9月28日(土)、XYouTubeに投稿されたハイクオリティなトランスフォーマーのファンアート動画が3DCG界隈で話題を呼んでいる。制作者はMizuki Yamada氏ら日本人3名。

この名前に見覚えがあったCGWORLD編集部は、この人物が2021年7月発表の学生CGトライアル「WHO'S NEXT?」で入賞した山田瑞来氏であることを突き止めた。3年前の当社コンテスト受賞者が、ここまで高品質な3DCG作品を生み出し、話題を集めている。この事実に深い感慨と驚きを感じた。


しかもそれだけではない。Xのプロフィールを確認すると、山田氏は現在は海外VFXスタジオ大手のILM(Industrial Light & Magic)で活躍しているというのだ。編集部ではいてもたってもいられず、すぐに山田氏に連絡を取り、話を伺った。

記事の目次

    CGWORLD編集部(以下、CGW):急な依頼へのご対応ありがとうございます。まずは驚きました。2021年の「WHO'S NEXT?」から約3年、現在はシドニーでILMのジェネラリストということで、当時から現在までの来歴について教えてください。

    山田瑞来氏(以下、山田):そもそも3DCGを始めたきっかけは、高校生の時に『トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン(Transformers: Dark of the Moon)』(2011)のVFXブレイクダウン動画をYouTubeで観て、なんだこれは……!」と衝撃を受けたことです。

    『Transformer: Darkside Moon』(IMDb)
    https://www.imdb.com/title/tt1399103/

    山田:大学在籍時に自分の進路について考えていたとき、このことを思い出して、CGアーティストという職業について調べ始めました。そうして調べていくうちに、カナダではCG産業が盛んだということと、現地にVFXの学校があって、その学校を卒業してハリウッド映画に携わっているクリエイターの先輩も多いことを知ったので、「よし、自分も同じ道をたどってみよう」と思ったんです。

    CGW:なるほど。かなり早い段階で海外でCGをやろうと決めていたのですね。「WHO'S NEXT?」への応募はどの段階で?

    山田:カナダの学校に入学するまではしばらく期間がありましたし、とにかく3DCGソフトが面白そうだったので独学で勉強を始めたんです。ただ、自分の周りには3DCGをやっている人がいなかったので、「WHO'S NEXT?」なら他のCGをやっている学生と切磋琢磨できるし、作品へのフィードバックももらえるし、ということで応募しました。


    CGW:当時の受賞コメントにもありましたが、当時のCG歴は約1年半、見事第8位に入賞されました。

    山田瑞来氏の「WHO'S NEXT?」受賞作『残月』

    山田:それまで、自分が正しい方向に進んでいるのかわからず不安だったんですが、受賞したことで「間違っていなかった」と自信を持てました。

    カナダへ発ちVFXの専門学校を経てFramestoreに入社

    山田:「WHO'S NEXT?」の受賞後すぐにカナダへ発って、バンクーバーのVanArts(Vancouver Institute of Media Arts)というVFXの学校で1年間CGの勉強をしました。そして卒業後、当時バンクーバーにあったFramestoreに入社しました(バンクーバースタジオは現在閉鎖。Framestoreの本社はイギリスにあり、モントリオールなど世界6都市に制作拠点を構える)。

    • VanArts
    • Framestore

    CGW:Framestoreではどんな作品に携わりましたか?


    山田:直近のものだと『デッドプール&ウルヴァリン(Deadpool & Wolverine)』(2024)や『白雪姫(Disney’s Snow White)』(2025予定)の制作に関わりました。

    『デッドプール&ウルヴァリン(Deadpool & Wolverine)』
    『白雪姫(Disney’s Snow White)』

    念願のILMに入社し背景CGのジェネラリストとして活躍

    CGW:現職のILM(Industrial Light & Magic)へはどういった経緯で?

    ILM(Industrial Light & Magic)

    山田:3DCGを始めたきっかけがILMのトランスフォーマーでしたから、ILMにはずっと入りたいと思っていました。だから、Framestoreで働き始めてからもILMのLinkedInの求人ページには欠かさず目を通していて、勤務地がどこの国でもかまわず、募集があったら応募していました。

    ILMへの応募の際にも提出した2024年2月制作のデモリール

    CGW:何度も。

    山田:そうですね。幸い、何回か応募を繰り返していたらシドニーのリクルーターからメッセージをもらえて、面接まで進むことができたんです。でも実は面接の結果を待っている間、全米脚本家組合のストライキがVFX業界にも波及して大変なことになって、Framestoreからレイオフされてしまったんです。

    CGW:例のストライキの影響でいきなりレイオフですか……。

    山田:はい。だからなおさら「頼むから受かってくれ!」と祈る毎日で。ストレス解消のためにスマブラ(『大乱闘スマッシュブラザーズ』)に打ち込んでいました(笑)。でも幸い、無事に契約をもらうことができたんです。バンクーバーからシドニーへ引っ越してILMで働き始め、約3ヶ月になるところです。

    CGW:ホッとしました。危機一髪でしたね。ILMではジェネラリストということですが、どういった仕事を?

    山田:背景CGの制作をしています。使用ツールはプロジェクトごとにちがいますが、主に3ds Max、V-Ray、Houdini、RenderManですね。自分はテクニカルなことが得意なタイプなので、Houdiniを使ったタスクが割り当てられることが多いです。

    CGW:FramestoreでもILMでも、社内でのコミュニケーションは英語ですよね? そのあたりの苦労は?

