フロム・ソフトウェアのアクションRPG最新作『ELDEN RING』。CGWORLD vol.286(2022年6月号)では、52ページにわたるメイキング特集を実施。『DARK SOULS』シリーズで培ってきたダークファンタジーの伝統を受け継ぎつつ、緻密なグラフィックと広大なオープンフィールドの採用でまったく新しいゲーム体験を生み出した、その開発の裏側を紐解いている。本特集から、自由度の高いオープンなフィールドと、緻密につくり込まれたレガシーダンジョンの2つの要素から構成される作品の舞台「狭間の地」のメイキングを一部紹介する。
関連記事:「狭間の地」での実在感を追求したキャラクター制作〜フロム・ソフトウェア『ELDEN RING』メイキング(1)
※本記事はCGWORLD286号(2022年6月号)の記事を一部再編集したものです
●Information
発売・開発:フロム・ソフトウェア
リリース:発売中
価格:通常版 9,240円、 デジタルデラックスエディション 9,900円
対応ハード:PS5、Xbox Series X/S、 PS4、Xbox One、PC(Steam)
ジャンル:アクションRPG
www.eldenring.jp
緊張と緩和が入り交じる絶妙なバランスのエリア設計
本作は、フロム・ソフトウェア開発タイトルでは初めて、オープンワールドを採用。冒険の舞台となるフィールドは思うがまま自由に散策し、大小様々な目標物に立ち寄って攻略を進めていくことでゲームが進捗するというスタイルである。
一方、大規模ダンジョン「レガシーダンジョン」は、限定された空間の中でバリエーション豊かなゲーム体験を提供することがコンセプト。往年のフロムタイトルらしい、危険なトラップや強大なボスなど、骨太で濃密な探索とバトルを体験できる。オープンなフィールドとレガシーダンジョンで異なるコンセプトを掲げている点は、本作の大きな特徴と言える。
エンバイロンメントはコンセプトアートを起点に制作がスタート。まずは各エリアやダンジョンのイメージが提示され、ディレクターを含む各メンバーによる会議を通じて、アセットの変更提案やディレクターからのフィードバックが毎週実施された。このプロセスはかなりの長期間くり返され、本作のフィールドエリアやダンジョンは何度もブラッシュアップされた。
フィールドの制作はリードエンバイロンメントアーティスト・芝 望氏の統括するチーム5名で担当。フィールドは大きく5つのエリアに分かれているが、それらを同時に進めるのではなく、エリアごとに集中してある程度まで仕上げていった。より大人数での同時並行作業も考えられたが、エリアコンセプトの分散につながる恐れから今回それは効果的ではないと判断。
「私の方でエリアのコンセプトをまとめて、量産できるかたちにした上で作業メンバーへ渡していきました。6~7割のいわゆるアルファ段階まではチームをばらけさせずに進めています」(芝氏)。一方のレガシーダンジョンは、エンバイロンメントアートディレクター佐藤秀憲氏が統括して進めた。エンバイロンメント全体としては、過去作ではモノトーンのイメージが強いところ、本作ではバリエーション豊かなカラーコンセプトが設けられている点も特徴的である。
Concept[コンセプト]
広大なフィールド
フィールドエリアでは、プレイヤーは望むがまま、自由に行動できる。大きく5つに分けられたフィールドは、それぞれ遠方から見えるランドマークや主調色、植生などが異なり、広大な世界であることを感じられる。
緻密に造られたレガシーダンジョン
自由に行動できるフィールドとは異なり、限定された空間内でバリエーション豊かなゲーム体験を提供するのが「レガシーダンジョン」のコンセプト。ユーザーが探索に没頭できるつくりを心がけ、部屋や通路を移動するごとに印象が変化する構造となっている。
例えば「ストームヴィル城」では、正門【A】に始まり神授塔へのエレベーター【B】や広間の内観【C】、後述する屋上のルート【D】、地下【E】で、かなり印象が異なる。広大かつ複雑なダンジョンの探索を進めるプレイヤーは、次々と異なる印象を与えられることで緊張感が持続し、ゲーム体験が向上する。企画側のみならずテストプレイを重ねたグラフィック制作側からも内発的な提案が行われており、各案は入念に検討された後に組み込まれ、密度の高い“フロム的体験”の一部となっている。
