「泣いて戦うアクションRPG」という独創的なゲームジャンルを表明する『CRYSTAR -クライスタ-』は、フリューより2018年10月に発売された新規オリジナル作品だ。求められる以上のこだわりを見せる一方で、単純作業は徹底して効率化し、14ヶ月(アート作業は9ヶ月、ピークは7ヶ月)、社内21名(+社外協力者数名)で本作を開発したジェムドロップに話を聞いた。なお、本記事の前編ではプレイヤーキャラクター、後編ではノンプレイヤーキャラクターとステージのメイキングを中心にお届けする。

・後編はこちらでご覧いただけます。

※本記事で紹介する画面は開発中のものです。また、本記事は月刊『CGWORLD + digital video』vol. 244(2018年12月号)掲載の「短期間・少人数での開発を可能にする、徹底した効率化 PS4ゲーム『CRYSTAR -クライスタ-』」に加筆したものです。

TEXT_尾形美幸 / Miyuki Ogata(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota

▲『CRYSTAR -クライスタ-』プロモーションムービー
www.cs.furyu.jp/crystar/
©FURYU Corporation. 

▲左から、アーティスト・須田正広氏、アーティスト(キャラクターモデリングリード)・小寺駿介氏、アーティスト・本田美慈氏、アーティスト(モーションリード)・黒瀬美樹氏、アートディレクター・増田幸紀氏、アーティスト(ステージモデリングリード)・渡邉佳代子氏、代表取締役/スタジオディレクター・北尾雄一郎氏(以上、ジェムドロップ)、プロデューサー/ディレクター・林 風肖氏(フリュー)※アーティスト・石井拓也氏(ジェムドロップ)は撮影時不在

スタッフが歯車化しないためのチーム編成やしくみづくりを重視

本作のプロデューサーであるフリューの林 風肖氏がジェムドロップに注目したきっかけは、Unite 2017 Tokyoでの『ヘディング工場』開発の舞台裏を紹介するセッションだった。「その時点でntny(@nD_ntny)さんによる幡田 零(本作主人公)の3Dモデル制作は始まっていましたが、開発会社は未定でした」(林氏)。Unityを使い『ヘディング工場』の美しいステージやエフェクトを短期間・少人数で制作したという話を聞き「ntnyさんと最高の化学反応を起こせる会社にちがいない」と感じたとふり返る。

▲Unite 2017 Tokyoの講演動画「僕らのVR元年はこれからだ!少人数開発 PS VR「ヘディング工場」企画とアートと技術と。」


  • 林 風肖
    
フリューのゲームクリエイター。『CRYSTAR -クライスタ-』の企画・原案、プロデューサー兼ディレクターを務める。


ジェムドロップは少人数のチームで求められる以上のゲームを創ることを重視しており、本作は14ヶ月(アート作業は9ヶ月、ピークは7ヶ月)、社内21名、社外協力者数名で開発された。社内スタッフの内訳はアートディレクター(テクニカルアーティスト兼任)1名、キャラクター3名、ステージ3名、モーション2名、エフェクト1名、UI 1名、カットシーン3名、企画2名、プログラマー4名、ディレクター1名となっている。「大人数のチームになるほど、スタッフが歯車化し、ゲーム全体に対する興味が失われていきます。これまでに何度もそういうケースを見てきたので、当社では設立当初からスタッフが歯車化しないためのチーム編成やしくみづくりを重視してきました」とスタジオディレクターの北尾雄一郎氏は語る。

  • 北尾雄一郎
    
代表取締役/スタジオディレクター。1996年にゲーム業界へ就職。日本一ソフトウェアにて3年、株式会社トライエースにて14年、ゲーム開発に携わる。『ヴァルキリープロファイル』シリーズ(PS/PS2)や『スターオーシャン3』(PS2)のプログラマーを務める。在籍中にプログラムディレクターやプロデューサーを経験し、2013年にジェムドロップを設立。


