2024年1月に劇場公開された『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』。数あるガンダムシリーズ劇場公開作品の中でNo.1の興行収入を達成し、ファンの間でも盛り上がりを見せている。
今回はバンダイナムコフィルムワークスのCGチームに取材。ここでは戦艦の制作とセットアップ、ライティングを紹介していきたい。
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作画と3DCGの長所を融合したセットアップ&ライティング
本作の目標はあくまで「TVシリーズのSEEDの印象」のまま視聴者に観てもらうこと。そのため、MSのモデリングやアニメーション以外にも様々な工夫が凝らされている。戦艦のモデルはMSよりも巨大かつ緻密でメッシュも段違いに多い。戦艦ミレニアムの質感づくりではテクスチャを乗せるのではなく、大量の素材を複雑に重ねて合成する手法で表現した。
MSのセットアップについて、CGモデル リードセットアップの宮脇敬太氏は「モデルのもともとのポテンシャルを活かし、かつアニメーターが触りやすいリギングが求められました。誇張ポージングをすることが多い作品だったので、間をつなぐのが全体的に難しかったです」と語る。
今回、チャレンジングだったことを尋ねると「影付け」が挙がった。これはMSがアップになるキーショットにおいて、CGモデルに対して作画的なアプローチのライティングをするもの。テストをくり返し、MSのポリゴンの面ごとに、作画の影指定を基に色を配置し直すことで、通常のテクスチャでは出せない迫力を表現する手法を確立した。工数がかかる方法だが、CGカットの約半数でこの影付けが行われている。
スケール感を質感で表現した新造戦艦「ミレニアム」
本作で新たに登場した新造戦艦「ミレニアム」。櫛田氏は質感を入れつつセルルック調の印象を損なわないように表現するのに悩んだと語る。
「スケール感を表現するためにテクスチャ表現をしたかったのですが、形状が複雑かつパーツ(オブジェクト)数も多くUV展開することにコストがかかりすぎるので、アンビエントオクルージョン(以下、AO)、メタルハイライト、影中のノーマルカラーなど複数素材を用意し、After Effects(以下、AE)上で合成しています。AOなどはレンダリング時間節約のためにオートでUV展開をし焼き込んで、レンダーエレメント出力で対応。影中ノーマルカラーはポリゴンで表現しました。その他の戦艦にもほぼ同じ使用で作成しています」。
劇場版に向けてディテールアップしたアークエンジェル
TVシリーズから登場している強襲機動特装艦「アークエンジェル」。本作ではディテールを高め、合成素材をAE上で複雑に重ねることで重量感のある質感表現を実現した。影中の色はポリゴンで直接マスクを切って、それをレンダリングしてからノーマルカラーを上に乗せている。そのほか、MSでは使用しなかったAOを入れることでスケール感を出している。
多種多様なポージングに対応するMSのセットアップ
リグのベースには3ds Maxの標準プラグイン「CAT」を使用。本作は、TVシリーズの表現に近づける意図から、見映え優先でパーツの大きさや形状を細かく調整するカットが登場する可能性があった。そのため、あらかじめ各パーツに細かくコントローラを追加しておき、リグだけでパーツの微調整に対応できるよう準備した。
作画の作法をポリゴンベースで再現した「影付け」
作画アニメに倣った「影付け」処理のながれ。まず作画スタッフがハイライトや影色を指定し、それに合わせてCGモデルのポリゴンをカットして、指定に合わせて仮色を置く(スプリッター素材)。そして色ごとにマスク分けを行い、AEで色彩設定の色と入れ替えて合成する。
本作MSのCGモデルは作画調のテクスチャで設計してあるため、工夫次第では3Dカメラだけでも作画らしい画面にできる。ただし、MSがアップになる見せ場のカットについては、「影付け」の手法をカットバイ(手付けの調整)で行い、作画レベルの迫力を演出するようにしている。
CGWORLD 2024年4月号 vol.308
特集:アニメ『アイドルマスター シャイニーカラーズ』
判型:A4ワイド
総ページ数:112
発売日:2024年3月8日
価格:1,540 円(税込)
TEXT_日詰明嘉 / Akiyoshi Hizume
EDIT_海老原朱里 / Akari Ebihara(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada