Autodesk Fusion (以下、Fusion)を用いた優れたメカモデリングを生み出す、Milpix氏。ハードサーフェスモデリングにおいてFusionをメインツールとして選ぶ同氏に、今回は、制作スタイルや注目するアーティスト、使用ツールの選定理由、そして具体的なワークフローについて伺った。

記事の目次

    Milpix

    Hard surface designer/modeler
    Works are saved on Artstation

    Fanbox: milpix.fanbox.cc
    Booth: milpix.booth.pm
    落書き: @xiplimtwit

    繰り返した挫折、Fusion 360と出会い本格的に制作を開始

    CGW:Milpixさんのバックグラウンドについてお聞かせください。

    Milpix:3DCGに注力し始めたのは2017年の秋頃からです。それ以前にも何度もトライしてはいたのですが、毎回挫折していました。最初に購入したツールは1998年のMyShadeだと記憶しています。それ以外にも六角大王やメタセコイア、Blender等を試してみましたがいずれも習得できず、2017年に存在を知ったAutodesk社の3DCAD、Fusion(当時の名称はFusion 360)を使ってみた際に初めて、「これなら出来そうだ!」という手応えを得て、本格的に注力し始めました。

    Milpix氏がYouTubeに投稿している『360でメカつくろう! Making mechs with Fusion 360』シリーズ

    ArtstationやX上で制作物を公開しておりましたが、開設後2年経過した頃から制作物を目にした方より仕事の依頼をいただけるようになりました。依頼は殆どがメカ系のコンセプトデザインです。


    CGW:注目しているアーティストはいらっしゃいますか?

    Milpix:沢山いますが、近年のハードサーフェス分野で1人挙げるとするならTill Freitag氏です。


    現在、ハードサーフェスの模範的なスタイルは成熟しており、それに則って素晴らしいモデルや絵を制作される方は沢山いらっしゃいますが、一目見て「これはあの人の作品だ」と分かるような強い作家性を持った方は稀有だと思います。同氏はそんな希少なアーティストの一人だと思います。


    他にも注目しているアーティストは大勢いますが、何故かほとんどが中国の方です。どうして素晴らしいハードサーフェスアーティストが中国に集中しているのか理由は分からないのですが、近年素晴らしいと思ったアーティストは相当な確率で中国の方です。

    CGW:自主制作とは普段どのように向き合っていますか?

    Milpix:かなりの数のアーティストが、「鍛錬を積んでゲーム会社に就職したい」とか「人の心を動かしたい」等、何らかの目的を持って制作していると思いますが、自分にはそういうものは一切なく、単純に過程が楽しいから制作しています。

    業務としての制作では異なりますが、こと自主制作に於いては、自分にとって最も重要なのは「過程が楽しい」事であって、それは成果物の最終的な完成度よりも大切です。なので「向き合う」という語に含まれるようなシリアスなニュアンス、アーティストが通常持っているであろう精神的態度みたいなものは自分にはありません。そのため、便宜上やむを得ずそう名乗る事もありますが「アーティスト」を自称する事にも違和感を感じています。

    CGW:使用しているツールは?

    Milpix:モデリングはFusion、Blender、スカルプティングはZBrush 2022です。Fusionで作成したモデルの自動リトポロジーをする場合はMoi3Dを使います。レンダリングはBlenderのCycles、Marmoset Toolbag4、Unreal Engine5、Fusion内蔵レンダラー、Keyshot8 for ZBrush等を使用しています。

    CGW:Fusionをメインツールとして選択している理由は?

    Milpix:自分の作風、制作メソッドとの相性です。頭の中にあるイメージを立体化するのにFusionが一番適していると感じます。有機的で複雑な形状など、当然Fusionでは造形困難な形状もありますが、自分にとってはハードサーフェス分野では一番手早く、思った通りに作れるツールです。

    モデラーは「面を張って形を作り出していくタイプ」と「塊から削り出していくタイプ」の2タイプに大きく分けられると思うのですが、自分は完全に後者です。それ故、面を張って造形していくしていくポリゴンモデリングでは想定通りの形を造形するのにとても難儀していました。Blender等でもブーリアンによる造形は可能ですが、かなりの確率で処理が失敗してしまいます。

    その点、FusionやZBrushなど「塊から削り出すタイプ」はBlender等のポリゴンモデラーよりずっと馴染みやすいと思います。ブーリアンで削り落とす処理も殆ど失敗しません。ZBrush等のスカルプト系ツールのほうが、3DCADより直感的ですぐ使えるようになるかもしれませんが、ことハードサーフェス系のものを作成するとなると難易度が上がってしまいます。

