映画『好きでも嫌いなあまのじゃく』は、2024年5月に劇場公開とNetflixによる配信が開始されたスタジオコロリドの新作オリジナル長編アニメ。そのメイキングを全2回にわたり紹介する。

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    関連記事:3DCGによるエフェクトやカメラマップが作品の世界観を支える、映画『好きでも嫌いなあまのじゃく』(1)~立体的に表現された雪・花火篇

    ※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 314(2024年10月号)からの転載となります。

    映画『好きでも嫌いなあまのじゃく』
    Netflixにて世界独占配信中
    監督:柴山智隆/脚本:柿原優子・柴山智隆/キャラクターデザイン:横田匡史/配給:ツインエンジン・ギグリーボックス/企画・製作:ツインエンジン/制作:スタジオコロリド
    www.amanojaku-movie.com

    カメラマップが表現を支えたカットの数々

    左より、CGディレクター・さいとうつかさ氏、CGアニメーター・荒磯沙也加氏(以上、チップチューン)

    「カメラワークを付けたいと相談されたときはいつも、『カメラマップでいきましょう』と答えているんです」と話す、さいとう氏。それは本作に限らず、過去のスタジオコロリドの作品においても同様だという。その理由について「コロリドさんの美術は絵が綺麗なので、展開してしまうと、どうしても繋ぎ目や角が目立って3D感が出てしまいます。それにカメラマップの方が美術さんが描きやすいと思うので」と語る。

    本作でも主にさいとう氏とCGアーティストの荒磯沙也加氏で分担し、大小を問わず回り込みのカメラワークやアングルが大きく変わるカットがカメラマップで表現されている。特に物語上のキーになる、柊とツムギが襲われ家のベランダから飛び降りるカットでは、背中を追うような主観映像がカメラマップを駆使して表現され、強いインパクトを与えた。

    また、2人が紅花畑を見つけて感動するカットではキャラクターの心情に合わせた大胆なカメラマップを使って演出。ほかにも美術モデルから制作した天守閣のカットや、デジタル作画のキャラクターと合わせたスノーモービルのカットなど、カメラマップの組み立ても様々だ。

    柊の部屋を漂う3DCGで表現した小鬼

    柊が鬼たちの守り神“ユキノカミ”に襲われるカット。宙に浮かぶ小鬼は8パターン×3(口なし・口開き・口閉じ)の24種類あり、グループ化して全体にノイズをかけてtyFlowで漂わせた。ユキノカミに影響された動きをする小鬼は、ユキノカミのラフ原画をもとに当たり判定用のアニメーションを作成した。「tyFlowでパーティクルを配置しましたが、キャラクターに被ったときにすぐに消すことができたのには助かりました」(さいとう氏)。

    • ▲小鬼のCGモデル
    • ▲小鬼のレンダリング画像
    • ▲小鬼の配置画面
    • ▲FumeFXの作業画面。煙はFumeFXを使用(画面手前で演技している煙は作画)。ユキノカミの動きに合わせて煙を巻き込んでいる
    ▲小鬼の動きをFIXさせた状態

    ユキノカミに襲われベランダから飛び降りる柊とツムギ

    カメラワークが複雑な動きをしているためCG先行で作られたカット。コロリドの美術班から提供された部屋のCGモデルをベースに、カメラワークと作画参考用のキャラクターアニメーションを作成した。キャラクターは扉を開ける際など複数個所で移動が止まる芝居を挟むため、カットとしての構成を考える際に時間を要したという。その後、作画用キャラクターのガイドと、テクスチャ用にカメラマップ原図を出力。美術を貼り、小鬼、雪を別カットと同じくtyFlowを使用して配置して完成。

    ▲キャラクターCGアニメーション。「部屋の中を走り、扉を開け、サンダルを拾い、ジャンプして落ちる」と、芝居が多い
    ▲背景原図。3方向からのカメラを配置して、3枚のBGを描いた。制作する上では3つのカメラでひとつのシーンをつくるようなイメージだったという
    ▲カメラマップの完成画像
    ▲完成したカメラマップにラフ原画を乗せた状態

    180度近くカメラが動く紅花畑のカメラマップ

    作中でも特に印象的な柊とツムギが紅花畑にたどり着くカットは、180度周り込み、最後にトラックバックを行うカメラマップで表現された。柊とツムギは3DCGで作画ガイドを出し、背景は「前半アングル・中盤の真横位置・ラストフレーム近くのアングル」の3つのカメラ素材(+空素材)からカメラマップがつくられた。さらに、背景はBOOK分けが多用されている。美術側もディテールの細かさを模索し、仮で貼って描き加えてをくり返したという。

    ▲カメラマップ用のCGモデルと、カメラワーク・BOOK分けを示した図
    ▲真横位置から見た背景原図
    ▲非常に多くBOOK分けがされた2D背景の一例。遠景に見える背景の部分は情報量を減らしている
    ▲3Dパート完成画

    ツムギが走り抜けていく電車内

    このカットに限らず、内装は全て2D美術で描かれているため、ツムギが電車内を走るこのカットでもカメラマップが採用された(電車外は通常の2D美術をトラックアップしている)。原図は3種類だが、吊り革や手すりが含まれているため、車内だけで45レイヤーに分かれている。これは展開図を描くよりもBOOK分けをした方が描きやすいため。とはいえ、美術側の負担が大きいカットだったという。座席も手前と奥で細かく分けられている。なお、色は異なるがこの電車は山形県に実在するもの。

    ▲背景原図の最も引きの状態・最も寄りの状態・真俯瞰した床面マップの3種類
    • ▲2D背景
    • ▲画面右に45レイヤー分の表示が見える
    ▲カメラマップ完成画面にラフ原画を乗せたもの

    カメラマップで表現された天守閣の回り込み表現

    天守閣は絵コンテの時点ですでにカメラマップで回り込んで見せることが指示されていた。天守閣自体はレイアウト用の美術モデルがあったため、設定に合わせて雪や柱などを追加したモデルを制作。カメラが回り込む側面の絵と、正面の絵を用意してもらい、2方向からのカメラマップで貼り付けが行われた。このカットでは雪はもちろん、建物内を走るモブキャラクターも3DCGで制作されている。

    • ▲絵コンテ……
    • ▲「天守閣空撮。回り込みながらカメラで降りていって天守閣までカメラマップ」と書かれている
    • ▲美術モデル
    • ▲CGモデル
    ▲回り込みのアニメーション
    • ▲天守閣の素材分けの一例
    • ▲建物や背景など、全部で40もの素材に細かく分類されている
    ▲3Dパート完成画。雪も多く降っており、非常に重たいカットとなった

    3DCGのスノーモービルに作画キャラクターを乗せる

    スノーモービルに乗って移動するカット。完成画面において3DCGで表現されているのはスノーモービルだけだが、作画用にCGガイドがつくられている。キャラクターの仮モデルを置いてスノーモービルと共に動きをつけた後、アニメーターにガイドとして渡し、搭乗するキャラクターを作画する。スノーモービルはセルと3DCGを重ねる部分が多く、素材はパーツごとに細かく分けて出力された。なお、スタジオコロリドは作画作業をデジタルで行なっているため、組みズレは発生しなかったという。

    そのほか、背景はスタジオコロリドから提供された仮背景モデルを使用し、カメラワークのシミュレーションを行なった後、背景原図として出力し、それに対して美術スタッフが2D背景を描いている。

    • ▲スノーモービルのCGモデル
    • ▲スノーモービルのレンダリング画像
    ▲作画ガイドの一例。2台のスノーモービルを追うようにカメラワークするため、下手(しもて)から上手(かみて)へのPANをくり返す
    ▲3Dパート完成画

    柊やツムギを襲うユキノカミ

    作品の随所で柊やツムギを追い回すユキノカミ。化け物のように見えるが、前述のように実際は鬼たちが住む隠の郷(なばりのさと)の守り神だ。作品後半で大量に登場するユキノカミは3DCGで表現された。

    • ▲ユキノカミのモデル
    • ▲ユキノカミのレンダリング画像
    ▲3ds Maxの作業画面。 3D背景内を手前に走ってくるツムギの作画ガイドと、画面奥のユキノカミの仮モデルが表示されている
    ▲3Dパート完成画。画面手前の大きな2体のユキノカミは作画で表現されたもの

    オリジナルのバッチレンダリング用スクリプト「RenderSize」

    最後に紹介したいのが本作の制作でも活躍した、ひとつのカットに対して複数の3Dレイアウトを出すことができる、チップチューンのオリジナルのバッチレンダリング用スクリプト「RenderSize」。コンテを切り出した画像が入っているパスを指定することにより、画像の名前と解像度のカメラとバッチが組まれる。

    また、ツール上でカメラを選ぶことにより、解像度、バックグラウンドが自動に切り替わり、ひとつのシーンファイルで複数のレイアウトを出すことができるので、作業時間も短縮された。書き出し時にアイレベルをレンダリングすることも可能。これによってカットごとにシーンをつくるのに比べ、効率よく作業をすることができたという。

    CGWORLD 2024年10月号 vol.314

    特集:3Dビジュアライゼーションの最前線
    判型:A4ワイド
    総ページ数:112
    発売日:2024年9月10日
    価格:1,540 円(税込)

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    TEXT_日詰明嘉 / Akiyoshi Hizume
    PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
    EDIT_海老原朱里 / Akari Ebihara(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada