ブラジル・サンパウロにて毎年開催されている南米最大のアニメイベント「Anime Friends」をご存知だろうか。例年7月頃に開催され、3日間で10万人の動員規模を誇る。今年も7月12日(金)~14日(日)にかけて開催された本イベントでは、日本よりVRアイドルグループ『Hop Step Sing!』が出展。実際に現地に赴いた講談社VRラボ代表取締役・石丸健二氏より、出展レポートを寄稿いただいたので紹介したい。
TEXT&PHOTO_石丸健二 / Kenji Ishimaru(講談社VRラボ)
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)
巨大にして便利なイベント会場
地球の裏側にあるブラジル・サンパウロにて7月12日(金)~14日(日)に開催された「Anime Friends」。まったくもってイベントのことを知らなかった私は、同イベントの運営を担当するロベルト・レゴナッチ氏の1年越しのラブコールにすっかり乗り気になり、出展を決めました。弊社が制作を手がけるVRアイドルグループ『Hop Step Sing!(以下HSS)』の最新コンテンツ『VRChat ミカミカルーム』をお披露目するためです。
ロベルト氏からは3日間で10万人来場するイベントと聞いており、「そんなに来るの?」と若干半信半疑だったのですが、実際に参加してみると疑念は見事に払拭され「確かに10万人以上いるかも」という人数が会場にあふれ返り、アニメファンの熱気も相当なものでした。そして『HSS』の『VRChat ミカミカルーム』やVRプロモーションビデオも3日間で約600人に体験してもらうことができました。今回、「Anime Friends」の魅力と南米アニメファンの熱気、そして弊社コンテンツに対するリアクションについて共有させていただければと思います。
巨大なワンルーム展示場! テンション上がりました
ブースの設営のため、会期の前日に会場となるパルケ・アニェンビ(Anhembi Parque)に入った私はその大きさに驚かされました。柱もないこの巨大なワンルームで全てのアトラクションが行われると聞くとテンションが上がります。柱がないためとても見晴らしが良く、部屋が分かれていないのでイベントや展示からの移動がとてもスムーズで、来場者にとってはとても便利だと感じました。さらに会場がかなり広いので通路が非常に幅広く取られており、逆に閑散としないかなと心配になるほど。蓋を開けてみると、広い通路は多くの参加者が会話をしたり、コスプレイヤーと写真を撮ったり、休んだりするのにとても有効に使われていました。
1日12時間のマラソンイベント開始!
イベント初日、8時30分くらいに現地に到着したのですがその時間から既にチケットカウンターには列ができていました。Webでの先行販売ではチケットが完売していたため、当日券目当ての人が並んでいるようでした。とはいえ開場した10時には人影はまばらで、混雑し始めたのは12時くらい。その後は終了する22時まではほとんど人が減ることはなく、満員状態が続いていました。お気づきかと思いますが、このイベントは何と朝10時から夜22時の12時間のマラソンイベントなんです。前準備と後片付けを含めると14時間くらい会場にいることになります。出展側は本当に大変なイベントです。
そんなマラソンイベントにもかかわらず、多くのアニメファンでいつもいっぱいで、しかも1日中、さらに3日間全て来る方も多くいらっしゃいました。前述したように『HSS』のVRコンテンツにも約600人以上の人が訪れ、中には3日間で8回も体験してくれたグループもいました(詳しくは後述します)。そんな熱狂的な「Anime Friendsファン」ともいえる人たちを生んでいる理由は、アトラクションのバリエーションの豊富さと、会場の便利さ、そして通路の広さにあるのではないかと思いました。
特に通路の広さは大きなメリットで、通りすがりにコスプレイヤーと写真を撮り、談笑し、そして疲れたら通路に座り、みんなまどろむ。みんな地べたに座るのが平気で、我々のブースの中でも「休ませてくれる?」と普通に座って荷物を広げる人がいる。そして楽しそうに仲間とアニメの話やカードゲームを始めたりするんです。もちろんスーツ姿の人もほとんどいないのでとってもカジュアルな雰囲気。そんな感じなので、人気アトラクションの行列に並んだりトラブルで開始時間が変わったりなど待たされることにも寛容というか、あまり気にしない。日本で数多くのアニメ系のイベントを見てきましたが、来場者のカジュアルさとイベントの楽しみ方がとても新鮮かつ素敵で、印象に残りました。
地べたに座って歓談中。みんなどこでも座っちゃう
コスプレは本格的!
