前作『天気の子』から3年を経て公開となった新海 誠監督の最新作『すずめの戸締まり』。
『君の名は。』『天気の子』でも活用されたCGレイアウトをはじめとして、本作でも3DCGは大きな役割を果たしている。 CG監督を務めた竹内良貴氏にその取り組みを聞いた。
※本記事は、CGWORLD vol.294(2023年2月号)掲載の記事の一部を再構成したものです
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・「新海監督作品に携わると、世界の見え方が変わる」映画『すずめの戸締まり』監督の緻密な画面設計を支える撮影工程
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Information
大ヒット上映中
原作・脚本・監督:新海誠/キャラクターデザイン:田中将賀/作画監督:土屋堅一/美術監督:丹治 匠/制作プロデュース:STORY inc./制作:コミックス・ウェーブ・フィルム/配給:東宝
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©2022「すずめの戸締まり」製作委員会
“つくりながら考える”スタイルで外部パートナーと共にやりきる
コミックス・ウェーブ・フィルム(以降、CWF)のCG班は、CGレイアウトやカメラマップ、UNENDが担当した椅子やミミズなどを除いたアセットなどを手がけた。
本作は過去の新海作品と比較しても3DCGの使用率が高いが、社内のCG班は開始当初2人だけで、最終的にも5人ほどと小規模。外部の協力会社の支えによって見ごたえのあるCG表現が実現している。
制作フローについては前作から大きな変化はないものの、会社間のやり取りが増えたため、竹内良貴氏がCG監督に立ち、各社間の連携をとった。
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外注先はスピードやLDH DIGITAL(旧クラフタースタジオ)など、前作にも参加したスタジオが目立つ。
「新海監督の場合、最初から決め込まずにつくりながら考えていくというスタイル。物量や時期などを前もって伝えておくのが難しいんです。そのため、様々な内容を少しずつお願いできる会社に依頼しました」(竹内氏)。
コロナ禍での制作ということもあり、協力会社との打ち合わせはほぼオンラインだったが、新海監督のやり方に対応できるスタジオが揃っており、各社とのやり取りは円滑に進んだ。
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CG班が本格的に動き出したのは2021年春。絵コンテなどのプリプロがある程度固まり、作画打ち合わせに向けてCGレイアウトの準備からスタートした。最終的に準備したCGレイアウトは、本編の半分を超える1,000カット以上となった。
それに並行してアセットなどの作業にも取りかかり、最終的にCG班が全工程を終えたのは、公開の約1ヶ月前となる10月中旬。竹内氏は本編冒頭などの重要カットも担当していたため、新海監督と共に、直前までクオリティを突き詰めていった。
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本作は新海作品では初となる、シネマスコープサイズのアスペクト比を採用した作品である。
解像度は2Kで2,048×858。フルHDの1,920×1,080より上下が切れるため、データが重くなるという問題はなかった。ただし、上映フォーマットの規格から2.39:1のフレームサイズに統一する作業には苦労した。作画や美術背景などの各セクション、協力会社によってサイズが微妙に異なることがあったためだ。
「CGは全てのフレームサイズが行き来する部署でした。混在したフレームを正しいものに変換する作業が大変でしたね」(竹内氏)。
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主な使用ツールは3ds Max、After Effects、Photoshopで、草の揺れなどのエフェクト周りにはHoudiniを用いた。
また、美術スタッフとのレイアウトモデルのデータの受け渡しなどにはBlenderを使用。3ds MaxでつくったデータはAlembicとFBXで書き出し、美術背景を描く際の参考資料用として渡すなど、補助的にCGを活用する場面もあったという。
CGレイアウトが組み込まれたカット制作フロー
絵コンテから美術設定を経てレイアウトモデルを作成し、人物を配置してカットをチェックする。作成したレイアウトモデルは約20シーン。
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御茶ノ水駅周辺は新海監督から「レイアウトモデルを使いながら絵コンテを描きたい」というリクエストがあった。実在する場所であることから、ロケハンの写真を参考にして、現実的な空間になるように気をつけた。
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セクション横断で力を合わせた観覧車シーン
アセットの中で最も大変だったのが廃遊園地の観覧車。質感はテクスチャではなく、美術スタッフが全カット個別に素材を描き、カメラマップで貼り付けて表現した。
「普通の場所ならCGでつくってレンダリングすれば良いのですが、廃墟感を出すために汚しなどをつくり込むのは大変です。さらに寄りと引きの画がとても多くて、両方に耐えられるテクスチャを貼るのは不可能でした。それが美術にお願いした理由です」(竹内氏)。
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運転手付きの乗り物アセット
クルマのアセットは過去作で作成したモデルなどをアップデートして活用しつつ、新たに必要となったトラックやダンプカーなどの工事車両を中心に追加。
本作では新たな試みとして、「クルマの窓ガラスを透かせる」というオーダーに挑んだ。『天気の子』までは、クルマの窓ガラスは全て反射させており、車内の様子は見えないようになっていたという。本作では一歩進んで3DCGのモブを運転手として配置しており、よりリアリティのある画面に仕上がっている。
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群れをなす鳥たち
大量に飛び交うウミネコやカラスといった鳥の群れも3DCGによる。「鳥はLDH DIGITALさんが全て制作しています。あちらの社内には鳥を主に手がける方がいて、その方がほとんどを担当したと聞いています」(竹内氏)。
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ウミネコのシーンファイル。1羽ごとにモーションパスで飛行軌道が示されている -
カラスはミミズと並走して飛ぶため、モーションパスは直線的に。「ミミズの位置がわからないと鳥を飛ばせないので、全ての素材が揃う後半に作業しました」(竹内氏)。カラスの場合は寄りと引きで異なるアセットを使い分けている
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ウミネコの完成カット。カットの途中でカメラに大きく映り込む1羽だけは作画による。CGガイドを参考にアニメーターが描いた -
カラスの完成カット。画面手前を飛ぶ2羽は作画だが、他のCGによるカラスとほとんど見分けがつかない
Houdiniによる「戸締まり」のエフェクト
本作の重要シーンである戸締まりをはじめ、エフェクトはCG班の中嶋祐子氏がHoudiniで制作している。
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夜の海面は3ds Maxで生成
本作で必要となった海のCGは夜のシーンに登場するもので、色とタイミングが作業のメインになったため、 フリープラグインの「Houdini Ocean Toolkit for 3ds Max」を使い、3ds Maxで生成することにした。波のうねりなどの塗り分けは、プロシージャルテクスチャを撮影用素材として複数用意してつくり上げている。
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続きはぜひ本誌でお楽しみください。
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CGWORLD vol.294(2023年2月号)
特集:映画『すずめの戸締まり』
判型:A4ワイド
総ページ数:112
発売日:2023年1月10日
価格:1,540 円(税込)
TEXT_遠藤大礎 / Hiroki Endo
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)