしていましたね。きっかけは将来を意識したことです。色々な道を模索していた時期がありましたが、その中で出会ったのがゲーム開発でした。
ーー ゲーム開発そのものに触れたのもその時が初めてだったのでしょうか?
中道氏:そうですね。当時Twitterで触れた情報が初めてです。実は、それまでプログラムの経験もほとんどありませんでした。
ーー ゲームはそれまでもプレイされていたのですか?
中道氏:自分で開発を始めるまでは、特段ゲームを熱中してプレイするタイプではありませんでした。もちろん友達とゲームで一緒に遊んだりするのは好きだったのですが、心身のめり込むほど「ド刺さり」するということはなくて。それならそんなゲームを自分でつくればいいということでやってみたら、ゲームづくりの方が「ド刺さり」しました。もともと頭の中にあるイメージを形にするという作業が好きだったので、ゲーム開発は性格的にも合っていたと思います。そういう経緯なので、開発の際はゲームデザイン、ゲーム性にはかなり重きを置いていますね。
ーー ゲーム開発に本腰を入れると決めたきっかけは何だったのでしょうか。
中道氏:「東京ゲームショウ」のインディーブースに展示する機会があったことです。そこでソニーミュージックエンターテイメント(以下、SME)さんに声をかけて頂いて。SMEさんは当時未発表だった「 UNTIES (アンティーズ)」というクリエイター支援プロジェクトを進めていて、そこに参加することになりました。色々あってその時開発していたタイトルはリリースされなかったのですが、SMEさんと一緒に活動させて頂く中でゲーム開発の相場観と言いますか、お金の流れや規模感などを知ることができました。それでゲーム開発に集中するために大学を中退した、という流れです。
ーー ゲームクリエイターとしては、会社やプロダクションで活躍する道もあったと思います。今個人で活動されている理由を教えて下さい。
中道氏:自分の面白いと思うものをつくりたいからというのが根っこにあります。変な話、他人の「面白い」が理解できないことも多いので。やっぱりクリエイターとして、自分が納得できるものしかつくりたくないという思いがあります。そのためには自分で全部をやれる現在のスタンスが合っていると感じています。
ーー ゲーム開発をする上でのこだわりやご自身の強みは何ですか。
中道氏:スピード感ですね。自分が面白いと感じていること、お客さんが求めていること、それを最速で形にして提供することが、日々生まれ続ける新しいゲーム達の中で、1つ飛びぬけることにつながると思っています。良いものを速くつくるというのは大きなテーマで、その訓練の一貫として48時間でゲームを1本リリースするという企画もやってみました。
ーー 速いことにはどんなメリットがあるのでしょう。
中道氏:それだけ多くのゲームをリリースできるようになるので、ヒットに恵まれるチャンスが増えます。例えば1年間の開発リソースを1本に集中した場合、売れないと次がありません。しかし年間2本リリースできれば、どちらか一方が振るわなくてもまだ大丈夫です。そういう意味で、リスク分散にもなりますね。講談社さんでは1年かけて1本ゲームを作りましたが、個人では同時期に並行して2本リリースしています。
ーー しっかりした開発力があることが前提ではありますが、確かにチャンスは増えますね。
中道氏:感覚的なものですが、「Steam」ではユーザーが無意識に持っている足切りラインのようなクオリティがあって、それを超えたゲームをリリースすればある程度の本数は売れると思っています。売り上げが見込めれば開発を続けられますし、また自分のつくりたいものをつくれるという良い循環につながりますね。
「raytrek MV」でUnreal Engine 5を検証
ーー サードウェーブさんのクリエイター向けPC「raytrek MV」を試して頂きました。率直な感想を頂けますか。
中道氏:僕が普段やっていることはだいたいできちゃうという印象です。僕が使っているメインPCは自作PCで、CPUはインテル® Core™ i9 - 9980XE プロセッサー、GPUはNVIDIA GeForce RTX 3070、メモリは64GBという構成です。導入した時は相応に予算をかけたのですが、「raytrek MV」はこの価格でこんなに動くのか、と思いました。
ーー 中道さんが普段使われているツールを教えて下さい。
中道氏:ゲーム開発では Unreal Engine や Blender 、ZBrush、Substance 3D Painter・Designer などを使っています。
ーー Unreal Engine 5 での使い心地はいかがでしたか。
中道氏:Unreal Engine 5(以下、UE5) のいわゆる「マトリックスデモ」を動かしました。ツール側は何も変えていない初期設定でフレームレートが40前後。たまにガクッと落ちることもあるのですが、平均するとそのくらいです。実際に使う時はもっと軽い設定に変えるので、初期設定でこれだけ動いていたら十分だと思います。このデモはデータ量が90GB近くあるので最初の読み込みにも時間がかかりますが、これも8分ほどでした。昔のPCで動かすと1時間かかる場合もあるので、この規模のデータセットを読み込むのに8分は立派です。
ーー 普段の開発にも使えそうですか?
中道氏:問題ないと思います。私の場合はUE5のエディターを2個開いてウインドウを並べて作業することが多いので、それも試しました。過去のデータを見ながら作業したり、一部をコピーしたりとかですね。「Unreal Engine 4」で制作した過去のデータを2個開いたところ、フレームレートは14くらい。さすがに1個の時より落ちていますけど、ちゃんと動かせるレベルですね。初期設定でこれなら、使えると言って良いでしょう。
ーー 足りない部分はありますか?
中道氏:エディターを2個開いた状態でメモリの使用量が80%くらいになっているので、さらに他のソフトを立ち上げるとかは厳しいかもしれませんね。ただ、そもそもエディターを2個開くのは特殊な使い方ですしメモリは追加できるので。それにプロでもこのくらいのPCで開発している人もいると思いますよ。18万円くらいでここまでできるのなら、良いと思います。
ーー 実は価格が更新されていまして、現在は税込みで約16万5000円になっています。
中道氏:マジか…。これは本当に安いですね。
後編では、中道氏の開発プロセスを聞いていく
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TEXT_宮川泰明(スプール)
PHOTO_tomohiro Takeshita