多種多様なコンテンツ
そしてもちろん、とても魅力的な展示物が多いのも人気の理由のひとつです。展示物は数こそそこまで多くないですがアトラクションの種類は豊富、そしてクオリティが予想以上に高い。アニメやマンガに関連する展示であれば何でもOKな雑多な感じですが、ライブや展示、トークショーはかなりきちんと準備がされていて、来場者を楽しませる工夫が随所に見られました。
具体的には弊社のようなVRやゲームなどデジタルコンテンツを体験できるブースは少なく、マンガ物販やアニソンライブ、ダンスイベント、アーティストのポートフォリオ展示、着ぐるみショー、K-POPのダンスレッスン、ボードゲームスペース、アニメに関するカンファレンス、体を使ったゲームなどなど、大人だけでなく子どももみんな一緒に楽しめるイベントがたくさんありました。
日本のマンガをブラジルで出版する大手出版社
ひときわ人気が高かったのは『ウルトラマン』ショー。30分のステージは歴代のウルトラマンが活躍する本格的な舞台で、企画・演出は円谷プロダクションが行なっているとのこと。600人入る会場からは人があふれ、ウルトラマンが怪獣を倒すシーンでは大人も子どもも大歓声! ウルトラマン世代の私も思わず興奮してしまいました。担当者に聞くとウルトラマンのステージはここ数年Anime Friendsの常連とのこと。デジタルからライブ、物販、飲食まで幅広く1ヶ所で楽しめる手軽さとクオリティの高さもこのイベントの人気の理由のひとつなのだと感じさせられました。
ウルトラマンショーは映像を駆使した本格舞台 ©TSUBURAYA PRODUCTIONS
ウルトラマンショーもそうですが、実はこのイベントに出展する側もリピーターが多い。片道30時間かかるブラジルのイベントなのにです。アニソンライブに出演するとある方は、参加して10年になるとのこと。イベント以外にもサンパウロ郊外の小児科病院に訪問し、難病で入院している子どもたちに歌をプレゼントするといった活動もしているそうです。出展する側にとっても楽しくて癖になる、愛着をもてるイベントのようです。
物販の人気のワケ
会場にはマンガ、アニメ関連商品などの販売ブースが多くあり、いつも人でごった返していました。何人かにワケを聞いたところ、「ここで売っているものはまちがいなく『本物』なので、本物志向のアニメファンが、本物を買える少ないチャンスに殺到する」ということのようでした。主催者側も近年海賊版をイベントから完全に排除するなど意識改革を進めていて、ファンの間でも"ここに行けば本物が手に入る"という安心感が広まってきたようです。人気商品のひとつに抱き枕があり、「DAKIMAKURA」というポルトガル語で表記されていました。『HSS』ブースでも展示用のCDをどうしても売ってほしいと何回も言われました。
物販に殺到!!!
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『Hop Step Sing!』をAnime Friendsでお披露目した理由
『Hop Step Sing!』をAnime Friendsでお披露目した理由
『Hop Step Sing!』ブース前
そんな魅力たっぷりのイベントが目白押しの中で、弊社は『HSS』のVRコンテンツをお披露目しました。『HSS』をブラジル・サンパウロで披露しようと思った理由は、ひとつには2億7千万人というポルトガル語圏人口に魅力を感じたからです。今回のイベントでは、ユーザーがVRゴーグルをかけてキャラクターのプライベートを訪問する『VRChat ミカミカルーム』を展示のメインに据え、さらにチャットルームでマンガ版『HSS』の最新エピソードをポルトガル語で読めるようにしました。ブラジルで『HSS』のファンを増やせないかという実験に来たわけです。
もうひとつは日本のコンテンツを好きな人がかなり多いこと。今回改めて実感したのですが、日本のアニメやマンガはブラジルやその周辺国ではとても人気があり、多くの熱狂的なファンを獲得しています。『HSS』のような知名度のないコンテンツでもすぐに受け入れてもらえるのではないかという期待がありました。
無名の『Hop Step Sing!』と未知のVR体験の反応は?
ブースでは、4台のデモマシンを用意して『VRChat ミカミカルーム』を体験してもらいました。結果的には3日間で約600人に体験していただきおおむね好評でした。体験後に書いてもらったコメントによると、大まかには75%は好評、25%が批判やよくわからない、どっちともつかないといった反応。さらに、全体の7割くらいの方がVR体験自体が初めてということでした。正直『HSS』のコンテンツがどうというより、VRそのものが新鮮で面白いと思ったことが結果に表れているように感じました。
ただ、VRの世界で会うアニメのキャラクターに心酔する人も数多くいて、「VRの彼女ができたら良いのに」、「男の子バージョンも欲しい」などのコメントが多くみられました。逆にゲームユーザーからは、VRChatやPVについて「何をしたら良いのか?」、「ミッションがわかりにくい」、「インタラクティブ性がもっとあったら良いのに」などの評価をいただきました。
『VRChat ミカミカルーム』体験の様子
体験後にコメントを書いてもらった
ステージでのトークセッション
今回、展示だけでなく1日1回の計3回、『HSS』の制作秘話やアイドル3人からブラジルの皆さんにコメントをお届けするトークセッションも行いました。1時間という長時間の枠で、しかも知名度もないコンテンツなので人が集まるのか心配していました。初日は心配が的中し、600人の会場に来てくれた人は1/3ほど。ところが2日目、3日目は7割くらいが埋まり、ホッとしました。さらに嬉しかったのは、来てくれた人たちがとても真剣に話を聞いてくれて、Q&Aではとても的を得た、良い質問を多くいただいたことです。
例えば「AIがアイドルになれるようになったら、どんなアイドルをプロデュースしたいですか?」とか「『HSS』は声優の名前を出しているが、出していないVTuberも多い。ちがいは何か?」などなど。トークセッション後にブースに遊びに来て質問したり、『HSS』について詳しく聞いてくる人が増えたりと、日を追うごとに『HSS』に興味をもち、ファンになってくれる人が増えていくのを実感できました。
トークセッションに来てくれた人たち
VR市場としてのブラジルの評価
VR市場として、ブラジルに可能性があるかどうか。今回だけでは正直わからない部分はあります。スマホを使ったVR機器は街で普通に売っていましたが、まだまだ本格的なVRを視聴する環境がブラジルでは少なく、PCを使ったハイエンドな視聴環境となるともっている人は少ないと言わざるを得ません。
それは体験者の7割がVR体験が初めてだったという数字に表れていますし、平均年収が94万円のブラジルでは一部の裕福な人の贅沢な娯楽でしかないと推測されます。さらに多くの方が「VR=ゲーム」と思っており、PVやVRChatでのコンテンツの楽しみ方がわからない人も2割くらいいました。総合するとVRコンテンツの市場としてはまだまだこれからという印象です。
ただ、『HSS』ブースは常に満員で、VR+アイドルへの関心と新しいエンターテインメントへの好奇心の高さ、さらに前述したようにアニメーションやエンターテインメントに対する渇望感は大きく、もっとVR機器が安くなればブラジルは一気に優良市場になるのではないかと、そのポテンシャルは感じました。ちなみに今年のヴェネチア国際映画祭のBEST VR IMMERSIVE EXPERIENCE FOR INTERACTIVE CONTENTはブラジル人監督の『A LINHA(The Line)』という作品でした。ハイエンドなVR作品が生まれる土壌があるというのも、今後注目したい理由のひとつとなりました。
出展の苦労とスタッフのハードワークに感動
初めてのブラジル、サンパウロでの出展。ブラジルならではの苦労やトラブル、発見や喜びがたくさんありました。
●設営のトラブル
まず設営について。これは本当にヤキモキしました。日本では考えられないことですが、設営用の器材が搬入されたのが前日の18時。予定より2時間遅れての設営開始になりました。VRのセットアップは結構センシティブなので時間が足りるか心配でしたが、案の定時間がかかり、結果として作業が終わったのが深夜1時。助かったのは会場側の設営時間のリミットがなかったこと。日本なら設営時間が決まっていて、「何時までには出てください」と言われるのですが、ここでは終わるまでやらせてくれました(そのあたりは大雑把)。さらに、ブラジル人の現地スタッフやイベントの責任者も問題が解決するまで残ってくれ、サポートをしてくれました。全体的に関係者は前向きで、ハードワーカーな印象を受けました。
●頼んだもの、作業が届かない、進まない
現地で配布用のフライヤー、Tシャツを発注していたのですが、Tシャツが2日目の午後に届き、フライヤーは結局最後まで届きませんでした。さらにプレゼン資料の翻訳がなかなか終わらない。イベント前日になってもできていないので、「そうだ、通訳がいる!」と随時アテンドしてくれていた優秀な通訳をホテルに呼んで翻訳をお願いし、何とかプレゼン資料の準備ができました。これをAnime Friends常連の歌手にちょっと愚痴ったら、「お願いしたことの40%くらいしかやってもらえないよ」、「絶対外せないことは自分で何とかするのが失敗しないコツ」とありがたいお言葉をいただきました。
●通訳・アシスタントのスペックが高い
良い意味で驚かされたことは、現地で雇った通訳やデモを手伝ってくれたアシスタントたちのスペックと意識の高さ、そしてハードワークぶりでした。日本語が話せる人が多い理由の根底には200万人の日系ブラジル人ソサエティがあると思います。通訳をしてくれたエミリーは学生ながらとても気が利き、アクションも早く、もちろんポルトガル語、日本語、英語が堪能。その場で本当にリクルートしたのですが、卒業まであと2年あるので難しいと断られてしまいました。
展示のお手伝いをしてくれたアシスタントたちもとてもハードワーカーで感動しました。10時から22時の12時間という長丁場にもかかわらず、お昼の1時間と時々休憩する以外はずっとブースに張り付いて来場者のVR体験をサポートしてくれました。しかも、オペレーションの理解力がすごく高く、展示開始から1時間くらいで私のヘルプなしで運営してくれるようになっていました。何よりみんな楽しそう! 写真はスタッフとの記念撮影ですが、3日間で友だちのようになれたのがすごく嬉しかったです。
スタッフとの記念写真
最後に
このイベントで印象に残ったのは、イベント主催者と出展者、そして来場者の距離がすごく近いことです。イベントの責任者を務めたジエゴ・ハゴニャ氏は飲料メーカーFonttの社長であり、本人は超多忙にもかかわらず、困ったことがあったらすぐに相談に乗ってくれるし、解決もしてくれる。会場をいつも見回っていて気配りも欠かせない。本当にすごい人でした。
冒頭でも紹介した、日本コンテンツを中心にイベント企画などに携わるロベルト・レゴナッチ氏は『HSS』の出展を根気強く勧めてくれ、ジエゴにタイアップブースの話をもちかけ、ブースデザイン、現地スタッフの手配など実務的な作業を一手に引き受け、出展を後押ししてくれました。国民気質なのかキャラクターなのか、イベントにかかわるスタッフは本当に親切でハードワーカー。前述したようにいろいろヤキモキする場面もありましたが最終的には気持ち良いイベントを終わることができました。このホスピタリティの高さがAnime Friendsというイベントを成功に導いているのだと実感しました。
サンパウロを歩き回ると、街中にとてもクオリティの高い落描きがたくさんあります。自分を表現したい人がたくさんいて、その表現する場所や機会が少ないから街に絵を描くとのこと。街を歩くだけで本当に刺激を受けるし、テンションが上がりました。アートを生活の一部にする国民性があるからこそ、アニメーションも多くの人にとってなくてはならない存在になっているのだと思います。そんなブラジルはアニメーションやVRの市場としては大きな可能性を秘めていると体感しました。片道30時間の旅でしたが参加した価値は十分あったと思います。とりとめもない記事になりましたが、みなさまがブラジルやAnime Friends、そして『Hop Step Sing!』に興味をもっていただければ幸いです。
●information
『Hop Step Sing!』オフィシャルホームページ
hopstepsing.com
株式会社講談社VRラボ オフィシャルホームページ
kodanshavrlab.com
記事についてのお問い合わせ
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