マーザ・アニメーションプラネット(以下、マーザ)では、2009年から現在まで初音ミクのバーチャルライブを制作しており、2017年以降は『あんさんぶるスターズ!!』(以下、『あんスタ!!』)のライブも手がけている。本記事では、その舞台裏を全3回にわたって深掘りする。

記事の目次
    ※本記事は月刊 『CGWORLD + digital video』vol.319(2025年3月号)掲載の「推しが「そこにいる」、初音ミクや『あんスタ!!』ライブの舞台裏/マーザ・アニメーションプラネット Virtual Live映像事業課」を再編集したものです。

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    「ミクFES'09(夏)」から始まった、マーザのライブ映像制作

    マーザではバーチャルライブ映像事業の規模拡大を進めており、2023年9月にVirtual Live映像事業課(以下、VLM課)を新設した。設立当初は19人だったスタッフは、2025年1月時点で27人に増えており、4月には3人の新卒採用者も加わる。27人の内訳は、モデラー3人、リガー4人、アニメーター11人、ゼネラリスト3人、プロジェクトマネージャー3人、ラインプロデューサー1人、CGディレクター2人で、メインツールはMaya、レンダラはArnold、ライティング&コンポジットはNukeを使用している。ライブ映像のクオリティはアニメーションの出来映えに大きく左右されるため、実力のあるリガーとアニメーターを多く抱える組織編成になったとのことだ。

    マーザ・アニメーションプラネット Virtual Live映像事業課

    バーチャルライブ案件の制作業務拡大、およびUnityを用いた新システムの開発にともない、Unityを扱えるアーティストやエンジニアの採用を強化している。また、各セクションのSV、ディレクターも募集中だ。
    www.marza.com

    マーザの前身は、VE研究開発部というセガ社内の映像制作の専門部署で、当時は音楽ゲームの『初音ミク -Project DIVA-』(2009)のOP映像などを手がけていた。現在はVLM課の課長とCGディレクターを兼任する木下秀幸氏は、アニメーターとして『Project DIVA』の制作に参加した。「透過式のディラッドスクリーンを使ったミクのライブイベントが当時のセガ社内で企画され、『Project DIVA』に携わっていた各部署のメンバーが一丸となってライブ映像の制作に取り組むことになりました。全てが前例のない挑戦でしたが、多くの試行錯誤を重ねた結果、2009年8月に「ミクFES'09(夏)」を開催することができました」(木下氏)。

    ▲左から、リグSV・田中雄大氏、Animation2 Team マネージャー・伊豆野 弘之氏、プロジェクトマネージャー・佐藤里香氏、Rig Team マネージャー・鈴木淳二氏、Animation1 Team マネージャー・挽地規子氏、ライティング&コンポジットSV・福田志穂氏、モデリングSV・馬杉 明日美氏、CGディレクター・大河原 崇氏、アニメーションSV・児玉 真生子氏、Virtual Live映像事業課 課長/CGディレクター・木下秀幸氏(以上、マーザ・アニメーションプラネット)

    VE研究開発部が分社化し、マーザが設立された後も木下氏はミクのライブ映像制作に携わり続け、「ライブパーティー 2011」からはCGディレクターを務めることになった。「『あんスタ!!』を開発・運営しているHappy Elementsの方々が、初音ミク「マジカルミライ 2016」に来場され、"当社のアイドルのライブをやりたい" と仰ったのが発端となり、TrickstarのMVをつくることになりました。それが好評を博した結果、「あんさんぶるスターズ!!DREAM LIVE」(以下、「スタライ」)へと発展していくことになったのです」(木下氏)。

    初音ミク ライブの軌跡

    ▲「初音ミク ミニライブ DAIBA de DIVA」(2012)
    ▲初音ミク「マジカルミライ 2013」
    ▲初音ミク「マジカルミライ 2023」
    ▲初音ミク「マジカルミライ 2024」ダイジェスト。初音ミク「マジカルミライ」には、ミク以外のバーチャルシンガーも登場する。初音ミク「マジカルミライ 2025」は、8月にSENDAI、OSAKA、TOKYOで開催される

    『あんスタ!!』ライブの軌跡

    ▲TrickstarのMV『Rebellion Star』。2017年4月に幕張メッセで開催された「あんさんぶるスターズ!2nd Anniversary 感謝祭」にて、ショートバージョンが初お披露目された
    ▲「スタライ」1st TourのKnightsのステージ。2017年10~12月に、東京・仙台・名古屋・大阪の4都市で、Trickstar、UNDEAD、Knightsによる16公演のライブツアーが開催された
    ▲「スタライ」6th Tour(2022春)Blu-ray & DVD ダイジェスト
    ▲「スタライ」7th Tour(2022秋)Blu-ray & DVD ダイジェスト
    ▲「スタライ」9th Tour(2024冬)の流星隊のステージ。10th Tourは2026年春に開催される

    初音ミクと『あんスタ!!』以外の大型案件も2本進行中

    マーザは設立当初からCGアニメーション映像制作を事業の柱にしており、『SPACE PIRATE CAPTAIN HARLOCK』(2013)、『ルパン三世 THE FIRST』(2019)などのフルCG映画を手がけてきた。近年も映画『ソニック × シャドウ TOKYO MISSION』(2024)のCG制作に参加している。それらと並行してライブ映像も手がけてきたわけだが、当初はライブ案件を受注する度に、木下氏が中心となってチームを編成していた。

    「2017年頃からライブ案件を安定的、かつ継続的に受注できるようになってきたので、技術の蓄積、制作効率の向上、クオリティの安定化を目的に、ライブの専門チームを起ち上げました。当初のメンバーはわずか4人でしたが、徐々に人数を増やし、2022年には私自身がプロデュースを学ぶため、一時的にチームを離れました。その1年半後にVLM課を新設し、今にいたります。現在はミクと『あんスタ!!』以外の大型案件も2本進行中で、2027年には40人規模の組織にしたいと計画しています」(木下氏)。VLM課では多様な大型案件に対応するため、プロデューサー、ディレクター、CGSVの増員と育成に注力しており、個人のスキル向上にも焦点を当てて支援体制を拡充しているという。

    マーザには設立当初から連綿と整備されてきたフルCG映画のパイプラインがあり、ライブ案件でも同じパイプラインを使っている。「映画制作の様々な専門家が在籍しており、内製ツールやノウハウも充実しているので、初期投資やラーニングコストを抑えられる点は当社ならではの強みだと思います」(木下氏)。

    mzAssetManagerによる、Mayaのシーン管理

    ▲mzAssetManagerは映画制作用に開発されたMayaのシーン管理ツールで、シーンのロード・セーブ、Variantの付与、コメント記入などに加え、Mayaのプロジェクト作成や、関連するフォルダの構成も行える
    ▲サーバ上のリソースを任意に取捨選択してシーンを構築できるのに加え、カメラや音源などを含むあらゆるリソースの既存シーンへのインポートや、サーバへのパブリッシュも行える
    推しが「そこにいる」、初音ミクや『あんスタ!!』ライブの舞台裏/No.2 繊細な調整をくり返す、アセット制作
    ©CFM/©TOKYO MX/©SEGA
    ©HE/ES-DL

    INFORMATION

    月刊『CGWORLD +digitalvideo』vol.319(2025年3月号)

    特集:CGクリエイター新潮流
    定価:1,540円(税込)
    判型:A4ワイド
    総ページ数:112
    発売日:2025年2月10日

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    TEXT&EDIT_尾形美幸/Miyuki Ogata(CGWORLD)
    文字起こし_遠藤大礎/Hiroki Endo
    PHOTO_弘田 充/Mitsuru Hirota