2021年のTVシリーズ放送で一世を風靡したストップモーションアニメ『PUI PUI モルカー』。2024年11月、CGで制作された劇場版が公開された。ストップモーションアニメの世界観を壊すことなく、いかに作品世界を表現したのかを制作にあたったモンスターズエッグに取材した。

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    ※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 317(2025年1月号)からの転載となります。

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    世界観を壊すことなくCGアニメーション化

    2021年よりTV放送された見里朝希氏原案・監督のストップモーションアニメ『PUI PUI モルカー』。劇場版『とびだせ!ならせ! PUI PUI モルカー』(2021)、TV放送第2弾となる『PUI PUI モルカー DRIVNIG SCHOOL』の公開と続き、多くのファンを獲得し、同シリーズは大人気ストップモーションアニメとなったが、2024年11月29日(金)に公開された本作はCGで制作された。

    映画『PUI PUI モルカー ザ・ムービー MOLMAX』
    2024年11月29日(金)公開
    原案・総監修:見里朝希/監督:まんきゅう/制作:モンスターズエッグ/製作:「PUI PUI モルカー ザ・ムービー MOLMAX」製作委員会/声の出演:つむぎ(モルモット)、糸(モルモット)、相葉雅紀、大塚明夫/配給:TOHO NEXT
    molcar-movie.com
    ©見里朝希/PUI PUI モルカー製作委員会

    「世の中でも求められているコンテンツなんですけれども、コマ撮りアニメのため量産できないというところがあったんですよね。そうして本作の企画が起ち上がる最中、当社でゲームをつくっていたんです。『PUI PUI モルカー もぐもぐパーキング』(2021)というアプリゲームです。CGで制作されたモルカーたちの動きを見里さんが気に入ってくれて、CG作品をつくれるのではないかということで、お声をかけていただきました」(制作プロデューサー・奈良岡智哉氏)。

    左から、制作プロデューサー・奈良岡智哉氏、絵コンテ・志賀健太郎氏、モデリングディレクター・木村 優氏、撮影監督・野村達哉氏(以上、モンスターズエッグ)
    monstersegg.jp

    AI化が進むモルシティ、ドライバーたちは次々とAI(あい)モルカーに乗り換えていく。そうしたなか、ポテトをはじめとしたモルカーたちは凄腕ドライバーのいなくなった相棒のモルカー・ドッジを捜すことになる。

    AIをテーマとした本作のストーリーはCGとの相性も良いと思われるが、TVシリーズのストップモーションアニメの風合いと、その世界観を壊すことなくCG化を進める必要があった。原案・総監修でもある見里氏とも積極的に意見交換を行いながら進められていったという。

    「見里さんはクリエイティビティが旺盛な方で、CGを活用した演出にもポジティブに多くのアイデアを出していただきました。どんどんイメージが広がり、何度もつくっては壊してというつくり方でしたね。絵コンテが完成したのもギリギリで、実作業と並行しながら進めました」(絵コンテ・志賀健太郎氏)。

    コマ撮りの世界観を構築

    ストップモーションアニメ感を実現させるアセット制作

    コマ撮りの世界観の再現として指針となったのがミニチュア感。背景制作においては、デザインはもとよりその質感にいたるまでCGっぽい固さのあるものではなく、手づくりのミニチュア感のあるものが目指された。「わかりやすいところでは、ストップモーションアニメの手づくり、張りぼて感を再現するために建物ごとにゆがみを与えたりなどですね。各オブジェクトをアシンメトリーにすることで柔らかい印象の造形に調整しています」(モデリングディレクター・木村 優氏)。

    キャラクターに関しては、コマ撮りで用いられるパペット感を演出する工夫が施されている。「モルカーたちはデフォルメされたキャラクターではありますが、実際にはクルマなので柔らかい質感やシルエットであっても、動きにおいては制限をつくっています。例えば、クルマとしての造形を壊さないように、捻れるような動きは行えないようにするなどです。また、ヒューマンキャラクターも同様で、おもちゃ感のある造形を意識してあえてポリゴン感を残しています」(木村氏)。

    こうした雰囲気を壊すことのないアニメーションを実現するためには自由度の高いリグが必要だった。ベースの動きをつくるアニメーションキーはBipedにて打たれるが、Bipedの位置回転をコンストレイントやエクスポーズTmで取得し、スキンにアサインするボーンの変換へ関連付けられている。そのうえでモーフターゲットを活用した表情の調整や、スケールによるボディのシルエットの調整が行えるようになっており、自在なコントロールが可能になっている。

    なお、アニメーション作成はBipedのミキサーが活用されたが、ミキサーの誤動作を抑えるためにシェイプやヘルパーなどのカスタムリグをBipedへ直接親子付けしない、Bipedのみでボーンのスケールを調整できるなどのフローを鑑みた配慮と工夫が施されている。

    なお、キャラクターのルックに関しては、「企画初期に見里さんが描いたイメージボードをそのまま実現することを目指しました」(奈良岡氏)とのこと。ラインの有無やリムの入り方、影の落とし方など、ひとつひとつをしらみ潰しに処理の方針を詰めていったという。

    TVシリーズと同じ世界観

    企画時から世界観はTVシリーズとまったく同じ。脚色・改変はしないという方針だった。その上で、AI化が進むモルシティを舞台に、ドライバーがAIモルカーに乗り換えるなか、モルカーたちは凄腕ドライバーのいなくなった相棒を捜すというストーリーの下、各種設定、コンセプトアートが作成された。

    • ▲AIモルカーの開発社「メニメニアイズカンパニー」のコンセプトアート
    • ▲同じく、コンセプトアート
    • ▲スカイエンジェルの設定アート
    • ▲同じく、設定アート

    原案・総監修の見里朝希氏のアイデアを取り入れた絵コンテ

    志賀氏によって描かれた絵コンテ。見里氏からも多くのアイデアが出され、スクラップアンドビルドして完成に至ったという。絵コンテはVコン化され、レイアウトへと作業が進められた。

    手づくり感を目指した背景アセット

    背景はCGに加え、美術背景も併用された。ストップモーションアニメの手づくり、張りぼて感を再現するために建物ごとにゆがみをつくり、CGっぽさをなるべく抑えるように調整された。

    • ▲モルシティの背景モデル
    • ▲モルシティの背景モデル
    ▲美術制作のためのBG原図用LOモデル

    ストップモーションアニメを意識したキャラクターモデル

    • ▲左から、AIモルカー、スネイクセブン、ポテトのドライバー、AI56、メニメニアイズカンパニー・CEO、チャッピー(猫)、ポテト、野菜販売モルカー
    • ▲人間キャラクターはストップモーションアニメでのおもちゃ感が出るよう、あえてポリゴン感を残して作成された

    効率化とキャラクターらしさを追求したモルカーのリグ

    • ▲リグ全体
    • ▲リグ構造をスケマティックビュー上で各階層の役割を表示したもの。左のツリーがBiped(character studio)、中央のツリーがリグ、右のツリーがモーフとジオメトリ
    • ▲アニメーションキーを打つためのBiped(character studio)とシェイプ
    • ▲リグの内部。Bipedの位置回転をコンストレイントやエクスポーズTmで取得し、スキンにアサインするボーンの変換へ関連付けられている
    • ▲モーフターゲット。目の表情もミキサーで管理できるようにするため、Bipedのエクストラボーンで作成したスライダーでモーフチャネル値が調整できるようになっている
    • ▲レンダリング用のジオメトリ
    • ▲スケール調整前
    • ▲スケール調整後

    効率化とキャラクターらしさを追求したモルカーのリグ

    • ▲人間キャラクターはストップモーションアニメの動きを再現するように、細かなリグは入れずに簡易的なリグを入れて制限している……
    • ▲なお、メインで登場するCEOや社員、ドッジのドライバーはBipedを使用
    • タブレット補給口の開閉や、前輪のみを動かす、車体を傾けるなど、AIモルカーはモルカーよりクルマらしい動きができるようにリグが組まれている
    • ▲スネイクセブンは一列で蛇行するため、つなげてリリースされた。蛇行の仕方も調整できるよう、リンク構造が異なる2バージョンでつなげられている

    ルックデヴの変遷

    ▲➀「Ver.01」ノーマルTex&影とリムグラデ、ラインあり/なし、➁「Ver.01」ノーマルTex&影とリムパッキリめ、ラインあり/なし、➂「Ver.01」ラインとTexぼそぼそ&影とリムパッキリめ。ぼそぼそ具合2パターンとラインなし。この「Ver.01」で、「テクスチャはぼそぼそ方向・影はパッキリめ」でいこうと決められた。その後の「Ver.02」である➃~➅では「リムの載せ方などのパターンと、ラインの表現やあり/なし」が検証された。➆がルックデヴの完成形

    後編につづく。

    CGWORLD 2025年1月号 vol.317

    特集:韓国CGの今
    判型:A4ワイド
    総ページ数:112
    発売日:2024年12月10日
    価格:1,540 円(税込)

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    TEXT_渡邊英樹 / Hideki Watanabe
    PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
    EDIT_海老原朱里 / Akari Ebihara(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada