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バージョン2017よりNVIDIA製のレンダラとしてリリースされているmental ray。GPUレンダラの台頭がめざましい昨今、今後の進化形態にはおおいに期待がもてる。ここでは、トランジスタ・スタジオの秋元純一氏にその真価を検証してもらった。

TEXT_秋元純一(トランジスタ・スタジオ)
トランジスタ・スタジオ/ディレクター。日本でも指折りのHoudiniアーティスト。
手がけてきた作品は数々の賞を受賞している。
www.transistorstudio.co.jp
blog.junichiakimoto.com

レンダラ戦国時代のはじまり

近年、CGレンダリング事情は大きな改変を迎えようとしている。これはサードパーティ製品の台頭によるところが大きい。V-Rayに始まり、ArnoldRenderManRedshiftOctaneRenderなど、多数のレンダラが発表され、なおかつプロダクションレベルで使用される機会も大幅に増え、そのシェアを伸ばしている。そんな中、オートデスク製品を長年支えてきたmental rayが、バージョン2016を最後に"卒業"したのである。これは、Maya3ds Maxを使用するプロダクションにとって、無償で使用できるレンダラがひとつ減ったことを意味し、インフラ整備にかけるバジェットを圧迫していくのが目に見えている。ポジティブに捉えるならば、デザイナーが新しいレンダラを選択する機会を得たという言い方もできる。そういった新しいレンダラ戦国時代に突入した昨今、どのレンダラを選択すべきなのか、新しく生まれ変わったmental rayを通して検証していきたい。

【A】mental ray Viewportを設定することで、インタラクティブなレンダリングをビューポート上で行うことが可能になった

【B】Render SettingsからRender Resource Managerを開くと、CPUとGPUのリソースをどのように使用するかを設定できる

MI、MIA、MDL【C】やMILA【D】などのマテリアルはひき続き使用でき、なおかつLight Path Expressions「LPE」などに対応するように更新されている

新しいmental rayを知る

現在、NVIDIAによって開発されているmental rayは、かつてはMayaや3ds Maxへ標準搭載されていたレンダラで、日本のプロダクションのシェアはかなり高いものであった。現状でも、mental rayが使えなくなってしまって非常に困っているという声もよく聞く。ただ、実際のところmental ray自体の開発が止まってしまっているわけではなく、有償化したと言った方が正しいだろう。もちろん単純に有償化したわけではなく、その性能は大幅に向上しているため、新しいmental rayを導入することは決して無駄な買い物ではない。

その大きな機能向上のひとつは、GPUを使用したレンダリングが可能になったことだ。まだまだプロトタイプではあるが、今後GPUレンダリングが主流になることは避けられない未来であり、mental rayはNVIDIAという後ろ盾を武器にGPUレンダリングを進化させていくことは大きな希望と言えるだろう。また、CPUやGPUもコア数を増やしており、並列処理が当たり前の時代となっている。そんな中、パフォーマンススケーリングは重要な要素のひとつだ。新しいmental rayでは、旧世代のCPUが搭載されたワークステーションでも、そのまま新しいGPUを載せることで新世代のパフォーマンスを得ることができる。さらに、単純にマルチGPUにすることで、多くの場合は増やした分のパフォーマンスを得られる。要するに、GPUの追加だけでインフラの一新を図ることができるというわけだ。

新しくなったグローバルイルミネーションエンジンも見逃せない。従来のGIの手法に変わり、新しくGI-Nextエンジンが導入された。これは、V-RayやRedshiftではなじみのある、Brute Forceのアルゴリズムをベースにしており、mental rayやV-Rayを並行して使用しているユーザーは多いと思うが、さらにその垣根がなくなったと言える。そのほかにも、マテリアル定義言語「MDL」や、Alembicへの対応、GPUで高速化されたアンビエント・オクルージョン、レイヤー化シェーダ「MILA」など多くの機能を継承し、最適化している。また完全にオートデスク製品と切り離されたため、メンテナンスのしやすさやライブラリの更新など、パイプラインとしての導入のしやすさも向上している。

