2015年11月22日(日)、文京学院大学 本郷キャンパスにて催された「CGWORLD 2015 クリエイティブカンファレンス」。本稿では、日本のStudioGOONEYSと、フィンランドのAnima Vitae両社の取り組みを紹介したセッション「日本国内に眠る企画・コンテンツ・技術力を世界へ!!ー海外共同制作と資金調達展開事例ー」をふりかえる。

<1>キーマンを挟んで結びつく2つの制作会社

「CGWORLD 2015 クリエイティブカンファレンス」にて、「日本国内に眠る企画・コンテンツ・技術力を世界へ!!ー海外共同制作と資金調達展開事例ー」セッションが催された。登壇したのは、(StudioGOONEYSの斎藤瑞季氏、Anima Vitae(アニマ・ヴィタエ)のペッテリ・パサネン氏、(グローバルアローの成田憲司氏の3氏。各々の事例や3社のコラボレーションについて順に紹介された。

CGWORLD 2015 クリエイティブカンファレンス:StudioGOONEYS

左から、成田憲司氏(グローバルアロー代表取締役)、斎藤瑞季氏(StudioGOONEYS代表取締役)、ペッテリ・パサネン/氏(Anima VitateCEO、プロデューサー) ※右端は通訳の方

StudioGOONEYSは、サンリオ原作のTVアニメ『SHOW BY ROCK!!』で、従来のセル・シェーディングを主体とするアニメCG表現とは一線を画した3DCGアニメーションを手がけたことで、業界内から大きな注目をあつめた。

CGWORLD 2015 クリエイティブカンファレンス:StudioGOONEYS

StudioGOONEYSが手がけた『SHOW BY ROCK!!』における3Dアニメーション表現は、アジア圏の関係者には非常に好意的に受け容れられたが、欧州の関係者にはクールに受け止められたという

そして、Anima Vitae はフィンランドとマレーシアに制作スタジオをもち、『Niko & The Way to the Stars』(邦題『空飛ぶニコ!!』)を世界118カ国で販売した実績がある。
StudioGOONEYSとAnima Vitaeは現在、新作『SUPER SCHOOL』の共同制作プロジェクトを進めており、日本のクリエイターや制作会社の海外展開支援などを行うグローバルアローがサポートしている(後述)。

『Niko & The Way to the Stars』は、トナカイの子どもが主人公のキッズアニメ。世界118カ国で展開され、日本語版『空飛ぶニコ!!』のDVDが日本でも発売中だ

そのほかにもStudioGOONEYSでは、日本初だというイギリス・フランス・チュニジア・日本の4カ国合同プロジェクト『BUDDI MINNI』が進行中だ。
Animaの方でも現在制作中だという『Julia & PAL』のデザインコンペを実施。 デザイン案確定後、3DCGパート全般のパートナーとしてダンデライオンアニメーションスタジオが迎え入れられたとのこと。
上述したものに加えて、これらのプロジェクトでも黒子役を果たしているのが、グローバルアローだという。このように本講演は成田氏をキーマンとしてきた両社が、それぞれの事例について紹介する内容になった。

CGWORLD 2015 クリエイティブカンファレンス:StudioGOONEYS

『BUDDI MINNI』は、イギリス原作、日本制作、フランス配給の国際共同制作プロジェクト。欧州の関係者には大受けだったが、アジア圏の関係者の反応は普通だったという

<2>クリエイティブな雰囲気に満ちたMIPCOM

セッションの前半にて、StudioGOONEYSの斉藤氏はフランスのニースで10月5日から7日まで開催された国際映像作品見本市「MIPCOM」(Marché Internationale de Programmes Communications)の参加体験報告を行なった。

海外市場の感触をつかむため、『SHOW BY ROCK!!』と『BUDDI MINNI』のデモリールを携えて渡仏。来場者に映像を見せてまわったところ、アジア圏の参加者からは日本的なビジュアルスタイルの『SHOW BY ROCK!!』が、欧州圏ではイギリス原作で西洋風の『BUDDI MINNI』の評判が良く、国や地域によって好みがはっきりと分かれたことに驚いたという。「本当に評価が二分されていて、地域ごとの趣味嗜好のちがいが実感できました」(斎藤氏)。

  • CGWORLD 2015 クリエイティブカンファレンス:StudioGOONEYS
  • CGWORLD 2015 クリエイティブカンファレンス:StudioGOONEYS

(左)MIPCOMは、フランスのニースで毎年10月に開催されるアニメーションの国際見本市/(右)巨大なフロアには制作会社を中心に1,000以上のブースが並ぶ

また、会場には1,000社以上のブースが並び、その多くは制作会社のもの。アジア圏からも中国・韓国・台湾・シンガポールなどから出展が相次ぎ、版権売買だけでなく、オリジナル作品の制作に対する意識が非常に高いことも衝撃的だったという。

  • CGWORLD 2015 クリエイティブカンファレンス:StudioGOONEYS
  • CGWORLD 2015 クリエイティブカンファレンス:StudioGOONEYS

MIPCOMでは、すでに完成した「商材」を売買するのではなく、制作段階から一緒に練り上げられる「企画」が求められているという

それに対して日本からの参加は、テレビ局をのぞけばブースの出展は見られなかったとのこと。海外の見本市に参加したのは初めてだったという斎藤氏にとって、これらは、全てが驚きに満ちた体験だった。
「海外には『きかんしゃトーマス』のように、世界中の子どもたちにヒットする作品をつくりたいというプロデューサーが数多く存在します。彼らに自分たちの作品をアピールする上で、MIPCOMは最適だと感じました。オリジナルで尖ったものをつくりたいアーティストにとって、おもしろい場所ではないでしょうか」と、斎藤氏。ぜひ次回は多くの日本企業と共に来訪したいとも語っていた。

CGWORLD 2015 クリエイティブカンファレンス:StudioGOONEYS

テレビ局の関連会社をのぞけば、日本からの参加者はほとんど見られなかったという。斎藤氏は逆にそこに広大な可能性を感じたと話した

▶次ページ:<3>フィンランドのAnimaは、アジアのクリエイティブを求めている

[[SplitPage]]

<3>フィンランドのAnimaは、アジアのクリエイティブを求めている

続いては、Anima Vitaeのパサネン氏。現在、制作中の『Julia & PAL』向けにデザインコンペを行なった背景について、「もともとヨーロッパで起ち上げたプロジェクトだったが、次第に制作チームにアジア圏のクリエイターを迎えたいと思うようになった」と説明。コンペには個人から企業まで約150件の応募があったという。

CGWORLD 2015 クリエイティブカンファレンス:StudioGOONEYS

フィンランドのアニメーション制作会社、Anima Vitae(アニマ・ヴィタエ)。北欧のアニメーション業界の代表的なスタジオである同社は、2013年にクアラルンプールにAnimaPointという第2スタジオを設立、日本のCG業界との関係はグローバルアローとの出会いから始まった

また最新作『SUPER SCHOOL』については、もともと米英を中心に活動している脚本家からの持ち込み企画だったと明かした。企画概要をみて制作を決断したそうだが、その内容からパサネン氏は、日本のスタジオ(クリエイター)と組むべきだと感じたという。
そこで成田氏に相談したところ、StudioGOONEYSを紹介されたのだとか。「現在はコンセプトだけで、他に何も決まっていません。『Julia & PAL』と同じく、近くデザインコンペも予定しています」と、状況が説明された。

CGWORLD 2015 クリエイティブカンファレンス:StudioGOONEYS

最新作『SUPER SCHOOL』はまだ制作が始まったばかりであり、StudioGOONEYSと一緒に企画を練り上げているところだという

また、あえて日本の制作会社と提携する理由について「アジア的な視点がほしかったことと、日本には巨大なアニメ市場があり、そこに参入したかったから」という2点を挙げた。
欧州の友人に話す度に「諦めた方が良い、日本は特殊な市場で、たくさんのライバル(国産アニメ)がある」と言われたそうだが、決して諦めなかったと語るパサネン氏。その不屈の精神が、こうした出会いを結実させたと言えよう。

CGWORLD 2015 クリエイティブカンファレンス:StudioGOONEYS

講演の冒頭で披露された、パサネン氏の略歴をまとめたスライド

パサネン氏のコメントに応じて、斎藤氏もMIPCOMで、ある配給会社から「完成作品でなく、コンセプトから一緒に考えてつくり上げていける作品を配給したい」と言われたいうエピソードを披露。
「企画の売り込み方次第で、チャンスが消えることもあれば、共同制作のきっかけが見つかることもある。楽しそうな部分が共感できるかが重要だと感じた」と、ふりかえる斎藤氏。これらは実際に現地に行ってみなければ得られなかったことだとも語っていた。

<4>国際展開のタイムリミットはあと3年?

一連の議論をひきとり、成田氏は「タイムリミット」について考えてほしいと投げかけた。
少子化と共に日本のアニメ市場は縮小傾向であり、特に成人向け作品については漫画で実績のある作品が深夜に放映されるサブカル的な市場になっているのが現状だ。そうした状況を打破するには、いつかは日本を飛び出して海外スタジオと直接契約を交わしていく必要があるのという持論を展開。
そして、そこではプロデューサーや制作会社にIPが残らない、日本の製作委員会方式は通用せず、リスクをとってオリジナルを手がけていくことが重要だという。

CGWORLD 2015 クリエイティブカンファレンス:StudioGOONEYS

講演の冒頭で披露された、成田氏の略歴をまとめたスライド

毎年5〜6の見本市に足を運んでいるという、成田氏。オススメを聞いたところ、先述のMIPCOMに加えて、毎年6月に開催される「アヌシー国際アニメーション映画祭」と、9月に開催される「カートゥーン・フォーラム」を挙げた。いずれもフランスの見本市だが、北米の見本市にはしばらく参加していないのだという。その理由について成田氏は、欧州、特にフランスで日本のコンテンツが好まれる傾向にあり、中でもキャラクターデザイナーや背景デザイナーの需要が高いと補足した。

日本のクリエイターや企業と共同制作を望んでいるが、ビジネスの糸口が見つからない海外企業が多いのが実情だと説明する成田氏。このように海外企業の目が日本企業に向いている間に、海外との共同制作に踏みきるべきだと強調する。
成田氏は、その猶予期間を、あと3年だとした。その上で未来の子どもに愛されるような、素晴らしいIPを制作していきたいと抱負を語っていた。

TEXT & PHOTO(講演スライド)_小野憲史 / Kenji Ono
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota