3月7日(木)、モバイルゲーム『SINoALICE ーシノアリスー』などの開発を手がけるポケラボが、ゲーム制作者向けイベント「ポケロボMeetup#4」を開催した。イベントでは「クリエイティブ」をテーマに、キャラクターモーションやエフェクトなどの視点から座談会形式でポケラボのモノづくりへの姿勢が語られていった。

TEXT&PHOTO_安田俊亮 / Shunsuke Yasuda
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada

<1>再生時間0.5秒に全力を込めるエフェクトづくり

イベントでは座談会に入る前に、来場者と登壇者が打ち解け合うための「アイスブレイクタイム」が行われた。こうした講演イベントでは、講演時間後に懇親会などが開催されることがあるが、より和やかな雰囲気で進めるためにあえて最初に「アイスブレイクタイム」を設けたのだという。


各テーブルには飲食物が提供され、お互いが自己紹介する場が設けられた

来場者同士、講演者の自己紹介も兼ねての談話が一段落したところで、いよいよ座談会がスタート。ポケラボ デザイナーチーム デザイナー兼マネージャーの本間知和氏の仕切りにより、各担当者の取り組みが話されていった。


  • 本間知和氏(ポケラボ デザイナーチーム デザイナー兼マネージャー)

最初はポケラボ アートチーム エフェクトアーティストの池田博幸氏より、『SINoALICE ーシノアリスー』のバトルエフェクトについて語られた。


  • 池田博幸氏(ポケラボ アートチーム エフェクトアーティスト)

『SINoALICE ーシノアリスー』のバトルエフェクトは、VFXエンジンの「SPARK GEAR」によってつくられている。エフェクト制作エンジンとしては他にも候補があったが、実際に触ってみて「一発で表現の本質にたどり着ける」と確信したことから導入を決めたそうだ。

また、池田氏が「キャラクターアニメーションを読み込んだ状態でエフェクトをプレビューしたい」とSPARK GEARの開発元にリクエストしたところ、アニメのプレビュー機能が実装されることとなった。これにより、アニメーションに被せるかたちでエフェクトを制作できるようになり、制作効率が非常に上がったという。

池田氏がエフェクト制作で気に入っているのは、0.5秒程度という短い時間に渾身の力を込めていくことだという。1日の作業時間が8時間だとすれば、実に57,000回以上も同じエフェクトを再生しながら完成させる。「ヒットエフェクトをキャラクターのダメージモーションと同時に再生する度に、やられるときのキャラクターボイスが心の中で再生され、それをくり返し見ることで、すごく気持ち良くなっていく」とした。


SPARK GEAR上のプレビュー

<2>「結果的に面白くなるならやる」自由な社風

続いて『SINoALICE ーシノアリスー』のアニメーションを担当するポケラボ アートチーム モーションディレクター兼マネージャーの下澤浩二氏は、『SINoALICE ーシノアリスー』内で2月末~3月初旬にかけて開催された『NieR Replicant(ニーア レプリカント)』とのコラボイベントの事例について語った。


  • 下澤浩二氏(ポケラボ アートチーム モーションディテクター兼マネージャー)

このコラボで特徴的だったのは、コラボキャラクター「カイネ」のモーションだったという。「カイネ」は双剣をもつキャラクターだが、『SINoALICE ーシノアリスー』には双剣という武器種はなく、当然モーションもない。

当初は想定していなかったモーションをつくるとなると仕様の変更が各所必要で、その時点では実装できるかどうかも不明だったが、エンジニア、プランナーと話して、「カイネを入れるなら双剣をつくる」と決めたという。

さらに3人で1組の「三匹の子豚」の双剣モーションでは、攻撃をしない残りの2人には特別にポンポンをもたせている。下澤氏はこれについて、「勝手につくって、あとで了承を取った」そうだ。


双剣のモーションプレビュー。左はモーションを仮当てするための「素体ちゃん」と呼ばれる開発用キャラクター。右は「三匹の子豚」

そもそもの「三匹の子豚」についても、当初は3人で1キャラクターとするキャラクターの登場は想定しておらず、「三匹の子豚」のために特別にボーンやアニメーションを新たに作成している。

双剣にしても「三匹の子豚」にしても、実装のために取り決めたレギュレーションを壊すことになったそうだが、「結果的に面白いかたちになるならやる」というポケラボの自由な社風があったことで、実現に至ったそうだ。


「三匹の子豚」のように、面白さのためにレギュレーションを壊せる自由さがポケラボにはあるという

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<3>現場はアドリブをぶつけ合う「ジャズ演奏」

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<3>現場はアドリブをぶつけ合う「ジャズ演奏」

『SINoALICE ーシノアリスー』のリードデザイナーを担当するポケラボ デザイナーチーム デザイナーの栗田 昭氏は、開発中は全体のエフェクトはもっと抑え気味だったと明かした。


  • 栗田 昭氏(ポケラボ デザイナーチーム デザイナー)

理由は世界観がシリアスなものだったことが理由だが、原作とクリエイティブディレクターを務めるヨコオタロウ氏から「もっと派手に」とリクエストが入り、今のおどろおどろしくて質感のあるエフェクトが出来上がったそうだ。

また栗田氏が本作において印象的なこととして挙げたのが、イベントに合わせてつくるバナーのクリエイティブ。それまでは様々な訴求ポイントをバナーに詰め込むのが主流だったが、作品の方針に合わせて「1バナーにつき訴求ポイントは1つ」と情報量を絞って制作している。作品のブランディングが、バナーのクリエイティブからでもできるという経験は、とても新鮮だったとした。


『SINoALICE ーシノアリスー』のエフェクト


「新鮮だった」というバナーのクリエイティブ


このほか栗田氏はユーザーから評判のいいスタンプにも言及。制作のコツは「ネットスラングに走りすぎないこと」だという

最後に池田氏は、「クリエイティブ部の楽しいところ」を音楽にたとえて「アドリブをぶつけ合うジャズ演奏のよう」とした。

上記の双剣の例で言えば、エンジニアが「双剣のモーションに専用エフェクトがほしいから、明日までに用意してほしい」と突然話し出したという。「手順を踏まなくとも、良くなるならすぐやろうという空気がある。役割をしっかり分けるオーケストラ的なゲーム開発もあるが、ポケラボはジャズ演奏のような緊迫感がある。『そう来たか、ならこうするよ』みたいなやり取りが刺激的で、居心地が良い」と締めくくった。

なお会場では、クリエイティブ部の若手メンバーが日々のスキルアップ施策を綴る「Creative Blog」も紹介された。まだ起ち上がったばかりだが、ポケラボのモノづくりの雰囲気が伝えられるブログになるという。


今ポケラボとして推しているというマスコットキャラクターの「ポケロボくん」。今後のイベントでも見かける機会があるかもしれない。ポケロボくんTwitter:https://twitter.com/pokerobokun

  • 『SINoALICE -シノアリス-』等のクリエイター陣が語る!ポケラボ流クリエイティブのツクリカタ
    日時:2019年3月7日(木)20:00~
    場所:株式会社ポケラボ
    pokelabo-event.connpass.com/event/120572/