TEST CASE_01
mental ray 2016 vs mental ray 2017

この項では、Maya 2016まで標準搭載されていたmantal rayと、NVIDIAから販売されているmental ray for Maya 2017を比較していきたいと思う。バージョンの差で言うとマイナーバージョンが少し異なる程度ではあるが、2017ではGPUがサポートされていたりと機能拡張がなされている。新しいmental rayはプロトタイプな部分も多いため、まだ大幅にスピードが向上しているとは言いがたいが、それでも十分に速度の向上がみられる。

【テスト環境】
● OS : Windows 7 Professional 64bit
● CPU : Intel Core i7 6800K 3.40GHz
● RAM : 64GB
● GPU : Geforce GTX 1080 (Dual)
● Strage : 1TB SSD
mental ray : ver.3.14.3.41 (for Maya 2017)
mental ray : ver.3.13.1.10 (for Maya 2016)

Rendering Images
レンダリング画像



  • mental ray for Maya 2016



  • mental ray for Maya 2017

Render Settings
レンダリング設定

mental rayのバージョンちがいによる比較は上記の画像の通りで、レンダリング結果はほとんど変わらないが、Indirect Diffuseにおけるノイズの具合が多少異なる。Maya 2016の方はGI Prototypeを使用しており、Maya 2017の方はGI-Nextを使用している。Render Settingsの項目を見てみると、その内容はどちらのバージョンもほとんど変わらず、これまでの内容を難なく引き継ぐことが可能だ。今回の設定はOverall Qualityでクオリティの調整をしているのみで、ほとんどデフォルトのままレンダリングしている。また、設定項目も以前に比べてかなりシンプルになっており、簡単にクオリティを管理することができるようになっている。画像はないが、GIを設定しない場合の速度にはあまり差は見られなかった。結果としては、新しいmental rayの方が高速なことがわかった。ただしGIのModeが別であるためノイズの取れ方なども異なり、一概には比較できないものの今後の速度向上に期待がもてる結果となった。

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TEST CASE_02
mental ray vs others

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TEST CASE_02
mental ray vs others

この項では、新旧のmental rayと、2017から搭載されているArnold、その他サードパーティ製のレンダラである、V-Ray、Redshiftをそれぞれ比較していく。特徴がそれぞれにあり、長所短所はあれど、使いどころをきちんと選べば十分に力を発揮してくれるレンダラばかりであることはまちがいない。下記の結果は、基本的には同じような画像を作成するための設定に合わせてあるが、速さを競うための設定ではあるため、単にレンダラの良し悪しを比較するものではない。

【テスト環境】
mental ray : 3.14.3.41 (for Maya 2017)
mental ray : 3.13.1.10 (for Maya 2016)
Arnold : 1.4.2.0
V-Ray : 3.52.03
Redshift : 2.0.94

Rendering Images
レンダリング画像

mental ray for Maya 2016

mental ray for Maya 2017



  • Arnold



  • V-Ray

Redshift

Render Settings
レンダリング設定



  • mental ray 2017



  • Arnold



  • V-Ray



  • Redshift

レンダリングの設定は上図の通りだが、あくまでも見た目も含めて同じような結果になるように調整したものであり、それぞれの項目が異なるため完全に同一の設定ではない。その結果から言うと、速度的にはmental rayがおよばないところはある。この比較においてRedshiftの速度はかなり速いもので、他を寄せつけない。ただ、この中でただひとつ純粋にGPUベースのレンダラであるため、今後mental rayの改良が続けば延長線上にいるレンダラだと考えたい。以前までのバージョンではArnoldやV-Rayには到底追いつけない速度であったmental rayだが、最新のものでは大きくその差を詰めてきていることがわかった。

EXTRA
Cartoon

最後の検証はカートゥーン表現。mental rayのContoursを使用した表現になるが、これはmental rayに軍配が上がる結果となった。その理由はやはり、Mayaとの親和性の高さゆえによるものだと感じた。V-Rayもカートゥーン表現に対応はしているが、mental rayのようにシェーダで詳細を調整することは難しく、ある程度表現の幅は決まってきてしまう。mental rayの場合、Contoursのシェーダは外部からも入手可能な上、プロダクションによってはこれまでの蓄積されたアセットがそのまま使えるため、カートゥーン表現はこれまで通りmental rayを使用していく可能性が高いことがわかった。

mental ray for Maya 2017

Summary
比較を終えて

今回は、新旧のmental rayを中心に計5種のレンダラを比較してきた。結果として目に見える比較は主に速度が中心となる。前項までのグラフで見て取れるように、速度的な部分で言うとmental rayは及ばない点も多く見られる。Redshiftのように、GPUベースのレンダラが台頭してきている近年、CPUだけでは速度面で太刀打ちできない状況なのは確かで、V-RayもArnoldも速度面ではRedshiftに大きく差をつけられる結果となった。そのような中、mental rayはGPUを取り入れてきており、確実にその速度を向上させていっている。そこはさすがに世界一GPUに強いメーカーが開発していると言えよう。

事実、mental rayの速度だけを見ると他のレンダラにおよばない部分は目立つが、レンダラの性能というものは決して速度だけが重要なポイントではない。mental rayの強みは、長い歴史をユーザーと共に歩んできたことにあると考える。これは、どんなユーザービリティもかなわない強みではないだろうか。安定した画像を提供する上で、これまで蓄積してきたノウハウとアセットは一瞬の速度以上に非常に重要なポイントとなっていく。レンダラの選択はあくまでそのシチュエーション次第だが、価格・性能・安定性など、どういった部分が求められているのかを吟味する必要があるだろう。確かに、スケジュールがタイトなプロジェクトでは速度こそ正義ではあるが、安定性や知識などが欠けてしまっては、かえって遠回りになる可能性を十分に考慮すべきである。

今回、mental rayを検証して思ったことは、やはり慣れ親しんでいるレンダラゆえ厳しい目で見てしまう部分も多く、他の便利なレンダラに魅かれる部分も少なからずあった。ただ、驚いたことは、NVIDIA製になってからの新バージョンを触った際、一瞬でその進化を感じたことだ。そういったことを踏まえて、今後の発展に大いに可能性を感じた検証だった。

レンダラとは、これまでのように単純なレンダリングツールにとどまらない時代に突入していると考えている。その理由として、これまでのようにひとつのツールで完結するようなワークフローは古く、これからは各シチュエーションに特化したツールを使い分けることを前提としたワークフローになっていくものと考える。そうした際、レンダラはパイプラインツールとして各ソフトウェアを橋渡しする使命を帯びてくるのだ。これは、これからのレンダラにとっての宿命であると言えよう。mental rayをはじめとする各レンダラには、主要なソフトウェアに対応したプラグインを準備することが、今後望まれる大きなポイントとなるだろう。

Mental Ray 製品情報

  • Maya版
    ・Mental Ray Plug-in SW for Maya 1 year - FloatingMental (716-70000-MRY0-001)
    ・Mental Ray Plug-in SW for Maya Pro GPU 1 year - NLMental (716-70000-MRY0-005)
    3ds Max版
    ・Iray&Mental Ray Plug-in Software for 3ds Max 1 year - FloatingIray(716-70000-ARY0-001)
    ・Iray&Mental Ray Plug-in Software for 3ds Max 1 year - Pro GPUIray(716-70000-ARY0-003)

※ NVIDIA Mental RayはNVIDIA Quadroシリーズのグラフィックカードを搭載したPCでの使用が推奨されております。
※"Pro GPU"版はGPU(NVIDIA Quadro、Tesla)のみに対応したバージョンです。
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