Quadroの後継製品として、昨年発表されたプロフェッショナル向けのGPUファミリーであるRTX Aシリーズ。前回記事にて「Omniverse Audio2Face」の検証を行ったCyberHuman Productionsが、今度はNVIDIA Omniverseでの共同編集やAudio2Faceの作業における、モバイルワークステーション「Dell Precision 7760」のパフォーマンス評価を行った。16GBのVRAMを備え、CUDAコアプロセッサ6,144基、Tensorコア192基、RTコア48基を誇るRTX A5000を搭載したDell Precision 7760の実力はいかに?
モバイルワークステーションDell Precision 7760の優位点
柳島秀行氏
株式会社サイバーエージェント デジタルツインレーベル 兼 株式会社CyberHuman Productions(旧AVATTA)/3Dアーティスト
久家隆宏氏
株式会社サイバーエージェント デジタルツインレーベル 兼 株式会社CyberHuman Productions(旧AVATTA)/ エンジニア
ーーNVIDIA RTXをベースにしたAI技術をモバイル端末で扱うためには、強力なスペックのモバイルワークステーションが必要になります。今回はDell Precision 7760を検証していただきましたが、まずは率直な使用感を教えてください。
久家:サイズを考えると相当に優秀なモバイルワークステーションというのがファーストインプレッションです。普段はRTX 3080搭載マシンを使用していますが、ディスプレイのリフレッシュレート以外はまったく遜色なく使えていた印象です。一般的なCGワークにおいてはメモリも十分で、かなり制作向けのプロフェッショナル用マシンだと感じています。また、Windowsの起動自体もかなり高速で、10秒程度でログイン画面が映りました。
ーーハードウェア設計はどのように評価されましたか?
久家:特に驚いたのは排熱で、Marbles RTX(リアルタイムレイトレーシングを駆使した、NVIDIA開発のビー玉転がしゲーム)を起動して15分以上放置してみても、キーボードの上は少し熱を持っているのがわかるくらいで、不快感はありませんでした。GPU温度も75℃程度で安定しており、排熱の方向もPC操作者側ではないので快適性が高かったと思います。レンダリング時も90〜99%を維持してしっかりGPUが回っていたので、スペック通りのパフォーマンスが出せる筐体だと思います。
デル・テクノロジーズ川口剛史氏(以下、川口):RTX A5000のTGP(Total Graphics Power / 総消費電量)は115Wです。Dell Precision 7760は17インチのモバイルワークステーションですので、240WのACアダプタを用いてしっかりと115Wフルスペックで回せるようになっています。小型製品だと電力面で性能を発揮できないですが、本機ではそれが可能です。もちろんフルパワーで使うだけでなく、ECOモードも搭載されています。
久家:負荷が大きければ大きいほど熱をもつのは当たり前ですが、冷却のためにファンが大型になると音が大きくなるなどのデメリットも生じてしまいます。そのバランスが設計の要点だと思いますが、本機はその点が特に優れていると思いましたね。サーッというファンの音は耳では聞こえるレベルでしたが、特に不快ではありませんでした。喫茶店などで使ってもまったく問題ないレベルかなと思います。
川口:Dell Precision 7760以前の機種は本体横にも排気口がありましたが、現行機は大型の排気口を背面側に2系統用意しています。下から空気を吸い上げて、後ろから出すというしくみです。左右にデュアルファンがあり、真ん中にロングホーンと呼ばれる空気を通す管があります。ここを経由して、CPUとGPUをそれぞれ冷却しています。
ーーラップトップということで気になるのは消費電力だと思いますが、この点はいかがですか?
久家:一般的な用途であれば、勤務時間中は電力がもつのではないかと。高負荷モードでは4時間ほどだと思います。このレベルのGPUを搭載しているモバイルワークステーションとしては、ファンの方向性、温度管理含めて、よく考えられて設計されていると思います。あとは細かいですが、充電ケーブルの差込口が背面なのも良かったです。フロントにもサイドにもケーブルが出ていないので、使い勝手が良いと感じました。
Omniverse Createをはじめとした検証
ーーDell Precision 7760でOmniverseを利用したとのことで、まずは検証内容を教えてください。
久家:NVIDIA RTX A5000というハイスペックなGPUを載せているということで、最初から大きな期待をもって検証に臨みました。私自身レンダリングの研究をしていたこともあり、今回はレンダラとしての性能を重点的に確認しましたが、全体を通してシンプルに「速い」と感じました。最初に行なったMarbles RTXでの検証は、前述の通り快適でした。
ーーOmniverse Createでの作業について、どのような手順で試されましたか?
久家:Omniverse Createでは共同編集機能を実践しました。他のメンバーが立てたローカルサーバにDell Precision 7760で入って作業をしています。Omniverse DriveというNucleusサーバをWindowsのローカル環境に仮想マウントする機能を使っていて、テクスチャなどのサーバ上アセットをローカルファイルのように編集でき、それが即時にOmniverse Createに反映されるというしくみになっています。今回はMayaで制作した化粧品ボトルのアセットをUSD形式でOmniverse Createにインポートし、レイヤー機能を試したり、どこまでが同期されているのかを確認したりと、様々な視点で検証を行いました。Omniverse Createの起ち上げ自体は30秒ほどかかりましたが、作業自体は非常にサクサク動いており、私が編集を入れたら0.5秒ほどでデータに反映されていたように思います。
ーー実際の業務でも問題なく使える印象でしたか?
久家:応答性はかなり良かったので、実用も問題なくできると思います。1つのレイヤーを複数人で作業するのではなく、1つのシーンにある複数のレイヤーを個々が編集し、互いの進行度合いをチェックしながら作業できるというしくみです。Live Syncを行うとリアルタイムで変更が反映されます。Read Onlyにすれば編集を自分だけが確認できる状態になるので、実際の仕事でも活用シーンは多そうです。RTX A5000はVRAM 16GBもあるので、シーンの展開でメモリを使うOmniverseにはかなり適していると感じました。
ーーレンダリング速度や品質についてはいかがでしたか?
久家:Omniverse Create上で使用できるレンダラはRTX Realtime、Path Tracing、Iray Photorealの3種類です。RTX Realtimeはその名の通りリアルタイムですが、Path Tracingでも写実的な描画をほぼリアルタイムに作業できる速度で実現していました。最もレンダリング品質の高いIray Photorealはさすがに少し時間がかかりますが、こちらも極めてリアルな表現になっています。この描画品質を考えるとレンダリング時間も高速だと感じますし、Progressive Render(レンダリング結果を待たず、中間イメージを順次表示していく)なので、シーンを動かしながらレンダリング結果をラフに確認するくらいなら余裕で行えます。また、現状ベータ版ということですが、Color Matching Function(色の出力設定の一部、CIE 19312degree、CIE 196410degree)も 選択することができたので、今後もっと「色」に関してのサポートが増えることも期待したいです。
ーーそのほかの検証内容があれば教えてください。
久家:Dell Precision 7760でもAudio2Faceを使ってみました。RTX Realtimeでのレンダリングではモバイルワークステーションながら30fps以上が常に出ており、メッシュのラップなども普段の作業マシンと遜色ない時間で終わりました。当然出力されるアニメーションも問題ありませんし、モバイル機としては本当にパワフルだと実感しました。実際の業務でもスタジオなどの外に持ち出して使ってみたいですね。
TEXT_神山大輝(NINE GATES STUDIO)
EDIT_藤井紀明(CGWORLD)
INTERVIEW_池田大樹(CGWORLD)