エヌディビア・ジャパンは12月17日(木)、「NVIDIA GRID 2.0」へのアップデートに関する説明会を開いた。グラフィックス・バーチュアライゼーションのリード・ソリューション・アーキテクト、ジェレミー・メイン氏、エンタープライズビジネス事業部のビジネスディベロップメントマネージャーの澤井理紀氏が登壇し、NVIDIA GRIDによる仮想デスクトップのパフォーマンス、国内外の導入事例などについて解説した。
<1>NVIDIA GRIDとは
■これからのビジネススタイル
ITによるビジネスのスタイルは変化し続けている。データは全てローカルに収蔵し、ユーザーはオフィスのみで作業する、こういった古いスタイルは終わるだろう。
データやアプリケーションは高性能なマシンに収め、各ユーザーが必要に応じて必要な機能とデータを利用する。自分が最も生産性を発揮できる環境とデバイスで業務を行う。ITはそれをサポートしなければならない。
ビジネス上のデータはその数も、個々のサイズも、爆発的に増えている。ビジネスデータはいまでは年に3.5ZB(1021B)生成されている。これは1TBのHD35億個分に相当する。これらのデータはどこからでもアクセスできなければ効率的な仕事は望めないし、同時に、安全性も保障されなければならない。
また、各企業が特定のデバイスを社員に与えるのではなく、モバイルPCでも、タブレットでも、スマートフォンでも、入社前からユーザー社員が使い慣れたデバイスをサポートできる、柔軟性のある仕組みを考える必要がある。そうすることで、生産性の障害を排除し、ビジネスを加速化させられるのだ。
■従来のVDI
OSやメモリなどPCの主だった機能を、サーバ側に構築した仮想マシンに担わせ、必要な機能をクライアント端末で使用するVDI(=Virtual Desktop Interface)は、そうしたビジネススタイルのキーとなるテクノロジーである。
従来型のVDIはGPUが搭載されず、CPUエミュレーションという形でGPUを代替し、仮想ディスプレイでのグラフィックスを処理していた。それはつまり、物理デバイスで使用しているグラフィックスアプリケーションの低品質版でしかないということであり、アプリケーションの互換性も低く、GPUを要するようなアプリケーションは仮想化できないということだ。
グラフィックスを扱う様々なユーザーの要求の多くに対してVDIは十分に応えることができなかった。
■NVIDIA GRID
NVIDIA GRIDは、サーバにあるGPUを仮想化し、複数のVDIで使用可能にするテクノロジーである。
NVIDIA GRIDで、既存のデータ、アプリケーションを安全に格納でき、全てのスマートデバイスに対して、データ、アプリケーションを提供できる。
パフォーマンス、拡張性の問題には、GPUパススルーという解決策もある。GPUを直接仮想マシンに接続し、互換性も持たせ、高いパフォーマンスを可能にする。しかし、サーバに搭載できるGPUの数には限りがあり、サーバごとのユーザー密度が低くなってしまう。
また、GPU共有という手段もある。サーバ内に複数のGPUをホスティングし、複数の仮想マシンで共有させるのだ。この場合、アプリの互換性の問題が残ってしまう。
NVIDIAは2年前にGRID vGPUを発表した。GPUパススルーを、サーバ上の複数の仮想マシンでGPUを共有した形で行うのだ。
ソフトウェアエミュレーションとGRID vGPUの比較動画
GRID vGPUはVDIのパフォーマンスを高めつつ、汎用性も柔軟で、多様な使用場面、ワークフローに対応できる。
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<2>NVIDIA GRIDの導入事例
■海外の導入事例
NVIDIA GRIDの仮想化テクノロジーにより、ネット接続可能なあらゆる端末が、パワフルなワークステーションとして使えるようになった。以下はその実例である。
Metro Healthはアメリカミシガン州のヘルスケアサービスの会社である。VDIはすでに導入していたが性能が低かった。
NVIDIA GRIDを導入し、vGPU で臨床用アプリケーションほか通常業務用のシステムを運用したところ、医師の場合1日あたり30分、看護師の場合1日あたり50分の業務の効率化がなされた。
www.nvidia.com/object/enterprise-virtualization-case-study-metro-health.html
ノースカロライナ州立大学では、図書館に3DCADの専用端末を置いていたため、カリキュラム上の制約が生じていたが、NVIDIA GRIDを導入し、学生がいつでもアクセスできるようになった。
North Carolina State University (VMware Web)
SSOEは、大規模な建築の管理をグローバル行う企業で、1200名の社員が世界7カ国29のオフィスに分散している。エンジニア同士のデータを要するコミュニケーションが不可欠で、80個を超える建築モデルを使用する。
そうしたデータを各自の端末にコピーせざるをえず、時間のロスとセキュリティのリスクを抱えていた。デスクトップ仮想化の導入により、グローバルかつ安全なコミュニケーションが可能となった。
SSOE (VMware Web)
■国内の導入事例
日産自動車ではCADシステム、データは全て日本に置かれていた。海外のエンジニアは数時間かけてデータをコピーしてから作業する状況だった。
VDI/PDM(製品情報管理)システムを導入し、CADデータを日本においたまま、海外で業務ができるようになった。
日産自動車 (シトリックス社 Web)
TOTOでは、より効率的な水流の計算などCAEを使用していたが、各事業所が独自にワークステーションを購入していたため、端末管理、データ保全など様々な課題を抱え、ワークステーションの性能にもばらつきがあった。
NVIDIA GRIDを導入し、CAEワークステーションを仮想化し、CAE基盤を全社で共有、解析を高度化した。
TOTO (レノボジャパン社 Web)
船舶メーカーのジャパンマリンユナイテッドでは、業務ピーク時に他拠点の技術者が長期出張していたが、仮想化により他拠点にいながら業務支援が可能となり、社員の負担も減り、出張費・宿泊費のコストダウンができた。
ジャパンマリンユナイテッド (ネットワンシステムズ社 Web)
以上のように、NVIDIA GRIDにより、時間的、地理的制約を排除した形で、高性能のマシンを柔軟かつ効率的に運用することができるのだ。
ほかにも多くの企業がNVIDIA GRIDを活用しているとのこと。
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<3>そして、"GRID 2.0"へ
GPUの性能はさらに進化している。さらに高性能化したGPUのパワーを活用すれば、vGPUのパフォーマンスも当然高まる。そのためのバージョンアップがGRID2.0だ。
構築できる仮想マシンの数、そのマシンそれぞれの性能も倍増しており、OSもWindowsに加え、Linuxにも対応している。
GRID1.0が16台の仮想マシンを動かす場合より、GRID2.0が32台を動かす方がスコアが良い
GRID1.0とGRID2.0の比較。物理ベースのシミュレーションソフトNVIDIA FleXを動かす
■GRIDが開く未来像
今回の説明会では、もっぱら製造業や教育機関での導入事例が紹介されたが、高性能なグラフィックアプリケーションを時と場所を選ばずに共用できるというのは、映画やゲームなど映像産業にも有効なテクノロジーだろう。
この技術の恩恵をうけるのは大規模な、特にグローバルな企業ではあるが、将来的に個人ユーザーに対して、この技術を利用して高度なアプリケーションを共有するというようなサービスが出てくるかもしれない。
また、3Dモデルや、CAEといった製造業界の技術のみならず、ビッグデータを扱うAIテクノロジー、情報産業の方面でも重要な役割を果たしていくだろう。宇宙開発、バイオなど、自然科学のシミュレーション分野で大きな力を発揮し、その発展の一助となっていくだろう。
■関連URL
GRID Test Drive
GRID Website
GRID News
GRID YouTube Channel
Questions?AskonourForums (英語)
NVIDIA GRID on LinkedIn (英語)
FollowusonTwitter (英語)
■登壇者
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ジェレミー・メイン(Jeremy Main)
NVIDIA GRID事業 グラフィックス・バーチュアライゼーション
リード・ソリューション・アーキテクト
ユタ大学より理学士号を取得。NVIDIA入社前は3D CADソフトウェアや、いくつものリモートグラフィックス製品の開発に取り組んできた。現在、高品質なGPUで加速されたデスクトップやアプリケーション・ソリューションを企業向けに提供している。
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澤井理紀(さわいまさき)
エンタープライズビジネス事業部
ビジネスディベロップメントマネージャー
2005年早稲田大学大学院情報生産システム研究科修士課程を終了、日本SGI株式会社に入社。OpenGLを使った可視化アプリケーションの開発やバーチャルリアリティシステムの構築に携わる。
2009年NVIDIA入社。ワークステーション向けGPUであるQuadroのソリューションアーキテクトを経て、現在、クラウド仮想化向けのGPUソリューションNVIDIA GRIDのビジネス開発に従事している。
TEXT & PHOTO_横小路祥仁