エピック ゲームズ ジャパンが主催するUnreal Engine(以下、UE)の公式イベント「UNREAL FEST 2023 TOKYO」が、6月2日(金)・3日(土)の2日間にわたってベルサール秋葉原(東京・秋葉原)で開催された。

初日は開発規模や分野を問わない内容のUnreal Showcases、2日目はUNREAL FEST初となる、インディーゲーム開発者にスポットを当てたIndie Focusという構成だった。本記事では、2日目にスペシャルトークステージ(STAGE A)で行われた座談会「UEインディーゲームクリエイター座談会 アート編 2023」の模様をレポートする。

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    イベント概要

    UNREAL FEST 2023 TOKYO

    日時:6月2日(金)~3日(土)
    場所:ベルサール秋葉原
    unrealengine.jp/unrealfest/2023

    立場も経験も異なる、4名のUEインディーゲームクリエイター

    座談会のメンバー4名。UEを使ったインディーゲームを開発しており、中でも特徴的なグラフィック・画づくりを実現しているクリエイターたちが集まった。しかし4名は経歴も、ゲーム開発経験も、制作への取り組み方も、全員がバラバラだという。本座談会は、そんな四人四色のメンバーたちに様々な質問を投げかけてみるという趣旨のセッションだ。

    アラ氏

    『誰も死なないミステリーADVゲーム DETECTIVE NEKKO』(以下、『DETECTIVE NEKKO』)開発者
    本業はゲームメーカーに勤務し、UIデザインとモデリングを担当している兼業クリエイター。
    Twitter:@Ara_Ara00000

    化け猫00氏

    探索アドベンチャー『路地裏漂流記』開発者
    フリーターをしながら、個人でゲームを開発中。
    Twitter:@nemuina__zzZ

    久井 亨氏

    『浮世/Ukiyo』ブループリント、レベルデザイン、技術担当シーノットスタジオ 代表
    ゲーム会社のソフトウェアエンジニア、テクニカルサポートエンジニア出身。
    Twitter:@torus

    halking氏

    『浮世/Ukiyo』アートディレクターFREAKY DESIGN Inc. 代表
    主にCI・パッケージ開発・店舗デザインといったブランディングや、ボードゲームのアートディレクションを担当するデザイン会社を経営している。

    Q.大好きなゲーム、または最近プレイして良かったゲームは?

    アラ:自分のアートワークに影響を与えたゲームとして取り上げたいのは、『ナイト・イン・ザ・ウッズ』(2017)『Return of the Obra Dinn』(2018)『ザ フレイム イン ザ フラッド』(2016)『スキタイのムスメ:音響的冒剣劇』(2014)の4作品です。

    集めてみると、全体的に不穏な雰囲気が漂っているという共通点がありますね。キャラクターデザインも、パーツの誇張などが、自分のアートワークに影響を与えてくれています。アート面でもシステム面でも大好きな作品です

    化け猫00最近プレイしているゲームは『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』(2023)だけなので、私が一番影響を受けたゲームでお話しすると、『クーロンズ・ゲート -九龍風水傳-』(1997)です。あと『moon』(1997)からも、ゲームのシステム面で影響を受けていると思います。

    私は昔のゲームが好きで、ローポリスタイルなど、ゲームのグラフィックや雰囲気を重視してプレイしています。いいなと思ったらすぐに手に入れて遊ぶことが多いです。『ゼルダの伝説 時のオカリナ』(1998)や、『ゼルダの伝説 風のタクト』(2002)も、グラフィックの参考にするために購入しました

    久井:大好きなゲームは『逆転裁判』(2001)で、僕の中のアドベンチャーゲームの原点になっています。最近プレイしたゲームの中では、『Röki』(2020)という3Dアドベンチャーゲームが好きです。北欧神話を題材にした、心温まるゲームでした。ほかには『Sable』(2021)という、砂漠の中を旅しながら自分探しをするというアドベンチャーゲームも良かったです。

    Q.なぜその作風をつくろうと思った?

    halking:『浮世/Ukiyo』は、かなり変化して今の状態にたどり着いたという感じです。現在ではサイバーパンク的な雰囲気になっていますが、初めはもっと和のイメージでつくるつもりでした。

    一般的なサイバーパンク作品というと、冷たいグラフィックのものが多いのですが、うちの個性は画力なので、その画力を活かして、サイバーパンクの世界に暖かさというか、ダサさや汚さを足したいと思いました。キャラクターの可愛さもあるので、かっこよさというよりは、暖かさを大事にしながらつくっています

    化け猫00:私はもともとイラストを描いていて、ずっとそれをゲームにしたいと考えていました。当初はフリーゲームのようなドット絵のゲームを想定していたんですが、PlayStationの3DCGゲームを見ているうちに、3DCGの路地裏を歩くときに周りを見渡せたりして、より世界観に浸れると思ったので、ローポリスタイルの3Dゲームで制作することにしたんです。

    元のイラストには和紙のテクスチャを貼っているんですが、それをゲームでも貼り付けたり、カラーも絵に合わせて暖色を多めに使ったりして、自分のイラストをゲームにするという感覚で制作しています。

    ▲化け猫00氏が描いたイラスト

    化け猫00:こちら(下記画像)は開発を始める前に、「ゲームにするなら行ける場所を増やさないといけない」と思い、マップを構想していたときのメモです。雰囲気の異なる12の地区をつくりたかったので、それを意識して各地区のイラストを描きました。キャラクターやゲームのUIのメモもたくさん描いておき、そのメモを基にモデリングをしています。

    ▲化け猫00氏による『路地裏漂流記』の構想メモ(1)。12の地区をつくることを想定し、各地区の特徴などをイラストとメモでまとめている
    ▲化け猫00氏による『路地裏漂流記』の構想メモ(2)。右下のイラストは主人公をポリゴンにしたときのイメージを、参考用のローポリモデルを見ながら描いたものだ。左上には部屋、右上にはUIを考えていたときのメモがある

    アラ:私は「ゲームをつくろう」というモチベーションから始めたわけではなかったんです。「自分のキャラクターモデルを動かしたい」、「仕事でつくっているゲームのUIを自主制作でもつくってみたい」という、勉強や実験として制作し始めましたその結果、今のシステムとアートスタイルに落ち着いた感じです。

    Q.今のアートスタイルにたどり着くために、どんなことをしてきた?

    アラ:私は兼業でゲームを開発しているので、あまり時間を割けません。キャラクターモデルの制作経験もそれほどないという制約の中で、どうやって特徴のあるキャラクターをつくるか、というお話ができればと思います。

    こちらの画像をみてください(下記)。左の大きい画像が、キャラクターの素体です。現在『DETECTIVE NEKKO』には主に3人のキャラクターが登場していますが、全員この素体をベースにしてつくっています。

    素体が同じなので、シルエットで3人の差別化を図りました。よりシルエットを変化させられるように、耳が付いている犬や猫のような獣のキャラクターになったという経緯があります。色も青、黄、赤の3色を使って、わかりやすく分けようとしました。

    ▲『DETECTIVE NEKKO』のキャラクターモデルの素体(左)とキャラクターのシルエット(右)

    アラ:素体のモデルは目を大きめにつくっています。目が大きいと、キャラクターを縮小してもあまり目の印象が変わらないんです。また、目を細めたりしたときに表情がかなり変わるので、キャラクターの個性が出やすいかなと考えました。

    耳の形と色、そして目の開き具合を調整した結果がこちらの画像(下記)の右にいる3人です。

    ▲(左上)縮小表示したキャラクターとの比較。大きい目によって、縮小した場合にも目の印象があまり変化しないというメリットがあった/(左下)目の開き方による表情の比較/(右)耳の形、色、目の開き具合を調整したキャラクター

    halking:今のアートスタイルにたどり着くまでには、まずAdobe Illustratorでイラストを描き、またPhotoshopで重ねて描くというのを、久井さんに相談しながらやってきました。

    難しいのは光の表現や、2Dでは描けないエフェクトなどで、厚みのある世界観をつくるという部分で試行錯誤しています。サイバーパンクの暗さや色味を大事にしているので、システムエンジニアの方に相談しながら進めています。

    化け猫00:私は自分で実際に歩きながら、路地裏を写真を撮っているんです。地形の勉強とまではいきませんが、地形のあるある的なものを探して、よく見かける路地裏をゲーム内でも再現したいと思っています。

    それから、現実の街は白色を使っているところが多いんですが、ゲームでは暖かい色味にするために、赤っぽいというか、茶色系の色を使うようにしています。キャラクターをデザインするときは、まだゲーム内では表現できていないんですが、キャラクターの家族構成や性格、誕生日をメモしたり、そのキャラクターが好きそうな服のコーディネートを考えたりして、細かく設定をつくります。

    Q.ゲームエンジンにUEを選んだ理由は?

    アラ:数年前に仕事でUEに触ったことがきっかけでした。私はUIデザイナーなので、当時UIをつくるという部分では技術を習得しましたが、それだけでは少し物足りなく感じたんです。もっと勉強すれば個人でもゲームがつくれるようになるし、結果的に仕事にも活かせると考えて、UEを使い始めました。

    化け猫00:私はゲームをつくろうと思ったときに、ゲームエンジンに関する知識がまったくなかったんですが、Twitterで私が目指している作風に近い作家さんを見つけたんです。

    『水瓶上のフェルマータ』というゲームをつくっている休符(@kyu_fu)さんという方で、休符さんの過去ツイートを検索したところ、UE4を使っていると知って興味をちました。実際にUE4を使ってみたら、チュートリアルが豊富で、ノードもわかりやすかったので、そのまま使い続けています。

    久井:仕事でいろんな3Dと2Dのゲームエンジンに触れる機会があったのですが、ネイティブのC++でプラグインをつくれることも含めて、UEはエンジンのソースコードが使えるので、万が一壊れても自分で直せるという安心感があります

    あとは、PCやモバイルだけではなく、Nintendo SwitchやPlayStation 4/5、Xbox Series X|Sといったコンシューマゲーム機もサポートしていて、対応プラットフォームが充実しているという点でUEを選びました。

    Q.今のアートスタイルをUE上で実現するための工夫

    久井:こちら(下記)はエディタ上の画面で、背景の絵を斜めから見たものです。『浮世/Ukiyo』の背景は2Dで描かれているんですが、それをFREAKY DESIGNさんにパーツごとに分けてもらい、Spineという2Dアニメーション用のツールを使ってそれぞれに動きを付けて配置しています。見た目は2Dなんですが、内部的には3Dになっているんです。

    『浮世/Ukiyo』の背景を斜めから見たエディタ画面。2Dの背景をパーツごとに分け、動きを付けたものを配置している

    久井:別に幾何学の話をしようとしているわけではなくて(笑)、こちら(下記)はキャラクターの移動に伴って画面を右方向にスクロールしたときに、元の2Dの絵が歪んだりズレたりしないよう、カメラを固定していることを表している図です。

    カメラを固定して向きを変えると、今度はカメラの画角も狭めたり広げたりしなければいけません。その際、いかにして3Dで、2Dの絵が横にスライドしているように見える画面を再現するのか、というのを考えて試行錯誤した結果、こういう数式が出来上がりました。

    ▲画面が右方向にスクロールしたときに、2Dの絵が横にスライドしているだけのように見える画を3Dで再現するため、固定したカメラの画角を計算した

    アラ:質問の趣旨からは少しズレますが、ゲームでアートを実現していくためにというところで、私はPureRefという、リファレンスを集めるビューソフトをよく使っていました。

    キャラクターデザインをはじめ、カラースクリプトの参考になりそうな画像や、簡単なレベルデザインに役立つフィールドの参考画像とかの資料をたくさん貼り付けて、常に見えるところに置いておいたんです。そうすることで、世界観がブレないようにしていました。

    化け猫00:私はポストプロセスに頼り切っていて、適用しているかどうかで色味がまったくちがったりします。特にお世話になっているのが、UE4用のRetro Shader Pack by DaveFaceという、レトロな雰囲気が出せる無料のポストプロセスです。ローポリ特有のジャギジャギ感がどうしても上手く出せなかったので、すごく助けられました。

    あと苦労した点は、UIをこのゲームの雰囲気に合わせることです。どのフィルタをどうかけるのか、そもそもフィルタをかけられるのかどうかすらわからなかったので、とりあえず背景に馴染むように色を調整したりしました。

    ▲ポストプロセスの適用前(左上)と適用後(右下)の『路地裏漂流記』画面

    Q.外注やマケプレなどのアセットは使用している?

    化け猫00:私は先ほどお話ししたポストプロセスのほか、プログラムの方でInventory Systemも使っていまして、どちらも無料のソフトです。できるだけお金をけず、自分でつくることに挑戦したいので、有料のアセットは買ったことがありません。空や蒸気も、今はUEのスターターコンテンツに入っているブループリントを使っているんですが、いずれ自作したいなと思っています。

    久井:マーケットプレイスのアセットは、雷とかのパーティクルに少し使っているくらいで、ほとんど使っていないですね。アートは基本的に2Dグラフィックなので、FREAKY DESIGNさんが手で描かれてます。

    アラ:お二人に比べると、私はかなり使っています。よく使うもののひとつはChameleon Post Processで、かなり有名なポストプロセスのアセットです。もうひとつStylized Medieval Houseで、これをつくられた方のシリーズは高品質なので、よく使わせていただいています。

    アセットを使うと、個性が出しづらいとか、自作のキャラクターモデルをどう馴染ませていくかというのが課題になると思います。私の場合は、Chameleon Post Processで画面ごとに効果を切り替えたり、カラーグレーディングで色を調整したり、カメラの被写界深度を変えたりして、色々試しながら画づくりをしています。

    この辺りは、Epic Games Japanの岡田和也さんによる「猫でも分かるUE4のポストプロセスを使った演出・絵作り」シリーズがわかりやすく、参考にしながら学ばせていただきました。

    ▲アラ氏が使用するアセット。右上の画面はポストプロセスのライトをOFFにした状態で、右下が全ての効果をONにした状態。アラ氏は画面ごとにポストプロセスの効果を調整して、自身のアートスタイルを再現している

    クリエイターは誰しも悩み、迷うのが当たり前

    「ゲームが好きで、ゲームをつくりたい」、そう思う人は少なくない。しかし先人たちの作品を見ていると、「自分にはとても手が届きそうにない」と感じる人もいるだろう。そう諦めかけている人ほど、勇気づけられるセッションだった。

    完成間近のゲームをつくっている人でも、ゲーム制作エンジン選びで悩み、アートスタイルで迷い、予算や自分の技量と相談しながら、一歩ずつ前進している。クリエイターたちの内面や心情が垣間見られた今回の座談会を、明日からのUE制作の糧にしていただけたら幸いだ。

    講演動画

    UEインディーゲームクリエイター座談会 アート編 2023 | UNREAL FEST 2023 TOKYO
    © 2004-2023, Epic Games, Inc. All rights reserved.

    TEXT_岩井浩之/Hiroyuki Iwai
    EDIT_李 承眞/Seungjin Lee(CGWORLD)、小村仁美/Hitomi Komura(CGWORLD)