同社では、仕様やデザインの確定を待たずに仮モデルを制作し、Unityに組み込み、早々にプレイできる状態にすることを心がけている。本作の場合も開発開始から5ヶ月目には第1ステージの基本的なアクションシステムが完成していた。「約1年という開発期間を考慮し、当初はもっとアクション性の低いRPGを想定していました。ところが『ライトユーザーも楽しめる難易度のアクションゲームにして、カメラも動かせるようにした方が魅力的なゲームになります』と北尾さんたちに提案され、そのシステムを見たときには感動しました」(林氏)。以降では、そんな本作開発の舞台裏を紹介する。

  • 開発開始から4ヶ月目頃にUnityでダンジョンのルックを試作するアーティスト。並行して企画はレベルデザインを、プログラマーはアクション部分を制作している

リウイチ氏のゴシックな画風を3Dで表現

本作のキャラクターデザインはリウイチ(@riuichi35)氏に依頼しようと早い段階で決めたものの、そのゴシックな画風をどこまで3Dで表現できるのか、不安が大きかったと林氏は語る。「ntnyさんに『任せてください』と言ってもらえたときは嬉しかったですね」(林氏)。ntny氏は零の私服モデルを制作し、簡単な表情や動きを付け、Unity上でUnitychanToonShader2.0を適用し、テスト動画を制作した。「リウイチさんの絵の雰囲気が見事に表現されていて、『これならいける』と確信しました」(林氏)。

▲ntny氏によって開発初期に制作された零のテスト動画


前述の私服モデルはその後ジェムドロップに渡され、ゲーム用の調整が行われた。「零のモデルは私服とバトル用の2種類があり、バトル用はntnyさんのモデルを基に、当社で制作しました」とキャラクターモデリングリードの小寺駿介氏は解説する。バトルステージでは複数のキャラクターやエネミーが同時に表示されるのに加え、ステージ自体の表示負荷も高いため、テクスチャの枚数と解像度、ブレンドシェイプの数などを抑えることで、負荷の軽減が行われている。一方で私服モデルの顔は頻繁にクロースアップで映されるため、特に目の表現にこだわったという。

  • 小寺駿介
    
キャラクターモデリングリード。『CRYSTAR -クライスタ-』ではキャラクターモデルの監修に加え、エネミーキャラクターのデザインやモデリング、プレイヤーキャラクターのモデリングも担当。大阪アミューズメントメディア専門学校で2年間3D制作を学んだ後、2016年にジェムドロップへ入社。


「開発後半にゲーム内で使う立ち絵をリウイチさんに描いてもらったら、目の表現が進化していて、目の中で大宇宙が展開されていました(笑)。『最新の絵に合わせ、目の表現を変更したい』とジェムドロップの方々に相談され、ゲームの完成間際までntnyさんと一緒に調整していただきました。おかげでリウイチファン納得の仕上がりになったと思います」(林氏)。

▲リウイチ氏によって開発後半に描かれた零の立ち絵。【左】は私服、【右】はバトル用コスチュームを着用している


▲【左】零の私服モデルの全身/【右】同じくワイヤーフレーム。総ポリゴン数は約17,000


▲【左】零の私服モデルの頭部/【右】同じくワイヤーフレーム


▲UnitychanToonShader2.0用のテクスチャ。【左】零の私服モデルのベースマップ(アルファ付き)/【右】左上1/4は顔のアウトライン幅のマスク。それ以外はハイカラーマスクで、スペキュラの調整に使われている。解像度はどちらも2,048x2,048ピクセル


▲【左】目のベースマップ/【右】目のハイカラーマスク、兼リムライトマスク。目のスペキュラと、リムライトのかかり具合の調整に使われている。解像度はどちらも512x512ピクセル。このほかにも、私服のシワの陰影表現用のグレードマップ、右手首にある紋章用のベースマップがつくられている


▲ゲーム内にて、クロースアップで映されている零の私服モデル


▲【左】零のバトル用モデルの全身/【右】同じくワイヤーフレーム。総ポリゴン数は約23,000


▲【左】零のバトル用モデルの頭部/【右】同じくワイヤーフレーム


▲【左】零のバトル用モデルのベースマップ(アルファ付き)。解像度は2,048x2,048ピクセル。私服モデルのテクスチャは全6枚だが、バトル用は負荷軽減のため1枚に減らされている/【右】ゲーム内の零のバトル用モデル


▲零のバトル用モデルのターンテーブル

©FURYU Corporation. 

