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2021年11月8~12日、秋の恒例イベント「CGWORLD 2021 クリエイティブカンファレンス」がオンラインで開催された。StudioGOONEYSのセッションでは斎藤瑞季氏と池田恵也氏が登場。スペックの異なる3台のPCを使用し、アニメーションやレンダリング作業におけるパフォーマンス検証について解説した。
『SHAMAN KING ふんばりクロニクル(ふんクロ)』
© 武井宏之・講談社/SHAMAN KING Project.・テレビ東京 ©StudioZ, Inc.
斎藤瑞季氏
代表取締役 兼 CGディレクター(StudioGOONEYS )
2007年にデジタルハリウッド大学院を修了後、フリーランス活動を経て、2012年4月にStudioGOONEYSを設立。CGの利点を活かした提案を主とし、オーディエンスの心を動かす映像制作に力を入れている。
映像制作の要であるハードウェアのパフォーマンスを常に追い求め、社内PC全てのチューニングを行っている。
池田恵也氏
コンポジター(StudioGOONEYS)
2017年StudioGOONEYSに入社。
実写やアニメ、ゲーム等、様々なジャンルにおいてコンポジットやエフェクトワークを担当。
StudioGOONEYS
2012年設立の3DCG映像制作会社。アニメーションからモデリング、リギング、レイアウト、アニメーション、ライティング、エフェクト、コンポジットまでの一貫した映像制作を手掛ける。「日本のCGを世界へ」を企業方針として掲げ、ストーリーに重きを置いたアニメーション制作を目指している。
https://gooneys.co.jp/
AMD Ryzenシリーズ搭載の「iiyama SENSE ∞」のプロダクションユースの実力は?
▶検証モデルスペック
検証内容の紹介の前に、まずは検証機材を紹介した。今回の検証では、パソコン工房の「iiyama SENSE ∞」シリーズから、「AMD Ryzen」シリーズのCPUを採用したスペックの異なる3台のPCを使用。各PCの主なスペックは以下となる。
AMD Ryzen 5 搭載モデル(スタンダードモデルA)
- 価格
202,980円~
- CPU
AMD Ryzen 5 5600X(6コア / 12スレッド / 3.7GHz / 最大ブースト・クロック4.6GHz)
- GPU
GeForce RTX 3060 Ti
- メインメモリ
16GB(8GB×2)
AMD Ryzen 7搭載モデル(スタンダードモデルB)
- 価格
265,980円~
- CPU
AMD Ryzen 7 5800X(8コア / 16スレッド / 3.8GHz / 最大ブースト・クロック4.7GHz)
- GPU
GeForce RTX 3070 Ti
- メモリ
16GB(8GB×2)
AMD Ryzen 9搭載モデル(スタンダードモデルC)
- 価格
453,880円~
- CPU
AMD Ryzen 9 5950X(16コア / 32スレッド / 3.4GHz / 最大ブースト・クロック4.9GHz)
- GPU
GeForce RTX 3080 Ti
- メインメモリ
32GB(16GB×2)
今回はこの3台のPCを使用し、「アニメーション時のフレームレート」と「レンダリング時のスピード」という2つの観点から検証を実施。なお、本来は各モデルによってメモリの性能は異なるが、斎藤氏によれば今回の検証内容では16GBでも32GBでも「パフォーマンス的にはほぼ変わらなかった」ことから、「すべて32GBで検証した」と補足した。
▶検証データ1:モバイルゲーム向けアニメーションデータ
検証の解説では、まず斎藤氏が「アニメーション検証」について説明した。この検証では、Maya 2022のパラレルモードを使用。さらに、3つの検証用データでさまざまな条件を設定し、3台のPCそれぞれのフレームレートをチェックした。
1つ目の検証用データは、「モバイルゲーム向けアニメーションデータ」を想定して、StudioZが制作する2021年12月8日配信スマホゲーム『SHAMAN KING ふんばりクロニクル』に登場するキャラクター「道 蓮」の必殺技シーンデータを使用。リグはmGear(3.3.1)を使用し、動画は30fps設定でrealtime再生した。また、検証条件としては以下の4つを設定した。
1.CHモデル(tris約10,000)1体+BGモデル(tris約12,000)
2.CHモデル(tris約50,000)1体+BGモデル(tris約12,000)
3.CHモデル(tris約200,000)1体+BGモデル(tris約12,000)
4.CHモデル(tris約10,000)8体+BGモデル(tris約12,000)
※CHモデルはキャラクターモデル、BGモデルはバックグラウンドモデル、trisはポリゴン数を示す
斎藤氏によれば、1は「仕事で実際に使っているCHモデル」で、まずはこの条件のアニメーションでどのような結果が出るかを検証。さらに、2はコンシューマゲームを想定して「スムースを1回かけたポリゴン数50,000」の条件、3は「さらに重いコンシューマゲーム」を想定してポリゴン数200,000の条件での検証となる。また、4は軽いポリゴン数でキャラクター数を8体に増やし、「Mayaのパラレルモードを使い切る」ことを目指した、やや実験的な検証となる。
▶検証データ2:地上波アニメ作品向け アニメーションデータ
2つ目の検証用データは、「地上波放送用に作成したアニメーション」の観点から、サンリオのテレビアニメ『SHOW BY ROCK!!』に登場するキャラクター「シュウ☆ゾー」の登場シーンを使用。リグはGOONEYSRIG(RURU)を使用し、動画は24fps設定でrealtime再生した。また、検証条件として以下の2つを設定した。
1.CHモデル(tris約160,000)1体+BGモデル(tris約43,000)
2.CHモデル(tris約630,000)1体+BGモデル(tris約43,000)
▶スタンダードモデルA(AMD Ryzen 5搭載モデル)の実力検証
検証:スタンダードモデルA × モバイルゲーム向け CHモデル(tris約10,000) リアルタイムプレビュー
ここからは、3台のPCを使った実際の検証となる。
まずはRyzen 5 5600Xを搭載するスタンダードモデルAを使用し、1番の設定(1体10,000)のSHAMAN KINGの必殺技動画を再生してみると、フレームレートは30fpsで滑らかに表示。CPUの使用率は約60%、CPU温度は約60度となった。
この結果に対して、斎藤氏は「CPUの温度が90度までいってしまうとかなり厳しいという印象になるが、60度であればまだまだ余裕がある」と説明。この状態であれば、CPUの使用率が100%近くなっても「70度ぐらいでおさまるのではないか」と予想した。さらに、今回のモデルではAMDのCPUに標準で付属するCPUクーラーが使われていることから、「それでこれだけ温度が低く、しかもファンの音が静かというのは、かなり素晴らしい」と高評価だった。
検証:スタンダードモデルA × モバイルゲーム向け CHモデル(tris約50,000) リアルタイムプレビュー
次に、スタンダードモデルAで2番の設定(1体50,000)の必殺技動画を再生してみると、シーンが少し重くなったことからフレームレートはやや落ちて23~25fpsとなった。また、CPUの使用率は約75%にまで上昇し、CPU温度も約70度となった。
斎藤氏によれば、フレームレートの設定が30fpsの場合、20fps出ていれば「自分としてサクサク作業できる」とのこと。そのため、この結果であれば「このまま作業してもまったく問題ない」と満足度は十分だった。
検証:スタンダードモデルA × モバイルゲーム向け CHモデル(tris約200,000) リアルタイムプレビュー
さらに、スタンダードモデルAで3番の設定(1体200,000)の必殺技動画を再生してみると、フレームレートは8.4fpsまで一気に低下。斎藤氏も「さすがにこれでは厳しい」と正直な感想を漏らした。
ちなみに斎藤氏は、実際にここまで重いモデルになった場合、企業では基本的にワークフロー上でアニメーションモデルが用意され、「もう少し軽いデータを使うことになる」と補足。また、2番の設定では75%だったCPUの使用率が64%まで落ちている点にも着目し、斎藤氏はシーンづくりの観点から「単純にポリゴン数を増やしたこの設定だと、CPUの性能を使い切れていないのかもしれない」と分析した。
検証:スタンダードモデルA × TVアニメ向け CHモデル(tris約160,000) リアルタイムプレビュー
最後に、『SHOW BY ROCK!!』の1番の設定(1体160,000ポリゴン)の動画をスタンダードモデルAで再生してみると、フレームレートは18~19fpsとなった。ほぼ20fpsに近い結果となったことから、斎藤氏は「このマシンならSHOW BY ROCK!!のアニメーションは十分作れる」と評価した。
さらに斎藤氏は、CPUの使用率が約80%で安定動作している点にも注目。CPU温度が約75度だった点も含めて、「普通にこのままで、何の問題もなく使える。素直というか、使いやすいPCだと感じた」そうだ。
▶スタンダードモデルB(AMD Ryzen 7搭載モデル)の実力検証
検証:スタンダードモデルB × モバイルゲーム向け CHモデル(tris約50,000) リアルタイムプレビュー
