2021年11月8日(月)から12日(金)にかけて、「CGWORLDクリエイティブカンファレンス」が開催された。セッション「映像制作における演出家の役割と新しいワークフロー ~ショートアニメを題材に、制作手法を実演公開~」には、株式会社ORENDAよりアニメ演出家の永居慎平監督が登壇した。ショートアニメの全カット解説や絵コンテのライブドローイングを行い、作品に込めた意図や演出家に必要なスキルを伝授した。

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    全9カットに注ぎ込んだ演出テクニック

    セッションの冒頭では、永居監督がORENDAの教材用に制作した『ショートアニメ信長』が上映された。織田信長が明智光秀に襲撃された本能寺の変を題材にした45秒ほどの映像で、その全9カットの演出意図を丁寧に説明していった。

    • CUT1 火の粉や倒れる柱

    まずは導入の考え方について、永居監督は「状況説明が大切」であるとしつつ、ただし全ての情報を一気に出すのではなく、ひと目見ただけでは理解できないものを入れて、映像に“引き”を作るという演出が重要になると語った。『ショートアニメ信長』のCUT1は黒からのフェードインで暗い空間を見せるところから始まり、続いて火の粉が上がり、倒れる柱が映るなど、順を追って少しずつ情報を与えることで視聴者の興味を惹くという意図を込めた。

    CUT2では燃えさかる本能寺と、それを取り囲む光秀の軍勢を映した。これはベーシックな状況説明のカットだが、永居監督は「まずは全体を見せて、何が起きているのかを、できるだけ少ないカット数で見せていくのが大事だと思っている」と語る。兵たちが光秀軍であることは幟旗の明智家の家紋以外からはわからないが、『信長』というタイトルや燃えさかる建物が本能寺の変のヒントになるため必要以上の説明は入れず、何を見せるべきかという情報の取捨選択を巧みにコントロールした。

    導入は余裕をもって見せるスローなつくりとなったが、それは本作のコンセプトゆえだ。本作では信長と光秀が恋愛関係の延長上にあるというテーマを定めたため、全体を通じて悲劇性を帯びた見せ方になった。もし光秀が信長を憎む復讐劇であればCUT1で合戦の状況を映してCUT2で切り合うというカット割りもできたが、今回は事実を淡々と映して痛ましさを伝える演出が最適だったのである。

    その方針は画面の色調にも表れており、本作では全体的に暗く重みのある色合いを選択した。一般的なアニメではせっかく描いた絵を暗い画面に落とし込んでしまうのは労力に見合わないため避けられがちだが、『ショートアニメ信長』は実験的な側面もあるタイトルのため挑戦し、あえて見せないことで臨場感を出した。また映像制作がハイビジョンから4Kに移行しているという状況下も踏まえて、より広い明るさの幅を表現できるHDRを活かすため、燃える炎と夜の暗さのコントラストを出したいというねらいもあったそうだ。

    CUT3で光秀軍を俯瞰で映し、CUT4で光秀の顔のアップになる。見下ろすという構図を選択したのは、誰かが光秀を見ている、思いを馳せているという主観映像のように感じてほしかったためだ。画面が揺れる手ブレ効果も加えて実在感を出している。

    CUT4では光秀の正面に燃える本能寺があるのにも関わらず、顔には横から影が落ちており、正しい光源の位置は無視されている。その理由について永居監督は、重苦しい雰囲気を出すためには顔の半分が隠れている画が必要だったからだと回答した。そういったアニメ的な嘘は随所に盛り込まれており、例えば光秀が現代風の下ろした髪型になっているのもそのひとつだ。視聴者にとって見慣れたアニメらしさを加味することで、違和感なく物語に入り込めるようにした。

    CUT4の終わりに光秀が顔を上げると、CUT5で月の浮かんだ空が映る。月は中心より上に配置しており、光秀と同じように視聴者の目線も自然と上を向くように演出している。

    CUT6では信長が登場する。日本のアニメでは、画面右の上手には王者などの強い者を、画面左の下手には挑戦者などの弱い者を配置するのが原則だと言われている。信長は基本的には強者として描かれる人物ではあるが、本作の信長は決してそうではないことを示唆させるために下手へ配置した。

    CUT7で部下と会話をするときも信長は高圧的な態度を見せず、状況を静かに聞いているように描いている。永居監督はキャラクターを配置する構図について、上手・下手は演出家によってルールが異なっており、今回の方法が必ずしも正しい訳ではないが、作品に統一感をもたせるという意味でも自分の中でルールを定めて置いた方がいいとアドバイスした。

    CUT8は信長の有名なセリフ「是非もなし」を発するカットで、愛する光秀と戦わなければならない運命を受け入れているような潔さを出すことを目指した。そしてラストのCUT9で仏間に向かう信長の背中を映して作品は幕を閉じる。9カットで45秒という短い映像にも、数多くのテクニックが詰め込まれていることがわかるセッションとなった。

    絵コンテがどう描かれているのかを実演!

    後半は永居監督が絵コンテのライブドローイングを披露した。『アニメ演出のちょっとキッツイ日常生活』という自らの経験談を基にしたシナリオをコンテに起こしていった。

    永居監督による絵コンテのライブドローイング。シナリオからどこでカットを割るのかを判断する。ちなみに永居監督はTVアニメのAパートの絵コンテを最速2日で仕上げた経験があるとのこと

    視聴者から「シナリオによってカット数の制限はありますか?」という質問が飛んだ。永居監督は「TVアニメの場合は300カット以下、可能なら250カットにすることを目指している」と回答したが、これは師匠である佐藤英一監督から、TVアニメをつくる上では無尽蔵に人材リソースや予算を使うことはできるかぎりやめるという教えを受けたからだという。

    また、TVアニメの各話絵コンテを担当する場合は監督ときちんと打ち合わせをして、どういうプランで描けばいいのかを必ず聞くようにしているという。「原作のコマを上手く使ってほしい」、「イマジナリーラインをきちんと守ること」、もしくは「好きにやっていい」といったように、作品ごとに異なるオーダーに応じて、絵コンテの内容も変わっていくのだ。

    左・永居慎平監督

    セッションの終盤ではORENDAにおける新たなワークフローが紹介された。絵コンテをムービーコンテに切り替え、3Dモデルやモーションキャプチャ、実写素材、背景アセットを柔軟に取り入れてコンテ作成に利用し、スムーズな制作体制を整えていることなどを解説した。さらにORENDAが取り組むオンライン受講型システム・レベルブーストの告知も行い、志望者の参加を募った。

    シナリオが進行した時点で各工程を並行作業で進めていく。3Dモデルやアセットはコンテだけでなくレイアウトの参考にも使われる

    質疑応答コーナーの「どうすれば監督や演出家になれるのか?」という問いに対して永居監督は、制作を7年、アニメーターを10年経験してから演出家に転向した自らの経歴を振り返った。演出家になるためにはアニメの全工程を知るべきだという考えゆえに同期に比べると遠回りをしたが、それらの経験が役立っていることが多いと語った。そして「仕事はいくらでもあるから焦らないでください」と未来のクリエイターに向けてエールを送った。

    TEXT_遠藤大礎 / Hiroki Endo
    EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamda