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8月30日(水)から9月1日(金)の3日間にわたり、パシフィコ横浜で開催された日本最大のコンピュータエンターテインメント開発者向けカンファレンス「CEDEC2017」(コンピュータエンターテインメントデベロッパーズカンファレンス2017)。同イベントはゲームやCG制作に関するツール・ミドルウェアベンダーにとって、製品を直接クリエイターにアピールできる数少ない場所となる。ブース出展にとどまらず、講演形式のスポンサードセッションも活発だ。

本稿ではその中でも、ゲームエフェクトミドルウェア「SPARK GEAR」で急速な成長を遂げているスパーク社のセッション「SPARK GEARを用いたスマートフォンでのハイクオリティなVFX開発事例とハイエンド向け新機能の紹介」を取り上げる。壇上にはモバイルゲーム『SINoALICE(シノアリス)』の開発を手がけるポケラボの池田博幸氏と、モバイル・PCゲーム『CARAVAN STORIES』の開発を手がけるAimingの板井諒輔氏が登壇し、エンドユーザーの立場から活用事例が紹介された。

TEXT & PHOTO_小野憲史/Kenji Ono
PHOTO_大沼洋平/Youhei Onuma
EDIT_山田桃子/Momoko Yamada


SPARK GEARの現状と将来について解説する、スパーク創始者・代表取締役の岡村雄一郎氏

ゲーム制作向けツール・ミドルウェアの中でも、エフェクトは非常にニッチな存在だ。コンテンツの完成度に大きく影響する一方で、広がりに欠けるからだ。一口にエフェクトといっても、実写映画やアニメのVFXとゲームのエフェクトでは考え方が異なる。さらに同じゲームでも、FPSやアクションゲームが中心の欧米圏とRPGが人気の日本でも、エフェクトの概念が異なる。銃口のフラッシュマズルと魔法の召喚エフェクトは、似て非なる物であることがわかるだろう。

そのため、長くゲーム業界では内製でエフェクトツールを開発する例が一般的で、これがビジュアルノ差別化に大きく影響していた。これが2010年代に入り、ネイティブアプリ開発が中心になると、Unityの「Shuriken」やUnreal Engine 4の「カスケード」といった、ゲームエンジンに付属のエフェクトツールが多く使用されるようになった。しかし、これらは国産ゲーム開発に特化した内容ではないため、現場で使いにくさや機能不足を指摘する声も少なくなかった。

こうした中で、新興勢力として急成長を続けているのが「SPARK GEAR」だ。同エンジンを開発したスパーク創始者・代表取締役の岡村雄一郎氏はゲームリパブリックやスクウェア・エニックスで大作タイトルの開発にかかわったVFXアーティストで、現在もコンサルティングや制作業務にたずさわりながら、SPARK GEARの普及につとめている。日本人がつくった、日本のゲーム開発に向いた機能をもつゲームエフェクトミドルウェアとして、モバイルゲームを中心に広がりを見せ始めている。

同講演で紹介されたゲーム『SINoALICE』と『CARAVAN STORIES』も、共にUnityベースで開発されていることや、これまでの開発ノウハウなどから、当初はShurikenでのエフェクト制作が検討された。しかし、Shurikenの標準機能では補いきれない部分があり、検討の結果、SPARK GEARが採用された。その結果、これまでにない表現力をもつゲームに仕上げることができたという。以下、講演のポイントを抑えながら、SPARK GEARならではの強みについて解説していく。

<2>SPARK GEARが可能にしたヨコオワールド


ポケラボの池田博幸氏

『SINoALICE』はポケラボとスクウェア・エニックスが共同で開発・運営を手がけるスマホRPGだ。原作とクリエイティブディレクターを『NieR』シリーズで知られるヨコオタロウ氏が担当しており、他のファンタジーRPGとは一線を画した、ダークな世界観が特徴となっている。同作でバトルエフェクトを担当したポケラボの池田氏は、「前作『クロスサマナー』と同じ手法では、エフェクト表現に限界があり、苛立ちと悔しさを感じていた」と切り出した。


そこで池田氏は「新しい表現には新しい武器が必要だ」として、ShurikenとSPARK GEARのメリットとデメリットについて、「リーチ」「軽さ」「切れ味」で5段階評価した。その上でShurikenについて「必要最低限の機能に絞られているパーティクルツールで、Unityとの統合性は高いが、自前での機能拡張が必要」と分析。これに対してSPARK GEARは「ツール内で全ての作業が完結し、動作も軽く、パーティクルだけに頼らない、多彩な表現ができる」と評価した。

もっとも、ShurikenはUnityの標準ツールで、無料で使用できる。これに対してSPARK GEARは初期導入費に100万円が必要で、以後も毎月20万円がサービス終了時まで発生する(1契約で原則として10台の端末ライセンス)。導入を決めた当初は採用事例も乏しく、初心者向けのマニュアルなども未整備だった。しかし、それらを補ってあまりあるメリットがあると確信したという。その結果、UI部分にShuriken、バトルやカットシーンにSPARK GEARと二刀流でのぞむことになった。

