2017年12月にブレイクしたVTuber。それから1年以上が経った現在では6,000人を突破したという(※2018年12月19日時点、ユーザーローカル調べ)。本稿では、カナダを拠点に活動するクリエイティブ系VTuber「スズキセシル」の取り組みを紹介しよう。
※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 246(2019年2月号)からの転載となります。
TEXT_沼倉有人 / Arihito Numakura(CGWORLD)
EDIT_山田桃子 / Momoko Yamada
リアルタイム系3DCG制作者としてのキャリアを活かしたユニークな活動
2018年1月から活動を開始したVTuber「スズキセシル」。YouTubeで公開中の動画では、主にアニメについて語ったり、アニソンを歌ったりしている。特筆すべきなのが、自分が着る衣装のモデリングやモーション作成する動画を公開していることだろう。「取り上げるアニメが古め(※1980年代の作品が多い)なので、『わからない』とか『古すぎる』とよく言われています(笑)。たまにBlenderで自分用の衣装のモデリングや、CLIP STUDIO ACTION レガシー版でモーションを付ける動画も公開しています」。VTuberを始める以前は、いわゆるデジタルアーティストとして3Dキャラクターを動かすこと、特にリアルタイムCGにこだわってきたのだという。「過去には3Dビデオゲームのディレクションをいくつか経験したり、アバター作成ツールの開発にも携わったこともあります。ですが、大規模なプロジェクトに関わっているうちに、自分ひとりでやってみたいと思うようになりました。そこで、今は実際にひとりでどこまでできるのかというのに挑戦しています」。
セシル変身アプリPV
スズキセシル(Twitterl)
@Cecil_Channel
セシル変身プロジェクト公式(Twitterl)
@CecilProject
セシルちゃんファンクラブ(ファンティア)(Twitterl)
fantia.jp/fanclubs/10552
スズキセシル(YouTube)
goo.gl/Rzmj1e
スズキセシル氏がVTuberをはじめたきっかけは、2013年11月に相通じる動画を制作・公開していたことだったという。2017年末からのVTuberブームに加え、動画配信やリアルタイムCG関連技術・サービスの進化といった後押しを受けての再チャレンジというわけだ。そして現在は、VTuber活動と並行して「セシル変身プロジェクト」と題した3Dアバター作成ツールの開発・配布プロジェクトにも取り組んでいる。VTuberブームや各種VRプラットフォームの登場により、自分だけの3Dアバターが欲しい、けれど作成する技術がないという人たちがたくさんいるのではないかと思ったことが動機だという。デジタルアーティスト出身VTuberスズキセシル、要注目だ。
Topic 1 「スズキセシル」誕生
3DCGツールのメッカ(?)カナダを拠点に活動中
近年はゲームアプリ開発を中心に活動していたそうだが、昨年からはVTuber、そして3Dアバター作成ツール「セシル変身プロジェクト」の活動に注力しているというスズキセシル氏。興味深いのが、カナダを活動拠点にしていることだが、ここにもスズキセシル氏独自のこだわりがある。「以前は、3DCGツールと言えばカナダでした。特にSoftimage社(現オートデスク)と深く関わる縁があって、Softimage全盛期に何度かカナダを訪問する機会があり、『いつかこんな所に住んでみたいな』と思っていました。そこで海外でCG創作をやるならカナダだろうと。VTuberを始める直前までは、脱出ゲームアプリをインディーズで開発していました。しばらくつくっていたら認知されるようになって、ダウンロード数も増えていったのですが、やはり3Dキャラクターを動かすことにこだわりがあったので今はセシル100%です(笑)。ただ、2018年秋からは変身アプリの開発がほぼ全てになってしまっていて、動画制作・配信の間が空いてしまっています......。自分としては、アプリ開発と動画のどちらもやっていきたいと思っています」。
スズキセシルというキャラクターだが、もともとは自作アプリに登場するキャラクターだったという。「2014年の夏頃にCLIP STUDIOのアセットとして制作したものがベースになっています。現在のCLIP STUDIO ACTION レガシー版はブレンドシェイプに対応しているのですが、当時は非対応だったので顔は2Dテクスチャを貼り付けていました。このままでは、目パチや口パクをしないので、Unity用に作り直して、Live2Dのように2Dの作画をブレンドシェイプで変形させて、2.5Dの顔にしました。その後、VIVE Proを導入して、VRChatに行くようになったのですが、VR空間だと2.5Dでは無理がありました。VR空間では、みんな見ている角度がバラバラなので......そこで全面的に3Dにして、現在の顔になっています」。なお、使用しているDCCツールは、メインツールはBlenderとUnity。サブツールに、CLIP STUDIO PAINT EX、CLIP STUDIO ACTION レガシー版を使用している。現在のスズキセシル3DCGモデルのポリゴン数は、変身アプリの標準モデルで14,772ポリゴン。編集時にアホ毛等のパーツや全てのアクセサリー類を使って、約28,000ポリゴン。シェーダについては、以前はUnity AssetStoreで販売されている「Toony Colors Pro 2」や「ユニティちゃんトゥーンシェーダー 2.0」などを使っていたそうだが、現在はVRMフォーマット対応の「MToon」を使用。リムライト的な表現についてはMatCapを使い、顔や肌、髪、服の質感をそれぞれ調整できるように、マテリアルを分けているとのこと。
過去バージョンと現バージョン
CLIP STUDIOアセットストアで無料配布されている初期モデル(紹介画像)
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「ブラックセシルちゃん」。セシルちゃんのダークサイドとして登場している
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2018年8月6日からYouTubeで公開中の『スズキセシル スイカ割りチャレンジ!!』(youtu.be/-oVnBIjh_Xg)より。衣装や小物がバラエティに富んでいることが魅力のひとつ
ルックの調整例
Blenderによるテクスチャリング例
変身アプリのシェーダ設定によるルックの変更例
トゥーン調(輪郭線と影色を指定)
MatCapを使い、メカのような金属質感をもたせたセシル。変身アプリの「アバターセレクト」から選択できる
【メカのような金属質感をもたせたセシル】のマットキャプ3種(服、肌、髪)
[[SplitPage]]Topic 2 VTuberとしての活動
3Dキャラを創るだけでなく、演じることもできるのが醍醐味
先述のとおり、VTuberデビューへと至らせた背景には3Dキャラクター創作に対する強い思いがあったからだというスズキセシル氏。「脱出ゲームでもそこそこやっていけたのですが、ずっと3Dをやってきていたというのがあって、何かもっと面白いものはないかな、といつも思っていました。そこへ2017年11月頃だったと思うのですが、バーチャルYouTuberの存在を知りました。実は、2013年の11月にバーチャルYouTuber的なものをやっていたんです。オリジナルの3Dキャラクターが3Dのキッチンでテロップを出しながら料理の作り方を教えるというものでした。声はテキストを読み上げさせるプログラムを利用していたのですが、今よりもっと機械っぽい声でしたね。この動画制作がとても楽しかったことから、もう一度やってみようと」。
一連のデザインから3DCGをはじめとする実制作は、変身アプリの開発も含めてパートナーのアチョー夫人(@DoppeDog)が全ての作業を手がけている。そしてスズキセシルは、アチョー夫人がつくったものを使って、動画をつくる等のVTuberとしての活動を行なっているという。動画収録と配信については、Unity上でリアルタイムで動かしながら録画したものをアップロード。Virtual CastやVRChatの動画は、そこで動きながらリアルタイム録画しているとのこと。「デビュー当時は、Unity上でモーションを出していて、CLIP STUDIOACTION レガシー版でモーションデータを作成していました。その後、2018年2月にPerception Nuron 2.0を導入しました。CLIP STUDIO ACTION レガシー版でBVHの修正をして使っていたのですが修正がとても大変だったので、昨年5月にVIVE Proも導入しました。標準設定に3点を追加した6点トラッキングで動かしています」。YouTube等で公開する動画は、Unityでリアルタイムで動かしているのを、oCamで録画。音声を別録りして重ねる場合と、動きながらしゃべったり歌ったりしているものをそのまま録画する場合があるという。別録りの場合は、WavePadで音声ファイルを作成し、それを再生しながら音に合わせて動き、その画面をoCamで録画。最終的な編集はVEGAS Movie Studio Plutinumで行なっているとのこと。「これからもセシル変身アプリで色々変身しながら、アニソントークや、子供向けのキッズ英語を公開していきたいと思っています。他のVTuberさんたちとは方向性がちがうかもしれませんが、応援していただけたら嬉しいです!」
キャラクターモーション
現行のボディリグ
先日のアップデートによって、ボーンを追加。手首を回転させると、腕がねじれるようになった
CLIP STUDIO ACTION レガシー版によるモーション作成例
セシルが自分自身の動きを付けたり、衣装をモデリングするという内容の動画配信も行われている
背景セット
基本の部屋セットとプロップ
テクスチャやライティングを適用した最終的な見た目
テクスチャを変更することでシーンを演出している
動画配信
2013年11月に投稿したクッキング動画より。この動画制作の経験がVTuberをはじめる原点だという
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動画収録ならびに配信機材一式。PC、HTC Vive Pro、マイク(音声別撮り時に使用)など
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自宅の空き部屋をモーションキャプチャ収録スタジオとして使用している(写真撮影用にベースステーションを寄せいている)
公開された動画の例
YouTube(別衣装)
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Cluster用に出力したVRMをそのままアップロードしてCluster内でキャプチャ
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VRM Converter for VRChat等からコンバートして、VRChat上でキャプチャ
次ページ:
Topic 3 無料で使える! セシル変身アプリ
Topic 3 無料で使える! セシル変身アプリ
カスタマイズしたキャラは商用利用も可能
3DCGキャラクターを創り、リアルタイムで動かすことに長年取り組んできたことが原動力となっているスズキセシル氏。制作したCGキャラクターを自ら演じることができる、そしてファンが定着すれば収益化も夢ではないVTuberはまさに天職と言えよう。だが、スズキセシル氏の願望はより大きな広がりを見せている。「セシルちゃんがVTuberデビューするちょっと前に、セシルちゃんが登場する脱出ゲームを公開していました。その展開として、セシルちゃんをメインキャラクターにした着せ替えアプリと配信アプリを兼ねたようなものを考えていました。その後、VTuberやVRChatなどのソーシャルVRプラットフォームが広まり、さらにVirtual CastとVRMフォーマットが登場したことで、独自の3Dアバターを欲しい人がたくさんいるのではないかと思い、改めて開発に取り組みはじめました」。それが「セシル変身プロジェクト」である。希望者は、Fantia「セシルちゃんファンクラブ」に登録することでダウンロード可能であり、一般公開版であれば無料で利用できる。開発に際しては、3DCGに精通していない人でも簡単に利用できる仕様であることを心がけているという。「3DCGの用語に詳しくない人にもわかりやすいように、簡単な日本語を使うことにこだわっています。それとユーザーさんが使いやすいようにつくることですね。例えば、テクスチャペイントしてもらうことを前提にしているので、後からペイントしやすいUV展開を試行錯誤したりしています」。ほかにもVRChatでコンバートできるように顔とまつ毛を同じオブジェクトにまとめる。Clusterについてもテクスチャをまとめてマテリアルの数を減らすなど、各プラットフォーマーの要件を満たすようにしている。
さらに本アプリによってカスタマイズされた3Dアバターについては、その権利はユーザーに帰属することだ。「世の中に無料で使えるものはたくさんありますが、細かい条件が付随していて思うように使えないものがほとんどじゃないでしょうか。私としては権利を主張せず、誰でも自由に使えるものを提供したいと思っています。基本的に誰でも自由に使えて、使った人の気持ちや利益が上がったときにその分支援していただければと。ユーザーがカスタマイズしたモデルについては商用利用も認めている。逆に言えば、セシル変身アプリや元モデル自体の販売や配布といったシンプルにまとめられた禁止事項以外は自由なのだ。「このアプリには、みんながイチから人物モデルをつくるという手間を省きたいというねらいもあります。また、ものづくりをする人とそれを使う人を直接つないで、どちらもハッピーにできたらいいなと思っています」。現在は、β版の開発・公開に向けて、クラウドファンディングを計画中だという。興味をもった読者は、まずはFantiaをチェックしてほしい。
基本UI
変身アプリの基本UI。部屋の中にある鏡(顔のアップか全身を選択可能)を使って拡大表示するという遊び心も
カスタマイズ例
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衣装の変更。右上にある[セシルクラスター用]をクリックすると編集できる項目は限定されるが、出力したVRMファイルをそのままClusterへアップロードできる
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画面・左側に表示された[アバターセレクト]から選んだキャラクターに対するルックの編集例
髪の毛の編集例。前/左/右/後のボタンで、編集したい部分のボタンをクリック。編集したいポイント上で髪型を調整していく
シンプルなUI で多彩なカスタマイズを実現
帽子を編集するUI。現在は、サンタ、野球帽、キャスケットの3種類がプリセットで用意されている
ユーザーテクスチャの適用例。CLIP STUDIO PAINT等で描き足すなど、ユーザーが任意に編集したテクスチャを貼り付けることができる
今後の展望
次期バージョンでは、VR空間で変身アプリを利用できるようにすることを目指しているそうだ
アニメなど、2D表現も機会があれば活用していきたいという
一時期模索していた2.5D表現の活用例
VTuberデビュー直後に構想していた、セシルちゃんの着せ替え&配信アプリのプロトタイプ。顔を2.5Dで表現