CGWORLD vol.285の特集「6人のアニメーターに聞く CGアニメーションのワークフロー」に掲載して好評だった「CGアニメーターのための用語集」を特別にCGWORLD.jpでも公開! CGアニメーションにまつわる用語の中から日本人には馴染みの薄いものを中心にピックアップして解説する。
※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 285(2022年5月号)からの転載となります。
あ
アーク Arc
アニメーションの基本原則のひとつで、人間をはじめとする生き物の動きを表現するときに、その軌跡がアーク(孤)を描くようにすること。軌跡が直線的だと、ロボットのように見えてしまう。Mayaには、create editable motion trailというアークトラッキングの機能がある。
アクション Action
アニメーターが表現する動きは、アクションとアクティングの2種類に大別できる。基本的にアニメーターは両方できることが求められるが、人によって得意・不得意はある。アクションは学問に例えるなら物理学のようなもので、物理的に正しい動き、自然な動き、活き活きとした動き全般を指す。
アクティング Acting
キャラクターの演技のこと。学問に例えるなら心理学のようなもので、キャラクターの心の動きを、息づかい、視線の動き、手の仕草などで表現する。
アピール Appeal
アニメーション制作においては、人が眺めたいと思うもの、人を惹き付ける性質、楽しいデザイン、簡潔さ、オーディエンスに訴える力、吸引力などの意味で使う。アニメーターは、アピーリングなポーズや動きをつくることが求められる。
アンティシペイション Anticipation
アニメーションの基本原則のひとつで、キャラクターが何らかの動作を開始する直前に、逆の動作(予備動作)をすること。例えば高くジャンプする直前の深く腰を沈める動作などが該当する。予備動作を入れることで、動きにリアリティが生まれ、メインの動作が引き立つ。
イーズイン・イーズアウト Ease in・Ease out
アニメーションの基本原則のひとつで、スローイン・スローアウトとも呼ぶ。イーズアウトは動き始めでゆっくり加速させること、イーズインは動きの終わりでゆっくり減速させることを指す。等速運動を避けることで、動きに躍動感が生まれる。ものを動かすアニメーションをつくるときには、イーズイン・イーズアウトを長くするほど、より重さを感じる動きになる。
インビトゥイーン In-between
キーポーズとキーポーズの間を補間する中割のポーズのこと。手描きアニメの動画に相当する。
ウェイト Weight
重量感や、身体の重心のことを指す。キャラクターの重量感が伝わるポーズや動きをつくるためには、重心の位置を理解する必要がある。例えばキャラクターが立っている場合は、重心から地面へ垂直に伸ばした線が、必ず両足に挟まれた領域のどこかに入る。
オーバーシュート Overshoot
速い速度で動くキャラクターなどが止まるときに、本来の動きの終点より少し行きすぎてから、終点に戻って静止する表現のこと。軽くて素早い動きをつくりたい場合に適している。
オーバーラップ Overlap
アニメーションの基本原則のひとつで、動きの根元の部分と、それに追従する部分とで、動きのタイミングをずらすこと。髪、尻尾、振り子などの揺れものの表現でよく使われる。ドラッグやフォロースルーも併用する場合が多い。
か
コンタクト Contact
物体と物体が接するときに、力が伝わる部分のことを指す。力が伝わる直前のポーズはコンタクトポーズと呼ぶ。例えばパンチで壁を壊すショットであれば、壁が壊れる直前の、拳と壁が接したときのポーズが該当する。コンタクトポーズを見せることで、オーディエンスに力の伝わりを感じさせることができる。
さ
ショット Shot
映像を場面分けしたときの最小単位。日本ではアニメ業界を中心に、カットと呼ぶことが多い。なお、ショットが複数集まり、ある状況を描写した映像はシーンと呼ぶ。シーンが複数集まってひとつの物語として成立する映像はシークエンスと呼ぶ。
スクワッシュ&ストレッチ Squash & Stretch
アニメーションの基本原則のひとつで、やわらかいものを動かすときに、スクワッシュ(つぶし)とストレッチ(伸ばし)を誇張すること。いずれの場合も、質量は一定に保っておくことが重要となる。例えばボールを上下につぶすときは、横幅を広げることで質量を保つ。逆に上下に伸ばすときは、横幅を狭くすることで質量を保つ。
ストレート・アヘッド・アクション Straight ahead action
アニメーションのつくり方のひとつ。最初のフレームから順番に、1フレームずつ動きをつくっていく。ひとつ前のフレームとの差分を順番に考えていくため、滑らかで自然な動きを表現しやすい。一方で、アピーリングなポーズをつくりにくい、動きの全体像が把握できるまでに時間がかかるといったデメリットがある。
スプライン Spline
アニメーションの制作工程のひとつ。ブロッキングとポリッシュの間にあたる。ブロッキングでつくった動きをさらに調整し、ディテールを追加していく。
スペーシング Spacing
ひとつの動きを構成する一連のキーの、タイムライン上での割り振りのこと。例えば8フレームの動きを5つのキーで構成する場合、2~4番目のキーをどう割り振るかで、動きの印象が変わってくる。1番目と2番目、4番目と5番目のキーを近づけると、イーズイン・イーズアウトを表現できる。
た
タイミング Timing
ひとつの動きが始まってから終わるまでに要する時間(フレーム数)のこと。タイミングが同じでも、スペーシングを変更すれば、ちがう印象の動きになる。
タンジェント Tangent
ジオメトリ同士の位置関係を曖昧にしてしまう重なり合いのこと。例えば、手前のキャラクターの頭の輪郭と、奥のキャラクターの手の輪郭が重なり合って前後関係が曖昧になっている場合は、両者の輪郭の重なりを解消することで位置関係を明確にできる。
チート Cheat
見映えや演出を優先し、キャラクターに極端な変形を施したり、現実には不可能な高速移動をさせたりすること。背景やカメラにチートを施すこともある。
ドラッグ Drag
動きの根元の部分に対し、それに追従する部分が遅れて動くこと。
は
ファストアウト Fast out
動き始めですぐ加速させること。イーズアウトとは対照的な表現と言える。
フェイバリング Favoring
任意のキーを、別のキーに寄せること。例えばタイムライン上にキーポーズAとキーポーズBが打たれている場合に、中割のキーをAに寄せてほしいときは「Favor to A pose」と伝えたりする。
フォロースルー Follow Through
アニメーションの基本原則のひとつで、根元の部分の動きによって、それに追従する部分の動きが引き起こされる様子を表現すること。根元の部分の動きの収束と、追従する部分の動きの収束に時間差を付けることで、軽さややわらかさを表現できる。
ブレイクダウン Breakdown
ポーズAからポーズBへ移行するときに、どのような中割で動きを補間するかを決めること。ブレイクダウンの内容次第で、動き方や、やわらかさがちがって見える。
ブロッキング Blocking
アニメーションの制作工程のひとつ。ショットで伝えるべきアイデアを、シンプルかつ、クリアなかたちにして、監督やSVなどに見せる。動きのディテールは未完成でも良いが、主要なポーズやタイミングはこの段階で決めることが望ましい。ブロッキング後は、スプライン、ポリッシュと呼ばれる工程を経て、アニメーションを完成させる。
プッシュ Push
動きを印象づけるために、ポーズなどを強調すること。アニメーションの専門用語ではないが、本特集で頻出するため解説する。
ポーズ・トゥ・ポーズ Pose to pose
アニメーションのつくり方のひとつ。最初に全てのキーポーズをつくり、後で中割をつくっていく。ポーズをつくり込みやすい、動きの全体像を早い段階で把握できるといったメリットがある一方で、動きが硬くなりやすいというデメリットもある。
ポリッシュ Polish
アニメーションの制作工程のひとつ。ブロッキング、スプラインと呼ばれる工程を経た後の、最後の仕上げのこと。アークやスペーシング、イーズイン・イーズアウトなどの調整、めり込み修正などを行い、アニメーションを完成させていく。
ら
レイアウト Layout
アニメーションの前に設けられる工程。各ショットで表現すべきことを理解し、キャラクターの動線、背景との位置関係、カメラワークなどを決定していく。
[参考文献]
『Disney Animation The Illusion of Life 生命を吹き込む魔法』(フランク・トーマス オーリー・ジョンストン 著/スタジオジブリ 翻訳/徳間書店/2002)
Information
月刊『CGWORLD +digitalvideo』vol.285(2022年5月号)
特集:6人のアニメーターに聞く CGアニメーションのワークフロー
定価:1,540円(税込)
判型:A4ワイド
総ページ数:128
発売日:2022年4月8日
監修 _ 若杉 遼(CGWORLD)、TEXT _尾形美幸(CGWORLD)
EDIT_山田桃子、 海老原朱里(CGWORLD)