2021年のTVシリーズ放送で一世を風靡したストップモーションアニメ『PUI PUI モルカー』。2024年11月、CGで制作された劇場版が公開された。ストップモーションアニメの世界観を壊すことなく、いかに作品世界を表現したのかを制作にあたったモンスターズエッグに取材した。

記事の目次

    ※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 317(2025年1月号)からの転載となります。

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    劇場版『PUI PUI モルカー ザ・ムービー MOLMAX』まんきゅう監督インタビュー 〜CGアニメーションでも変わらぬモルカーらしさを表現

    Information

    映画『PUI PUI モルカー ザ・ムービー MOLMAX』
    2024年11月29日(金)公開
    原案・総監修:見里朝希/監督:まんきゅう/制作:モンスターズエッグ/製作:「PUI PUI モルカー ザ・ムービー MOLMAX」製作委員会/声の出演:つむぎ(モルモット)、糸(モルモット)、相葉雅紀、大塚明夫/配給:TOHO NEXT
    molcar-movie.com
    ©見里朝希/PUI PUI モルカー製作委員会

    オリジナルツールで効率化を進めた制作

    オリジナルツールを活用したアニメーション制作と仕上げ

    アニメーション制作は、副監督を務めた小林丸氏による「走る」「ジャンプする」などのサイクルアニメーションの作成から始められた。制作が進められるごとにストックされるモーションはミキサーで読み出したものを組み合わせて調整し、After Effects(以下、AE)でタイムリマップを用いてストップアニメーションっぽさを加え、仕上げられている。

    左から、制作プロデューサー・奈良岡智哉氏、絵コンテ・志賀健太郎氏、モデリングディレクター・木村 優氏、撮影監督・野村達哉氏(以上、モンスターズエッグ)
    monstersegg.jp

    多くのモルカーが登場し、多くのデータを使用する制作であったが、オリジナルツールを活用して効率的に進められた。中でも重宝されたのが「モルカーセレクター」だ。本ツールを用いることで、シーン内の任意のモルカーを容易に選択でき、指定のBipedのボーンコントロールを簡潔に行える。ツールのウインドウからミキサーにアクセスすることもでき、使い勝手の良いツールだったとのことだ。

    また、レンダリング、コンポジットへと続く作業においてもオリジナルツールが活躍した。特に本作ではラインの調整は必要不可欠な要素であったが、「ラインブラシ編集ツール」にて効率的に進められたという。本ツールでは、Pencil+ 4ラインのブラシサイズ編集を行うことが可能で、シーン内のモルカーやキャラクターのライン幅をシートから数値入力したり、カメラからの距離に応じたライン幅を計算して自動で入力するなどの調整が行える。

    カメラの画角やレンダリング出力サイズによって調整が必要になるため、自動入力ではプリセットのラインサイズの値をそのまま使うのではなく、現在のシーンの設定に合わせて値を自動補正してくれる優れものだ。

    本作ではレンダリングの回数、工数をなるべく減らすという方針であったが、表現に必要な素材はそれ相応となる。そうしたレンダリングを簡潔に事故なく行うための「レンダリングツール」も開発され、作業が進められた。

    ツール上でシーン、オブジェクト、レイヤーに対応したジョブを構築でき、進行させることができるのに加えエラーチェックも行うことが可能で、仕様に沿わないレンダリング設定の検出のほかに、古いルックのモデルのまま使用しているなど、レンダリングするモデルのバージョンについても簡易チェックを行なって運用された。よくあるミスをレンダリングの直前に発見できるため、大量素材を再レンダリングするような手戻りを未然に防ぐのに役立ったという。

    ストップモーションらしさにこだわったアニメーション

    アニメーションの制作は小林丸氏が基本動作、サイクルアニメーションを準備することから始められた。

    • ▲作成されたモーションはデータストックされ……
    • ▲モーションミキサーにて読み出し、活用されている
    ▲仕上げとしてストップモーションらしさが感じられるよう、キャラクターとアクションごとにタイムリマップを施している

    効率化・軽量化に寄与したアニメーション補助ツール群

    ▲「モルカーセレクター」のスクリーンショット。モルカーセレクターの機能概要は以下の通り。➀シーン内のモルカーを選択。➁Bipedのモーションパネルの主な機能のボタンを再現。3ds Max標準のモーションパネルを開かずに作業ができるのでビューポートでの動作が軽くなる。➂Bipedのボーンセレクター。モルカーのエクストラボーンも選択できる。➃Bipedのキー設定。キーの設定、削除とTCBの簡単なパラメータ調整ができる。➄表情モーフ(目)のチャネル値の設定。➅ミキサーの編集。共有フォルダのモーションが表示されていて、リストの項目をダブルクリックすると選択中のモルカーのミキサートラックにモーションを追加できる
    • ▲ミキサー。画像は実際のショットのモーションミキサーのトラック。Bipedのモーションのタイミングやトランジションの調整をミキサーで行い、レンダリング直前にmixdownを計算してBipedのモーションを確定させる
    • ▲作業中の3ds Maxのビューポート
    ▲モデルローダー。シーンにアセットを合成するツール

    ブラシサイズなどの編集ができるライン関連ツール群

    ▲「ラインブラシサイズ編集ツール」。Pencil+ 4ラインのブラシサイズの編集を行う。シーン内のモルカーやキャラクターのライン幅をシートから数値入力、カメラからの距離に応じた自動入力が行える
    ▲マテリアル。画像はAIモルカーのマテリアル例。マテリアルにカスタムアトリビュート BrushSizeを追加してあり、Pencil+ 4ライン効果のブラシサイズと関連付けている
    ▲ツールのテストに使用したシーンデータ。選択したオブジェクトのマテリアル(ブラシサイズ)にキーが入っているため、タイムスライダー上にキーが表示されている
    • ▲ラインサイズ変更前のPencil+ 4ラインの素材
    • ▲ツールで自動入力したラインサイズ変更後のPencil+ 4ラインの素材
    • ▲ラインサイズのガイドラインの一部。画面全体やキャラクターの大きさによって、どの程度のラインサイズが適切かを示す
    • ▲カメラからの距離で機械的にラインサイズを決定するのではなく、あくまで画面での見映えを最優先に考えてラインサイズを決定している

    エラーを事前に防ぐレンダリングツール群

    ▲開発されたレンダリングツール。➀レンダリング出力先のフォルダ:シーンに設定されている出力先とは別に、一時的に変更することもできる。➁ジョブの一覧:設定ファイルとシーンデータの内容からレンダリングのジョブを構築してリスト化する。選択したジョブをレンダリングできる。➂選択されたジョブの詳細:ジョブに関連するオブジェクトの数と素材の出力先を確認できる。素材ごとのサブフォルダの作成はツールがレンダリング直前に自動的に行う。➃オプション:主にレンダリング直前に設定などの変更や確認について指定している。➄レンダリング:ローカルPCでのレンダリングやネットワークレンダリングのほかに、素材の確認を行うために小さな画像サイズで単一フレームを出力するテストレンダリングができる
    ▲エラーチェック。エラーチェックでの警告ダイアログの一例。上記画像の➃に含まれるもの。レンダリング直前にエラーチェックのスクリプトを実行し、問題が検出されると警告ダイアログが表示される
    • ▲「~_01_geo」「~_01_geo_Rim」「~_01_geo_Shading」といった名前を基に……
    • ▲各モデルのジョブに関連付いたレイヤーをツールが検出してジョブを構築する

    以下、ツールからレンダリングされた素材の一例。

    AEによる質感ライン調整

    • ▲完成
    • ▲カラー
    • ▲ライン
    • ▲ライティング
    • ▲ID
    • ▲リム
    • ▲ラインをAEでぼそぼそとしたラインに加工
    • ▲リム素材を用いてラインをリム方向に発光処理
    • ▲AEで方向と幅を調整したリム素材
    • ▲ライティング素材から2種類の影を生成
    • ▲ライティング素材から2種類の影を生成
    • ▲ライティング素材をRLAで出力しZ深度素材として使用

    キャラクターごとに素材を追加

    • ▲スカイエンジェルの完成ルック
    • ▲本体カラー
    • ▲こころかぷせるホログラム素材
    • ▲こころかぷせる発光マスク
    • ▲ライン素材
    • ▲本体シェーディング素材
    • ▲モニタ素材(顔のドットと背中の表示)
    • ▲ID
    • ▲リムライト
    • ▲本体周りのシェル素材
    • ▲スペキュラ
    • ▲本体+シェル。RLAファイルでZ深度として使用

    撮影ボードの作成とコンポジット素材の展開

    「キャラクターのシーン色の作成作業は、撮影ボードの作成作業時に行いました。BGの処理やそのほかフィルタ処理を加味しつつキャラクターの色を同時に調整していきました」(撮影監督・野村達哉氏)。撮影ボードが監督チェックOKになった段階で、各シーン参考と各シーンのキャラクターのベースコンポを作業者に展開。

    • ▲調整前
    • ▲調整後

    ミニチュアの世界観を演出

    もともとがミニチュア撮影ということもあり、その世界観を演出するため被写界深度はかなり浅く調整された。3D背景に関してはZ深度素材を出力することで対応。2D背景には2D画像からZ深度を生成するAEプラグイン「Depth Scanner」が活用されている。

    • ▲元BG
    • ▲Depth Scannerで作成した深度素材
    ▲レンズブラーを加えて仕上げられた背景

    CGWORLD 2025年1月号 vol.317

    特集:韓国CGの今
    判型:A4ワイド
    総ページ数:112
    発売日:2024年12月10日
    価格:1,540 円(税込)

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    TEXT_渡邊英樹 / Hideki Watanabe
    PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
    EDIT_海老原朱里 / Akari Ebihara(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada