荒牧伸志・松本 勝のダブル監督体制でフル3DCG映画の新境地を目指した映画『スターシップ・トゥルーパーズ レッドプラネット』から、エフェクト&コンポジットのメイキングを紹介する。
※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 234(2017年2月号)からの転載となります
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EDIT_藤井紀明 / Noriaki Fujii、山田桃子 / Momoko Yamada
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
映画『スターシップ・トゥルーパーズ レッドプラネット』
2018年2月10日(土)から2週間限定で全国公開予定!(吹替版のみ)
監督:荒牧伸志/松本 勝
脚本:エド・ニューマイヤー
企画・製作:ソニー・ピクチャーズ・ワールドワイド・アクイジションズ、ルーセント・ピクチャーズエンタテインメント
制作:SOLA DIGITAL ARTS
配給:KADOKAWA
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ライブラリ活用と連携が光るエフェクト&コンポジット
本作でのエフェクトカットは500におよぶ。これを少人数で短い期間のうちに捌くことができたのは、精鋭揃いであったこともさることながら、これまでの作品でSOLAに蓄積されてきたエフェクトライブラリが威力を発揮したためでもある。エフェクトは2D連番やキャッシュの状態で保持されており、アングルを変更するためにシーンデータを開いて改変することも含め、実に半分以上のカットがライブラリからのアセットでまかなわれ、またショットワーク中にシミュレーションが必要になったのは1/4程度だったとのこと。
「エフェクト作業はどうしてもプロジェクトの後半に集中的に動くことになりますが、本作は終盤3~4ヶ月がメインの作業期間になりました。それまでは必要になりそうなアセットをひたすらつくり足していました」とエフェクトスーパーバイザーの清塚拓也氏が語るように、バグのダメージ表現、血しぶき、プラズマ弾は本作の新規エフェクトだがライブラリに追加され活用された。「アセットとして作成しておいたものの、本番作業中には時間的に組み込めなかったというケースもありました」とエフェクトスーパーバイザーの柳谷 稔氏もふり返る。
キャラ・背景のレンダリング連番、エフェクトの仮コンポを受け、松本 勝監督率いるコンポジットチームが映像として仕上げていく。「とにかく物量をこなすことがキーになりましたが、ライティングボードの充実が奏功し効率的に作業できました」(松本監督)。
選ぶのに迷う膨大なエフェクトライブラリ
これまでつくり溜めてきたエフェクトがフォルダに分けて共有されている。「確認したら2D連番素材だけで1,200ほどありました。同種のエフェクトでも膨大な数になるので、使うときに迷ったり、どこがちがうのか見比べたりするほどです」(柳谷氏)。「ショットワークでシミュレーションをかけていたら間に合わないという前提があったので、2D素材も含め効率的にエフェクトを追加していきました。実写VFX作品で2D素材で画面を豪華にしていくのと同様の発想ですね」(清塚氏)。
2D連番素材のトップフォルダをブラウズしたところ。20ほどにカテゴライズされているほか、確認のために縮小したビデオサムネイルのフォルダも。また階層ツリーを確認すると、例えばSmokeGGというエフェクトだけで7種存在することがわかる
ビデオサムネイルフォルダ。エフェクトを4×4のタイル状に並べ、名前を確認できる状態にして動画化している
地面破壊エフェクト
大型のバグが地面の下から出現する際のエフェクト。当該シークエンスは複数名で担当しているが、破砕された岩塊が吹き飛ぶ様子や土煙はMayaで作成されている。またバグが大量の瓦礫を落とす表現にはHoudiniが使われている
Mayaでの作業画面。土煙のレンダリングはVRayVolumeGrid
アセット化されてライブラリに設置されている
多種にわたるエフェクト
ライブラリには多様なエフェクトが置かれている。炎や爆発など定番のものから、本作用のバグの血しぶき、パワードスーツのスラスターなどもある
炎・爆発のビデオサムネイル。煙だけレンダリングしたものもある
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マズルフラッシュのビデオサムネイル。発砲者への照り返しも含む。発泡タイミングを表すタイムラインも込みで映像化されているのが興味深い
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破壊エフェクトのビデオサムネイル。連番+煙のキャッシュやPhysXリジッドボディなど様々な形式のものがある
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アーティストごと、ショットごとにベストなツールを選択
アーティストごと、ショットごとにベストなツールを選択
エフェクト制作時のツールは特に固定されておらず、アーティストごとに成果を出しやすいものを選択。「主に爆発はFumeFX、液体はRealFlowが使われており、ほかにMayaや3ds Maxでのパーティクルもその方が効果的・効率的であれば使われます。使い分けは担当者次第です」(清塚氏)。「私は主にHoudiniで作業しています。とにかく画を出せばあとはコンポジット側がしっかり回収してくれるという信頼感がありました」(柳谷氏)
3ds Maxでの爆発エフェクト
RealFlowでのバグ血しぶきエフェクトとライブラリでのビデオサムネイル
それらを組み合わせた完成画像
Houdiniでの破壊エフェクト
大量の瓦礫を落としながら地面を割って出現する大型のバグ。落ちていく瓦礫のエフェクトはHoudiniで作成された
ネットワークは大きく「シーンデータ」「インスタンスされる瓦礫データ」「それらを受け取ってシミュレーションをかける」という3つにグループ分けされている
落下する瓦礫と捲き上る砂のネットワーク。VDBで変換してdopnetでダイナミクス演算した結果をbgeoキャッシュのかたちで受け取り、ROPネットワークへ送ってレンダリングしている
大規模な大地破砕とタワー破壊の作業。Houdini 16で追加されたコンパイルブロックが活用されている
コンポジットの様子 松本監督お気に入りのカットから
基本的にはキャラも背景も同じコンポジット用素材を出力しており、そこにエフェクトが絡んでくるとその分だけ複雑さが増していく。その後のグレーディング作業を見据えて階調を失わないようにコンポジットする必要があった。「ドルビーのスタジオでのグレーディング作業時、スタジオの映像技術スタッフが『この作品はきちんとつくられていて、よく起こりがちな破綻が少ない』と好評でした。そのあたりはさすが松本さんだと思いました」(荒牧監督)。「『α』では荒野の空が映画館で必要以上に眩しく感じられたため、今回はそのあたりをシビアに調整しています。また、近年はWeb上やスマートフォンでの閲覧が多いので、圧縮がかかってもきちんと観られることを意識して詰めています」(松本監督)
After Effectsでの作業画面
素材を重ねていく様子
AEでのエフェクト追加作業の例
エフェクトチームとコンポジットチームの連携は厚く、「爆発ひとつにしても要素によって分けられた複数の素材で構成されています。これら全ての素材を読み込んでプレビューするだけでもかなりの時間がかかるところなのですが、コンポ班が調整しやすいように要所要所でFX班がプロキシ化してくれていました。そういうのをいちいち頼まなくても行なってくれる配慮というか、まごころが感じられて素晴らしかったです」(松本監督)
コンポジット後の画像
宇宙の星の光跡を描画するためのプラグイン「Maas Digital StarPro」。3Dカメラを読み込むとそれに合わせて輝度を保ったまま星の光跡を描いてくれる。3DCG上で表現しようと思うとマルチパスを出す必要があるなど、地味に手間のかかる表現だ
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映画『スターシップ・トゥルーパーズ レッドプラネット』
2018年2月10日(土)から2週間限定で全国公開予定!(吹替版のみ)
監督:荒牧伸志/松本 勝
脚本:エド・ニューマイヤー
企画・製作:ソニー・ピクチャーズ・ワールドワイド・アクイジションズ、ルーセント・ピクチャーズエンタテインメント
制作:SOLA DIGITAL ARTS
配給:KADOKAWA
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