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開発前半では効率化を図り、開発後半ではこだわりを炸裂

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開発前半では効率化を図り、開発後半ではこだわりを炸裂

前述の通り、本作は短期間・少人数での開発を重視していたため、キャラクターやエネミーのモデル・モーション・エフェクトは並行して制作された。「膨大な数のモーションを2名でつくる必要があったので、おおまかな仕様とデザインが決まった段階で仮モデルをつくり、ダイナミクスの検証やモーション制作を始めました。完成モデルに差し替えた後の調整は必要でしたが、先行して必須モーションを仕上げたおかげで、後半では演出にこだわることができました」とモーションリードの黒瀬美樹氏は語る。人型キャラクターの場合は顔の頂点数・頂点番号や、基本的なボーン構造を共通にすることで、作業の効率化も図ったという。

  • 黒瀬美樹
    
モーションリード。『CRYSTAR -クライスタ-』では、主に人型キャラクターや零の愛犬のセレマ、ラスボスのモーションを担当。さらにモーションリードとして、モーション関連の仕様も制作。2003年にゲーム業界でのキャリアをスタートし、主にモーション制作を担当。2014年にジェムドロップへ入社し、今にいたる。


▲零の私服モデルのリグ。ボーン数は116本。右下に並ぶ15個の頭部はフェイシャル用のブレンドシェイプ。なお、バトル用モデルのブレンドシェイプは目パチ・口パクの2個に減らし、負荷を軽減している


▲人型キャラクターの顔のポリゴンは頂点数・頂点番号が共通になっており、零の法線マップやブレンドシェイブを転用することで作業の効率化を図っている


▲左から、幡田 零、不動寺 小衣、恵羽 千、777、幡田 みらい、アナムネシス、メフィス、フェレス。小衣と777はntny氏がデザインしているが、リウイチ氏の画風に合わせてあり、どれも体型は似ている。そのため基本的なボーン構造も共通になっており、セットアップやモーション制作の効率化につながった


▲ゲーム内で描画された前述のモデル


▲千のターンテーブル


▲アナムネシスのターンテーブル


「前半はなるべく効率化に頭を使い、余裕がない中でも余裕をつくっておき、後半に駆け込みでこだわりを炸裂させるというのが当社のパターンですね。今回は特にそれが顕著で、黒瀬の場合は変身シーンの演出にこだわり、エフェクト担当の石井拓也を巻き込んでねばりを見せていました」(北尾氏)。

▲零が初めて変身するカットシーン。「より感情移入できる演出にしたい」という黒瀬氏の提案により、開発後半で専用モーションと専用エフェクトが追加された



前編は以上です。後編では、ノンプレイヤーキャラクターとステージのメイキングを中心にお伝えします。ぜひお付き合いください。

・後編はこちらでご覧いただけます。

©FURYU Corporation. 

info.

  • 『CRYSTAR -クライスタ-』
    発売:フリュー
    開発:ジェムドロップ
    発売日:2018年10月18日
    価格:7,980円(税抜)
    プラットフォーム:PS4
    ジャンル:アクションRPG
    www.cs.furyu.jp/crystar/



  • 月刊CGWORLD + digital video vol.244(2018年12月号)
    第1特集:映画『HUGっと!プリキュア♡ふたりはプリキュア オールスターズメモリーズ』
    第2特集:エンバイロンメント 2.0
    定価:1,512円(税込)
    判型:A4ワイド
    総ページ数:144
    発売日:2018年11月10日