航空機による戦闘のリアルなゲーム性と入念な設定がファンの心を掴み続ける「エースコンバット」シリーズ。空中戦中も含め、プレイヤーが受け取る情報は目まぐるしく変化し、その総量は非常に膨大となる。それでいて多くのファンがゲームプレイに集中し、作中世界に没入できるのは、ひとえにそのUIが優れている証左だと言えるだろう。今回は書籍『ゲームグラフィックス 2019』の発売記念として特別に、情報を過不足なく伝える『エースコンバット7 スカイズ・アンノウン』のUI開発について解説する。

TEXT_岸本ひろゆき
EDIT_海老原朱里 / Akari Ebihara(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada
ACE COMBAT™ 7: SKIES UNKNOWN & © BANDAI NAMCO Entertainment Inc.
trueSKY™ Copyright © 2019 Simul Software Ltd.
© DigitalGlobe, Inc. All Rights Reserved.
All trademarks and copyrights associated with the manufacturers, aircraft, models, trade names, brands and visual images depicted in this game are the property of their respective owners, and used with such permissions.

『エースコンバット7 スカイズ・アンノウン』
発売:バンダイナムコエンターテインメント
開発:バンダイナムコスタジオ
リリース:発売中
価格:8,208円(通常版)、ほか
Platform:PS4/Xbox One/PC
ジャンル:フライトシューティング
ace7.acecombat.jp
ACE COMBAT™ 7: SKIES UNKNOWN & © BANDAI NAMCO Entertainment Inc.
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作中世界での軍事用コンピュータOSを想定したUI

「エースコンバット」シリーズのUIは、一貫して「作中世界で使用される軍事用コンピュータのOS」を想定して設計されている。『エースコンバット7 スカイズ・アンノウン』(以下、『ACE7』)もその例に漏れず、文字・線を主体としたシンプルなエレメントで構成されている。それらのエレメントに付与する質感で高級感を演出しつつ、入念に調整されたアニメーションでプレイヤーを飽きさせない。

「本作では『ACE7』の世界のOSとはどんなものか、という要件定義からはじめました。作中で想定している技術水準は『エースコンバット5 ジ・アンサング・ウォー』(2004年発売)から10年後、『エースコンバット3 エレクトロスフィア』(1999年発売)の20年前と設定しています。その30年間を前期・中期・後期に区分けし、それぞれについて考察しながら『ACE7』OSの基本概念を構築していきました。そういった作業は各協力会社と共に設定、共有することからスタートしました」と語るのはリードGUIアーティスト・三品幸彦氏だ。

『ACE7』 OSの基本概念を構築する際に検討されたのは「主人公の視聴環境」「視聴端末」「情報の整理・構築」「各要素のデザイン化」といった項目だ。これらが先ほどの30年間でどのように推移したかを設定することで、最終的な『ACE7』 OSへと結実している。

基本概念図の例。メニューの階層が奥行き方向につらなり、縦軸にメニュー項目、横軸にメニューのオプションといった構成が提示されている

モックアップムービーの制作

「決定した基本概念を元にモックアップムービーを制作し、協力会社にもいくつものアイデアを提案していただきつつ、画面全体の質感・アニメーションを検証しました。その際、『製品としては多言語対応するため文字の領域を考慮する必要がある』といったゲームのUIとしてのルールなども共有し、操作したときの手触り感などをこちらで監修しました」(三品氏)。

制作されたモックアップムービーの構成は「メインメニューからモード選択画面へ遷移→機体・兵装の選択→出撃」というもの。こうした「UIの完成イメージ」は、これまでは三品氏が内製プロトタイピングツールで制作していたという。これにより、実機での開発に入る前の開発初期段階でプロジェクトメンバーへ完成イメージを共有できたほか、プログラマーやゲームデザイナーの手を煩わせることもなく、また全体のボリュームやシーケンスも把握できたという。「この作業はアイデアをどんどん詰め込めるのでつくっていて一番楽しい時間でもありました。ただ、その後実機で再現するためのイバラの道が待っていますが(笑)」(三品氏)。

このフローは、本作では上記モックアップムービー制作に置きかわり、これを完成イメージとしてUnreal Engine 4で再現するという方針で実装が行われた。

実機画面。コンセプト時点と比べて遠近感によるメリハリがはっきりとして、OSとしてのユーザビリティが向上しているのが観察できる

情報をわかりやすく伝える、レイアウトの工夫と思想

20年以上続くタイトルということもあり、「エースコンバット」シリーズにはUIガイドラインが存在している。その根底を貫いているのは「ルールと要素を極限まで絞り込む」というコンセプトだ。「例えば、ある領域の上側と下側でユーザーに伝える内容・情報のカテゴリがちがう場合、横線を引いてユーザーの理解度を高める......、というように、そこに組み込んでいる意味を説明できない要素は存在しません。線1本、文字の配色に到るまで、全てに必ず意味をもたせています。文字色に赤を使ったなら、その赤文字はどういう意味をもち、他の画面ではどういった文字が赤になるべきかを考えて統一します」(三品氏)。

ゲーム中に提示される情報は非常に多く、情報の種類がちがうからと安易に枠で囲い、色を変える、といった設計を繰り返せば、あっという間に要素が増え、どんどん画面は煩雑になる。徹底して情報を吟味し、配置要素を突き詰めて置かなければすぐに表示域が不足してしまうことになる。それはユーザーの理解を遠ざけ、混乱に繋がってしまうだろう。

「洗練されたシンプル・クリーンな表現で、膨大な情報をユーザーに理解度高く伝える......。これは非常に大変なことですが、"エースコンバット"シリーズにおけるUI制作において、最も重要なことだと考えて取り組んでいます」(三品氏)。情報量が多いにも関わらず、きちんとエンタテインメントな体験を提供できるのは、背景にこうした設計思想が徹底されているからこそなのだ。

「エースコンバット」シリーズ過去作との比較。【上】『エースコンバット5 ジ・アンサング・ウォー』/【左下】『エースコンバット6 解放への戦火』(2007年発売)/【右下】本作『ACE7』。実機の世代に合わせて表現自体はリッチになっている一方、ユーザーが第一に捉えるべき情報の提示量などは調整されている

シンプルで洗練された「AIRCRAFT TREE」

獲得した戦果ポイントによって自機のカスタマイズを行う「AIRCRAFT TREE」は、前作『エースコンバット インフィニティ』(2014年発売)で初登場したシステムだ。樹形図のように伸びた要所要所に機体や強化パーツが配され、どのようなルートで開発を進めるかを考える戦略的要素がある。

「ユーザーアンケートでも好評を博したこともあり本作でも採用したのですが、ゲームシステムのちがいから最適化が必要となりました。前作はオンライン対戦を主とするF2Pタイトルであり、機体やパーツも高性能であれば入手に時間がかかり、苦労して入手した喜びを味わいつつ実戦投入して腕前を競う、といった遊び方になります。本作では対照的に、入手自体はそれほど難しくなく、手軽に組み合わせることで条件の異なる様々なミッションにカスタマイズで対応するという遊び方に変わっています。もちろんオンライン対人戦でも有効ですが、主となるゲームの方向性に寄り添うように改良しました」(三品氏)。具体的には、基本的なデザインは前作を踏襲しつつ、よりシンプルな構成とした。これによって、本作の遊び方に合わせて手軽に様々な試行錯誤が行えるUIとなった。

機体やパーツなどツリー上の要素を囲う枠の形状は、丸型やひし形、三角形など様々な案が検討された。中には「枠なし」という、極限まで要素を絞ったエースコンバットならではのデザイン案も浮上したが、最終的にはシンプルな四角形を主としたものに落ち着いた。「ミッション中のHUDやメインメニューなど、製品全体としては色数が少ない画面が多くを占めますが、AIRCRAFT TREEはカテゴリを表す色が散りばめられた華やかな画面になりました。激しい戦闘を離れ、飲み物を片手に未入手アイテムの性能を眺めたり、機体やパーツをどの順番でどのルートで進めようか......、じっくりと考えていただくなど、一味違った雰囲気を感じてもらえたらと思います」(三品氏)。

【上】本作でのAIRCRAFT TREEのコンセプト画像。情報量が多くカラフルな様子が楽しい。これ以外にも様々なデザイン案が検討された/【左下】最終的な実機画面。武装要素が機体にぶら下がるなど情報が階層的に整理された。また、カメラズーム機能が加えられ、閲覧性が向上している/【右下】前作『エースコンバット インフィニティ』でのAIRCRAFT TREE。比較してみると本作版はよりシンプルに構成されていることがわかる

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『エースコンバット7 スカイズ・アンノウン』の詳しいメイキングは2019年9月発売の書籍『ゲームグラフィックス 2019』で掲載いたします。

  • 『ゲームグラフィックス 2019』
    定価:3,888円(税込)
    判型:A4変型/オールカラー
    総ページ数:352
    発売日:2019年9月22日
    ISBN :978-4-86246-452-1

    詳しくはこちら。
    https://www.amazon.co.jp/dp/4862464521