    山田:苦労することがとても多いです。VanArtsの頃からずっと、授業やミーティングでは常にGoogleの自動字幕をオンにして、シャドーイングをするようにしています。会話のスピード感やよく使われる表現が身に付きやすい方法だと感じています。

    話題の『トランスフォーマー』ファンアート

    CGW:トランスフォーマーのファンアートが大変な人気です。
    ●Xでのファンアートの投稿
    https://x.com/mizukiyamadami/status/1839886035725283445

    ●YouTube動画
    https://www.youtube.com/watch?v=5Y1f75ZP_ec

    山田:改めて『トランスフォーマー』というコンテンツの人気を感じました。それと、想像よりも元ネタのTVアニメ『トランスフォーマー ギャラクシーフォース』(2005)を知っている人がいたことも嬉しかったですね。TVシリーズでは比較的遅い時期に放送されたものなので、この作品で活躍したキャラクターが今後実写作品に登場する機会はないように思いますが、トランスフォーマーのデザインが本当に秀逸なんです。だから「アニメじゃなくてフォトリアルなVFXでこれを観たいファンは世界中にたくさんいるはず!」と思ってつくりました。実際、「このシリーズの実写版、ずっと見てみたかったんだよ!」といったコメントをたくさんいただいて、届けたかった人たちに届いたなと嬉しく思っています。

    CGW:ILMでの業務も大変かと思いますが、自主制作を続ける原動力はどこにあるのでしょうか?

    山田:トランスフォーマーがきっかけで3DCGを始めて、そのとき立てた自主制作の目標が「トランスフォーマーの変形シーンをつくること」でしたから、何が何でも完成させたかった。それが大きいですね。

    CGW:今回のファンアートには山田さんだけでなく日本人が2名クレジットされていますよね?

    山田:ひとりは、人づてに「バンクーバーに同い年の3DCGをやっている日本人がいる」という話を聞いて、自分からコンタクトを取って繋がったクリエイターです。もうひとりは現地の日本人アーティストの集まりで知り合いました。他にも仲の良い友達が何人かいて、みんなで集まって遊んだり。今でも何かあると連絡を取り合っています。

    CGW:クリエイターとしての今後について、どのようなビジョンをお持ちですか?

    山田:ILMのCGアーティストとしては、大規模なヒーローショットを任されるくらいの信用のあるアーティストになりたいです。あとは、「トランスフォーマーの実写映画をやりたい!」と言いたいところですが、毎年制作されるようなコンテンツではないですし、できなかったらできなかったで仕方ないかなと思います。

    個人制作は個人制作で続けていきたいと思っています。製作では、『天元突破グレンラガン』(2007)や『プロメア』(2019)、『トランスフォーマー』のような、“熱く突き抜ける”ような格好良い作品をつくっていきたいです。ちなみにオリジナルのアニメ『トランスフォーマー ギャラクシーフォース』では、赤いコンボイが戦闘機やライオンと合体します。気力があれば、そういったシーンもつくっていきたいです(笑)。

    CGW:最後に「WHO'S NEXT?」への応募を考えている学生や、海外で活躍したい学生などにアドバイスを。

    山田:「WHO'S NEXT?」はプロの方々からフィードバックを貰える貴重な機会なので、ぜひどんどん応募したほうが良いと思います!

    海外スタジオへの就職を目指す人には、「いろんな物事を理想ではなく現実で考えて、計画を立てていくこと」が大事だと思います。本当にいろんな要素があるんです。

    海外スタジオに就職するルートもたくさんあって、自分のように現地の学校に入学してそこから就職するのが正解の場合もありますが、ジュニアクラス(経験の浅いクリエイター)の就職率が良くない場合、日本で働きながらデモリールをアップデートしてから求人に応募した方が良いかもしれません。ワーホリ(ワーキングホリデー)を使うタイミングも大事になってきます。

    自分はカナダからでしたが、他の国はどうなのか。入社に必要なのは運なのか、実力なのか、コネなのか。自分の実力は会社に入れるレベルに達しているのか、達していないなら何が足りないのか。ハリウッドでVFXをやっているスタジオは小さいところまで含めてどのくらいあるのか。ビザは出やすいのか出にくいのか……などなど。

    たくさんの日本人アーティストがいろんな道を辿って海外スタジオで活躍しています。だから、たくさん調べて自分にとって何が正解なのかをじっくり考えて、計画を立てて、道が見えそうなところまで考えが固まったら、あとはその目標に向かって真っすぐ進む。それが良いと思います。

    CGW:ありがとうございました。これからのご活躍、期待しています!

    Mizuki Yamada
    ArtStation https://www.artstation.com/mizukiyamada
    X https://x.com/mizukiyamadami
    LinkedIn https://www.linkedin.com/in/mizuki-yamada-7bb017216/
    YouTube https://www.youtube.com/@mizukiyamada7307

    学生CGトライアル「WHO'S NEXT?」 2024年第2弾作品募集中! 作品締切:10/25(金)23:59

    恒例の「WHO'S NEXT?」2024年第2弾は現在作品募集中です。「キャラクター部門」と「背景・プロップ部門」の2部門で、スキルアップや腕試し、自己PRの機会としてぜひ応募してください。結果発表は2024年11月開催の「CGWORLDクリエイティブカンファレンス2024」にて行ないます!
    https://cgworld.jp/flashnews/cgwhos-next-20242-10252359.html

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