TVシリーズ『牙狼〈GARO〉-GOLDSTORM- 翔』。前作『牙狼<GARO>〜闇を照らす者〜』から新たな主人公・道外流牙を迎えた『牙狼<GARO>』のTVシリーズとしては第3作目となる作品だ。そんな本作のオープニング映像では、3DCGベースの流体表現や無数のラインを有機的にアニメーションさせる等、抽象的なモチーフをリアルな質感で描くことで非常に独創的かつ美麗なモーショングラフィックスに仕上がっている。

【OP映像①/1stクール】TVシリーズ『牙狼<GARO>-GOLD STORM-翔』/GARO PROJECT #73‬

<1>企画の経緯

絶賛放送中(2015年9月現在)である『牙狼〈GARO〉-GOLDSTORM- 翔』のオープニング映像を制作したのは、オムニバス・ジャパンの瀬賀誠一氏が率いるチームだ。そのスタッフ編成は、瀬賀氏がディレクター兼リードデジタルアーティストを務め、瀬賀チームのデジタルアーティストが2名、Houdiniエキスパートとして知られる井上信行氏、そして鳥居佑弥テクニカルディレクター(以下、TD)という少数精鋭で望んだという。

「『闇を照らす者』OPも自分たちが担当させていただのですが、そのときのモーショングラフィックスを評価していただき、本作のOPも映像ディレクションから一括して担当させてもらいました。今回は映像クオリティをさらに高めるだけでなく、作品タイトルにある『GOLD STORM』から着想を得た金の嵐や、物語上の鍵となる三角錐の形状をしたオブジェクトを入れるといったかたちで本作ならではの世界観をビジュアル化することを心がけました」(瀬賀氏)。

右から、小林英樹CGプロデューサー、瀬賀誠一ディレクター兼リードデジタルアーティスト、井上信行Houdiniアーティスト(フリーランス)、田中健大デジタルアーティスト、鳥居佑弥TD、若杉 亮デジタルアーティスト

技法面でのトピックとして、本作のOPは第1弾ならびに現在放送中の第2弾OPのどちらも3DCGワークはHoudiniで完結させている。瀬賀チームにとって初めての試みであり、制作時の裏コンセプトはそのものずばり"Houdiniに慣れよう"であったが、鳥居TDが作業効率を高めるためのサブツールなどを開発することで制作を支えたという。とは言え、90秒ものこれだけハイクオリティなフルCG映像にも関わらず、制作期間は実質1ヶ月ほどしかなく、2週間で叩き台となるプリビズを作成し、残りの期間で本制作を行なったという。

「限られた制作期間でクオリティを高めるにあたっては、外部パートナーの協力をあおぐなど制作規模を広げるよりも、少数精鋭でコミュニケーションが密にとれる体制が効果的だと考えました。こうして無事に放送をむかえることができた今は、このチームだからこそ創り出せたクオリティだと自負しています」(小林CGプロデューサー)。

作業フローとしては、Houdiniでシーン制作し、Mantraにてレンダリング。その連番データをAfter Effectsに読み込み、工学的なエフェクトやフィルタ処理等のコンポジットワークを施して完成となる。

「『闇を照らす者』OPの制作では、Houdiniで作成したアニメーションを、FBX形式で3ds Maxに読み込みV-Rayでレンダリングしていました。でも複数のソフトをまたぐとコンバート作業が発生する分、今回のような短い期間の制作では効率が悪くなり大きなストレスになってしまいます。前作の制作が終わってからHoudiniの研究する時間の中でMantraでもクオリティを出せる目処も立っていたので、今回は思いきってHoudiniだけでCGを完結させるワークフローを選びました」と、瀬賀氏はふり返る。

従来は3ds Maxをベースに、案件ごとに求められる表現に応じたプラグインを適宜購入していたそうだが、新規ツールを導入する場合は相応に習得の時間が必要となっていた(言うまでもなくベンダーごとに設計思想が異なるため、ノウハウが分散しがちだ)。しかし、Houdiniの場合は、ひととおりのオペレーションさえ習得できてしまえば、多彩なエフェクト表現を一元化して作成することが可能な上、ノードベースによってプロシージャルにシーンを構築できるため、ノウハウを着実に蓄積していけることが導入の大きな決め手になったという。

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<2>豊富なリファレンス作成と適確なチューニング

大ベテランのHoudiniアーティストである井上氏は、本プロジェクトを進めるにあたって現行のHoudini 14で可能な表現技法をまとめた1分半ほどのサンプルリールを作成した。それはプレビューでありながらHoudiniならではのシミュレーション能力を活かし応用した幾何学的で魅力的なアニメーションとなっており、そこから瀬賀氏が各シーンに使えそうな技法をセレクトし、各アーティストがブラッシュアップしていったという。

「抽象的なモーショングラフィックスということで、あえて絵コンテは描かずに最初からHoudini上でプリビズ的なアニメーションを作成し、それをメンバーに観てもらって、作り込んでいくかたちをとりました」(瀬賀氏)。

井上氏が作成したHoudiniエフェクトのサンプルリール。「Prismus(Houdiniの前身にあたるソフトウェア)の時代から使い続けているので、Houdiniの特性を最大限に活かすという本プロジェクトに参加できたことが感慨深いです。嬉しさのあまり、ついサンプルをつくり過ぎてしまいました(笑)」(井上氏)

また、Houdiniにまだ慣れていないスタッフも多いことから、井上氏は画づくりの源泉となるエフェクトのひながたとそのシーンファイルの作成に徹し、そのhipファイルを他のアーティストたちに配布するという役割を担った。これにより、Houdiniのオペレーションに慣れていないアーティストも技術を習得しながら実制作を進めることができたという。

先述のとおり、縁の下の力持ちを担ったのが鳥居TD。本作の特徴的なライン表現において、当初OpenVDBを用いてVelocityフィールドをカーブに適用し、ForEachノードのループ処理によってラインを作成していたのだが、処理が非常に遅くなってしまったため、Attribute Wrangleで直接ループ処理のためのコマンドを書くことで高速化を行なったという。

「MELやMAXScriptを書いてきた経験から考えるとHoudiniのVEX言語においてもそこまで大きな差はないと思っていました。でもネットの情報を見たらノードをプログラムで書くことで20倍は高速化できると書いてあったので試してみたところ、約40倍高速化させることに成功して驚きましたね」(鳥居氏)。その他にもオリジナルのノードを複数自作したり、Houdiniのレンダリングジョブを効率的にBackburnerへ投げるためのツールを開発したそうだ。

2−1:OpenVDBによるエフェクト

(左)OpenVDBを用いたラインエフェクトの全体のキャプチャ/(右)ガロのオブジェクトの表面にスキャッターノードを用いてポイントを発生させる

(左)そのポイントをVDB Velocityフィールドに沿って動かす/(右)生成されたラインの始点と終点に色を加え、幅のサイズを定義する

またHoudiniの強みを活かしたもうひとつの機能としてタイムシフト(Shift)が大活躍したとのこと。これは一度シミュレーションした結果がさえあればハイスピード化や高速再生が再度シミュレーションせずに行えるというもの。どうしても時間がかかってしまうシミュレーション時間が圧縮出来ることによって、他のソフトではどうしても発生するトライ&エラーの回数を劇的に減らすことができたという。

雨宮慶太総監督からのオーダーとしては、本作の物語におけるキーワードとなるゴールドストームや三角錐などをビジュアルで表現してほしいというものであった。そこから瀬賀氏によって全シリーズに共通する牙狼らしさを加味させつつイメージを膨らましていった。各シーンで具体的に使用された演出としては砂に落ちる魔導文字、Velocityによるライン表現、複雑な反射をするクリスタルなど、いずれもHoudiniの強みを活かしたテーマが採用されている。特に砂の表現に関してはHoudini 14の新機能であるPosition-Based Dynamicsが活用された。

2−2:Sandソルバを用いた表現

Sandソルバは標準のまま使用された

タイムシフトノードを使用し、120fまでしかシミュレーションしていないものを360fにストレッチさせている

▶︎次ページ:<3>若手の台頭

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<3>若手の台頭

クリスタルの質感が印象的な三角錐の表現。こちらはAfter EffectsのプラグインPlexusのデモリールから着想を得たそうだ。この表現をHoudiniで作成するにあたり、近くの指定した数の頂点に対してポリゴンを張るVOPのPoint Cloud Openが用いられた。

3−1:Plexus調の表現

近くのポイントを検索しライン化ならびにポリゴン化させるためのWrangleノードを示した状態

(左)ポイントの状態/(右)Line(線)に変換した状態

(左)さらに色を変化させた状態/(右)ポリゴン(面)にした状態

Performance Monitor Paneで計測した処理時間の比較。600ポイントを24フレーム処理。上がForEach SOPsで組んだもので処理時間は2.492秒、下がWrangleで組んだもので処理時間は0.064秒。約39倍の高速化に成功した

実際のコード

比較動画(左が改良前、右が改良後)。目的に応じて、各ノード内のコードをカスタマイズできるのもHoudiniの特徴のひとつだ

複雑な隆起した形状から三角錐が出来上がっていくカットはディスプレイスメントのアニメーションとSSSをVOPで組み合わせることで凹凸が激しい状態ではSSSが強く、ディスプレイスメントが収まると共にSSSが弱くなるように調整された。こちらのカットを担当した田中氏は実は今作で初めてHoudiniを使うのみならずこれまではモデラーとして活躍してきたアーティストだ。

