映画『好きでも嫌いなあまのじゃく』は、2024年5月に劇場公開とNetflixによる配信が開始されたスタジオコロリドの新作オリジナル長編アニメ。そのメイキングを全2回にわたり紹介する。
季節外れの雪が降ったある夏、男子高校生の柊は行くあてがない少女・ツムギを助けて家に泊めるが、寒さで目を覚ますと部屋中が凍りつき、雪を降らせる謎の怪物に襲われてしまう。ツムギは自身が“鬼”で、物心つく前に別れた母親を探しにきたと明かし、その願いを叶えるために2人は旅に出るというジュブナイル・ロードムービーだ。
3DCGを担当したのはチップチューン。柴山智隆監督の前作『泣きたい私は猫をかぶる』(2020)に続いてのタッグとなった。CGディレクター・さいとうつかさ氏は柴山監督の特徴を「設定から動きまでひとつひとつを細かく丁寧に演出していく方です。本作でもリアルなレンズ感を意識したり、雪が降る速度についても丁寧な指示がありました」と話す。
そうした化け物が現れる度に降る雪の表現や、気持ちを“隠し過ぎた” 人間から出てくる“小鬼”、そしてカメラマップなど、3DCGは場面演出やキャラクターの心理描写を支える部分で用いられている。全編約1,400カットに対して3DCGは約220カットで、チップチューンからは、さいとう氏のほか、主に2人のCGアーティストが担当した。
「大勢でバラバラにつくらず、ベースをつくった後でカットに合わせて丁寧に調整していくつくりを目指しました」と、さいとう氏は語る。
3DCGの本格的な制作期間は2023年1月から24年2月まで。メインツールは3ds Maxで、本作では特にプラグインのtyFlowとFumeFX、Pencil+が活躍したという。さいとう氏に作品をふり返っての感想を聞くと、「3DCGがナチュラルに溶け込んでいるようなつくりを目指しましたので、この解説記事を読んで初めて3DCGだったと気づいてもらえるくらいが自分としてはありがたいですね」と笑って答えてくれた。
3DCGで表現された立体的な雪の表現
雪が降るシーンを構築する際は、パーティクルに板ポリゴンを貼り付けた雪の粒を飛ばすのが一般的だが、柴山監督は雪を立体的に見せることへの強いこだわりがあったという。本作では距離感に応じた4種類の雪の粒のモデル×ノイズの有無の2パターンを作成。
画面手前で見せる細密なモデルはひとつが2,400ポリゴンあり、シーンによっては画面を覆い尽くすほど大量に降らせているため、全体では数百万にもおよび、カット全体の重さに苦労があったという。その後、被写界深度やボケなど、After Effectsで光学処理が施された。
雪を降らせる際には3ds Maxのプラグイン、tyFlowを使用。組み立てやすく、再キャッシュのシステムにより他カットでの再利用も可能で時短にも寄与した。また、降らせた後で編集が可能であることは演出上、特に効果的に働いた。キャラクターの目に被った粒など、画面上で不要な雪を取り除いたり、移動させたりするのが容易なこともtyFlowならでは。
FumeFXなど他のプラグインとも連携がしやすく、エフェクトのタイミングに合わせて粒子を動かすことができるなど、直感的な操作が可能なこともメリットだったという。
雪の粒のモデル
雪が地面や屋根に触れると溶ける設定
長尺カットでは、雪が屋根や地面に接触した後で消滅させている。降らせたままだと処理が重くなってしまったり、突き抜けが画面上で不自然に見えるためだ。処理としては、地面に衝突したと同時に色を透明にして、現実における「雪が溶ける」様子を表現し、不自然に見えないようにされている。
花火も3DCGで立体的に表現
雪と同じく、柴山監督が立体感にこだわったのが打ち上げ花火の表現だ。アニメでは平面的なエフェクトで処理されることが多いが、本作では3DCGで制作することで、リアリティのある花火のパース変化を表現した。
(2)に続く。
CGWORLD 2024年10月号 vol.314
特集:3Dビジュアライゼーションの最前線
判型:A4ワイド
総ページ数:112
発売日:2024年9月10日
価格:1,540 円(税込)
TEXT_日詰明嘉 / Akiyoshi Hizume
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
EDIT_海老原朱里 / Akari Ebihara(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada