全米放送協会(National Association of Broadcast)主催の世界最大規模の映像・放送・音響機器の展示会「NAB Show 2016」(4月18(月)〜21日(木)米国・ラスベガス)において発表された新製品などが、国内で展示される「After NAB Show - Tokyo 2016- 」が5月19(木)、20日(金)の2日間にわたり、東京・秋葉原UDXで開催された。最新の放送・映像機器の動向に注目が集まり、大勢の人が詰めかけた本イベントをふりかえる。
TEXT & PHOTO_横小路祥仁(いちひ) / Yoshihito Yokokouji(ICHIHI)
<1>4KとHDR
4Kさらに8Kと、より高い解像度を求めて技術が進んでいくのと並行して、HDR/High Dynamic Range(ハイダイナミックレンジ)に対する関心も高まっている。
HDRは映像に記録される明るさの情報、輝度の幅を拡大する技術だが、われわれが現実に体感する光の眩しさを再現できれば、映像にさらにリアルさを付加することができる。HDRにより輝度の記録幅は100倍に拡大し、インパクトのある映像を実現している。
4Kの高画質は、一般的なサイズの画面ではなかなか実感しにくいものだが、HDRと組み合わさることで、その真価を発揮するといえる。
HDR映像を活用するには、カメラ、記録メディアのフォーマット、編集システム、そしてモニタ、全てがHDR対応したものでなければならない。HDRのレンジで撮影しつつHDで出力したり、HDデータで配信しつつ、HDR的な映像を再現するHLG(Hybrid Log Gamma)など、過渡的な技術が提示されている。
HDRを支える技術(19日に催されたアビッド テクノロジーのセッションより)
例えばスポーツ中継は映像産業の大きな柱だが、屋外のゲームを中継する場合、強い日差しと日陰のコントラストや明るい空に飲まれる白いボールをくっきり映しだす時などにHDRは威力を発揮するだろう。
スポーツ中継では同時進行で画像を処理していかなければならない。映像のデータ量が増加していく中でなお、スロー、リプレイを自在に編集し発信したいというニーズに応えるためには高画質の映像を撮影できるカメラの性能だけではなく、システム全体のパワーアップ、効率化も不可欠となる。
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スポーツ中継のソリューションとして「Avid Sports Studio」を紹介
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ライブ中継では収録と並行して編集しなくてはならない
ブラックマジックデザインによるセッションより。ライブ中継を統合、スムーズにサポートするとアピール
プロキシの同時生成機能はそうした課題への回答のひとつである。高解像度の映像を撮影する裏で同時に低解像度のプロキシも生成し、それを使って低負荷で処理を施し、最終的に高解像度映像に反映させるのである。
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パラレルレコードを備えたSony PMW-F55
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軽いデータで編集
<2>IPの着実な普及
「IP伝送は、アナログからデジタルへの変化以来の大きなイノベーションであるとさえ言える」とNewTekのアジア営業担当副社長 ロバート・ステーシーは語る。
多くの人はIP伝送(Video over IP)を単に同軸ケーブルとSDIの組み合わせの代替物としかみていないが、より大きなイノベーションである。放送業界の将来のフォーマットフレームレートが、4Kで終わるか、8Kに進むかと言った予測はわかれるところだが、いずれにせよ、それらは全てIP/Internet Protocolベースで行われことになるのだ。
近年、映像・放送業界では4Kが注目を集め、4K対応をうたった展示は多いが、4K自体の普及率は未だ低い。一方で水面下でIP化は進行し、普及している。
4K以上に普及が進んでいるIP放送(NewTekのセッションより)
IPが普及してきた背景は、テープからファイルへ移行していったのと同じニーズである。すなわち、コスト削減、費用対効果が高いこと、複雑な物理的な配線の制約から開放されること、4K、8Kといった種類に関わらず全てのフォーマットを扱えるようになること、従来のインフラも活用したうえで様々なコンテンツを迅速にフレキシブルに展開できる、といったメリットがあるのだ。
従来のメディア以外の組織、企業や学校で動画が活用されている。ネット上のデータの8割が映像伝送で占められるとの予測もある。そうした人々にケーブルを使わせることは難しいが、IPならばほかのWebサービスと同じ地平でサービスを提供できる。カメラやHDなどネットワーク上につなぎさえすれば、あらゆる動画ソースを自在に使い、編集し、配信することができる。
NewTekが提案する「Adovanced IP ワークフロー」。同社が開発したビデオウェアファイルの新しい標準インターフェイス「NewTek NDI/Network Device Interface」は、リアルタイムに高画質の映像をフォーマットにかかわらずエンコードできる。音声、映像、タイム、メタデータを双方向で送信が可能だという
<3>映像産業におけるクラウド化
映像の高解像度化でファイルサイズが増大していくと、クラウドの重要性が増してくる。初期投資がかからず、使用したサーバーの容量だけ利用料が発生するので、自由かつ柔軟にリソースを調達し、活用することができるのだ。
サーバ容量のみならず、システムのライセンスを従量課金で提供したり、サービスを共有化、最適化する、など可能性は広い。
エレメンタルテクノロジーズのセッションより。(左)AWSを用いたクラウド上での作業イメージ/(右)ポストプロダクション業務における導入メリットを図示したもの
大量の映像データのアップロードは負荷も大きくなるが、高速転送ファイルのほか、専用ネットワークを提供したり、オフラインでディスクそのものを運搬するなど様々な手段が講じられている。
映像コンテンツはユーザーが時と場所とデバイスを選ばずに利用できるマルチユースが一層求められる。IP化と合わせてクラウドでデータソースやシステムに柔軟性と汎用性を持たせる工夫は今後より重要となり、進化していくと思われる。
AWSを用いたライブ配信サービスのイメージ
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360度カメラで撮影した画像を正距円筒図法により二次元に投影して編集・修正(アドビ システムズによるAdobe Creative Cloud次期アップデートとUltra HDワークフローに関するセッションより)
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インテルのブースで配布されていたVR体験キット
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リアルタイムのメディア制作向けストレージ・ソリューション「Avid NEXIS」
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「Blackmagic Duplicator 4K」。映像ファイルを最大25枚のSDカードにオープンファイルフォーマットでまとめてコピーできる。コンサートや発表会などのライブ映像を当日販売・配布といった形での利用が見込まれる
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After NAB Show -Tokyo 2016-
日程:2016年5月19日(木)・20日(金)
入場:無料(登録制)
場所:東京・秋葉原「UDX」
主催:NAB日本代表事務所(映像新聞社)、一般社団法人日本エレクトロニクスショー協会
後援:National Association of Broadcasters(全米放送協会)
公式サイト