「業務でショットワークを手がけるのは初めてで、なおかつ短納期の案件だったのでとても緊張しました(苦笑)。ですが、3ds Maxなど他の3DCGソフトで作業する場合は敬遠しがちなディスプレイスやSSSを使用してもMantraはそこまで重くならないことに驚かされました。また、プロシージャルによってジオメトリ、マテリアル、レンダリングまで全てのフローを繋げて作業できるというのも新鮮でしたね」(田中氏)。

3−2:田中氏の担当ショット

SOPのキャプチャ画面。ジオメトリのデフォームは、パーティクルのポイントアトリビュートをジオメトリのアトリビュートにコピーしてオブジェクトのデフォームを行なっている

VOPの内部のキャプチャ画面

VOPの内部のキャプチャ画面。Point VOPによってポイントの位置情報をコピーする。大元のジオメトリのポイントとパーティクルのポイントの距離をDistanceノードで計算し、出た数値をBind exportでアトリビュートに追加する。ここで追加されたアトリビュートをマテリアルのアニメーションのためのマスクに使用。マテリアル内部でMixノードを作成し、マスクをMixノードのBiasとして使用することでプロシージャルにマテリアルを変更することが可能

最終的なプレビュー

3−3:若杉氏の担当ショット

シミュレーションされたものに対してタイムシフトを適用し、動きにストレッチを付けている。「"よくできたHoudiniチュートリアル"に見えてしまわないよう、井上さんのリファレンスに着想を得ながらも、そこへいかにして『牙狼<GARO>』の世界観を込められるのか。アーティスティックに仕上げることにこだわりました」(若杉氏)

▶︎次ページ:<4>3DCGで高める『牙狼<GARO>』特有の様式美

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<4>3DCGで高める『牙狼<GARO>』特有の様式美

ライティングは瀬賀氏が指標となるルックを作成し、HDRを基にキーライト(平面ライト)2灯のみの意図的にシンプルなシーンを構築。それを共有することで全体のルックが統一された。

MantraによるレンダリングはDOFも入った状態で出力、多くのパスを出すもののベース素材の持ち味を活かし、リフレクションを多少調整する程度に止め、AE上でOptical FlaresStarglow等の光学エフェクトを味付けとして追加した上、Magic Bulletでカラコレを行い完成となる。

4−1:フィニッシング

レンダリングした素の画。第1弾OPは約90秒で60CUTと、カット数が多くなったことからコンポジット作業時はシンプルなレイヤー構成にすることを心がけたという

Magic Bulletでカラコレを施し、粒子の素材やレンズフレアを乗せた状態。今回レンズボケもHoudiniのMantraによるレンダリングの段階で被写界深度のボケがすでに加えられている

エピソードはいよいよ終盤にはいり、オープニングもすでに第2弾に切り替わっているのだが、そちらも第1弾と同様にHoudiniベースで制作された迫力ある3DCGモーショングラフィックスに仕上げられた。

【OP映像②/2ndクール】TVシリーズ『牙狼<GARO>-GOLD STORM-翔』/GARO PROJECT #73


『牙狼〈GARO〉-GOLDSTORM- 翔』第2弾オープニング映像より。第1弾よりもヒロイックな曲調に合わせて、黄金騎士・牙狼のキャラクター性をより全面に押し出したビジュアルだ

第1弾OPでも活躍したOpen VDBを使用したAdvect Pointsを発展させ、牙狼の動く軌跡に発生させている


Houdiniによる強力なパーティクル機能を活用し、クライマックスには牙狼がパーティクルで描かれる

『牙狼<GARO>』シリーズ独特の様式美は、日本人クリエイターならではの感性に根づいたものだと思うのだが(海外の映像コンペに出せば、大きな注目をあつめることだろう)、未見の方は本編共々ぜひご覧いただきたい。

TEXT_谷口充大(テトラ) / TEXT_Mitsuhiro Taniguchi (TETRA)
EDIT_沼倉有人(CGWORLD) / EDIT_Arihito Numakura (CGWORLD)
PHOTO_弘田 充 / PHOTO_Mitsuru Hirota

  • TVシリーズ『牙狼〈GARO〉-GOLDSTORM- 翔
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    原作・総監督:雨宮慶太
    監督:雨宮慶太、大橋明、阿部満良、坂部康二、下田章仁、山口義高、松田康洋、横山 誠、山岸一行
    VFX・CG:オムニバスジャパン
    VFXスーパーバイザー:中川茂之
    特別協力:サンセイアールアンドディ
    制作:東北新社、オムニバスジャパン
    配給・製作:東北新社
    garo-project.jp/GOLDSTORM_TV