アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ

ディズニープラスで配信中

© 2026 20th Century Studios. All Rights Reserved.


世界最大級のCG国際コンベンションSIGGRAPH 2026が、7月19日(日)〜23日(木)の5日間にわたり開催された。SIGGRAPHでは毎年プロダクション・セッション(Production Sessions)が開催され、ハリウッド映画を中心にプロダクションの制作事例が披露される。

その中から、Wētā FXとLightstorm Entertainmentの制作陣が映画『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』のVFX制作について語ったProduction Session「Wētā FX Presents: Avatar: Fire and Ash」の内容を紹介する。

記事の目次

    関連記事

    ・世界のVFX・アニメ・ゲームの最前線を一挙上映! Electronic Theater上映全15作品を紹介〜SIGGRAPH 2026(1)
    ・SIGGRAPHとはひと味ちがう、現場発の技術が集結したシンポジウム「DigiPro 2026」 〜SIGGRAPH 2026(2)
    ・多機能画像生成システム、複雑な4Dシーンの生成、テキストに忠実な3D毛髪画像の生成などが登場。XRとAIに関連した注目論文をピックアップ〜SIGGRAPH 2026(3)
    ・1939年の『オズの魔法使い』を16K×16KのSphereへ。生成AIを活用した映像拡張の舞台裏〜SIGGRAPH 2026(4)
    ・映画『スター・ウォーズ/マンダロリアン・アンド・グローグー』VFXメイキング 相撲を採り入れたアニメーションからGaussian Splatting、自作モーションコントロールまで〜SIGGRAPH 2026(5)
    ・10億個の恒星を実データから構築。ILMが挑んだ映画『プロジェクト・ヘイル・メアリー』の宇宙表現〜SIGGRAPH 2026(6)

    はじめに

    プロダクション・セッションの講演中は撮影禁止であるが、なるべく文面から会場の雰囲気が伝わるように構成した。また、臨場感を出すため、チーム内での名前の呼び方や、ハリウッドの現場で使われている用語などは、そのまま記述している。


    パネラー

    エリック・セインドン/Eric Saindon

    シニアVFXスーパーバイザー

    ダン・バレット/Dan Barrett

    シニア・アニメーション・スーパーバイザー

    ニッキー・ミュア/Nicky Muir

    VFXプロデューサー

    パヴァニ・ラオ・ボッダパティ/Pavani Rao Boddapati

    VFXスーパーバイザー

    ニコラス・イリングワース/Nicholas Illingworth

    リードFXスーパーバイザー


    以上、Wētā FX


    リチャード・ベインハム/Richard Baneham

    VFXスーパーバイザー

    ピーター・リトヴァック/Peter Litvack

    VFXプロデューサー


    以上、Lightstorm Entertainment


    ▲パネル開演前の場内の様子(筆者撮影)
    ©SIGGRAPH

    <1>20年にわたり進化を続けるWētā FXとLightstorm Entertainmentの協業

    エリック・セインドン:VFXスーパーバイザーのエリック・セインドンです。今日のパネリストを、私に近い順から紹介していきます。

    こちらはリチャード(・ベインハム)。「アバター」シリーズのエグゼクティブ・プロデューサーであり、デジタル・セカンドユニット・ディレクター、そしてLightstorm Entertainment(以下、LEI)※のVFXスーパーバイザーでもあります。

    ※Lightstorm Entertainmentは、ジェームズ・キャメロン監督の映画制作会社

    ピーター(・リトヴァック)はクライアント側のVFXプロデューサー、ニッキー(・ミュア)はWētā FXのVFXプロデューサー、ダン(・バレット)はシニア・アニメーション・スーパーバイザーです。パヴァニ(・ラオ・ボッダパティ)はVFXスーパーバイザーの1人で、一番奥にいるニック(・イリングワース)はエフェクト・リード兼エフェクト・スーパーバイザーです。

    まずはリールをご覧いただきます。その後、ニッキーとピーターから、Wētā FXとLEIの制作プロセスについて語ってもらいます。

    『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』

    ピーター&ニッキー:「アバター」シリーズでは20年以上にわたり、Wētā FXとLEIのクリエイティブなパートナーシップによって、ビジュアル・ストーリーテリングとVFXの限界を押し広げ続けてきました。

    ふり返ると、2005年にWētā FXへ脚本が届いたことで私たちの関係が始まり、2007年には契約が締結されました。最初の『アバター』では1,926名だったスタッフ数は、本作では3,132名にまで拡大しています。

    このコラボレーションは、単なるベンダーとクライアントという関係から、高度に統合された制作体制へと進化しました。この20年間でワークフローを発展させ、バーチャルプロダクション環境、アニメーション、ライティング、エフェクトなどを並行して進める体制を確立してきました。

    こうした連携の成果として、3作目の『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ(以下、ファイヤー・アンド・アッシュ)』があります。私たちはまさに1つのファミリーのような絆を感じていました。LEI、実写撮影クルー、今日ここにいるパネリストに加え、ニュージーランドにいるWētā FXのアーティストたちとも緊密に連携していました。

    この連携はポストプロダクションだけでなく、実写撮影にも活かされました。俳優をリアルタイムで合成し、その結果を撮影現場で確認することもできます。また、パイプラインを深く検討したことで、技術的な課題が生じた際の迅速なコミュニケーションや、より効果的な問題解決が可能になったことも大きな強みでした。

    LEI側では、ジム(ジェームズ・キャメロン監督)と、故ジョン・ランドーがチームを率いていました。そしてニュージーランドのWētā FXがVFXプロダクションを担いました。

    『ファイヤー・アンド・アッシュ』では、前作『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』(2022)で得た経験や蓄積を活かし、より効率的にプロダクションを進めることができました。

    早い段階から検討を重ねることでスケジュールを調整し、後に必要となる要素を絞り込み、優先順位をつけて進めました。オープンなコミュニケーションによって制作体制を整え、プロダクションを円滑に進めることができたのです。

    LEIには2つの制作チームがありましたが、両チームの連携は素晴らしいものでした。プロジェクトを順調に進めるために絶えず尽力してくれましたが、それ以上に重要だったのは、スケジュールや予算が軌道から外れそうになった際、いち早く知らせてくれたことです。そのおかげで、「問題が実際に発生する前に、可能な限り未然に防ぐ」ことができました。

    私たちはこの素晴らしいチームを心から誇りに思っています。公開以来、本作は高い評価を受けましたが、数々の受賞は、作品をつくり上げた「並外れたチームの力」を物語っていると思います。

    <2>演技を最優先するパフォーマンスキャプチャ

    エリック&リチャード:では、「アバター」シリーズの制作プロセスについてお話ししましょう。「アバター」シリーズは通常の映画とは一線を画す作品であり、大規模な予算と長い制作期間をかけてつくられています。そして何より、優れたVFXスーパーバイザーとしての資質を備えた監督が指揮を執っています。

    私たちが日々挑戦していたのは「問題解決」です。これは、この会場にいる皆さんがプロジェクトを進める際にも直面する課題でしょう。映像作品として実際に形にするためには、解決策を見つけ、それを実現する力が必要だからです。

    今日は、私たちがどのように問題を解決し、作品をより良いものにしていったのか、その事例をいくつかご紹介します。それが皆さん自身のプロジェクトにおける、新たなアイデアのヒントになれば幸いです。

    まずは、パフォーマンスキャプチャやバーチャルカメラについて触れておきましょう。

    パフォーマンスキャプチャのプロセスそのものは、非常に技術的なものです。しかし私たちは、そうした技術を可能な限り意識させず、「演者が何の制約も感じることなく、演技に没頭できる環境」を整えることに全力を尽くしました。

    映画において、何より重要なのは「演技そのもの」だと私たちは考えています。だからこそ、技術的な介入を極力感じさせないよう、様々な工夫を凝らしているのです。

    制作には、ここでは語り尽くせないほど多くの新しいアイデアや手法があります。ジムは、新しい技術や手法の開発に時間を費やすことにも理解があります。

    今回、私たちにとって特に重要だったのが、①ライブ・デプス・コンポジット、②アイライン・システム、③モーションベースの活用です。

    ①ライブ・デプス・コンポジット

    エリック&リチャード:ライブ・デプス・コンポジットは、実写映像とCGキャラクターの前後関係を深度情報に基づいてリアルタイムに合成する技術です。最大の課題の1つは、実写のキャラクターとCGキャラクターを同じ空間に統合することでした。


    1作目でも苦労しましたが、対象となるショットはごくわずかでした。しかし2作目、3作目ともなると、ほぼ全編にわたり、実写の俳優とCGキャラクターが共演する作品になります。


    そのためジムは、「実写撮影を行いながら、その場で両者を合成し、リアルタイムで映像を確認できるようにしたい」と強く望んでいました。


    そこで私たちは、ディープラーニングを活用したシステムを構築しました。スキャンデータやキャラクター、セット、撮影素材など、大量のデータをシステムに読み込ませることで、撮影現場で実写とCGをリアルタイムに合成できるようにしたのです。


    約4フレームのディレイは生じますが、実写カメラマンにとっては許容範囲であり、その特性を理解した上で撮影できます。


    これによって、撮影空間におけるライティングやキャラクターの配置をその場で把握できるようになり、撮影のクオリティが劇的に向上しました。また、立体映画では全ての要素を正確な空間に配置する必要があります。従来は2Dでオフセットを調整するといった煩雑な作業が必要でしたが、ライブ・デプス・コンポジットによって、そうした手間もあらかじめ省くことができます。


    アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ

    ディズニープラスで配信中

    © 2026 20th Century Studios. All Rights Reserved.

    ②アイライン・システム

    エリック&リチャード:もう1つ、私たちが多用したのが「アイライン・システム」です。スポーツ中継をご覧になったことのある方なら、フィールドの上空に浮かび、4本のワイヤーで吊り下げられて自在に動き回るカメラリグを目にしたことがあるのではないでしょうか。


    今ではこうしたリグも一般的になりましたが、2009年から2010年頃、私たちはこのリグの初期型を開発した人物に会うため、飛行機で彼のもとを訪ねました。そこで気づいたのは、これがキャラクターの動きを、時間軸、空間、そして実物大のスケールで表現する画期的な手段になるということでした。当時としては、まだ非常に珍しい手法でした。


    しくみ自体は非常にシンプルで、基本的には現在「スパイダーカム(Spidercam)」として知られているものと同じです。私たちはそこにiPadをマウントし、CGキャラクターの位置や動きに合わせて移動させていました。


    こうすることで、俳優は相手となるCGキャラクターの位置を把握でき、適切なアイラインを得られます。さらに、実際には存在しないキャラクターの動きや位置をショット内で正確に示せるほか、演技のタイミングも合わせることができます。これは実写とCGの統合において非常に重要な要素です。


    大きな利点の1つは、構図を決める際にキャラクターを的確にフレーミングできることです。それによって、キャラクター同士のスケール感も表現できます。


    ただ、厄介な点もありました。4本のワイヤーでこの装置を動かすと、かなりの騒音が出るのです。そのため音響スタッフには嫌がられ、いつも文句を言われていました(笑)。それでも、俳優のアイラインを合わせる上で非常に有効で、最終的にはこれが最も上手くいった方法だったと言えます。


    また、シミュルカム(Simulcam)によって、撮影現場で実写とCGキャラクターの位置関係を確認できることも、大きな助けになりました。ジムも、撮影したプレートが意図通りに機能するという確信をもつことができたのです。


    さらに、撮影すべき要素を細かく分析できるため、どの順序で撮影するかなど、1日のスケジュールを組み立てる上でも役立ちました。各要素がショット全体の中でどう位置づけられるのかを事前に把握しておくことは、撮影の最適化にもつながります。こうしたアプローチによって、最終的にはより強力で印象的なショットを生み出すことができました。


    ③モーション・ベース

    エリック&リチャード:最後に、モーションベースについてお話しします。モーションベースを扱ったことのある方ならおわかりいただけると思いますが、これは本当に面白い機材で、実に素晴らしい演出を可能にしてくれます。今回、ジムがこのモーションベースで実現したかったのは、「ボートに乗った俳優たちをリアルに動かす」ことでした。


    彼は実際の海で取得したデータに基づく動きを求めていたため、美術部門は実際にツインジェット・ボートを製作しました。操縦は簡単ではなく、事前にいくつかレッスンを受ける必要がありました。


    特にジムがこだわっていたのは、「波をジャンプしてボートを2秒間宙に浮かせる」ことでした。このボートには多数のジャイロスコープが搭載されており、実際の海上での動きを記録しています。そのデータを利用することで、現実の水面で生じた動きをモーションベース上で再現できました。


    俳優やカメラを全てその上に載せ、ボートを激しく動かしたり、様々な演出を実際に試したりすることができました。非常に楽しい仕事でした。


    最後に、チームとしての連携について少しお話しします。本番のショット制作に入る前からアニメーション・チームに参加してもらい、飛行生物の動きをあらかじめ確認できたことは大きかったです。それによって戦闘の全体像を把握し、カメラワークや空中からの撮影といったアプローチを検討できました。


    さらに、キャラクターの動きやスタントの細部まで確認できます。単なる「それらしい」動きではなく、求められる特定のスタントやアクションを確実に実行できるのです。


    こうした戦闘シークエンスの構築には膨大なエネルギーと労力が注がれますが、このような手法を採ることで、必要な要素を極めて具体的に抽出し、シークエンスをより説得力のあるものにできます。


    言葉だけでアニメーターに意図を説明するのは難しい場合もあります。しかし、ジム自身がカメラを手に現場へ入り、その動きを捉え、カメラを配置することで、彼が思い描いた通りの映像をつくり上げることができました。その結果、非常にドラマチックで、観る人を強く惹きつける戦闘シーンに仕上がったと思います。


    さて、私とリチャードの話はこれくらいにして、そろそろ次の人にバトンタッチしましょう。


    ▲映画公開当時、2025年12月、LAのセンチュリーシティにあるAMCシアターにて(筆者撮影)

    <3>生物の動きを採り入れた風の商人のゴンドラ

    ダン:ここからはパヴァニと私で、トラリム族、通称「風の商人」が移動に用いるゴンドラについてお話しします。私がアニメーションについて、続いてパヴァニがセットアップやシミュレーションについて説明します。


    このゴンドラに関して興味深い点の1つは、その移動のしくみにあります。


    一般に「ゴンドラ」と呼ばれるこの乗り物には、帆船のような装備が施されていますが、風の力だけで推進するわけではありません。実際には、トラリム族が操るウィンドレイに牽引されて進みます。


    この乗り物は、パンドラの生物たちが環境と共存していることの表れでもあります。そこで、まずはパンドラの生物についてお話ししましょう。


    多くの生物は幻想的な姿をしていますが、そのデザインでは地球上の生物を参考にしながら、その生物の構造や進化の歴史まで感じさせる「造形的言語」を制作チームと共に模索しました。例えば、ここでご覧いただいているウィンドレイは、コウイカやエイをベースにしています。つまり、その動きには現実の生物がもつしくみが取り入れられているのです。


    その動きは、ある数式にも基づいています。エイやコウイカが泳ぐ際のメカニズムを表すもので、ヒレの波打つ速さや波の幅、生物が前進する速度などの要素に着目しています。


    ジムは、私たちアニメーターにもその法則を理解するよう強く求めました。もちろん、私たちがその全てを熟知していたわけではありません。だって、映画をつくっているのですから(笑)。しかし、ジムは「ルールを破るなら、まずそのルールを理解せよ」という考えの持ち主でした。


    中でもメドゥソイドは、巨大なガス袋をもつクラゲのような姿をしており、乗り物を浮上させます。帆で風を捉えるようなしくみになっており、波打つように動くことで推進と操舵を行います。


    アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ
    ディズニープラスで配信中
    © 2026 20th Century Studios. All Rights Reserved.

    ダン:では、ここからはパヴァニにバトンタッチして、私たちがどのようにクリーチャーや乗り物を構築・シミュレーションし、どのような結果を得たのかを説明してもらいましょう。

    <4>全長132mのゴンドラを支える編み込み構造と風のシミュレーション

    パヴァニ:『ファイヤー・アンド・アッシュ』に登場する風の商人の船団は、私たちがこれまでに構築し、炎上させ、破壊してきたものの中でも、最も複雑な構造物でした。

    その複雑さを生み出したのが、「動き」と「スケール」の2点です。

    船団を構成するウィンド・シップは、全長132mという巨大なものです。そのサイズは、2022年の『ウェイ・オブ・ウォーター』に登場した「シー・ドラゴン(Sea Dragon)」にも匹敵します。

    これらの構造物は全て、ラタンや織物、繊維を用い、ロープで結んでつくられているという設定です。メトカイナ族の村にある織物構造物も、同様の工法でつくられています。そこで私たちは、現実世界の素材を参考にしながら、それぞれの素材や構造を改めて解析していきました。

    アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ
    ディズニープラスで配信中
    © 2026 20th Century Studios. All Rights Reserved.

    パヴァニ:また、Wētā Workshopが大型模型を制作しました。この模型は、細部を写真で観察し、実際の素材や構造について学ぶ上で非常に役立ちました。現実世界で人々が素材を組み上げて建造物をつくる手法を参考にしながら、プロシージャルな手法と手作業によるモデリングを組み合わせ、様々なタイプの編み込みパターンを構築しました。

    これがゴンドラに使われる編み込み素材の基盤となりました。ただし、巨大なゴンドラのスケール感を出すには、編み込み部分をいくつかのセクションに分割する必要がありました。それらを1つの編み込み構造として統合することで、継ぎ目のない一体感をつくり出しながら、風の負荷がかかった際にも柔軟に動き、変形できるようにしています。

    こうした全ての要素が組み合わさることで、巨大なスケール感が生まれています。特に実写のスパイダーが登場するショットでは、その対比によってスケール感が明確に伝わるよう配慮しました。

    また、巨大なゴンドラに付随する細かな要素のアニメーションも課題でした。布製のストリーマーや垂れ下がったロープ、装飾布など、風を受けて揺れ動く要素が数多く存在します。これらについては、風によるシミュレーションをあらかじめ500フレーム分計算し、プリキャッシュしておく手法を採りました。

    これによって、全体の風向きを常に把握し、それぞれの動きへ反映できます。さらにゴンドラにはアトリビュートを設定し、特定の場所で風による激しい揺れを発生させられるようにしました。ゴンドラの進行方向や速度が変化するポイントに設定を配置し、タービュランスの強さなどを調整できるようにしたのです。

    こうした要素を組み合わせることで、空中を移動する巨大なゴンドラにリアルな動きを与えています。

    <5>APFSとBodyOptで進化したキャラクターアニメーション

    ダン: われわれはCGキャラクターを制作する際、実際の演者の動きや表情を可能な限り取り入れるようにしています。


    トラリム族の長、ペイラックを演じたデヴィッド・シューリスの演技は素晴らしいものでした。特にデヴィッドの演技には、口元をはじめとする顔の下半分に非常に特徴があります。この特徴を最終的なモデルにも反映することで、彼の演技を上手くCGへ落とし込むことができました。


    『ファイヤー・アンド・アッシュ』では、フェイシャルアニメーションに「APFS Tool Set」を採用しています。APFS(Anatomically Plausible Facial System)は解剖学的に妥当な顔の変形を実現するシステムで、実際の動作から得られた既知の表情ポーズのデータセットを利用します。ニューラルネットワークを組み込み、最終的な表情をつくり出すために必要なコントロールも備えています。


    ヘッドマウント型のステレオカメラリグでキャプチャしたフェイシャルパフォーマンスを基に、最終的なパフォーマンスがキャプチャデータと整合するよう調整していきます。


    さらに今回はフェイシャルだけでなく、身体のアニメーションにもニューラルネットワークを活用した「BodyOpt」と呼ばれるシステムを導入しました。


    まずアニメーションを完成させ、その上に筋肉や皮膚の動きをレイヤーとして重ねていきます。


    BodyOptの導入によって、高品質な皮膚や筋肉の変形をベイクできるだけでなく、アニメーターがMaya上で、アニメーションに伴って身体がどのように変形するのかを確認できるようになりました。これは従来の手法では実現できなかったことです。


    つまりBodyOptを活用することで、キャラクターのセットアップや変形処理にかかる作業時間を大幅に短縮し、キャラクター1体あたりの処理コストを抑えることができます。


    『ファイヤー・アンド・アッシュ』には30人の台詞のあるキャラクターについて2,500以上のフェイシャルモーションショットがあり、149種類ものユニークなキャラクターが登場します。BodyOptによって、アーティストは従来のようなエラー修正に時間を奪われることなく、よりクリエイティブな調整に専念できるようになりました。


    それでは次に、ニックから水や炎の表現についてお話ししてもらいます。


    <6>LokiとKoraで構築する物理ベースの炎

    ニック: 本作において、水の表現は極めて重要でした。巨大なクリーチャーや乗り物が数多く登場するため、それに伴って水の表現も機能を拡張し、大規模なシミュレーションに対応する必要がありました。

    一方、炎については、「アバター」シリーズを通じて、炎の矢や火炎放射器から、炎の竜巻を伴う巨大な爆発に至るまで、多彩かつ膨大なショットを処理するための新たなシステムが必要でした。

    その基盤となったのが、2019年に開発が始まった自社シミュレーションツール「Loki」です。キャンドル、たいまつ、火炎放射器といった様々な燃焼状態を対象に開発を進めました。

    燃焼モデルには、実際の燃料が燃焼する際の化学的特性を採り入れています。これによって酸素や冷却といった現象を捉え、現実の燃焼データと整合するシミュレーションを目指しました。

    また、シミュレーション、ルックデヴ、レンダリングの各部門にまたがってパイプラインを調整・管理しました。こうした検証は、研究開発のプロセスにおいて極めて重要でした。

    その上で開発されたのが、アーティストがより直感的に炎を調整できる「Kora」です。

    Koraについては先日のDigiProでもご紹介しましたが、高度な化学の知識がなくても、リアルな炎をカスタマイズできるよう設計されています。

    プリセットによって複雑な炎のシミュレーションを大幅に簡略化し、アーティストがリアルかつカスタマイズ可能なエフェクトをつくり出せます。また、Lokiのカップリング機能を利用して、液体燃料や気化したガスなどもシミュレーションします。

    さらに、自社レンダラ「Manuka」によって複雑なボリュームを処理し、効率的にレンダリングします。炎の発光には黒体放射(Black Body)を採り入れ、ケルビンによる温度設定にも対応しています。

    こうした物理ベースのシミュレーションとレンダリングを統合したツールセットによって、ジュニア・アーティストでも短時間で高度な炎表現を制作できるよう設計されています。

    <7>リアリティを支えるリファレンスと13億時間の計算

    エリック: コンピュータ上で、何かをリアルに見せるための最善の方法とは何でしょうか?

    ジムは常に、映画に登場するあらゆる要素について、最初から徹底的に取り組んでいました。植物であれ、俳優であれ、木々であれ、リアリティや技術的な整合性を得るには、何であっても「リファレンス(参考資料)」が必要不可欠だという考えです。彼はあらゆる要素を、細部まで深く掘り下げて検討していました。

    ジムにとっても、われわれにとっても、まさにそうしたディテールこそが重要なのです。キャラクターやしくみを深く検討し、理解しているからこそ、それらがしっかりと活かされていることが映画の画面から伝わってくるのだと思います。

    ……さて最後に、ちょっと興味深い数字をご紹介しましょう。

    この映画の制作に費やされたコンピュータの計算時間は、総計で約13億時間にも及びました。もしこれを単一のプロセッサで処理するとすれば、約14万2,000年もの歳月を要することになります。

    本日はこのあたりで終了とさせていただきます。ご静聴いただき、ありがとうございました。

    TEXT_鍋 潤太郎 / Juntaro Nabe
    EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada