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学校はクソゲーか!? ゲームの力で授業を面白くする「教育のゲーミフィケーション」アフターレポート

学校はクソゲーか!? ゲームの力で授業を面白くする「教育のゲーミフィケーション」アフターレポート

「シリアスゲーム/ゲーミフィケーション」といった用語を耳にするようになって久しい。しかし、こと日本においては、まだまだ導入事例に乏しいのが実情だ。こうした中、授業や研修にゲーミフィケーションを導入するためのオンライン講座「教育のゲーミフィケーション:プレイフル/ゲームフルな学びのデザイン方法論」が実施された。概要と振り返りを含めて、その内容をレポートする。

TEXT&PHOTO_小野憲史 / Kenji Ono
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada

授業を始めてわかった「授業づくり」教材の必要性

筆者が「新人講師がゼロから挑むUnityによる人材教育」の連載をCGWORLD.jpで開始して、はや2年。今では東京クールジャパンに加えて、ヒューマンアカデミー秋葉原校でも、非常勤講師として教壇に立つようになった。そこで改めて気づいたのが、大学や専門学校で人材育成に取り組むクリエイターが少なくないこと。そして、その多くが授業づくりや教授法について悩みを抱えていることだ。答えは簡単で、先生の心構えや授業の進め方について、誰からも教えてもらった経験がないからだ。

自分の例で言えば、過去の業務経験からゲームに関する記事を書くことができる。ゲームエンジンのUnityについても、簡単なプロジェクトを作成できるようになった。しかし、「できる」ことと「教える」ことは別の話だ。そのためには個々のノウハウを棚卸しし、体系化して、カリキュラムに落としこむ必要がある。教材やワークシートなどの準備も必要だ。その上で学生にわかりやすく説明し、理解してもらわなければならない。同じ内容でも教え方のちがいで、学生の食いつきが大きく異なるからだ。

その一方で授業を続けるうちに、これまで異口同音に耳にした「授業づくりとゲームデザインは似ている」という言葉の意味が、実感を伴って理解できるようになってきた。曰く「ゲームも授業も単純な内容から複雑な内容へと、段階的にステップアップしていく」、「ゲームも授業も参加者(学生)のモチベーション管理が重要」、「授業運営はオンラインゲームのコミュニティマネジメントと同じ」などだ。余談だが全てのゲーム開発者は教壇に立つことをオススメしたい。必ず得るところがあるだろう。

実際、欧米圏ではゲームデザインに代表されるゲーム開発技術を、教育・医療・公共政策などの非エンターテインメント分野に応用する、シリアスゲームやゲーミフィケーション(※)といった取り組みが進んでいる。国際的な論文数の推移を見れば一目瞭然で、2005年ごろから上昇しはじめ、2017年まで右肩上がりを続けてきた。その一方で日本では2011年ごろをピークに、本分野が停滞している感は否めない。授業づくりに役立つ資料も乏しいのが現状だ。

※シリアスゲームは社会問題を解決するためにデザインされたゲームの総称で、ゲーミフィケーションはゲームデザインやゲーム開発技術をプラットフォームやサービスに応用する試みや、そうした施策の総称のこと

全世界のゲーミフィケーション&シリアスゲーム関連の論文数

日本(上)と海外(下)のゲーミフィケーションの検索トレンド

英語圏におけるゲーミフィケーションの専門書群(ゲーミファイ・ネットワーク第7回勉強会講演資料より)

こうした中、授業づくりにゲーミフィケーションを導入するためのオンライン講座「教育のゲーミフィケーション:プレイフル/ゲームフルな学びのデザイン方法論」が開講されると聞いて、興味が高まった。講師はシリアスゲーム/ゲーミフィケーション研究の第一人者である藤本 徹氏(東京大学 総合教育研究センター 講師)だ。講座は2019年5月から6月まで全4週で行われ、非常に興味深い内容だったので、本稿で体験レポートとして紹介したい。

単なる動画視聴に留まらない実践的な内容

本講座はMOOC(Massive Open Online Courses、大規模公開オンライン講座)におけるゲーミフィケーション講義のあり方について研究する目的で制作された、実験用のコンテンツだ。MOOCはインターネットで高等教育を配信するためのプラットフォームで、スタンフォード大学やハーバード大学などの講義が無償で学べることで知られる。2008年にアメリカでスタートし、2012年ごろに急成長。日本でも2013年11月に日本語で学べるJMOOCが開校し、10代から80代まで幅広い年代が学んでいる。

藤本 徹氏

受講はMOOCのプラットフォームのひとつ「edX edge」でアカウントを作成するところから始まった。毎週1回、レベル1から4までコースが順次追加されていき、全体で50%以上のスコアを得れば修了証が発行される。各レベルでは「ミニレクチャー」と称して、3~10分程度の講義ビデオが6~10本程度再生され、専門的な知識が学べる。その後、2~4つあるチャレンジクエストのうち1つを選んで(両方挑戦しても良い)、回答すればレベルクリアだ。1レベルに要する時間は2~3時間程度となる。

ミニレクチャーは藤本氏が解説

内容はレベルごとにテーマが設けられ、次第に複雑かつ広範囲になっていくしくみだ。レベル1のテーマは「ゲームと学びの接点に目を向ける」で、ゲームの定義や、ゲームデザインの観点で捉えた教育の特徴、ゲーミフィケーションを教育に採り入れる意義などが解説される。いずれも書籍『ルールズ・オブ・プレイ』や『幸せな社会は『ゲーム』が創る』などを踏まえたアカデミックなもので、大学の学部レベルで学ぶのにふさわしい内容のように感じられた。

チャレンジクエストではCGアニメのキャラクターがクエスト内容を説明

その後、レベル1のチャレンジクエストが表示された。第1のクエストは「学校は『クソゲー』か?」で、第2のクエストは「ゲームから学べること」だ。前者では学校をゲームとして捉えた場合、神ゲーかクソゲーかを考え、その理由を列挙したうえで、改善するためのアイデアを論述すること。後者では教育用途ではない、一般的なゲームの中に、どのような教育的要素が含まれているかを考察し、論述するというものだ。それぞれ10分程度で書き終えることができた。

もっとも、レッスンはこれだけでは終わらなかった。チャレンジクエストの達成条件に、他の回答者の回答を2件、匿名で採点することが加わっていたからだ。自分の回答は体験に即した、ミニエッセイ的なものに留まっていたが、他の回答には内容が厚く、論理的な説明が行われているものも見られた。これらに対して説得力のあるコメントをつけようとすると、学んだ内容を振り返る必要があり、自然と復習になっていることに驚かされた。

次第に高度になっていく学習内容

レベル1が導入編といった内容だったが、レベル2では「学習活動のゲーミフィケーション」というテーマで、様々なフレームワークが紹介された。連載でも紹介したMDAフレームワークや、これまでの研究で実証された「学習効果が認められたゲーム要素」一覧などだ。教育工学で研究されてきたフレームワーク(ガニェの9教授事象、ARCSモデル、IDの第一原理)の解説も行われた。MDAフレームワーク以外は初耳の内容だったので、こうした知見がまとめて得られたのはありがたかった。

レベル2のチャレンジクエストは、ゲーミフィケーションの新人コンサルタントとして、企業や団体からの依頼に応えるという内容だった。第1のクエストは企業のコンプライアンス研修をゲーミフィケーションで改良するというもの。第2のクエストは小学校の「総合的な学習の時間」4コマ分で活用できるパイロット授業をゲーミフィケーションでデザインするというものだ。いずれもゲーム要素と教育要素をバランス良く盛り込む必要があり、挑戦しがいのある内容になっていた。

ゲーム要素カードの一部

また、新たに「ゲーム要素カード」を参照できるように工夫されていた。「ゴール&ルール」、「探求&発見」、「変化する難易度」など、ゲームの主要な要素をカード化したものだ。それぞれキーポイントとチェックポイントの説明書きもあり、ゲーム初心者でも応用しやすいようになっていた。これに対して教育工学のフレームワークは筆者の理解不足もあり、うまく活用するのが難しかった。一気にクエストの難易度が上がったように感じられた。

続いてレベル3では「教育システムのゲーミフィケーション」をテーマに、企業や学校単位での取り組みに焦点を当てた解説や実践例が紹介された。レベル2の内容が教室での学びのデザインだったのに対して、レベル3では学校レベルの改革も含めたデザインについて学ぶというわけだ。例として挙げられたのが、ニューヨーク市の公立学校で2009年から実施されているプログラム「Quest To Learn」だ。学校のカリキュラム全体をクエスト化したもので、RPG仕立てになっている点が特徴だ。

これに呼応してチャレンジクエストも「大学図書館のゲーミフィケーション」、「オープンキャンパスのゲーミフィケーション」という、組織ぐるみで取り組むものに広がった。また、相互レビューで高得点を得た回答例も参照できるようになり、より視野を広げることができた。特にシリアスゲームやゲーミフィケーションには「依頼人の課題を解決する構造を設計する」という特徴があるが、回答者によって同じ状況でも問題設定がちがっていた点が興味深く感じられた。

最後のレベル4では視野をさらに広げて、教育のゲーミフィケーションが本当に効果があるのかという本分野の土台となる研究事例について、様々な解説が行われた。実証研究によって示された有効なゲーム要素の例(「運や不確実性」、「挑戦性」など)や、学習の内発的動機付け分類、フロー理論などだ。その上で藤本氏は「ゲーミフィケーションが有効であるというエビデンスは豊富にある。だからといって、単にゲーム要素を採り入れれば上手くいく、というわけではない」とまとめた。

最後のチャレンジは「ゲーミフィケーション導入の壁に立ち向かう」と、好きな課題を設定して、解決策を論じる「ゲーミフィケーションデザインチャレンジ」だ。前者はいわゆる「組織の壁」にどのように立ち向かうかについて考えるもので、新規チャレンジには必ずついて回る問題だ。後者はこれまでの学びの総決算だ。もともと筆者は授業を通して、徐々に学生の出席率が低下していく点を課題に感じていたため、特に後者の回答について力が入った。

自分が考えた解決策は「出席や課題に応じてポイントを付与する」というものだ。ポイントを消費すると、遅刻や欠席をなかったことにできたり、学食のチケットがもらえたりする。ポイントの受け渡しや共有を可能にすれば、学生間の交流促進が図れるかもしれない(みんなでポイントを集めて駄目な講師を解雇するなど)。もっとも、実際に導入する際には様々な課題が想定される。その解決法についても、もう1つの課題であわせて考える必要があり、よくできた内容だと感じられた。

コースの修了証

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全体の約6割をしめた教育関係者

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