VRコンテンツ制作においても、UE4が活用されるケースは着実に増えてきています。ここでは、多くのVR作品をUE4を使って制作してきたダイナモピクチャーズとUE4専門のゲーム開発会社ヒストリアがタッグを組んだVRアトラクションについて紹介します!
※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 242(2018年10月号)からの転載に加え、本誌未掲載のトピックとなる撮影まわりのブループリント制御について追加しています。
TEXT_坂本一樹 a.k.a. ますく、蓑田健人
EDIT_藤井紀明 / Noriaki Fujii(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada
『ムー 未知との交信 VR』 告知映像
© 月刊ムー
2社の強みを活かしたUE4プロトタイピング
『ムー 未知との交信VR』はスーパーミステリー・マガジン「ムー」を題材としてVR PARK TOKYO向けにアドアーズが企画し、ダイナモピクチャーズとヒストリアが開発した体験型VRアトラクションです。このコンテンツの特徴は5人同時通信でVR体験ができることで、ゲーム内に登場するタブレットのカメラでUMAたちを撮影します。VRクリエイティブアワード2018ではファイナリスト12作品に残り、HTC VIVE賞を受賞しました。
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『ムー 未知との交信VR』
月刊ムー監修、最大5人で同時体験できるVRアトラクション。プレイヤーは月刊ムーの編集部員となり、UMA(未確認動物)のスクープを目指すコンテンツだ。現在、VR PARK TOKYO(アドアーズ渋谷店)でプレイできる
問:アドアーズ
www.adores.jp/vrpark
ダイナモピクチャーズは、映画・アニメ・ゲームムービー・CMなど、プリレンダリングによるCGアニメーションを基調とする映像制作に特化したスタジオです。日本で最初にモーションキャプチャースタジオを作ったことでも知られていますが、ここ近年はUnityやUE4などのゲームエンジンを積極的に採り入れた新しいワークフローを構築しています。本作では企画段階からUE4を用いることが決定しており、単なる映像作品ではなく様々なゲーム的な機能が必要であったため、ヒストリアと共同開発するに至りました。
ヒストリアはUE4に関わる人間なら知らない人はいない、パイオニア的存在の技術者集団です。各種開発だけではなく、ゲームクリエイターの登竜門としても名高い「UE4ぷちコン」も主催しています。本作ではダイナモピクチャーズを技術的に支援するため、彼らの作成したプロトタイプを基に様々なゲーム的要素や演出を作成しました。ヒストリアと提携する際、ダイナモピクチャーズから提供されたプロトタイプはアート面やアニメーション、エフェクトがほぼ完成していたため、非常にスムーズな連携ができたそうです。
本記事前半ではダイナモピクチャーズが新たにUE4で挑戦したリアルタイムのVRアトラクション、後半ではUE4を使用した同社最新のVR映像制作事例を紹介します。
ワークフロー& KEY FEATURE
シークエンスのアセット化
ダイナモピクチャーズは、アニメーションや3DデータをMayaのシーン上で構築し、通しで一連のシークエンスとしてUE4に読み込ませ、プロトタイプを映像制作的なアプローチで作成しました。
ヒストリアは一連のモデルやアニメーションシークエンスを分割し、レベルをサブレベルに分け、ゲームとしての観点から細かい演出や面白さをブループリントでプログラム的に管理しやすいように、各種キャラクターをそれぞれ独立したアセットに組み替えました。
一連のシークエンスデータをアセット化したことにより、一部のUMAが各々のプレイヤーに向かってアクションを行う「ルックアット」の設定などを行なったり、UMAが登場するタイミングをそれぞれのUMAごとに調整でき、ゲーム的な制御を可能にしています。
最大5人の同時マルチプレイを実現
本作ではマルチプレイを実現するために、UE4のブループリントからUE4に標準で搭載されたネットワーク機能を用い、1名のPCをホストに設定しUDP通信で接続しています。ボイスチャットはCRI・ミドルウェアの「ADX Talk」をUE4に組み込み、位置情報を反映させながらクリアな音質のボイスチャットを実現したそうです。
タブレット+カメラの実装
作品内には、プレイヤーが操作できるVRコントローラと連動したタブレットのアイテムが登場します。
プレイヤーはタブレットの背面カメラを使用してUMAを撮影でき【画像左】、プレイヤーが作品内で撮影した写真はスクープ記事として終了後に確認できます【画像右】(※画像は広告用サンプル。モニタ表示のみで印刷はされません)。タブレット内部の画面やカメラ機能もブループリントで実装し、撮影時のシャッターエフェクトなどの演出制御も全てブループリントで行われています。
タブレットのボタンが押された際の処理実装
<本誌未掲載>
撮影用のボタンが押されたときに発生するイベントを用意し、キャプチャ可能かどうかをBranchノードで判断して、Trueの場合のみ処理を続行します。その後はSequenceノードで複数の処理を順番にながすことで複雑な動作をひとつのながれで綺麗に組み上げており、視覚的にも綺麗にまとまっています。実際のタブレットのアプリのように、撮影ボタンを押した瞬間ではなく少し遅れてカメラのシャッター音が鳴るなど、リアリティをもたせるための細やかな工夫もなされています。
撮影したUMAの画像の保存
<本誌未掲載>
他のイベントからも呼び出せるようにカスタムイベントを作成し、Sequenceノードで上から順にイベントを処理していきます。Then 0ではCapture Sceneノードでカメラで映している範囲をテクスチャとしてキャプチャし、他のカスタムイベントで設定したキャプチャ時のアニメーションの処理を呼び出します。Then 1では、UMAが画面内に映っていればキャプチャしたデータをテクスチャとして保存し、UMAが画面内にいなければ振動のみを伝える処理をしています。
撮影時のフラッシュアニメーション
<本誌未掲載>
フラッシュアニメーションは、特殊なブループリントノードであるTimelineノードを使用して作成されています。Timelineノードは他のノードとは異なり、キーフレームやカーブを使って値を制御できるため、時間ベースの処理を行う際に便利です。ここではフラッシュライトのIntensityをTimelineノードで設定した値でアニメーションさせています。
撮影機能の全体像
<本誌未掲載>
ここまでに紹介してきた機能などをカスタムイベントとして機能ごとに分解し、実際に処理をながすノード群に渡すことで、修正・追加の難易度を比較的簡単にしています。また単純なことではありますが、ノードをコメント枠で覆ってコメントを記入することで、どこからどこまでがどのノードかを把握しやすくすると共に、他の人へとデータを渡したときにどのノードが何の役割を果たしているのかわからないという問題をなくし、引継ぎに困らないデータ構成となっています。
COLUMN
ヒストリア式・UE4ガイドライン
UE4のスペシャリスト集団・ヒストリアは、ゲーム制作やリアルタイム向けのCGデータを作り慣れていない提携先向けにオリジナルのガイドラインを作成しています。例えば、リアルタイムレンダリングではレンダリングの速度が求められるため、映像でよく使用されるレンダリング時にサブディビジョンサーフェスを利用するなどの手法が使えません。
また、Mayaや3ds Maxでセットアップしたキャラクターの階層構造や、DCCツールで配置したインスタンスはゲームエンジン上では反映されません。それ以外にも、データをゲームエンジンにインポートして正常に動作させるためには、いくつかの決まりごとがあります。このように未然にトラブルを防ぐためのガイドや、作業効率化のための基本的な手法が記載されています。
[[SplitPage]]プロトタイピング&キャラクター表現
背景シーン構築のながれ
UE4の強みは、アーティストのみで高いクオリティのプロトタイプを作成でき、エンジニアに完成イメージごと正確に引き継ぐことができる点です。ヒストリアが実装面を引き継ぐ前に、ダイナモピクチャーズではビジュアルやアニメーション、演出をUE4を使って内部のアーティストのみでほぼ完成させました。
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グレイボクシング。レベルデザインの前に、アニメーションに影響する背景オブジェクトの位置をMayaで仮配置し、UE4に持ち込んでVRで確認、またMayaに戻りアニメーションを作成します。
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グレイボックス(黄色部分)を基に背景をつくり込みます。
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透過バッファ画像です。VRで軽量に表示するために透過バッファを意識して、植物などの透過部分が極力重ならないように工夫しています。
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シーン内には多くのポイントライトを配置し、Lightmassで間接ライティングキャッシュを行い、リアルな反射やライティングをVR上で実現しています。ポイントライトをスタティックに設定し、ライトベイクすることで描画の負荷を下げ、VRに最適化しています。
Substance Painterの活用
全てのモデル制作はハイメッシュを作成し、Substance Painterでローメッシュにベイク、PBRペイント、Mayaでセットアップ、UE4に読み込んでレンダリング、というながれで行われています。グレイのモデルは特にプレイヤー近くに寄るため、UDIMで複数の高解像度テクスチャに分割して運用されています。
シェーダマテリアルでのアニメーション制御
まぶたが左右に開閉するチュパカブラの特殊な瞬きは、UE4のシェーダマテリアル側でアニメートさせています。後述するスカイフィッシュも同様に頂点シェーダを使って動きを付けたりと、UE4側でアニメーションを制御することを前提にモデリングが進められました。
背景アセット&エフェクト制作における工夫
モジュール設計の背景モデリング
背景を作成する際は、大きなシーンを一度にモデリングするのではなく、カリングにより無駄なモデルを表示させないために、またエンジン内でインスタンスとして扱うために、モジュールごとに細かい素材を作り分け【上画像】、背景アセットとしてセットアップしてUE4上で組み立てています【下画像】。画像は「森の遺跡」のもので、このシーン以外にも冒頭の会議室やUFO内部なども同様に作成されています。
「Plant Factory」による植物生成
植物の作成には、背景作成ツールとして有名な「Vue」と同じe-onがリリースしているスタンドアロンの植物生成ジェネレータ「Plant Factory」【上画像】が使用されています。ノードベースですがペンストロークで枝を生成することも可能で、樹木だけではなく草花やツタなども生成できることが強みです【下画像】。植物の作成ツールとしてはSpeedTreeが主流の昨今ですが、セカンドソリューションとして貴重な存在と言えるでしょう。
多彩なパーティクルエフェクト
パーティクルは全てUE4のカスケードで作成されており、UMAの毒ガス【上画像】や高速移動時の光のエフェクト【下画像】など、様々な用途にパーティクルが使用されています。
シェーダによるエフェクト表現
エフェクトのアニメーションやルックの構築にはシェーダマテリアルが活用されました。パーティクルはスタティックメッシュしか使用できないため、高速で羽ばたきながら飛来するスカイフィッシュ【画像左】の羽は頂点シェーダでアニメーションさせる工夫が施されています。草が揺れたり、【画像右】のように天井が変形するなどのアニメーションも同様です。
また、UFOのキューブ状のコアではPOM(パララックス・オクルージョンマッピング)の視差効果を用い、神秘的な奥行き感が演出されています。
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COLUMN ダイナモピクチャーズによるUE4を使用したVR映像制作事例
COLUMN
ダイナモピクチャーズによるUE4を使用したVR映像制作事例
後段では、ダイナモアミューズメントからリリースされてきたVRアトラクションの中から、ダイナモピクチャーズがUE4を使用して制作した作品を取り上げます。同社で作成しているVR映像はただのVR作品ではありません。「MX4D®」という映画用のモーションライドシートを用いて映像と動きを連動させ、リアルなアトラクションとして楽しめる作品となっています。
UE4を用いた過去作品
『メガロドン』は史上最大の古代サメが登場する海洋アドベンチャー作品。同社でUE4を用いた初めての作品で、様々な海洋生物との遭遇をリアルスケールで楽しめます。『ウルトラ逆バンジー』は大気圏への逆バンジーや、大迫力の滑空が体験できる絶叫系VR作品です。VRかつ立体視に対応しており、MX4D®の連動もあいまって、普段VRや立体視に触れている方ほど驚くという、誰もが絶叫し楽しめる作品となっています。
MX4D®とダイナモの強み
MX4D®とは米MediaMation社が開発し、ソニービジネスソリューション株式会社が国内展開するアトラクション型劇場シートです。国内映画でMX4D®対応している映画作品全てのモーションライドのプログラム制作はダイナモアミューズメントが担当しています。ダイナモ社内にはMX4D®が常備されているので、アニメーションを付けたその日に座って確認できるメリットもあります。このように映像、モーションライド共に自社内で完結できるため、アトラクションの完成度は非常に高いです。
最新作『BOAT RACE WORLD GRAND PRIX』
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『BOAT RACE WORLD GRAND PRIX』
360度VR×MX4D®の超没入体験型アトラクション。8月4日(土)から9月30日(日)まで、北海道、宮城県、愛知県、沖縄県の7会場にてイベント開催中!
問:BOAT RACE振興会
www.boatrace.jp
以降でメイキングを取り上げるのは、最新作の『BOAT RACE WORLD GRAND PRIX』(以下、『BOAT RACE』)。この作品は、BOAT RACE振興会のマスコットキャラクター「クマホン」を主役にダイナモが作成したVRアトラクション用オリジナル映像作品です。今までの作品ではシーンによってツールを使い分けていたそうですが、『BOAT RACE』ではほぼ全ての映像、素材制作をUE4で完結させた初の試みの作品になります。制作期間は3ヶ月という状況で、4Kの映像が3本、7つの巨大な背景が設定され、スピーディに制作を進める必要がありました。そこで広大なシーンを素早く量産でき、美しいレンダリングが可能なUE4を選択したそうです。
ランドスケープとフォリッジ機能の活用
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ランドスケープの機能では、ブラシを用いスピーディに地形を構築できます。砂漠やジャングルなど、ステージごとの様々な地形を高速に作成するのにおおいに役立ったそうです。
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フォリッジはメッシュをインスタンス化し、自動配置やペイントで配置するための機能です。ランダム感を出しつつ自動配置し、微調整することも可能で、効率的に岩や樹木を配置することができています。
ブレンドマテリアルによる高解像度質感の実現
頂点ペイントでマスクを塗り分け、マテリアルを適用して分けることにより、通常のテクスチャやUDIMでは再現の難しい超解像度質感が再現されました。映像制作ではUDIMを用いることが多いですが、ゲームエンジンでは軽い処理で高解像度に見せるためのブレンドやセカンドマップ等の工夫が重要になります。
水飛沫表現の工夫
水飛沫の表現はカスケードを使用して作成されています。プリレンダーのVR映像コンテンツのため、パーティクルをオブジェクトタイプに置き換え、立体的な水飛沫が再現されました。3本の映像中、ひとつはエフェクト込みでUE4から書き出されていますが、もう2つは水飛沫のみ別途書き出し、コンポジットで合成されています。
コンポジット前。
コンポジット後の完成形。