無料だが機能が限られるShurikenと、有料だが機能に優れるSPARK GEAR。両者を適材適所で使い分けることが重要だった

もっとも、思わぬ問題も発生した。『SINoALICE』はキャラクターが2.5Dの半透明で描画されているため、Unityの単一カメラで表示すると、エフェクトがキャラクターの前面に表示されてしまったのだ。そこでエフェクトを自然な形でまわりこませるように、カスタムシェーダーが作成された。他に実機上でジャギーが発生しないように、ソフトフォーカス処理も加えられている。「これによりドローコールが1つ増えましたが、安いコストだと判断しました」(池田氏)。


フル3Dでは問題ないが、2.5D的な表現ではエフェクトの回り込みを専用シェーダーで解決する必要がある

SPARK GEARを採用したことで、デザイン面に対するヨコオ氏からの「スタンダードかつスタンダードでないもの」という提案にも、解決の糸口が見え始めた。禅問答にも感じられる提案に対して、池田氏は「表現は見た人の記憶に残るものでなくてはならない」と自分なりに解釈。その上で、「ヨコオ作品には人間の汚く歪んだ側面が描かれている。これをビジュアル的にも表現できれば、他との差別化にもつながる」と考えたという。

具体的にはリアル系の画像素材を使い、SPARK GEARのパレットで色を上書きしたり、アルファ値の階調を再調整したりすることで、両者の中間的な表現が可能になった。また、エフェクトがちぎれて消えていくようなアニメ的表現も、連番ファイルを使用せずに、ツール上で手軽に実現可能になった。他に単一チャネルのグレースケールフォーマット「R8」や、複数のエフェクトをひとつに統合し、Unity上で同一のプレハブとして登録する「トリガー」機能も、強力な援軍となった。


メモリを節約してリッチなエフェクトを表現する上で貢献した3つの機能

実際に池田氏は、これらの機能がなければ、『SINoALICE』の仕様を満たしつつ、リッチなエフェクトを再生することは、不可能だっただろうと語った。というのも、リアルタイムバトルを採用した本作では、ワールドのあちこちで同時多発的にエフェクトが発生することが予想されたからだ。そのうえゲームデザイナー側から「武器の種別・属性・威力で異なるエフェクトを再生したい」という要望が加わった。そのままではメモリ不足は明らかだった。


池田氏曰く「リボルバー拳銃の弾倉に弾を込め、撃鉄を起こして、引き金を引くようなもの」だというエフェクト制作のワークフロー

これを解決したのが、「R8」「パレット」「トリガー」を活用したワークフローだ。はじめにエフェクトデータをR8フォーマットでグレースケール化する。続いてパレットで色づけし、ランプテクスチャを作成して、該当の画像にパレットとして登録。最後にエフェクトの種類別に切り分けたタイムラインを指定の番号にトリガーとして登録し、再生条件にあわせて番号で呼び出すというものだ。これによってリッチで軽いエフェクトデータが作成可能になったとあかした。

このほか、ヒットエフェクトの位置・大きさ・角度など、ほぼ全ての要素に乱数を導入し、ヒットするたびに毎回、微妙にちがう結果が描画されるように工夫がなされた。これらの処理もSPARK GEAR上で設定することで、手軽に実現可能だったという。池田氏は「乱数はあくまでスパイスで、メインディッシュではないが、女神は細部に宿る」とコメント。こうしたこだわりを突き詰めることで、静止画でも映えるエフェクトをつくることができたと振り返った。

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<3>UnityとSPARK GEARを連動させた作業環境

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<3>UnityとSPARK GEARを連動させた作業環境


Aimingの板井諒輔氏

セッション後半で語られた『CARAVAN STORIES』は、Aimingが開発中のPC&スマホ向けMMORPGだ。『SINoALICE』が2.5Dの横スクロールRPGだったのに対して、本作はフル3DCGを採用しており、トップビューで冒険が繰り広げられる。ゲームエンジンはUnityで、講演を担当した板井氏は前作『幻塔戦記グリフォン』に引き続いてエフェクトを担当。『CARAVAN STORIES』では、前作以上のエフェクト表現に挑戦したいと考えていたという。

具体的にはディストーション表現やポストエフェクト、ソフトパーティクルなどだ。ゲーム本編も「手描き感」をキーワードとした画づくりを志向することになり、どのようなエフェクトが似合うのか、またそれが可能なのか、技術検証が続けられた。その結果、キャラクターやヒットエフェクトなどはアニメ的、炎や滝などの背景系はリアルテイストよりの表現が選択された。「これらを行う上で、SPARK GEARは非常に効果的でした」(板井氏)。

全体の画づくりの中でエフェクトのテイストをどのようにするか、さまざまな試行錯誤が行われた。板井氏自身、かなり悩んだところだという

板井氏は中でも、「テクスチャのテイストをリアルタイムに変化させられる機能」をあげた。1枚のテクスチャでも、淡くて清らかな色調から、単色で固いエッジの絵まで、見た目をリアルタイムに変化させられるというものだ。これにより爆発エフェクトでも、爆心地の炎は白飛びさせつつ、シルエットをくっきりと表現し、先にいくほど色を暗くして、シルエットをボケ気味にするといった表現ができる。同じ爆発エフェクトでも、リアル調からアニメ調へと、リアルタイムに変化させられるのだ。

アルファ値の加算などで単色エフェクトの見え方をリアルタイムに変化させられる

続いて板井氏は内製エディタとSPARK GEARとの連携による作業環境についても解説した。本作ではUnity上で「スキル(魔法・特殊攻撃など)開発エディタ」、「カットシーン編集ツール」、「デバッグ環境」などの開発環境が準備され、その上で実際のゲームが開発されている。各々のツールはSPARK GEARと連携がとられており、SPARK GEAR上での修正が即座にツール側に反映され、結果を確認できる。これによりエフェクトアーティストは開発画面を見ながら、直接編集作業が可能だ。

戦士による近接攻撃のヒットエフェクトを修正

アルファ値の加算などで単色エフェクトの見え方をリアルタイムに変化させられるドラッグ&ドロップでエフェクトを差し替えたのちに、Unity上で細部を修正。ブルームなどのUnity上でしか再現できない効果を確認しながらリアルタイムに制作できる

魔法使いによる魔法攻撃の爆発エフェクトを修正

爆発エフェクトのタイプをドラッグ&ドロップで瞬時に修正。Unity上でエフェクトの範囲も瞬時に調整できる

講演では板井氏から実際にUnityとSPARK GEARの連動デモが披露された。連動設定をすませるだけで、特別な操作を必要とすることなく、両者のデータが同期。SPARK GEARのエディタ上でエフェクトを変更すると、即座にUnity側でデータが差し替わり、ゲームの操作に合わせて再生される様が示された。近接攻撃時のヒットエフェクトに加えて、魔法攻撃による爆発エフェクトの修正も披露された。


「エフェクト専従プログラマーをアサインするのが困難」、「アーティストだけで勉強するのも困難」、「TAが業界的に不足」という状況では、これだけの機能を短期間で開発するのは困難だということがわかる

このほか、板井氏はSPARK GEARのアップデートの早さについても触れた。開発チームが導入を決めたのが2016年4月のことで、当時は基本的な機能に留まっていた。そこから1年数ヶ月で「アセット管理機能」「セルアニメ表現」「ブルーム表現」「VR対応」「テクスチャ圧縮・展開・ぼかし機能」など、さまざまな追加機能が加わった。板井氏は内製でエフェクトツールをつくり、これだけの機能拡張を行うのは、非常に困難だっただろうとコメント。SPARK GEARの導入は正解だったと締めくくった。

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<4>ハイエンドでも活用できるよう進化を続けるSPARK GEAR

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<4>ハイエンドでも活用できるよう進化を続けるSPARK GEAR

このように『SINoALICE』、『CARAVAN STORIES』の両開発で、なくてはならない存在となったSPARK GEAR。もともと同ミドルウェアはコンソールのハイエンドなエフェクト表現を、モバイルゲームでも展開可能にすることをコンセプトに掲げ、アップデートが続けられている。そのため岡村氏はUnityとCocos2d-xで利用されるケースが大半で、徐々にWebGLや、コンソールゲームでの採用事例も増えてきたと語った。現状で採用タイトルは2~30本にのぼり、現在も増加中だという。


モバイルゲームだけでなく、今後はハイエンドなコンソールゲーム開発でも活用できるように、さまざまな機能を追加実装中だ

その上で、ハイエンド機に特化した機能を順次進めており、その一環として開発中のリアルタイムフルイド(流体)機能を紹介した。フルイドがコリジョン内で干渉したり、複数のエミッターから発生し、互いに混じり合ったりと、より高度な表現が可能になるという。また、新たにUE4への対応も進めている最中で、現在はβ版をテスト中とのこと。「Unity向けに作った全てのエフェクトは、UE4上で現状の全ての機能が正常に動くところまできている。β版でのフィードバックから更なる親和性を高めたい」と抱負が語られた。

リアルタイムフルイドとUE4対応に関するデモ


SPARK GEARのリアルタイムフルイドに関するデモ。セルルックの炎柱(上左)、複数のエミッターから発生するフォグ(上右)、環境マップが貼られた流体表現(下)


SPARK GEARのアセットライブラリをUE4に配置したデモ。Unityおよびその他プラットフォーム向けに作られたライブラリデータが忠実に再生されている

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