次に、検証機をRyzen 7 5800X搭載のスタンダードモデルBに変更し、こちらでは最初から2番の設定(1体50,000ポリゴン)のSHAMAN KINGの必殺技動画を再生した。するとフレームレートは18.2~19fpsとなり、スタンダードモデルAを若干下回る結果となってしまった。
これについて斎藤氏は「同時に起動している別のソフトの影響で数値は変わることもある」と説明。また、事前の検証ではスタンダードモデルAと同程度、あるいはそれを上回るフレームレートも出たことから、このような結果も「ある意味でリアルだと思う」と付け加えた。
検証:スタンダードモデルB × モバイルゲーム向け CHモデル(tris約200,000) リアルタイムプレビュー
さらに、スタンダードモデルBで3番の設定(1体200,000)の必殺技動画を再生した場合では、こちらもスタンダードモデルAと同様に、フレームレートは7fps前後まで低下。さらに、CPU使用率は50%とかなり悪く、Ryzen 5を下回るパフォーマンスとなった。
ただし、注意深く観察すると「フレームレートのバラツキがあまりない」という点を斎藤氏は指摘。Ryzen5では1fps前後のバラツキがあったのに対して、Ryzen 7では0.3fps程度におさまっていることから、安定性の面を評価した。
検証:スタンダードモデルA × TVアニメ向け CHモデル(tris約160,000) リアルタイムプレビュー
一方で、1番の設定(1体160,000ポリゴン)の『SHOW BY ROCK!!』の動画をスタンダードモデルBで再生した場合は、フレームレートが20fps前後となり、スタンダードモデルAの数値を上回る結果となった。さらに、CPUの使用率や挙動も安定していた。
▶スタンダードモデルC(AMD Ryzen 9搭載モデル)の実力検証
検証:スタンダードモデルC × モバイルゲーム向け CHモデル(tris約50,000) リアルタイムプレビュー
最後の検証機は、Ryzen 9 5950Xを搭載したスタンダードモデルCとなる。こちらでも、最初から2番の設定(1体50,000ポリゴン)のSHAMAN KINGの必殺技動画を再生したところ、フレームレートは26~27fpsとなり、3つのPCの中ではもっとも高い数値となった。
ここで斎藤氏が注目したのは、Ryzen 9 5950Xの「コア数(=スレッド数)」である。Ryzen 9 5950Xは16コア32スレッドとなるのだが、この検証中のタスクマネージャーを見てみると、周波数は4.5GHzが高水準を維持してる一方で、激しく動いているスレッドはわずか4つしかないことがわかった。これはつまり、使っていないスレッドが多く残っていることを意味するため、斎藤氏は「まだまだ余裕がある証拠で、非常に良い」と解説した。
ちなみに、斎藤氏によれば「CPUは使用するコア数(=スレッド数)が増えると、周波数は逆に落ちている傾向にある」そうだ。そのため、コア数の多いCPUは「アニメーションに意外と不向きだったりすることが多い」と説明する。さらに、そのようなCPUの傾向を踏まえて、CGアニメーターは「1つのシーンにキャラクターが複数体いる場合は、あえて1体のみを表示して負荷を軽くし、アニメーションに動きを付けていく」ことがよくあるそうだ。後に説明する4番の設定(8体10,000ポリゴン)の検証結果を鑑みるとRyzen 9 5950Xはアニメーション向きな部分もあり、複数体のキャラクターを表示した作業では、余裕を持って作業できると想定される。
検証:スタンダードモデルC × モバイルゲーム向け CHモデル(tris約200,000) リアルタイムプレビュー
次に、スタンダードモデルCで3番の設定(1体200,000ポリゴン)の必殺技動画を再生してみると、フレームレートはスタンダードモデルAやBよりも高い8~9fpsに上がったものの、CPUの使用率はわずか27%前後にとどまる結果となった。
斎藤氏によれば、これはPC側の問題ではなく「Mayaの特性に原因がある」とのこと。パラレルモードはその特性上、複数体のキャラクターを並列処理することが目的となるため、「1体のキャラクターに対して高いスペックを発揮するのが苦手だという考察が、この検証結果から見えてくる」と説明した。
検証:スタンダードモデルC × TVアニメ向け CHモデル(tris約160,000) リアルタイムプレビュー
さらに、1番の設定(1体160,000ポリゴン)の『SHOW BY ROCK!!』の動画をスタンダードモデルCで再生したところ、フレームレートは24fps前後を記録。フレームレートの設定が24fpsとなることから、「もうリアルタイムに近い表示になっている」と斎藤氏も納得する結果となった。
AMD Ryzen 9 は並列処理ができるシーンでより真価を発揮する
アニメーション検証のまとめとして、斎藤氏はStudioGOONEYSで事前に実施した検証結果を示しながら解説した。
