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"日本全国からクリエイターを探し出したい!"という思いのもと、2015年にスタートしたリクルートイベント「クリ探」。CG業界をめざす地方の学生に向けて、東京を拠点に活躍するCGプロダクションが、仕事の内容や東京で働くことの魅力、求める人物像などを伝える同イベントは、回を重ねるごとに業界と学生をつなぐ大きな架け橋となり、クリ探をきっかけに東京への就職を決めた者も多い。8回目となる今回は、2017年12月2日(土)に福岡県で開催。福岡はもとより、九州各地から約70名もの学生や教育関係者が集まった活気あるイベントの様子をレポートする。
TEXT & PHOTO_水溜兼一 / Kenichi Mizutamari(Playce)
EDIT_山田桃子 / Momoko Yamada
福岡の学生たちが真剣に聞き入った
プロダクション5社による熱のこもったリアルな会話
パネルディスカッションは3部構成となっており、「CGプロダクションのコト」、「東京のCG業界で働くコト」、「採用されるコト」をテーマに、東京のプロダクションがトークを展開。今回は、クリ探でおなじみのCGプロダクション4社(エヌ・デザイン、神央薬品、スパイス、ドロイズ)に加え、コンテンツやツール開発を行なっているCodelightが初参加。合計5社による熱のこもったリアルな会話に、学生たちはメモを取りながら真剣に聞き入っていた。
パネルディスカッションの様子。写真右側から、林 丈二氏(スパイス)、高田稔則氏(Codelight)、ノブタコウイチ氏(神央薬品)、阿部広久氏(エヌ・デザイン)、山浦正裕氏(ドロイズ)
Session1/CG プロダクションのコト
セッションの冒頭では、各社の代表者および採用担当者の仕事内容や社内の様子などについて紹介。プロダクションによって得意とするジャンルは異なり、会社の規模や経営方針もちがうので、就活には会社研究が欠かせない。以下、各社の特徴をまとめてお伝えする。
Production1/エヌ・デザイン
www.ndesign.co.jp
2001年設立のCGプロダクション。「ハリウッド映画のVFXがつくれる会社」を目標に、映画やドラマのVFX・CG映像制作をメインで行なっている。従業員は40名で、うちデザイナーは31名。3DCGスクールのAlchemyも経営しており、デザイナーの半数近くが、このスクールの卒業生だ。加えて、フィリピンにはDawnPurpleという支社もある。「弊社は長尺物の仕事が中心で、ひとつの案件に時間をかけて取り組むことが多いです」(阿部広久氏)。
Production2/神央薬品
www.zinou.jp
CGアニメーション制作に特化したプロダクションで、設立は2012年。映画、CM、TV、ゲームなど様々なカテゴリーにおいて、アニメ、実写と全てのジャンルに対応。従業員24名のうち、19名がアニメーターで、他にリギングを担当するリガー、進行管理を担当するマネージャー、プロデューサー兼ディレクターで構成。女性が比較的多く、男女比率は16:8、平均年齢は28歳。「スタッフの半数以上が20代前半で、新卒入社が多いです。年々スタッフが増え、規模が拡大しています」(ノブタコウイチ氏)。
同社は社名に「薬品」の文字が含まれているが、これはノブタ氏の両親が、かつて調剤薬局を営んでいて、同氏がプロダクション設立の際、社名を引き継いだことによる。現在は医療関係の事業に携わっておらず、CG制作のみを行なっている。
Production3/スパイス
www.spice-inc.co.jp
1984年設立で、広告代理店の制作業務を母体とした、6社からなるグループ会社。CG部、Web部、グラフィック部の3部署が制作事業を担う。モーションキャプチャスタジオを運営しているのも特徴。グループ全体で従業員は約180名。うちCG部は約20名で、イベント映像や広告、遊技機、AR・VRなどの仕事を行なっている。「弊社はアニメーションやキャラクターの仕事が多いです。CG部にはモデラ―、アニメーター、コンポジター、ゼネラリストがいますが、業務の効率化を図るため、今後は特にゼネラリストの育成に力を入れていくつもりです」(林 丈二氏)。
Production4/ドロイズ
www.drawiz.co.jp
2008年設立のCGプロダクションで、3DCG・VFX技術を駆使した特殊効果・実写合成の映像制作を得意とする。テレビCMのCG制作を中心に、PV、イベント、ゲーム、映画、ライブ、VR、遊技機など、手がけるジャンルは多彩。従業員20名のうち15名がデザイナーで、男女比率は9:1、平均年齢は31歳。「弊社は全員がゼネラリストで、モデリングからコンポジットまで1人で行います。抱えている案件が多く、仕事は週替わりになることも。そのぶん、様々なジャンルのスキルを磨いていけます」(山浦正裕氏)。
Production5/Codelight
www.codelight.co.jp
2006年設立で、イベントや施設向けのインタラクティブコンテンツの制作、3DCG制作会社やゲーム会社の制作支援ツールとなるスクリプトやプラグインなどの開発のほか、VRを活用したシミュレーションシステム開発なども手がけている。従業員は4名で、内訳はプログラマーが3名、デザイナーが1名。「博物館などに設置されているタッチパネルの情報コンテンツ、子ども向け体験型施設のシミュレーター開発などに関わることが多いですね。Maya、3dsMax用のツール開発も長く行なっています」(高田氏)。
パネルディスカッションでは、業界全体の傾向として、ここ数年で遊技機が減少し、代わりにスマホゲームが増えたり、広告がTVCMからWebに移ったり、すさまじい勢いで扱うジャンルの割合が変化していることも語られた。CGWORLDのアンケート結果では、これまで比較的少なかったAR・VRが今後大きく伸びると予測されている。時代のニーズに合わせてプロダクションが取り組むジャンルが変わっていくことも頭に入れておきたい。
アンケート調査『CGWORLD白書 2016』より抜粋(※)。CGプロダクションが多岐に渡るジャンルを手がけていることがわかる。さらに、「今後増えそうなジャンル」と比較することで、取り扱い案件に大きな変化が起こることが予想される。今回のパネルディスカッションでは、AR・VR案件がすでに増え始めていることも語られた
※調査方法:Webアンケート、調査期間:2016年6月1日(水)~13日(月)、調査対象:CG・映像業界勤務者、回答者数:198名
セッション1部の最後では、各社が使っているツールについて触れ、入社前にツールを使いこなせた方が良いかという質問にも答えた。メインで使用するツールは、3ds Max、Maya、Nuke、Houdini、Unityなどプロダクションによって異なるものの、いずれも完璧に使いこなせる必要はないとの意見が多かった。採用に当たってはツールがどれくらい使えるかよりも、意欲を重視することは各社共通だ。学生時代にツールの知識を蓄えることも必要だが、それ以上に映画など多くの作品に触れて感性を磨いたり、オリジナル作品をつくったりすることが大事とのコメントが印象的だった。
[[SplitPage]]Session2 東京のCG業界で働くコト
セッション2部ではまず、東京には260社、首都圏まで範囲を広げると316社のCGプロダクションがあることが示され、全国のCGプロダクションの約7割が、首都圏に集まっていて(※CGWORLD 200号 特大プレゼント読者アンケートに基づく)一大拠点になっていることを認識させられた。パネルディスカッションでは、東京で働くことの魅力や、プロダクション同士の関係、さらに、スタッフのライフスタイルなどについて意見が交わされた。
まず、東京ならではの強みとして、「映画やアニメのほとんどが首都圏で企画、制作されているので、クライアントの数だけ需要がある」、「小規模のプロダクションでも大きな作品に携われるチャンスが多い」などのコメントが寄せられた。様々なジャンルの仕事に携わりながら、どんどん腕を磨いていける環境が東京にはあるようだ。
プロダクション同士の関係について、ノブタ氏は「他の業界よりも横のつながりは強いと思います。情報を共有したり、技術的なアドバイスをもらったり、採用に関して良い人がいないかなどを聞くこともあります」と語り、林氏も「アプリケーションごとにLINEのグループを組んでいる人たちもいて、例えばNukeで50~100人ぐらいのメンバーが仕事のやりとりなどをしていて、そのつながりから転職する人もいます」と話すなど、各社とも横のつながりの大切さを強調した。
仕事のチャンスが多い東京だが、学生たちの中には「仕事がハードなのでは?」、「家賃の高い東京でやっていけるだろうか?」と不安を感じる者もいるだろう。そこで、労働時間と休日についてのアンケート結果を踏まえながら、各社が実情を語った。
アンケート調査『CGWORLD白書 2016』より抜粋(※)。東京のCGクリエイターの実働時間は、平均9.3 時間(通常時)で、全国平均の7.9時間より1.4時間ほど長い。年間の休日は、101~120日との回答が半分近くを占め、週休2日が定着しつつあることが窺える
※調査方法:Webアンケート、調査期間:2016年6月1日(水)~13日(月)、調査対象:CG・映像業界勤務者、回答者数:198名
ノブタ氏は、「以前に比べたら労働時間は減っていて1日10時間ぐらい。それでも他の業界より長いかもしれませんが、土日は休むという習慣が根付いてきていると思います」と、労働時間が短縮傾向にあることを述べた。高田氏も、「労働時間が長いといっても、仕事中に休んでいることも多い。弊社では最近、勤務時間の見直しを図り、10時出社19時退社を徹底したところ、それまでの長時間労働が改善されました」と話し、他社もあまり遅くまで会社にいないよう、スタッフに働きかけているようだ。家賃については、住宅補助を支給する会社もいくつかあった。さらに、CG業界で長く働き続けていくためには、出産や育児をすることになった場合の会社の対応も気になるところだが、これについて林氏は、「子どもが生まれたばかりの男性スタッフは早めに退社して、残った仕事は、家で育児の合間に作業をしてもらう形をとっています。出産を機に退職した女性スタッフについては、仕事を再開したいということであれば、自宅で作業できるように、今後はインフラや機材面のサポートに力を入れていきたい」とのことで、人材を大切にしていこうという姿勢が窺えた。
Session3 採用されるコト
最後のセッションでは、ポートフォリオや面接など、採用に関わるポイントや、求める人材について意見が交わされた。
ポートフォリオに関しては、学校の課題を送ってくるケースが多いが、よほど突き抜けたものがないと採用は難しいだろうという意見が多かった。それよりも粗削りで良いから、その人の個性ややりたいことが伝わってくるようなオリジナル作品を1点でも多くつくって欲しいというのが各社共通の思いだ。山浦氏は、「ただクリエイターになりたいだけでは続かない。業界で残っていきそうだなと思う学生の作品からは目標のようなものが感じられるので、僕らも『この学生はこういうものがやりたいんだな』というのがわかります。自分のやりたいという気持ちをきちんとぶつけた作品をもってきて欲しい」と学生たちに求めた。履歴書については目を通すものの、各社ともやはり作品重視のようだ。面接に関しては、一緒に働く仲間になるので、お互いに相手の人となりを知ることは大事だという意見が出た。
採用のポイントとしては、ノブタ氏の「ガッツのある人が欲しい」という言葉に象徴されるように、各社とも意欲や熱意を重視している。実際、ノブタ氏の神央薬品では、制作意欲にあふれた18歳の若者や、31歳の社会人を採用したこともある。さらに各社とも、新卒者には即戦力であることを求めず、伸びしろを見て採用していることも興味深い。林氏は、「学生は基本的にできないと思っているので、今できなくても大丈夫。会社はうまくできる方法を知っています。半年である程度できるようにする自信は各社さんあると思います。ただ、会社はいつまでも与えてくれるわけではない。自分で様々なことを調べて、先へ進んでいこうとする自主性が見られるかどうかが採用の大きなポイントです」と述べたように、学生時代も入社後も自分から貪欲に学ぼうとする姿勢が大切であることが伝わってきた。
[[SplitPage]]東京でクリエイターを目指す若者に向けて
東京で活躍する5つのプロダクションを迎えて行われた「クリ探 in 福岡」。予定時間をオーバーするほど盛り上がったセッションの中から、東京でクリエイターを目指す若者に向けて、各社の代表が送ったコメントを紹介し、このレポートをまとめたい。
神央薬品 ノブタ氏
「ひとつ胸を張って言えるのは、仕事はとても楽しいということです。ときには辛いこともありますが、自分の手がけた作品を人に見てもらい、評価してもらえる本当に素晴らしい業界だと僕は思っています。やりたいことがあるなら、ぜひ一度はチャレンジして欲しいです!」
スパイス 林氏
「CG業界でのし上がろうと思うなら、なるべく若いうちに東京に出て、たくさんの良い作品に携わりながらCGの技量を上げていくことが欠かせません。上京するのは大変かもしれませんが、社会に出て最初の10年間を東京で勝負した経験は、後の人生にきっとプラスになるはずです」
ドロイズ 山浦氏
「あまり難しいことを考えず、例えば有名人に会いたいという気持ちで東京に出てきても良いと思います。僕も昔、そんな気持ちで地方から出てきて業界に飛び込み、有名タレントやCGでハリウッドに行った人たちと一緒に仕事ができるようになりました。東京には様々な可能性が溢れているので、やる気があればぜひトライしてみてください!」
エヌ・デザイン 阿部氏
「最近はネットインフラの普及が目覚ましく、地方にいても仕事ができたりしますが、微妙なニュアンスや相手の感覚といったものは、顔を合わせないと伝わらないし、わからない。なので、会って話ができる人がまわりにたくさんいることも東京の大きな魅力だと思います」
Codelight 高田氏
「私は島根県出身で、東京のCG専門学校に行くために故郷を出て、そのまま就職しました。東京は同じ業界の仲間がたくさんいますし、最新の情報も集まるので、エンタメ系の仕事をするのなら、一度は東京を体験するべきだと思います」
セッションの後は各社の個別面談が開かれ、パネルディスカッションで聞けなかった会社の詳しい情報を尋ねたり、持参したポートフォリオを見せて講評してもらう学生もいた