コロナ禍の直前となる2019年、実写映像のディレクター藤 祐輔氏とCGディレクターの金 尚謙氏が起ち上げた2H(ニエイチ)。「Nike Air Max day 2022」や「Google Pixel」の3D OOH映像の制作をはじめ、ファッションや音楽など多様なカルチャーに関わるクリエイティブを手がける、新進気鋭の映像デザインカンパニーである。
最新技術を駆使したデザイン性の高いプロジェクトの3DCG/VFX制作を中心に、現在その知名度が向上している。平均年齢25歳、スタッフ数10名でデザイン性の高いクリエイティブを世に送り出す同社だが、今年は5名のキャリア採用を予定している。(詳しい求人情報はこちら)ここでは、ニエイチの中核を担う3名に、同社の歩みと今後の採用について話を伺った。
INTERVIEWEE
1.創業者の二人は旧知の仲、ニエイチ設立の経緯
CGWORLD(以下、CGW):今日はよろしくお願いします。まずは自己紹介をお願いします。
藤 祐輔(以下、藤):ニエイチの代表取締役であり、実写ディレクターも務めている藤です。
金 尚謙(キム・サンギョム、以下、金):CGディレクター/CGアーティスト/デザイナーの金です。CG歴は15年ほどで、職歴はルーデンス、トゥエンティイレブン、カプコン、そして現職(ニエイチ)です。
八木敦也(以下、八木):2022年新卒入社、今年で3年目の八木です。エディターやCGデザイナーを中心に、最近ではプロジェクトリーダーや、ディレクターの案件も任せてもらっています。
CGW:ニエイチ設立の経緯を教えてください。
藤:元々、僕と金は小学校のサッカーチームが一緒だったんですが、高校で同じクラスになったので、当然仲良くなりまして(笑)。卒業後は別々のルートに進みましたが、どちらも映像に関わる仕事で共通点がありました。それで、2019年に、金から一緒にクリエイティブな仕事がしたいと誘われて、ニエイチを設立したんです。
CGW:なるほど。藤さんと金さんのおふたりが創立メンバーなのですね。起ち上げ当初はどんなお仕事を?
藤:僕は大阪を拠点に活動していて、金は東京を拠点にしていたので立ち上げた当時は2拠点でスタートしました。今は東京拠点がメインオフィスです。僕は大阪の撮影案件や編集案件をこなしつつ、一部3DCGが必要な箇所を金にお願いするといった流れでした。金の方では3DCGだけで完結する案件が中心でした。その頃はメーカーの商品紹介や製薬会社の機能説明の映像制作などが多かった印象ですね。
CGW:ニエイチのカルチャーを一言で表すと何ですか?そしてその理由は?
藤:“堅苦しいことはひとまず置いといて、とにかく仲間と一緒に全力で仕事を楽しむ”ですね。ニエイチを立ち上げる際に「会社っぽくしたくないね」という理想が2人の中で共通してありました。最低限のルールだけあればあとは自由に制作に没頭できる空間にしたい!という想いがありました。
「会社」というよりは、「工房」のようなイメージですね。枠を決めきらず個々人が制作を主体的に楽しめる環境にすることを重視する方が、最終的に「ニエイチらしいクリエイティブ」にもつながるかなと。スタッフもそういったマインドの方々が集まってくれてると思ってます。もちろん人が増加するにつれて一定のルールはどうしても必要になってはきているんですが(笑)。
2.話題となったナイキの3D OOHをはじめこれまでの作品を振り返る
2-1.“MAX到绝” NIKE AIR MAX DAY 2023 CHINA
CGW:ニエイチさんと言えば、ナイキの3D OOH(Out Of Home、屋外広告や交通広告の総称)。あのクオリティーには驚かされました。
金:2022年は新宿、2023年は中国の3D OOHをやらせていただいて。経緯としては、CEKAIの井口皓太さん※とルーデンスさんが組むことが多い関係で、ルーデンスさんからニエイチにCGとVFXのお話を頂いたというながれです。CGの自由度も高く、グローバルレベルでインパクトを残した作品ですから、ニエイチにとっても大きな意義がありました。当時、3DのデジタルOOHをやっている会社は少なかったこともあって、これがきっかけでOOHを含むファッション案件が増えたんです。
金:スケジュールは1ヶ月半ほどで非常にタイトでした。演出が複雑でセットも多く、3DCGとしては大変でした。しかし、井口さんのクリエイティブなアイデアには毎回新しい学びがあり、制作自体非常に楽しかったです。
CGW:井口さんのアイデアのどういったところに刺激を受けましたか?
金:アートとしてのアニメーションの気持ち良さ、テンポ感、リズム感、トランジションの格好良さですね。プリビズの時点でタイミングがきっちり決めてあるので、井口さんの演出の意図を汲んで、その格好良さをCGに落とし込むのが僕らの仕事でした。ルック周りはルーデンスさんとニエイチに一任してくださいました。
CGW:八木さんもクレジットされていますね?
八木:入社1年目でしたが携わらせていただきました。「こんな良い機会は逃せない!」と思ってひたすら手を挙げたんです(笑)。
金:新宿のOOHのほうは、完成直後、井口さんが動画を見返しながらお酒を飲んでいたそうです。制作者でさえも純粋に娯楽として楽しめる作品に仕上がったんだと、感慨深かったですね。
2-2.NETFLIX 攻殻機動隊 SAC_2045 OP
CGW:次は2020年公開の『攻殻機動隊 SAC_2045』オープニングですね。
金:今見ると、液体のメッシュの粗さなどが目についてしまいます……。当時はニエイチを設立したばかりで、CGデザイナーはほぼ僕ひとり、スケジュールもタイトという状況でした。チームとしての体制、実績が整ってきたからこそ思えることですが、今ならもっといい作品にできるなと感じてしまいますね。
CGW:モデルはフルスクラッチですか?
金:素子のモデルは支給で、それ以外をイチからつくりました。ただ、僕しかいなかったので時間がなく、パーツ単位でのモデリングとレンダリングは外部の方にお願いして、なんとか間に合わせた感じですね。
藤:金からこれをやることを聞いて、すごい単語が3つ(Netflix、攻殻機動隊、オープニング)も並んでいて、興奮しました。でも私は当時大阪で何もできなかったので応援だけ(笑)。
CGW:八木さんはこのオープニングを見て入社を決めたんですよね?
八木:はい、特に最後の飛び込むシーンが印象的でした。でも、まさかほぼ金さんひとりでつくってるとは思わなかったです(笑)。30人ぐらいで手分けしてつくったのかと(笑)。
2-3. 「Shunbi - 旬美 -」
CGW:次は2021年、化粧品ブランドのTVCMですね。
藤:これは、僕が大阪で活動していた縁で直接クライアントさんからいただいたお仕事です。演出プランからキャスティング、美術、撮影、3DCG、編集まで全部ニエイチでやりました。
金:3DCGは後半の商品カットで使っていて、実写との馴染みと、シャンプーの液体の綺麗さに気を遣いました。
CGW:プリプロから納品までどのくらいかかりましたか?
藤:だいたい2~3ヶ月です。僕はずっと、イチから納品まで全部をやれる案件をやりたいと思っていたので、念願が叶った案件ですね。責任を感じつつも自由に楽しくやらせてもらいました。
CGW:実写とCGの両方を社内で制作できる体制だからこそ、ですね。
藤:CGチームが近くにいることの社内的なメリットは日々感じていますし、対外的にも、規模は小さいですが実写撮影に対応できることで話が広がる場面も多々あります。
金:CGチームとしても、撮影前に相談しやすいというメリットがあります。CGがヘビーになりそうなカットを実写に回してもらったりとか、バジェットの割り振りでどっちが良いか考えたりとか。
実写チームが社外の場合、ビジネス上の落としどころを踏まえた対応が必要になる場面もあると思いますが、社内なら気楽に話し合えます。ビジネス的な論理が作品の最終的なクオリティアップの枷になりにくい体制だと感じています。
八木:僕としても、初めから俯瞰してCGと実写どちらも経験できる環境はありがたいです。視野が広く持てて、実写での気付きをCGに活かしたりもできますから。
藤:実写は時間軸に沿った横方向の考え方なのに対して、CGはそのカットのつくり込みに集中するもの。将来的にディレクターを目指すなら両方経験しておくのが望ましいですね。
2-4. Kinetic Frames
Kinetic Frames by KOTA IGUCHI from CEKAI on Vimeo.
CGW:続いては『Kinetic Frames』。こちらはCEKAIの井口さんの案件ですね。
金:時系列としては『攻殻機動隊 SAC_2045』の後に手がけた案件で、初めてCEKAIさんとした仕事です。8本の帯にちがうシーンが映る特殊な構造ですが、実は同じシーン内に全てが存在していて、8つのカメラが動いているんです。
CGW:それはすごい。
金:印象的だったのは、井口さんがグラフィックデザインの視点からディレクションをされたことです。特にフォトリアルなCGをつくっていると、いかに自然に見せるかにこだわるので、いろんなもののレイアウトをランダムにしたくなるんです。でもこの案件では、デザインの視点から意図的にシンメトリーや整列を多用しています。
CGW:さすがCEKAIさん。
金:これ以降、CEKAIさんからはいつもチャレンジングな案件でご一緒させていただいていて、とても刺激を受けています。僕としては、世界のトップクリエイターのひとりからデザインを教えてもらっている感覚です。
CGW:全部が同じシーンに存在しているとなると、修正対応は大変そうですね。
金:ワンカットで尺が長かったので、修正してレンダリングするのに毎回時間がかかりました。また、カメラがそれぞれ動いているので、映ってはいけないものが映ってしまう瞬間もあったりで、調整が必要でした。画としては、人物のモデルは3Dスキャンベースでリアリティが担保されているので、それに負けないような背景にしようと頑張りました。
2-5. CES 2023 HYUNDAI
CGW:次はCES 2023(世界最大のテクノロジー見本市)、HYUNDAIブースのお仕事ですね。
藤:未来の電力船で、クリーンエネルギーの技術プロモーションです。これもCEKAIさんからのお仕事で、ルーデンスさんと分担して3DCGの制作を担当しました。
金:机をディスプレイとして、そこにプロジェクションするCG映像を制作しました。これはいつも手伝ってもらっているフリーランスの方にCGディレクターとして立ってもらって、ニエイチの枠組みの中でディレクションと作業を担当してもらいました。
CGW:展示の様子を見ると、結構複雑そうですね。
金:見え方を確認する機会がないまま想像でつくる必要があって、だいぶ苦労しました。ロボットのアームと接続されたディスプレイが動く部分はルーデンスさんが担当していて、かなり大変だったと聞いています。
「MIXI Office Entrance LED」 CHRISTMAS INSTALLATION
CGW:次はMIXIのオフィスエントランスLED映像です。
藤:MIXIさんのエントランス壁面部分に設置されている横幅24m×高さ2.8mの巨大LED(約16K)に、クリスマス期間限定のスペシャル映像を出したいという依頼がありまして。CG表現をニエイチでやらせてもらいました。
金:僕が別案件で作業が十分にできなさそうだったので、フリーランスの方にCGのアートディレクターとして入っていただいて進めました。制作期間は約2ヶ月ですね。
藤:インパクトの強いビジュアル表現を手掛ける事が多いニエイチとしては、珍しくストーリー性のある心が温まる映像案件でした。ルックを含めて良い挑戦ができましたし、新しい領域が開拓できたなと思っています。
金:とにかく画面が大きかったです(笑)。最終的に16Kぐらいになりましたから。
3. 携わる案件とチーム構成の変化
CGW:案件の振り返り、ありがとうございました。この5年間でどのくらいの作品に携わりましたか?
藤:だいたい100~150件ぐらいでしょうか。特に会社設立初期は、1~2週間で終わらせるワンカットだけの仕事などもありましたが、少しずつ大きめの案件が増えてきています。
金:規模感としては1~2ヶ月のものが中心ですが、今はそれよりも長めの、半年ぐらいかける案件なども出てきています。
藤:そうした変化に伴って、いただく案件の性質も、よりクリエイティブに力を入れやすいタイプのものに変わってきています。
4. キャリア採用の実施、5名を採用予定
CGW:スタッフはどのくらい増えましたか?
藤:2019年創業時が2人で、2022年が5名、2023年に一気に10名に増やしました。去年採用した5名は新卒でした。
CGW:5年間で人数も増え、携わる案件の質も量も変化する中、理想としているカルチャーを作る上で大事にしていることは何ですか?
藤:“何か解決したいことがある場合は本人ときちんと話し合って決める”というルールは大事にしていますね。当たり前ですが、チームで動いていく以上、メンバー同士気になることや、変えてほしいことが互いに発生するのは自然な現象だと思います。しかし感じていることを素直に伝えることは意外と難しいと思います。「険悪な雰囲気になるくらいなら何も言わないでおこう。」って諦めてしまうことも多いと思います。
でも、それだと相手や会社に対して鬱積した感情を解放できないまま仕事をすることになり、本来のチームの力を発揮できません。「良いものを作りたい」というゴールは一緒だと互いが理解していれば、道中で例え意見がぶつかったとしても関係性が崩れることは少ないと思います。そして、その後お酒でも飲みながらくだらない話をすればより一層強固な関係性に塗り替えられるんじゃないかと思ってます(笑)。
将来的には事務所の中で音楽作ってたり、アパレル立ち上げたり、家具職人がいたり、プログラミングやってたり、そんなつくることに夢中な人が業界、社内外関係なしに集まる場にしていきたいですね。
CGW:若手のみなさんは、会社を選ぶ際、どのような点を重視していましたか?
八木:独学で学んでいたこともあって、就職活動では、自分に合った職種を探るために多様な仕事を体験できる環境を重視しました。ニエイチのworksは実写、CG、アニメなど幅広いジャンルを扱っており、創業間もないことから独学出身の私にもチャンスが多いと感じ、就職を決めました。
宮坂:会社選びでは、内部の雰囲気と作品に魅力を感じるかを重視しました。ニエイチでは社員同士の年齢が近く、気軽に相談できる風通しの良い環境があり、楽しそうに働く姿が魅力的でした。また、NIKEの立体広告に関わっていた経験も魅力的で、3DOOHのダイナミックな表現技術やアプローチを学びたいと思い、ニエイチを選びました。
山中:『攻殻機動隊 SAC_2045』のOP制作を担当していたことに興味を持ち、ニエイチに応募しました。インターンを経て正社員となり、職場の雰囲気が自分に合っていること、企画段階から関われる案件によって実制作の分野だけでなく、他の領域でも成長できると感じたからです。
CGW:好きなコンテンツ、影響を受けたコンテンツ(映画、アニメ、ゲーム、MVなど)を教えてください。
八木:ManvsMachine 『VERSUS』です。会社の先輩から教えていただき知りました。知った当初はCGを学び始めたばかりでしたので、CG作られた動物のクオリティや後半の有機的な表現の面白さに衝撃を受けたことを覚えています。
VERSUS from ManvsMachine on Vimeo.
宮坂:新海誠監督の『君の名は』、『天気の子』、『言の葉の庭』や『キングダムハーツ』、『FF14』のようなゲームの映像が本当にきれいで、今の私がCGを作るときの基準になっています。なぜこのモデルをつくるのか?なぜこのようなアニメーションになっているのか?など調べたり、考察する過程で多くの学びがありました。
山中:アニメやサブカルチャーの映像に影響を受けています。クリエイティブ業界に入りたいと思ったのは、『ガンダム00』を見たことがきっかけです。最初はイラストやセルアニメに興味があったんですが、2015年のアニメ(ーター)見本市でアニメとCG、モーショングラフィックスが混ざった作品を見て、映像全般に興味が広がりました。
CGW:今後の採用はどのように行う予定でしょうか?
藤:今年は方針を大きく変えて、キャリア採用を軸にしようと考えています。まずは5名ほどの採用で制作体制を強化したいと考えています。
CGW:どんな人材の採用を考えていますか?
金:プロジェクトリーダーやCGディレクターの経験があれば言うことなしですが、そうでなくても、プロジェクト全体を見る仕事に興味があるとか、全体を考える習慣のある人材に来てほしいですね。というのも、今はそのポジションができるのが僕しかいなくて、案件が詰まってくるとなかなか大変なんです。
藤:そうですね。ひと言で言えば「任せられる方」を採用したいと考えています。専門的なポジションとしては、今ニエイチにはコンポジターがいないので、もしコンポジットを専門でバリバリやっている方がいたらぜひ!とも思っています。案件としても、新しい人材の力を借りながら、これまでニエイチが手がけてきていない領域にまで仕事を拡げていきたいですね。
CGW:最後にひと言ずつ、今後の抱負など伺わせてください。
八木:まだ3年目なのに、本当に大小、ジャンル問わずいろんな領域の仕事をやらせてもらっています。でも同時に、自分の力のなさを痛感して悔しい思いもしているので、個人としても組織としても強くなれるように努力して、案件に対して自分の力が釣り合うようになりたいと思います。
金:設立当初は「自分がなんとかしなくちゃ」という思いでずっとやってきました。でもここ最近仲間が増えてきて、彼らの成長や前向きな会社の変化を楽しんでいますし、これからも期待しています。
藤:設立からの5年をふり返ると、毎年毎年がちがう1年だったなと思います。ただ、どの年も楽しみながら、人と人で変えていくことに重きを置いてきました。これからもそこは変えずに会社を大きくしていきたいと考えています。
CGW:これからも面白いお仕事に期待しています。ありがとうございました。
TEXT_kagaya(ハリんち)
PHOTO_弘田充
INTERVIEW_池田大樹(CGWORLD)
EDIT_中川裕介(CGWORLD)