    また、FusionはUIが極めてシンプルだという点も馴染みやすかった大きな要因です。Fusionでは「線を描いて押し出す」という動作を繰り返すだけでそれなりの物が作れてしまいますが、これにはツールバーのボタンを数個しか使いません。

    おそらく現状では、アマチュアモデラーの方の多くが無料で高機能なBlenderからモデリングを始めると思われますが、BlenderのUIはかなり改善されているとはいえ、まだまだ複雑で、挫折する方も沢山いらっしゃると思います。かつての自分もそうでしたが、馴染みやすいFusionに出会い、ようやく長年作りたいと思っていたものを立体化できるようになりました。なので、特にポリゴンモデリングに挫折してしまった方には、Fusionを試してみることを強くお勧めしたいです。

    とはいえ近年はポリゴンモデリングに慣れてきたため、Blenderの使用率がFusionと同程度まで上がっています。テクスチャリングにはSubstance 3D Painter、ディテール用テクスチャ作成にSubstandce 3D Designerを使用しています。

    CGW:作品制作の大まかな流れについて教えて下さい。

    Milpix:「側面図ラフスケッチをベースにモデリングし、ディテールをキットバッシングで構成しつつ足りないパーツを新規作成、モデル完成後UV展開/テクスチャリングを行い、レンダリング/レタッチ」という感じで作っています。ただ、日々の自主制作においては「3D版落書き」のような感じで気の向くままに制作しているため「必ずこの流れで作る」ようなフローは特にありません。

    <Milpix氏のワークフロー>

    ①Procreateで左側面図のラフ作成

    ②それを下絵にFusionまたはBlenderでモデリング

    ③自作ライブラリからディテール用パーツをペーストしてディテーリング
    ④必要に応じてMoi3dで自動リトポロジー

    ⑤手動およびRizomUVでUV展開
    ⑥Substance 3D Painterでテクスチャリング

    ⑦Cycles等のレンダラーでライティング/レンダリング
    ⑧Photoshopでレンダリングイメージの調整後、完成



    作品から紐解くこだわり

    CGW:作品制作全般におけるこだわりをお伺いさせてください。

    Milpix:「できるだけ直角を出さない」等、造形上の癖のようなものはありますが、特にこれといったこだわりはありません。強いて言うなら「あまりリファレンス画像を参照しない」事です。これには賛否あると思いますが、自分はオリジナリティに最も価値を置いており、また造形スキルも高くないので、リファレンスを参照し過ぎてその劣化コピーとなってしまうのは避けたいと考えています。

    CGW:過去作品をベースに制作におけるこだわりを教えて下さい。

    作品1:『Layzner』

    www.artstation.com/artwork/d8V89Q
    使用ツール:Fusion 360

    Milpix:「顔」のあるロボット頭部を作成した事がなかったので、アニメ『蒼き流星SPTレイズナー』に登場する主役機の頭部をアレンジして作ってみました。なんとなくですが「ドイツ車っぽい感じになればいいな」と思いながら作った記憶があります。どこがどうドイツ車的なのかさっぱりですが、造形的には思ったよりうまくいきました。数年前に作ったものなので、今改めて見るとディテールが甘いと感じます。

    粗密に関しては、自分は平均より「密」部分が多すぎてうるさい造形になりがちかもしれません。ただ、それが独自色をもたらす主要因になっている感もあり、自主制作では「全体を見て、模範的なルールに沿ってバランスを調整する」ようなことはせず、自分が「かっこいい」と思うままに作ったものをそのまま完成としたいと思っています。

    本モデルはFusionの内蔵レンダラーでレンダリングしたため、ライティングはHDRIのみになっています。自分はライティングに関するスキルが殆どなく、現在もまだ学習している最中です。折角精巧に作ったモデルもうまくライティングできないと台無しになってしまう、というのを日頃の制作で痛感しているため、早くある程度のレベルにまで達したいと思っています。

    作品2:『Multi-legged Tank』

    www.artstation.com/artwork/g0EzKK
    使用ツール:Blender/Substance 3D Designer/Substance 3D Painter/Photoshop/Affinity Designer/Fusion 360

    Milpix:最近作ったモデルです。「内部メカには自動UV展開した細かいパーツを多用し、外装部分等テクスチャが必要な部分のみBlenderで制作/Substance 3D Painterでテクスチャリング」という、おそらくハードサーフェスのハイポリゴンモデルでは一般的な方法で制作しました。今後も基本的にはこの方法で作っていきたいと考えています。

    CGW:メカの造形美を密な作り込みで表現されている作品群が非常に印象的ですね!今後も作品楽しみにしています。ありがとうございました。

    INTERVIEW_池田大樹(CGWORLD)
    EDIT_中川裕介(CGWORLD)