2018年12月4日~7日にかけて、コンピュータグラフィックスとインタラクティブ技術の学会・展示会であるSIGGRAPHのアジア版SIGGRAPH Asia 2018が東京国際フォーラムにて開催された。歴代最大の参加人数、世界59ヶ国から1万人近くの参加者を集めた本カンファレンスから、最も多くの人たちの関心をあつめると言っても過言ではない「Computer Animation Festival(CAF)」、そしてAsiaでは初開催となった「Real-Time Live!」をレポートする。

TEXT_安藤幸央(エクサ)/Yukio Ando(EXA CORPORATION)
EDIT_山田桃子 / Momoko Yamda、沼倉有人 / Arihito Numakura(CGWORLD)

<1>国内3回目、初の東京開催となったSIGGRAPH Asia 2018

今年のSIGGRAPH Asia 2018のテーマは「クロスオーバー」。人と人との交流や、技術とアートとの交差、西洋と東洋の混交など、様々な意味が込められている。2009年の横浜開催、2015年の神戸開催に続いて日本では3度目、第11回目となる。今年は海外からの参加者も多く、各種セッションの内容、展示なども充実しており、規模こそ叶わないながらも北米のSIGGRAPHに参加しているのかと勘ちがいするほどの充実した内容であった。

また、「Production Gallery」と呼ばれる、本家SIGGRAPHでは昨年から始まったハリウッド映画のヒット作やゲームタイトルのアート、美術造形を展示するコーナーのAsia版として、「CGWORLD 映像制作の仕事展」との連動企画で日本のアーティストたちによる映像作品用の素材やスカルプチャーが数多く展示された。アーティスト本人たちも交代でやって来て、世界のどこにもない日本独自の雰囲気、作風、作品づくりへの意気込みをアピールしていた。

プロダクションギャラリー「映像制作の仕事展」展示の様子

<2>CAF(Computer Animation Festival)受賞作品

本家と同じくSIGGRAPH Asiaの中でも注目度の高いCG短編作品が集まるアニメーションフェスティバル、CAF(Computer Animation Festival)では、400近くの応募作から選出された3作品が受賞した。今年度のCAF審査員は半分以上が女性で、アジアで活躍する人たちや、さらに若手の審査員も参加するなど、SIGGRAPH Asiaならではの多様性をもった審査員たちで構成された。選出された作品は、クラフトマンシップ(職人技)をもっているか、受賞作品として適切なものか、オリジナリティがあり重要な事柄を描いているか、心が動かされるかといった視点で選ばれたとのこと。以下に、受賞作を紹介していく。

■最優秀賞/BEST IN SHOW AWARD
『L'oiseau qui danse』
Director and Producer:Jean-Marie Marbach(個人制作、フランス)

フランス人の10代兄妹によるテクノポップデュオTennysonのミュージックビデオ映像。Trapcode Suiteというパーティクルや流体表現を得意とする新しいタイプの3Dエフェクトツールと、MotionScript.comAfter Effects用のカスタムスクリプトを駆使してつくられたパーティクル満載の映像作品。このタイプの映像が好みであれば、監督のJean-Marie Marbach氏のサイトもオススメだ。

■審査員特別賞/JURY SPECIAL AWARD
『Vermin』
Director:Jérémie Becquer(Miyu Distribution、ルクセンブルグ)
Producer:Michelle Ann Nardone(Miyu Distribution、デンマーク)

デンマークのVIA University所属の学生らによる作品。こちらでもそのほか多くの作品を見ることができる。詩的な表現で、偏見について描いた作品である。

■学生奨励賞/BEST STUDENT FILM AWARD
『Reverie』
Director:Philip Louis Piaget Rodriguez,(Miyu Distribution、メキシコ)
Producer:Michelle Ann Nardone(Miyu Distribution、デンマーク)

審査員特別賞と同じく、デンマークVIA University所属の学生らによる作品。過酷で荒廃した環境の中で自身の悲しみや怒りを表した「獣」と必死で戦いながら旅する少年を描いている。Vimeoのリンク先には作品に参加した学生たちのプロフィールや作品リンクが紹介されている。

<3>Asia初開催、リアルタイムCGイベント「Real-Time Live!」

北米で開催されるSIGGRAPHの目玉イベントである「Real-Time Live!」は、2016年から始まったプログラムで、CG業界におけるリアルタイムCGの台頭と共に企画されたSIGGRAPHの主要イベントのひとつである。PCゲームの描画や、サイエンティフィックビジュアライゼーション、バーチャルスタジオ、VRやAR、そして古くから北欧で盛んなデモシーンと呼ばれるプログラミング技能を競う文化を含めた、様々なジャンルが包括されている。

映画制作のような従来型の時間をかけたレンダリングとは異なり、リアルタイムにその場で目の前にあるコンピュータで描画することを醍醐味とし、短時間でのデモを披露するのが「Real-Time Live!」である。今回のSIGGRAPH Asia 2018における「Real-Time Live!」は、SIGGRAPH Asiaとしては初の試みであり、発表の質を保つ上で、デモ発表の内容を運営コミュニティで検討し招待するというキュレーション形式で行われた。ちなみに北米のSIGGRAPHにおける「Real-Time Live!」はサブミット式で、広く投稿を受けつけ、選抜されたデモとキュレーション式で実績のある招待デモが半々ぐらいの割合で構成される。今回のSIGGRAPH Asiaでは、北米SIGGRAPH 2018で好評だったデモ発表のいくつかが招待されている。

「Real-Time Live!」チェアを務めた長谷川 勇氏(スクウェア・エニックス)

「Real-Time Live!」では、ステージ上での準備に限られた時間しかないなか、ステージの面積や配置に制限もあり、電力、機材、プレゼンの手順、デモ画面の切り替えといった様々な不安材料が満載であった。案の定、本番の発表中にもリハーサル不足が原因で画面が映らないというちょっとしたトラブルもあったが、会場の観客をも巻き込んで「頼むから映って!」という願いが広がっていった(発表順を入れ替えて再度挑戦したデモでは、観客も発表者も皆が祈るような気持ちであったことだろう)。北米のSIGGRAPHの場合、最終日のセッションは論文発表が最後であり、なんとなく解散的に終わるのが常であったが、今年のSIGGRAPH Asia 2018では「Real-Time Live!」が「締め」として4日間の最後のイベントとなり、参加者の皆が高揚感を共有し、気持ちが1つになるイベントとなった。

「Real-Time Live!」のステージ後方、たくさんのケーブルが床に這う舞台裏

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SIGGRAPH 2018の「Real-Time Live!」発表者

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SIGGRAPH 2018の「Real-Time Live!」発表者

北米SIGGRAPHの場合はとても広い会場・ステージのため、発表者もステージ上の見えやすい位置でデモンストレーションを行うが、日本での「Real-Time Live!」はステージ利用の制限により、少し隠れた位置でのデモンストレーションとなってしまった。各チームのもち時間は15分。その短い時間のなかで技術的要素、エンターテインメント的要素、さらにリアルタイムならではの要素をアピールしなければいけない。また観客たちもCG/VFX業界の専門家たち、アーティストたちであり、とても難易度が高いデモンストレーション環境であったとも言える。

MR360 Live: Immersive Mixed Reality with Live 360° Video
ヴィクトリア大学(ニュージーランド) CMIC(コンピュテーショナル・メディア・イノベーション・センター)
SIGGRAPH 2018発表招待作品

MR360 LiveはDreamfluxプロジェクトによる、リアルタイム配信中の360度映像の中に違和感なく3DCG映像を重ねるMRのデモンストレーション。日照の度合いや周囲の環境に応じてCG映像に影がつき、色合いや輝きも環境の変化に応じて変わっていく様子をアピール。彼らが「augmented teleportation(拡張テレポーテーション)」と呼んでいるステージ上の2拠点間を結んだリアルタイム360度映像のビデオ会議のデモや、まだ何もないオフィスの部屋に3DCGの家具を配置してみるデモが披露された。

An Architecture for Immersive Interactions with an Emotional Character AI in VR
スクウェア・エニックス(日本)

スクウェア・エニックスによる『An Architecture for Immersive Interactions with an Emotional Character AI in VR』は、仮想環境における自然言語による会話インタラクションのデモ。3DVR空間中にいるエイリアンに自然な言葉でお願いごとをすると、その言葉や指定した色、手順を理解した上でエイリアンがちょこまかと動き、ロケットの修理作業を行うというもの。デモそのものは日本語で行われたが、英語でも認識できるよう拡張作業中とのこと。

"REALITY: Be yourself you want to be" VTuber and presence technologies in live entertainment which can make interact between smartphone and virtual live characters
GREE(日本)

GREEのデモンストレーションは「全人類が『なりたい自分で、生きていく。』世界を実現する」をテーマにVTuber向けのソリューションを紹介するものだった。顔のトラッキングにはiPhone X上で動くアプリ、モーションキャプチャスーツはXsens製のものをIKINEMA LiveAction経由で利用し、手の動きにはStretchSenseスマートグローブを用いている。出演者の人数やライブ番組の設計、電波や演者のための環境などの環境に応じて、HTC Viveによる独自開発のトラッキングシステムとXsensを併用しており、今回のデモでは有線接続のXsensが利用された。

2人のアクターによるアニメキャラクターが登場するVTuber番組風のデモであり、配信中に視聴者がアイテムやプレゼントを購入することができるという仕組みになっていた。

REALITY - Real-Time Live! in SIGGRAPH Asia 2018 Tokyo - behind the scenes - 4K

More Real, Less Time: Mimic's Quest in Real-Time Facial Animation
Mimic Productions(ドイツ)

Mimic Productionsのデモは、同社CEO Hermione Mitford氏が技術面とアート面の両側から解説しつつ行われた。フェイシャルキャプチャはデプスカメラを搭載した iPhone Xで行われ、iPhone側で取得できる51のブレンドシェイプを利用、描画はUnreal Engine 4で行われている。キャラクター表現はフォトグラメトリー技術を活用したもので、顔だけでなく首の部分もカバーしたものだそう。3Dモデルとしては髪ありのものも用意したが、いくつかの理由から今回のデモでは髪なしのものが使用された。キャプチャの途中で、キャプチャ元となる人間が入れかわっても、キャリブレーションなしですぐに追従することができていた。

Pinscreen Avatars in your Pocket: Mobile paGAN engine and Personalized Gaming
Pinscreen、USC Institute for Creative Technologies(アメリカ)
SIGGRAPH 2018発表招待作品

Pinscreenはモバイル機器を活用したアバターアプリで、スマホゲーム内で動くキャラクターをパーソナライズするためのソリューション。一枚の写真画像を元にアバターを制作できるため簡単に利用することができる。今回、デモに使用された「Pinscree」や「Pinscreen Face Tracker」がAppStoreでも無料配信されている。発表では、各国首脳をアバター化し笑いを誘っていた。

Real-time character animation of BanaCAST
バンダイナムコスタジオ(日本)

バンダイナムコスタジオによるデモは、会場の奥に設置されたライブキャプチャシステムを使った2人のアクターによるアニメキャラクタのリアルタイム配信BanaCASTの紹介。設置が数時間で行なえるため、音楽ライブの会場やイベントなどでの利用も想定されているとのこと。歌と踊りを含め、デモでは2人だったが、最大6人までのライブが可能だという。階段や椅子といった現実世界の物体を画面の中でもうまく扱えるしくみになっていた。

The Power of Real-Time Collaborative Filmmaking 2
PocketStudio(フランス)
SIGGRAPH 2018発表招待作品

PocketStudioは東京とパリを結んで、リアルタイムの映画編集のデモを行なった。3人のアーティストが同時にアニメーション作成から、オブジェクトの配置、カメラの動き、カット割りなどの作業を実施し、簡単なCG映像シーンではあったが、デモの時間内で1つの動画を完成させることができた。実際のCG映像制作で使うためにはまだまだ課題がありそうだが、場所と時間の制限を取り払うツールとして大変興味深いものだった。

Live Replay Movie Creation of Gran Turismo
ポリフォニーデジタル(日本)

ポリフォニー・デジタルのデモは、実際のゲーム(グランツーリスモ)のゲームプレイ履歴データをもとにリプレイ動画をリアルタイムで様々なカメラアングル・カットで映画や、本物のカーレースの映像のように再現するというもの。ゲームプレイヤーがゲームの中でとった動きや衝突回避の瞬間など、手に汗握る瞬間があたかも映画のワンシーンを見ているかのようにリプレイされるのは、とても不思議な体験だった。技術的に詳しい話はSIGGRAPH Asia 2018のプレゼンテーション資料「Practical HDR and Wide Color Techniques in Gran Turismo SPORT」でも紹介されている。

<4>次回のSIGGRAPHについて

来年、2019年の本家(夏)SIGGRAPH 2019は、7月28日~8月1日に米国ロサンゼルス、2019年冬のSIGGRAPH Asia 2019は11月17日~20日にオーストラリアのブリスベンで開催されることが決まっている。

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CG/VFX技術の最先端に触れることができ、様々な進化を見せてくれる次回のSIGGRAPH、SIGGRAPH Asiaにも期待したい。