去る3月26日(土)、東京ビッグサイト 会議棟前広場にて株式会社ピクスと株式会社デジタルスケープ主催による「東京プロジェクションマッピングアワードVol.0」が開催された。

▲東京プロジェクションマッピングアワード vol.0公式サイト:http://pmaward.jp/

本イベントは"東京ビッグサイトを映像クリエイターの聖地に"というスローガンのもと、映像クリエイターの登竜門として設立されたアワードだ。今回はあえてVol.0として専門学校及び大学から参加チームを募り開催され、9チームが"未来"をテーマにプロジェクションマッピング作品の上映に挑んだ。

プロジェクションマッピングが投影されるのは、東京ビッグサイトのシンボルともいえる会議棟の2つの逆三角形の建物だ。折しも東京ビッグサイトでは、「アニメジャパン2016」が開催されており、足を止めて映像に見入る人も多く、また各種メディアの撮影クルーも取材に訪れていたためとても賑わいのあるイベントとなった。主催者の発表によると一般来場者は1,194人とのこと。

▲会議棟に映し出された迫力のある映像に足を止める来場者

東京ビッグサイトの建物はシンボルとして遠方からの視認性も高く、周囲へのアピール度も非常に高いロケーションであるが、その特徴的でシンプルなデザインであるが故にプロジェクションマッピングを表現するには非常に難しい要素も含むため、いかにこのロケーションが活用できるかが、作品のポイントとなった。

また、過去にプロによるプロジェクションマッピングが幾度となく実施されているため、学生にはハードルの高い投影対象だったのではないだろうか。参加チームはそれぞれ自分たちの作品のコンセプトなどを上映に先立ちプレゼンテーションおこない、その後上映となった。3分程度の作品ではあるが、それぞれのチームの思いが込められた見応えのある作品が上映された。学生作品がこのようなロケーションで上映されるアワードは、これまで類を見ないため学生たちにとっては良い経験となったのではないだろうか。

今回参加した9チームの作品を紹介

●作品名『未来に繋ぎたいTOKYOの文化』
チーム名:Hana Bee 学校名:日本電子専門学校
東京に混在する多様な文化を、伝統的な建築様式、現代建築、ポップ&カワイイで順に紹介しながら伝統と未来に共通する鮮やかな彩りで表現

●作品名『musical movement』
チーム名:映写倶楽部 学校名:多摩美術大学
時を刻みながら未来へといざなっていくさまをオルゴールのムーブメントの動きで表現していく

●作品名『時間旅行』
チーム名:チームデジハリ 学校名:デジタルハリウッド大学
現代の東京に住んでいる少年が、学校で出された"未来の絵"を描くという宿題に頭を悩ますが、それを見た鳥が少年をゴンドラにのせ未来の世界へいざない助ける

●作品名『未来を描くステンドグラス』
チーム名:デザイン工房 学校名:宝塚大学 東京メディア芸術学部
光の美しさと輝かしい未来を「おじいさんのおもひで」、「バーチャル恋愛」、「守りたい日本の風景」の3話で表現したステンドグラス風ムービー

●作品名『PLUS ONE』
チーム名:SHIFT 学校名:首都大学東京 インダストリアルアートコース
「イマ+1=ミライ」をコンセプトに、イマという瞬間に何かが足されてミライになる、どんなに小さい1でもミライに思いもよらない変化に繋がるという、その1に注目した物語

●作品名『鳥獣たちの春夏秋冬』
チーム名:伝統文化継承映像部 学校名:日本工学院八王子専門学校
鳥獣戯画に登場するキャラクターたちが日本の春夏秋冬の行事を楽しむさまを、3DCGを用いて立体的に表現

●作品名『Tamping Traveler』
チーム名:テクノ家 学校名:多摩美術大学
工事現場で働くなんの変哲もない作業団の中で、ただひとり未来道具を手に時空を飛び交う作業員の姿を描いたCGアニメーション作品

●作品名『CYBER-TRIP』
チーム名:VISIONICA 学校名:デジタルハリウッド大学
クラブ音楽と映像のシンクロを大事にしながら、地球の外から様々なサイバーな未来を見せる旅を表現

●作品名『with future』
チーム名:PMLAB 学校名:芝浦工業大学
10年後、20年後の未来はどんな世界になっているのか、どんな世界であって欲しいかをチームのメンバーそれぞれが描く未来を表現

▶︎次ページ:優秀賞、最優秀賞の発表︎ [[SplitPage]]

優秀賞、最優秀賞の発表

9チームの作品上映が終了すると、会議棟6階に場所を移し優秀賞と最優秀賞の選考及び発表となった。今回審査員として、阿部秀司氏(株式会社阿部秀司事務所 代表取締役・プロデューサー)、森山朋絵氏(キュレーター/東京都現代美術館学芸員)、スプツニ子!氏(現代美術家 / マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボ助教 / デザイン・フィクション・グループ研究室主宰)、森内大輔氏(クリエイティブ・ディレクター/プロデューサー/デザイナー)、橋本大佑氏(映像作家/アニメーション作家)の5名がそれぞれの知見から作品が審査された。

▲(左から)橋本大佑氏、森内大輔氏、スプツニ子!氏、森山朋絵氏、阿部秀司氏

審査の結果、優秀賞にはVISIONICA/デジタルハリウッド大学の『CYBER-TRIP』、テクノ家/多摩美術大学の『Tamping Traveler』の2作品が選ばれた。

「『CYBER TRIP』は、サウンドとビジュアルを身体で感じてくださいというメッセージの通り、非常に疾走感あふれるビジュアルが印象に残った作品でした」(スプツニ子!氏)、「『Tamping Traveler』は、審査員の中でも作品の内容がプロジェクションマッピングに適しているのか、投影対象の形状などを活かしているのかなど、様々な議論があった作品でした。ただし、私が個人的に思ったのはエンタテインメントとは、人とは異なることを表現して意外性のある作品をつくりみんなに驚いてもらったりすることだと思っています。みんなが思い描いていることと、その作品とのギャップの幅が、みんなを喜ばせたり楽しませたりするのかなと思っています。そういう点でいうと他のチームがプロジェクションマッピングらしいつくり方をしている中、この作品はそれをくつがえすような形式を意識しないで自由な表現であったり、モチーフで選んでいた工事現場のキャラクターとか、それが地上から宇宙に行ってしまう冒険の距離感などそういったところが評価されました」(森内氏)と講評がなされた。

  • ▲優秀賞:『CYBER-TRIP』(VISIONICA/デジタルハリウッド大学)

  • ▲優秀賞:『Tamping Traveler』(テクノ家/多摩美術大学)

そして最優秀賞は、SHIFT/首都大学東京 インダストリアルアートコースの『PLUS ONE』が受賞した。「この作品はダントツで評価が高かった。私は平面に映す映像を専門に制作していますが、このような立体に映すというのはとても興味がある。プロジェクションマッピングをこれまであまり見る機会がなかったので、どんな感じで上映されるんだろうと。実際に見てみたら本当に素晴らしい。次回Vol.01が年末にあるようなのでそのときにも頑張って欲しい」(阿部氏)と講評があった。

▲最優秀賞:『PLUS ONE』(SHIFT/首都大学東京)

授賞式の最後は、森山氏の全体講評でしめられた。

  • 「このような機会を間近に目撃できたことは本当にうれしい一夜だったと思います。思い出話をさせていただくと、恵比寿ガーデンプレイスにある東京都写真美術館ができたときに、都市の中で何かが始まる、映像ができることを都市の中から発信していくということが表現できないかと考えて、プロジェクションマッピングを使って美術館のオープンと恵比寿ガーデンプレイスのオープンを祝うという機会をいただいたことがあります。その時に、都市で映像の可能性、映像にできることが発進されていく、表現の素晴らしいプラットフォームが大型の映像、没入できるような映像の世界というところからスタートするのだなぁという予感がありました」。

「その後20年、プロジェクションマッピングについては色々なエポックメイキングなイベントが開催されました。例えば2012年の東京駅でのプロジェクションマッピングは、必然性を含めて映像で表現できる全部入りの見事なプロジェクションマッピングでした。それらを私たちが目にすることで、このプロジェクションマッピングという表現が社会のものとなったと思います。今日、みなさんの作品を見せてもらって感じたことは、映像作品としてナラティブに優れているものは一杯あったのですが、空間の表現として、ロケーションであったり必然性であったりダイナミックな動きであったり、座標軸の変換であったりもっとできることがたくさんあるのではと思います。もっと私たちが驚くような作品がでてきてもいいのではないかと思います。次回からは今日を励みにそのような表現を心がけて欲しいと思います。日本には写し絵という世界でも例のない伝統文化があります。江戸では風呂と呼ばれていて上方では錦影絵と呼ばれていました。みなさんは写し絵の伝統を新しい技術で表現、継承していく機会を得ているのです。ですので、今日を忘れずに驚くような作品制作をし続けてください」と激励した。

東京プロジェクションマッピングアワードは、今年12月にvol.01として本格始動する。東京のこの地から新しい映像表現ができるクリエイターが育つことを期待したい。



TEXT_大河原浩一(ビットプランクス
PHOTO_弘田充