まず、1番の設定(1体10,000ポリゴン)のSHAMAN KINGの必殺技動画では、「どのPCでも30fpsのフレームレートが出る結果となった」とのこと。さらに、スムースを1回適用してポリゴン数を30,000に増やした状態のデータでも「すべてで基準値の20fpsを超えた」一方で、さらに重くしたポリゴン数100,000のデータでは「スタンダードモデルCで11 fps、Bで9.8 fps、Aで9 fps」となった。ポリゴン数100,000では、どのPCも20 fpsを大きく割り込む結果となったことは「とても重要なポイントなので参考にしてほしい」と斎藤氏は語った。
また、今回のセッションでは紹介しなかったが、CPUの使用率を100%に近づけることを目的に、4番の設定(8体1万ポリゴン)のSHAMAN KINGの必殺技動画を再生した検証結果も紹介した。この検証では、AMD Ryzen 9を搭載するスタンダードモデルCでは、CPU使用率が76%で、フレームレートは28.5fpsを出した。この結果から斎藤氏は、単純に重いシーンというよりも「並列処理ができるシーンで、AMD Ryzen 9はより効果を発揮する」と説明した。
『SHOW BY ROCK!!』の事前検証もSHAMAN KINGと同じような結果で、AMD Ryzen 9が少しだけ飛び抜けており。AMD Ryzen 7とAMD Ryzen 5がほぼ同じような数値となった。また、セッションの検証でも説明したように「AMD Ryzen 7は安定している」という点を斎藤氏は付け加えた。
これらに加えて、これもセッションでは取り上げなかったが、デモリールで人気のフリーリグを使ったアニメーションデータの検証でも、同様の結果となった。ここでポイントとなるのは、1番の設定ではどれも20fpsを超えているのに対して、2番の設定では「どれも20fpsを大きく割り込んいる」ということ。重い設定にしてしまうと、さすがのRyzen 9でも「そこまで割り込んでしまう」ことを斎藤氏は指摘した。
▶各モデル レンダリング検証
最後に、池田氏がRyzen 9 5950Xを搭載したスタンダードモデルCを使用し、SHAMAN KINGの必殺技動画でのレンダリングの検証について説明した。
池田氏がまずポイントに挙げたのは「CPUの稼働状態」である。タスクマネージャーでCPUの状態を確認した際に、アニメーションの検証では各スレッドでバラツキがあったが、レンダリングでは「基本的にすべてのスレッドが100%で稼働していることが、大きな特徴としてわかる」と指摘した。
また、事前に検証した結果を見てみると、レンダリング時間はRyzen 9 5950Xを搭載するスタンダードモデルCが突出しており、48フレームでRyzen 9は「29分」、Ryzen 7は「49分」、Ryzen 5は「1時間26分」という結果になった。CPUのパワーでこれだけ差が出たことから、池田氏は「とくにコンポジターにとって、この差はかなり大きいものになる」と語った。
そのほか、池田氏はレンダリング中のCPUの温度変化について、「すべてのCPUで、稼働状況に応じて一定かつ安定的に推移している」いう点にも注目。この点については「PC内部の冷却性能が良かったからではないか」と推測した。
斎藤氏も、「CPUは熱が上がりすぎると使用率や周波数が落ちることがある」という点に触れ、そうなったしまうと「CPUはそのスペックを存分に発揮できなくなる」と補足。レンダリングの場合は、処理時間が長くなるほど熱の影響を受けやすくなることから、その点を踏まえると「冷却性に優れたAMD製のCPU はレンダーマシンとしても優秀だ」と結論付けた。
StudioGOONEYSが選ぶならこのモデル!
最後のまとめとして斎藤氏は、スタンダードモデルAを「コスパが最強でプロでも通用すると評価し、「Mayaでのアニメーションとの相性がとても良かった」と総括した。スタンダードモデルBは、今回の検証では少し数値が下がった瞬間もあったが、事前の検証では「スタンダードモデルAよりも少し良い結果も出ていた」ことから、「安定した挙動で1歩リードするならコレ」と評価し、「弊社ではこれでそろえたい」と笑みを浮かべた。スタンダードモデルCは、とても高性能で「複数体アニメーションからレンダリングまでに対応できる」という点を高く評価し、「自分のPCはこれにしたい!」と冗談ながらに語った。
なお、今回は事前に「GPUの使用率などの検証」も実際には行っていたそうだが、「アニメーションはCPUに依存する割り合いが大きい」ことから、今回はCPUにフォーカスしたことを説明した。また、今回のアニメーションではView port 2.0を、レンダリングではArnordを使ったことなども補足してセッションを終えた。
TEXT_近藤寿成(スプール)
EDIT_池田大樹(CGWORLD)