去る9月15日(金)、飯田橋・角川第3本社ビルにおいて「シャープ『AQUOS 8K』体験&トークショー」が開催された。本イベントでは、シャープが12月1日(金)に発売予定の世界初の家庭用8K対応テレビ「AQUOS 8K」ことLC-70X500の製品と実際の映像が披露され、さらに8K/HDR制作のオリジナルコンテンツ『LUNA』が上映。8Kの普及で開かれる新しい可能性が示されるイベントとなった。

TEXT & PHOTO_横小路祥仁 / Yoshihito Yokokouji(いちひ / ICHIHI



<1>8Kの意義

ASCII編集部のスピーディ末岡こと末岡大祐氏とともにトークショーの司会を務めたアイドルグループ・SKE48の松村香織氏は、自身でも4Kや3Dに対応したカメラを所持しコンサートなどを撮影しているが、PCスペックの制約で実質2Kレベルの画像でしか編集できない環境であるという。そこから16倍の8Kとなると、本当に遠い存在で想像もつかないと語った。同様に、一般ユーザーの中には、メーカーは4Kを売ったかと思えば8K、どうせその次は16Kか、とうんざり感を覚える人や、2K程度でも十分楽しめている、という人も少なくないのではないだろうか。

トークショーでは、まずシャープ株式会社テレビシステム事業本部の高吉秀一氏、高倉英一氏の両名が8Kと新製品LC-70X500について語った。高吉氏は国内事業部8K推進部部長として、来年に控えた8K実用放送の開始に向けて8Kのプロモーションに携わっており、高倉氏は栃木開発センター第2開発部長として、LC-70X500をはじめとするモニター、8K放送のチューナーの開発を行なっている。

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      高吉秀一氏(シャープ株式会社 TVシステム事業本部 国内事業部 8K推進部長)   

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      高倉英一氏(シャープ株式会社 同事業本部 栃木開発センター 第2開発部長)   

先述した通り、2018年12月には8K実用放送の開始、さらに2020年には東京オリンピックが控えており、8K/4Kの番組が一気に普及していくと予想されている。また、8K実用放送は解像度が8Kに上がるだけではなくHDRにも対応するため、高精細というだけでなく1つの画面の中で明暗を損なうことのないくっきりとした映像にもなる。さらに、音声に関しては従来の5.1chから最大22.2chの放送が可能となる。シャープとしては、今回のLC-70X500は「家庭用として世界初の製品を出す」というより「もうあと1年しかない」という認識の下での発売なのだという。

シャープは8Kの開発を着実に進めてきた。2011年に世界初の8Kディスプレイを開発し、2015年には85型の業務用モニタを発表、2016年からNHKの8K/4K試験放送に受信機を提供している。この85型モニタは当時1,600万円の販売価格だったが、今回紹介されたLC-70X500は70型で、オープン価格ではあるが、実売価格は約100万円を見込んでいる。

短期間での大幅な値下がりに、司会の松村氏は「ボッタクリだったんですか」と直球な発言をして会場の笑いを誘っていたが、これは、複数のICを組み込んでいたものをワンボードにまとめ、基本的なコストを抑えた開発陣の努力の成果が大きく、さらに業務用の大型モニタのようなBtoBの商品に比べて量産の効果が大きいため、100万円という価格帯を実現できたのだという。さらに、過去の4Kのハイエンド商品の販売実績を踏まえ、8Kの普及も見込んで広く購入してもらえる価格帯の上限としてこの価格が設定されている。

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  シャープの高吉氏・高倉氏による、8K放送に関する解説の様子   

また、LC-70X500は既存の2K/4Kのコンテンツの解像度をアップコンバートして観る機能も備えている。一般向けのカメラは性能が向上し、既に4K以上の解像度で撮影できる製品が普及しており、Nikon D850といったような8Kを超える解像度で撮影が可能な機種も発売されている。そうしたニーズも睨んだ商品展開を進めていくとのことだ。

高吉氏は、8Kの魅力は大きく4つあるという。第1に、解像度が高いため臨場感が得られること。第2に、実物感。NHKの研究によると、8Kモニターに2K、4K、8Kと解像度を変えた蝶の標本を映して見せた場合、8Kは実物と同じように見える、とのアンケート結果が得られたと言う。これは、人間の眼に実物と同等の画像を見せるという意味では8Kがゴールとなり、このあとさらに16Kへ、とはならないのではないか、ということだ。

第3に、8Kレベルの高精細映像は3Dではないにも関わらず奥行き感、立体感を生むこと。第4に、例えば古地図などを映した場合、8Kならば、細部に書き込まれた非常に小さな文字や傷なども拡大していけばきちんと見れてしまうという情報量の多さである。

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       司会・末岡大祐氏(ASCII編集部)   

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       司会・松村香織氏(SKE48)   

   

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<2> 8Kコンテンツの可能性と課題

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<2> 8Kコンテンツの可能性と課題

続いて、8Kの映像作品を制作しているクリエイターとして、P.I.C.S.の池田一真氏とROBOTの諸石治之氏が登場。池田氏は広告、ミュージックビデオ、VRコンテンツ、インタラクティブコンテンツなど幅広いジャンルで活躍している映像ディレクターである。諸石氏は8K映像やプロジェクションマッピングなど新しいテクノロジーと組み合わせた映像作品を手がけている。

 

そして、両氏が参加し昨年制作された8K/HDRドラマ『LUNA』が上映された(会場の機材の都合上、HDRではなくSDRでの上映)。諸石氏によれば、8Kコンテンツはスポーツやライブなどノンフィクションのものが多いが、『LUNA』は8Kでフィクション、物語をつくることに挑戦した作品だという。

『LUNA』は現代版竹取物語とも言うべき青春ドラマで、夜のシーンが多いがHDRでの撮影ということで、月や夜空、夜景など光の表現の多様さを意識して、ストーリーが構築された。そのため、撮影現場ではSDRとHDR両方のモニタを用意してライティングやセットのつくり込みをチェックしながらの撮影となった(詳しくはCGWORLD 2017年1月号 vol.221でもメイキングを紹介しているので、そちらも参照されたい)。

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池田氏と諸石氏による『LUNA』メイキングの解説の様子

本作で監督・編集を務めた池田氏は、8K映像と他の映像との最大のちがいは、空気感まで描かれることだと言う。「8KとHDRが組み合わされることで、2Dでも3Dに見える奥行き感が生じる」と諸石氏も続けた。ディスプレイの向こうに物語の世界があり、それを片隅から覗いているような感覚を憶える瞬間が何度もあったという。

それは演出にも影響し、説明的なカットを入れなくとも同じようなアングルで動きを追うだけで状況が伝わり、役者の微妙な表情がこれまで以上に雄弁に語る映像となった。司会の末岡氏も、作中で少女がカメラを見るシーンでは目が合って照れくさいといい、松村氏も観ているうちに作中で一緒に文化祭の準備をしているような目線になっていた、と8Kの生む現実感を体験したようだった。

もちろん8Kゆえの苦労もあり、役者の肌や衣装の質感などもリアルに映し出されるため、衣装の素材などはかなり細かくスタイリストと検討して衣装づくりを行なったという。そして、通常行う肌修正は空気感を損なうためやらなかったとのこと。

実写作品の多い8Kコンテンツだが、この作品ではCGと合成を多用しており、空の表現はほぼCGとなっている。合成の場合、不要な部分を色の情報を手がかりに切り取っていくが、2Kでは微妙にボケることでごまかされていたところが8Kではボケず、さらにHDRで色のレンジが広がったことでグリーンバックが残ってしまうという問題が起こり、結局1フレームずつ手作業で処理することになったという。またこれまでは、写真やCGは良いものであれば動画に問題なく馴染ませることができたが、8Kだと静止画の部分がまるわかりになってしまったとのこと。

撮影前に高精細画像での完成図を相当明確に設計しないと、撮影後の調整が容易ではない、というのも課題と言える。その分、事前の準備や計算が重要となる。またCGの制作環境がSDRであれば、最終的なHDRでの見え方が別物になるため、再構築が必要となってしまう。このあたりは8K映像の編集環境の進化次第だろう。

今後、8KでCG作品を制作する場合、小手先のごまかしは通用せず、実写作品・実写素材のリアリティが圧倒的になる分、むしろ大胆に"嘘"をつき、非現実的な形状や色をつくり出した方がいいのではないかと池田氏は語る。8Kはそういう表現によりインパクトを与えるものでもあるのだ。

そして解像度が向上すればもちろん扱うデータ量も増大する。本作は最終的なパッケージとしては5TBほどだが、撮影中は何本ものハードディスクを使い、撮影後夜中のうちにバックアップを取り、翌日にはデータを空にして撮影に臨む、という手間を要したという。またCGのレンダリングもこれまで数分規模の作業だったものが数時間はかかるようになった。

諸石氏は、8Kになるとキャンバスが非常に大きくなり、これまで0か1かで処理されていたその間に沢山のレイヤーが発生し、使える色の数が増え、もっと大きな画、あるいはとても小さな画も描ける。クリエイティブの世界が拡大していくというのが、これからのメディアに生まれる面白さだと語った。

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<3> 8Kのこれから

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<3> 8Kのこれから

最後に登壇者が各々8Kの展望を語った。池田氏は、クリエイターにとってはキャンバスが広がったことで見たことのない映像に挑戦できると思うが、それを一般に見てもらう機会がどんどん広がっていってほしいと語る。また、実写にとどまらず、モーショングラフィックやアニメーションも圧倒的な映像になっていくのでは、と予想した。

諸石氏は、大画面のテレビがみんなの集まるところに置かれ、家族が揃って番組を見る、そういう「お茶の間」の世界観がもう一度できるのではないかと語る。また、放送だけではなく、ライブビューイングや、電子看板、空間演出などの新しい映像コンテンツにおいても8Kが広がっていくのではないかと期待を込めた。

高倉氏は、新しく良い技術が新しい価値を生むと思っているが、多くのお客さんに買ってもらえるような価格帯の商品を出し、広く使ってもらって、メーカーが想定していないような使い方が生まれていけば面白い展開になると語った。

高吉氏は、テレビメーカー側は2018年12月をゴールに置いていたが、8Kクラスのカメラが既に一般販売され、スクウェア・エニックスが来春には8K解像度対応のゲームを発売予定であると発表するなど、8Kの展開やこれまでにないコンテンツの登場が、想定以上に早くなるのではないかと期待を語った。

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