Workflow[ワークフロー]
オープンフィールドの制作工程
フィールドはエリアごとに企画担当が立ち、各エリアの地図を持ち寄って大きな模造紙に「白地図」を作成。続いて行動の目標となるオブジェクトを効果的に配置した。「大目標は黄金樹、神授塔やレガシーダンジョンといったランドマーク。中目標は教会や砦で、歩いていて『何かあるぞ』と意識を向けてもらいます。そして中目標に向かう途中、半径100m程度で見える小目標として野営地や敵の屯所などを配しました」(芝氏)。
レガシーダンジョンの制作工程
現場に委ねられた部分が大きかったフィールド制作とは異なり、レガシーダンジョンは企画班が緻密につくり込んだ「設計マップ」をベースに制作。設計マップはゲームデザイン部分を詰めたもので、1マップにつき3~5ヶ月程度かけ、「ほぼゲームとして仕上がっている」精度まで高めてある。設計マップ開発と並行して、コンセプトアーティストによる主要区画やビューポイントのデザインが進められ、両者をマップ班が受領してビジュアルクオリティアップに着手する。
初期と完成版の変遷
「魔術学院レアルカリア」については、開発初期は低彩度で曇り空のルックであったが、より印象的にするため、大幅な変更を加えている。色はシアンを主調とし、エフェクトや雨、夜の星空などの演出を施した。
背景スタッフの提案により追加されたサブルート
グラフィックのクオリティアップ過程でテストプレイをくり返していると、企画・マップ両サイドから「もっとこうしたい」といった要望がいくつも寄せられた。それらはミーティングなどを経て、設計マップでつくり込まれたゲーム性を損ねない範囲でサブルートなどのかたちで実装されている。
ストームヴィル城の場合、クオリティアップの過程で印象的な塔が増えていき、「せっかくジャンプができる作品なので別の塔へ飛び移って冒険したい」と提案した【A】ほか、正門付近のエリア上部に構造を追加【B】。レアルカリアでは建物の壁面を伝って進むルート【C】、水車エリアの底にジャンプで登っていける小さい区画【D】など、細かな追加を行なっている。
ビューポイント
同社過去作にもあった、見晴らしの良さや決め画を楽しめる「ビューポイント」が本作にも盛り込まれている。ビューポイントには、エンバイロンメント制作の大きなながれ上、コンセプトアートで描かれた景色を立体化した場所がまず選定されることが多い。「レガシーダンジョン で は、『SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE』(2019)と同様の発想・思想で、ゲームプレイのテンポを考えながら企画と擦り合わせて、ここをビューポイントとしてつくりましょうと明確化しています。コンセプトアートにない場所で、設計マップの段階で『ここはビューポイントにしよう』と想定されているケースもあります。また、われわれ背景側が受け取った後で『ここをビューポイントにしたい』とアレンジすることもあります」(佐藤氏)。
配置や色の工夫
リムグレイブの樹木の色は、2021年10月半ばに行われたネットワークテスト版では地面の草と同系統の緑色【A】だったが、その後黄色に寄った配色に変更された【B】。「リムグレイブはコンセプトアートに沿って緑色を基調としましたが、ネットワークテストのときに、『より印象的にするために、木の色を変更するのはどうか』というディレクターのアイデアを拾って調整しました 」(芝氏)。コンセプトから変更した部分は、こうしたアイデアを拾って掘り下げた結果が多いという。また、ゲームデザインの観点から、プレイヤーが取得できる素材は異物感のある配色を意識し、暗闇での視認性を上げるためにシェーダで薄く光らせている【C】。その上でアセットの描画距離は短めに調整し、遠方まで描画されて情報過多にならないよう調整した。「昼と夜での存在感の調整が意外にも高難易度でした」と芝氏はふり返る。
CGWORLD vol.286(2022年6月号)
特集:『ELDEN RING』
定価:1,540円(税込)
判型:A4ワイド
総ページ数:112
発売日:2022年5月10日
TEXT _岸本ひろゆき、インタビュー協力_榊原 寛
EDIT_小村仁美(CGWORLD) / Hitomi Komura、山田桃子 / Momoko Yamada