月刊誌『CGWORLD』に掲載されたアニメ作品のメイキングをまとめた書籍『アニメCGの現場 2019』が今年も登場! その発売を記念して、収録タイトルからTVアニメ『ハイスコアガール』のメイキングを紹介する。

※本記事は書籍『アニメCGの現場 2019』からの一部転載となります。

TEXT_野澤 慧/ Satoshi Nozawa
EDIT_斉藤美絵 / Mie Saito(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada

歴代最大ボリュームの448P、全16タイトルを収録した
CGメイキング集の決定版

2012年に発売した『CGWORLD』のアニメ作品のCGメイキングをまとめた書籍『アニメーショングラフィックス 2013』は、2013年に『アニメCGの現場 2014』へタイトルを変え、通巻7冊目となる『アニメCGの現場 2019』が2018年12月発売となった。

表紙&特集を飾る『映画HUGっと!プリキュアふたりはプリキュア オールスターズメモリーズ』『INGRESS THE ANIMATION』をはじめ、この1年の注目作品全16タイトルを収録。関係各位の協力のおかげで、本誌では掲載しきれなかった画像の掲載や、新規インタビューの追加など、歴代最大ボリュームの448Pという盛りだくさんの内容となった。が、お値段据え置きでお届けする。

今回は書籍『アニメCGの現場 2019』の発売を記念して、2018年7月からTV放送が開始され、2019年3月にTVシリーズの続編がOVA発売&Netflixで配信される『ハイスコアガール』のCG制作について、特別記事を紹介する。

人気漫画をCGアニメ化! キャラクター表現&舞台を再現する秘訣

2018年9月、押切蓮介による人気漫画『ハイスコアガール』の最終回が掲載された。ここでは、時期を同じくして7月~9月まで放送されたTVシリーズのCG制作について、キャラクター&プロップを中心に解説する。

TVアニメ『ハイスコアガール』
Blu-ray/DVD STAGE 1(ROUND 1~4収録)発売中!

原作:押切蓮介(掲載 月刊『ビッグガンガン』スクウェア・エニックス刊)/監督:山川吉樹/シリーズ構成:浦畑達彦/キャラクターデザイン:桑波田満(SMDE)/CGディレクター:鈴木勇介(SMDE)/キャラクターモデルディレクター:関戸惠理(SMDE)/美術監督:鈴木 朗/CGIプロデューサー:榊原智康(SMDE)/CGI:SMDE/アニメーション制作統括:松倉友二/アニメーション制作:J.C.STAFF hi-score-girl.com
©押切蓮介/SQUARE ENIX・ハイスコアガール製作委員会
©BNEI ©CAPCOM CO., LTD. ©CAPCOM U.S.A., INC. ©KONAMI ©SEGA ©SNK ©TAITO

シンプルなデザイン×作画調の質感、SMDEならではのアプローチ

今回は、2018年7月~9月まで放送されたTVアニメ『ハイスコアガール』を紹介する。トゥーンレンダリングで描かれたCGアニメーションとして話題を呼んだ本作は、J.C.STAFFが制作全体の指揮を執り、CGパートの制作協力で小学館ミュージック&デジタル エンタテイメント(以下、SMDE)が参加している。今回はSMDEから、CGIプロデューサーの榊原智康氏、CGディレクターの鈴木勇介氏、テクニカルディレクターの松浦真也氏、キャラクターデザイナーの桑波田 満氏にお話を伺った。

左から、プロデューサー・榊原智康氏、デザイナー・津守大輔氏、デザイナー・古暮一晃氏、デザイナー・五十嵐明日香氏、デザイナー・石原裕也氏、制作・井上悠子氏、キャラクターモデルディレクター・畑野雄哉氏、キャラクターデザイン・桑波田 満氏、制作・北村和人氏、CGディレクター・鈴木勇介氏、デザイナー・阿部明日香氏、プロップモデルディレクター・熊野惠美氏、テクニカルディレクター・松浦真也氏。以上、小学館ミュージック&デジタル エンタテイメント
www.smde.co.jp

最初にSMDEへ声がかかったのは2017年2月。ゲーム筐体をCGで制作することから、キャラクターもCGで描くことになり、J.C.STAFFはCG制作会社を探していた。90年代を舞台とする本作は、TVアニメ『団地ともお』(2013~2015)のようなテイストのCGが適しているのではないかと、SMDEに白羽の矢が立ったという。そこでパイロット版として、鈴木氏を中心にショートフィルム風のPVを制作したところ高く評価され、そのまま本編を引き受けることとなった。

2017年秋からのプリプロ期間は鈴木氏と桑波田氏、そしてモデリングディレクターの関戸惠理氏が先行して参加。年明け後、モデラー、リードアニメーター等のスタッフを増員し、15名前後のコアメンバーを中心に本制作が開始された。取材時現在(2018年8月)は1話あたり3~8名のアニメーターと共に、250カットを2ヶ月程度で制作。これをひとつのユニットとして、6ローテーションでまわしているという。のべ人数はそれなりの規模とのことだが、背景美術以外はCGで制作していることを考えれば、効率的な制作である。「SMDEでは、描き込みの少ないデザインで作画調の作品をつくり続けています。本作も当社ならではのアプローチで制作しています」と松浦氏。そんなSMDEらしい画づくりをみていこう。

漫画原作からCGアニメへ様々な工夫がつまったキャラクター表現

本作の大きな特徴である、原作の雰囲気を踏襲したキャラクターは、豊かな感情表現が魅力だ。そして、どことなく90年代のアニメ作品の雰囲気を感じさせる。いずれもSMDEがこれまで培ってきた技術と経験が活かされているようだ。「最近のアニメは密度が高すぎる、昔のセルっぽい画でつくってみたい、と山川吉樹監督が話していました。山川監督のやりたい表現とSMDEが得意としている表現の方向性は、最初から合致していると感じましたね」と鈴木氏は話す。その言葉通り、描き込みを抑え、原作の雰囲気や90年代を感じさせるデザインに仕上がっている。さらに『団地ともお』で確立した福笑い表情システムの運用と、CGに精通した桑波田氏がキャラクターデザインを務めたことにより、ほぼデザイン画のままCGで立体化できたという。またアニメーションに関しても、昔のセルアニメのように、なるべく動かさないことが意識された。ダラダラと動かさず、ぱっと切り替える動きや止メを多用し、感情を表現しているそうだ。揺れものも、よほど大きな動きでなければ、多少揺れ戻す程度だという。動かさずとも立っているだけで画になる3Dモデルだからこそ、可能な表現だ。

大野 晶にみる、表情豊かなキャラクターデザインと3Dモデル

原作はデフォルメの効いた独特な絵柄が特徴のひとつだが、アニメ化にあたり、頭身や手足のバランスを現実の人体に近いものに調整している。また「作品の時代背景に合わせて、80~90年代アニメの作画密度を目指したい」という山川監督の意向を反映し、全体を通して描き込み密度を抑えるように統一された。桑波田氏は「3D化した際に破綻が少なく、かつ、立っているだけで立体映えするように」デザインしたと言う。原作と見比べてもらうと、衣装の肩の提灯や靴を大きめに変更している。一方で、表情については、原作のエッセンスが多く採り入られた。後述する福笑い表情システムを採用したことで、手描きのテクスチャによる豊かな表情表現が可能となり、原作のキャラクターの雰囲気を残したまま、見事に3Dのキャラクター化に成功している。鈴木氏も「アニメならではのデフォルメが効いていて、CGでも表現しやすい、バランスの良いデザインになりました。原作の画そのままではありませんが、原作のキャラクターと同じ人物に見えます。これこそ、アニメのキャラクターデザインだと感じました」と手応えを話してくれた。

アニメ用のキャラクターデザイン(カラー絵)

3Dモデルによるキャラクターの設定画



  • アニメ用の表情集(カラー絵)。晶は無口な代わりに表情設定が最も多い


  • 3Dモデルによる設定画

矢口春雄(ハルオ)にみる、3Dモデルの構造

キャラクターの量産性とセットアップのバランスを考慮して、メッシュ形状はシンプルに構成されている。頭部・顔の造形は、板ポリゴンとテクスチャで表情を補うアプローチにすることで、頭部のメッシュ造形のモデリングコストが抑えられた。リグはBipedをベースに、揺れもの、めり込み回避用の補助ボーンを追加。顔にはボーンを入れておらず、モブにいたっては服にすらボーンを入れていないという。カットごとにアニメーターが構造を変更しやすいように、最低限のセットアップにとどめているのだとか。また、顔・表情まわりの制御用パラメータに関しては、一括コントロールできるカスタム アトリビュートを用意。各パラメータのセットアップは半自動で行い、セットアップ時の負担を軽減している。

左からレンダリング&コンポジット後、シェーディング、全身のリグ構造



  • 表情まわりは板ポリゴン+テクスチャで表現されている。テクスチャマップを切り替えることで豊かな表情を実現した


  • 表情まわりのパラメータをまとめたカスタム アトリビュート。各パラメータとのワイヤリングを自動でセットアップする機能を含んでいる

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豊かな表情の肝「福笑い表情システム」

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豊かな表情の肝「福笑い表情システム」

テクスチャマップの切り替え、UV値の操作、板ポリゴンの位置制御等、複数のパラメータを管理するための専用の操作UIツールが作成された。オブジェクトをまたいだ複数のパラメータのキーフレーム編集が可能で、テクスチャマップもビューア上から指定できる。ただ、ビュー上の作業は処理が重くなりやすいため、描画更新頻度が高いマテリアルはShaderFXを用いたビューポート表示専用のシンプルなものにし、ShaderFX上で必要最低限の描画のみを行うことで負荷を低減している。またテクスチャマップは、目・眼球・眉・口で独立させ、正面や横など、顔の向きに合わせた素材が用意された。

表情操作用の専用ツール

ビューポート表示専用マテリアル

目のテクスチャ

口のテクスチャ。口だけは俯瞰やアオリも用意された

作画の表現に寄せた頭部の描き方

板ポリゴン上の表情パーツは立体形状として成立していないため、シーン上、コンポジット上で、カメラごとに位置を調整する必要がある。このとき、画角によっては、顔の輪郭、奥の前髪など、作画アニメ特有の表現の処理も同時に行う。また、表情の位置の調整は自由度が高いため、アングルごとの目安となる指示サンプルを配布することで、作業者によって仕上がりにばらつきが出ないように運用している。以下の画像はメインキャラクターのアニメーター向け指示サンプル。アングルに合わせた表情調整ポイントをまとめたものだ。

アニメーター向け指示サンプル(大野 晶)

アニメーター向け指示サンプル(日高小春)

アニメーター向け指示サンプル(矢口春雄)

斜め顔の調整前【左】と斜め顔の調整後【右】。口の位置、顔の輪郭、奥の前髪が調整された。真正面から見ると破綻しているが、カメラから見るとよりアニメ的に映る

横顔の調整前【左】と横顔の調整後【右】。横顔用のテクスチャに切り替え、顔の輪郭はモーフで調整している

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効率化も考慮されたレンダリング環境

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効率化も考慮されたレンダリング環境

ノードベース型レンダリング統合環境「renderZillion」。レンダーレイヤーとマルチパスレンダリングを一括管理するインハウスツールで、複数の素材を簡単に出力できる

レンダリング結果。素材はAfter Effects上で専用のJavaScriptツールに読み込むことで、既定のコンポジット構造で自動配置される。修正を行う場合、必要な素材のみレンダリングすればよい。下段最右はコンポジット後

BGの出力素材。画面前後で出力素材が分けられた

作品全体を通してクオリティを確保する鈴木氏のチェック

「作画調でキャラクターのCGアニメーションを行う場合、レンダリングすればとりあえず画が出力されます。そうすると、CG上では正しくても、手描き作画では決して描かないであろう画が生まれてしまうことが多々あるのです」と松浦氏。アニメーター単位で表情を調整していくと、カットごとに画づくりの方針が異なってしまうことも多い。そこで本作の重要なシーンでは、鈴木氏が一歩踏み込んだチェックを行なっている。アオリ時の整合性、タイムシートの打ち直し、位置調整、口パクの打ち直し、手のポーズなど、作画アニメにおける作画監督修正に近い領域まで担当することで、クオリティを引き上げているのだ。鈴木氏が作品全体の管理を行うことで、方向性が一本化され、CGでどう直すかも提案される。

修正指示の一部。細かいニュアンスに関しては「CGで修正可能な範囲で、可能な限り目指す画」(鈴木氏談)として伝えているそうだ

AEを駆使して細部まで詰めるアニメーション

アニメーション作業は、作画アニメの撮影作業を踏襲して、一部のカットではAE上で必要なセル素材を配置する手法が採られた。CGのシーン上だけでなく、コンポジットでの素材配置や2Dスライドを組み合わせ、演出意図に沿う画へ近づけている。また、表情パーツや影形状用のマスク素材が独立した素材で出力されるメリットを活かし、仮コンポジットの仕上げ工程で、簡単なレタッチ処理を行うこともある。CG上のライティングでは行いにくい演出的な影の形状表現や、不要なメリコミ部分の塗りつぶし、主線濃度の調整等、コンポジット上でのリカバリーは多いという。そうしてCGのレンダリング頻度を下げることで、効率的なカット制作が実現された。

絵コンテ



  • 初期テイク


  • CGディレクターの修正指示

修正テイク。ハルオと晶の対比バランス、ハルオの奥の前髪、ハルオの顔の向き、ハルオの目元のテクスチャ、影の入り方が修正された



  • AE上での調整前の影


  • 調整後の影。ハルオの脇の下の影、画面に斜めに入る影等を追加・修正している

臨機応変に手法を変えて描く、アニメらしいデフォルメな画

各話のキーとなるカットは、リードアニメーターがフィニッシュ工程まで担当した。3Dモデルやエフェクトなどのアセットデータの編集、コンポジット時のレタッチ・加筆等、様々な手法で対応している。スケジュールがタイトな週間アニメをCGで制作する場合、リスクを避けるあまり、表現が均一化されてしまう傾向がある。一品モノのカット作業は、生産効率から考えると避けたくなりがちだが、こうしたアクセントとなるようなカットを盛り込むことが、面白い作品をつくる上で、必要な要素のようだ。画像はキーカットの3例。

下の画像は殴られるハルオ。こちらは、頬肉のオブジェクトを追加し、ハルオの歪んだ顔を表現している。衝撃波のエフェクトも、シーンのニュアンスに合わせて、新規に作成した

絵コンテ

CG作業画面

レンダリング後


裏拳で殴られるハルオ。このカットでは、奥行きが圧縮されたレイアウトを実現するために望遠レンズを用いている。CG上の晶はかなり離れた位置に配置し、腕を伸ばして対応した

CG作業画面

レンダリング後


日高小春に掴まれたシャツの裾のCG。衣服のねらった部分のシワの描き込みは、アセットとして用意することは難しい。そこで、アニメーション担当者がAE上で直接描き込んで対応している

CG作業画面



  • レンダリング後


  • AE上での描き込み後



  • 月刊CGWORLD + digital video vol.242(2018年10月号)
    第1特集:UE4プロフェッショナルへの道
    第2特集:デジタルアーティスト×インタラクティブアート
    定価:1,512 円(税込)
    判型:A4ワイド
    総ページ数:128
    発売日:2018年9月10日