2024年1月に劇場公開された『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』。数あるガンダムシリーズ劇場公開作品の中でNo.1の興行収入を達成し、ファンの間でも盛り上がりを見せている。

今回はバンダイナムコフィルムワークスのCGチームに取材。ここでは戦艦の制作とセットアップ、ライティングを紹介していきたい。

記事の目次

    ※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 308(2024年4月号)からの転載となります。

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    『機動戦士ガンダム SEED FREEDOM』
    企画・制作:サンライズ/原作:矢立 肇、富野由悠季/監督:福田己津央/制作:バンダイナムコフィルムワークス/配給:バンダイナムコフィルムワークス、松竹
    www.gundam-seed.net/freedom
    © 創通・サンライズ

    作画と3DCGの長所を融合したセットアップ&ライティング

    本作の目標はあくまで「TVシリーズのSEEDの印象」のまま視聴者に観てもらうこと。そのため、MSのモデリングやアニメーション以外にも様々な工夫が凝らされている。戦艦のモデルはMSよりも巨大かつ緻密でメッシュも段違いに多い。戦艦ミレニアムの質感づくりではテクスチャを乗せるのではなく、大量の素材を複雑に重ねて合成する手法で表現した。

    左より、CGアニメーション/CGモデル リードセットアップ・宮脇敬太氏、CGリードアニメーションSaha Jirayudul/サハ ジラーユデュン氏、CGアニメーション メインディレクター・佐藤光裕氏、CGモデリング メインディレクター・櫛田健介氏、CGアニメーション/CGエフェクト リードアーティスト・吉田 元氏
    (以上、バンダイナムコフィルムワークス

    MSのセットアップについて、CGモデル リードセットアップの宮脇敬太氏は「モデルのもともとのポテンシャルを活かし、かつアニメーターが触りやすいリギングが求められました。誇張ポージングをすることが多い作品だったので、間をつなぐのが全体的に難しかったです」と語る。

    今回、チャレンジングだったことを尋ねると「影付け」が挙がった。これはMSがアップになるキーショットにおいて、CGモデルに対して作画的なアプローチのライティングをするもの。テストをくり返し、MSのポリゴンの面ごとに、作画の影指定を基に色を配置し直すことで、通常のテクスチャでは出せない迫力を表現する手法を確立した。工数がかかる方法だが、CGカットの約半数でこの影付けが行われている。

    スケール感を質感で表現した新造戦艦「ミレニアム」

    本作で新たに登場した新造戦艦「ミレニアム」。櫛田氏は質感を入れつつセルルック調の印象を損なわないように表現するのに悩んだと語る。

    「スケール感を表現するためにテクスチャ表現をしたかったのですが、形状が複雑かつパーツ(オブジェクト)数も多くUV展開することにコストがかかりすぎるので、アンビエントオクルージョン(以下、AO)、メタルハイライト、影中のノーマルカラーなど複数素材を用意し、After Effects(以下、AE)上で合成しています。AOなどはレンダリング時間節約のためにオートでUV展開をし焼き込んで、レンダーエレメント出力で対応。影中ノーマルカラーはポリゴンで表現しました。その他の戦艦にもほぼ同じ使用で作成しています」。

    設定画。メカニカルデザインは山根公利氏
    • バランスラフモデル
    • CG形状FIXモデル
    AOや影面のノーマルカラーディテール、マーキングなどを追加したチェック画像

    劇場版に向けてディテールアップしたアークエンジェル

    TVシリーズから登場している強襲機動特装艦「アークエンジェル」。本作ではディテールを高め、合成素材をAE上で複雑に重ねることで重量感のある質感表現を実現した。影中の色はポリゴンで直接マスクを切って、それをレンダリングしてからノーマルカラーを上に乗せている。そのほか、MSでは使用しなかったAOを入れることでスケール感を出している。

    • TVシリーズにおけるアークエンジェルの設定画。デザインは山根氏
    • TVシリーズの設定画をディテールアップした劇場版の設定画。線の数が桁違いで情報量を高めていることがわかる。ディテールアップ版は禅芝氏によるもの
    • バランスラフモデル。全体のバランスシルエットをほぼ確定した状態
    • CG形状FIXモデル。形状を整えつつ、ディテールやギミック構造を追加した状態
    CG質感FIXモデル。AOや影面のノーマル色ディテール、マーキングなどの質感表現を追加した状態

    多種多様なポージングに対応するMSのセットアップ

    リグのベースには3ds Maxの標準プラグイン「CAT」を使用。本作は、TVシリーズの表現に近づける意図から、見映え優先でパーツの大きさや形状を細かく調整するカットが登場する可能性があった。そのため、あらかじめ各パーツに細かくコントローラを追加しておき、リグだけでパーツの微調整に対応できるよう準備した。

    • ライジングフリーダムガンダムのセットアップ(ベースのCAT部分)
    • 調整用のコントローラ
    • ライジングフリーダムの顔周りのセットアップ。パーツごとに移動したり変形させたりなど自由に調整することができる
    • 各パーツをリグを使って動かした画像。パーツを伸ばしたり、パーツを外したりなど自由に調整を行うことができる
    ズゴックのセットアップ。ベースの体部分はCAT、背中のバックパックは着脱式のためCATを使わずセットアップされた
    • デスティニーガンダムSpecIIのバランス調整前
    • バランス調整後。特に胴体部分を誇張して伸ばすことで画に力強さを出し、見映えを良くしている

    作画の作法をポリゴンベースで再現した「影付け」

    作画アニメに倣った「影付け」処理のながれ。まず作画スタッフがハイライトや影色を指定し、それに合わせてCGモデルのポリゴンをカットして、指定に合わせて仮色を置く(スプリッター素材)。そして色ごとにマスク分けを行い、AEで色彩設定の色と入れ替えて合成する。

    作画アニメに倣い、色鉛筆でライティング指示をもらったもの。赤がハイライト、青が1号影、緑が2号影
    • ポリゴンで色分けした状態
    • スプリッター素材
    「影付け」のワークフロー。上記の【スプリッター素材】を出した後、色(ハイライト、ノーマル、1号影、2号影)ごとにマスク分けをして合成する

    本作MSのCGモデルは作画調のテクスチャで設計してあるため、工夫次第では3Dカメラだけでも作画らしい画面にできる。ただし、MSがアップになる見せ場のカットについては、「影付け」の手法をカットバイ(手付けの調整)で行い、作画レベルの迫力を演出するようにしている。

    • 未加工のレンダリング画像
    • 「影付け」処理を行い、素材を全て合成
    さらに撮影処理を加えた完成ショット

    (3)につづく。

    CGWORLD 2024年4月号 vol.308

    特集:アニメ『アイドルマスター シャイニーカラーズ』
    判型:A4ワイド
    総ページ数:112
    発売日:2024年3月8日
    価格:1,540 円(税込)

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    TEXT_日詰明嘉 / Akiyoshi Hizume
    EDIT_海老原朱里 / Akari Ebihara(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada