昨年6月に公開され、興行収入18億円を超える大ヒットとなり現在もなお一部劇場で上映が続いている『劇場版 うたの☆プリンスさまっ♪ マジLOVEキングダム』。CGWORLD vol.256(2019年12月号)では第1特集「今気になる、男性アイドル」にて16ページにわたりメイキングを紹介。本誌のためだけに制作された表紙グラフィックも話題を呼んだ。本稿では、18人のアイドルが一堂に会した表紙グラフィック制作の裏側を紹介する。
TEXT_石井勇夫 / Isao Ishii(ねぎぞうデザイン)
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
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『劇場版 うたの☆プリンスさまっ♪ マジLOVEキングダム』
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初回限定版:8,500円+税
通常版:6,500円+税
utapri-movie.com
©UTA☆PRI-MOVIE PROJECT
18人の個性を意識した配置とポージング
CGWORLD vol.256の表紙を飾った、18人のアイドルが一堂に勢ぞろいした完全オリジナルのフルCGグラフィック。同作の魅力の根源であるアイドルたちがそれぞれに個性あふれる笑顔で集まったボリューム満点の豪華カットだ。
このグラフィックを制作したのは、本編でCGディレクターを務めた中島 宏氏(A-1 Pictures)とキャラクターモデリングスーパーバイザーを務めた宮嶋克佳氏。本作の版権グラフィック制作としては、劇場で販売されたコラボフードのパッケージおよび特典クリアファイルを含めると2度目のタッグになるという。
写真左から 宮嶋克佳氏、中島 宏氏
大まかな制作の流れとしては、ラフでキャラクターの配置を固めたのち、中島氏が3ds Max上でレイアウトを行い、After Effectsで撮影処理を加えてレンダリング。その後宮嶋氏のポージング監修とPhotoshopでのレタッチを経て完成にいたった。制作期間としてはラフの制作に約2日、ポーズの決定に5〜6日、レタッチに約3日と、トータルでみると半月ほどとのこと。
「本編でのライブが終わった後のオフショットのイメージです。元々、本編ではなかなか出せない彼らの素の部分を出したいと思っていました」と中島氏は語る。本編のライブシーンでは見ることのできない、リラックスした素の笑顔が印象的だ。
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中島 宏/Hiroshi Nakajima
CGディレクター
A-1 Pictures
a1p.jp
本編では、『うたの☆プリンスさまっ♪ マジLOVE』シリーズに登場するアイドルグループであるST☆RISH、QUARTET NIGHT、HE★VENSそれぞれのパフォーマンスだけでなく、3グループのメンバーをシャッフルしたスペシャルユニットも登場する。今回の表紙では全員がそのスペシャルユニットの衣装をまとい、ユニットごとに並んでいる。本編のキービジュアルではこれらの衣装は登場していないため、この機会に出したかったという。ポーズや小道具にも、本編のパフォーマンスや楽曲の要素が反映されている。
「18人を同時にレイアウトしていくのは大変でしたが、アドリブ要素が強いのでやっていて楽しかったですね。それぞれのキャラクター性を意識しながら作りました。CGWORLDの表紙を飾ることができたのも、嬉しいです」(中島氏)。
ポーズの監修とレタッチを担当した宮嶋氏は「今回はCGWORLDの表紙でもあることですし、極力CGを活かす方向で、レタッチは最低限にするよう心がけました」とふり返る。レタッチ工程では主に顔に落ちる影と手の形の修正を行い、それ以外の部分はあまりレタッチしなかったという。「ポージング監修という立場ですと、プロジェクトから抜けるのが早いので、完成したものを見る頃には離れてからかなり時間が経っていることが多いのですが、今回このような機会をいただいて、『マジLOVEキングダム』の集大成と言う気持ちで取り組むことができてとても満足しています。それに、創刊号から読んでいるCGWORLDの表紙を飾れるのは嬉しいですね」と制作後の感想を語ってくれた。それでは、次項から制作の工程を詳しくみていこう。
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宮嶋克佳/Katsuyoshi Miyajima
キャラクターモデリングスーパーバイザー
Twitter:@Miyaziman
Topic 1:制作のながれ
作業の工程としては、中島氏がラフを作成し3ds Maxで配置、宮嶋氏のポージング監修を受けた後AEで撮影処理を施し、宮嶋氏がPhotoshopでレタッチ。さらにそれを中島氏がAEに読み込み、逆光などのフィルタ処理を入れて仕上げている。18人のアイドルたちは1人ずつレイヤーに分けてレンダリングしており、手を絡ませたり肩を組んだりしているところは、さらに素材を分けている。
実のところ、配置よりもポーズを考えることの方が大変だったという。本編では歌の振り付けやユニットの決めポーズなどで同じポーズを取ることが多いため、18人がこれほどバラエティに富んだポーズを取ることは少ないのだそうだ。
表情のバリエーションも苦労した点だった。「できるだけ全員ちがうテイストの笑顔にしました。同じような表情だけど、首を曲げたり目線を変えたりと工夫しました」と中島氏。例えば同じ歯を見せる笑いでも、瑛一と大和ではそれぞれちがうキャラクター性を出すようにしているとのこと。
鳳 瑛一(左)、日向大和(右)
監修をした宮嶋氏は「キャラクターデザインの藤岡真紀さんが、毎回版権イラストで全て異なるポーズを描かれているのが本当にすごいと思います」と改めて作画へのリスペクトが増したという。ポーズをつけた中島氏も「作画スタッフの皆さんは引き出しが広いなと感心します。普段から色々と研究されているんでしょうね」とうなずいた。両氏とも、藤岡氏の作画は大いに参考になったという。
●ラフ
レイアウト前の打ち合わせ時に作成したアングルとアイドルの配置イメージ。構図はラフと完成グラフィックの間で大きく変わっていないことがわかる。「いろんな案が出ましたが、18人を均等に見せやすいアングルにしました」と中島氏。まず音也の位置を中心にして、その両脇に各グループの中心的キャラクターである嶺二と瑛一を配置。その後、スペシャルユニットごとにまとめていったそうだ。その際、同じグループのメンバーがなるべく隣り合わないように配慮している
●配置〜撮影処理
左:3ds Maxでアイドルを配置している様子/右:After Effectsでの撮影処理の作業画面。3ds Maxの作業画面は、リグを表示させるとものすごい密度になっているのがわかる
●レタッチから完成まで
- キャラクターのレタッチ前(左上)、レタッチ後(右上)、AEでフィルタ処理を加えた最終ルック(左下)。ぜひ各画像をブラウザの別画面で開き、切り替えて見ていただきたい。レタッチ前後の大きな違いは、髪の表現や顔への落ち影の形状、線の強さなどだ。極力、3DCGのタッチを残しつつ、情報量を増やしすぎないように注意しながらレタッチをしていったという。最終ルックは、AEで床から受ける逆光のフィルタをかけて、さらにリッチな印象になっている
背景の処理前(左)、最終ルック(右)。背景は本編に登場するステージだ。ロゴ全体の発光感と色味の調整をして仕上げ、グリッドのサイズも本編より少し小さくしている
キャラクターと背景を合わせた完成画像(左)。本誌表紙(右)では文字要素で隠れてしまった瑛一のHE★VENSのハンドサインと蘭丸のロックポーズもはっきりと見える
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Topic 2:ユニット別にみる、ポージング監修&レタッチ
Topic 2:ユニット別にみる、ポージング監修&レタッチ
ここからは、スペシャルユニットごとにポーズの監修とレタッチの工程をみていく。作業を担当した宮嶋氏によると、今回は先述したように極力CGモデルを活かすよう意識しモデルを変えずに最低限のレタッチで対応したが、手の形はほぼ全てのアイドルをモデルから修正したという。レタッチにあたっては、藤岡真紀氏の描くキャラクターから外れないことを心がけた。「特に藤岡さんの描く手の表情が素晴らしく、レタッチをする際の参考にしました」(宮嶋氏)。
本編では動きの中で気にならない細かい部分も、高解像度の静止画では目についてしまうため、細かくレタッチを入れた。特に髪が顔に落ちる影については全員分レタッチがされている。「モデルは立体で作られているものなので鼻のあたりに立体的に影が落ちますが、キャラクターとして理想的ではなく、リアルに落ちすぎてしまう影は印象を悪くしてしまうので、全体的に手を加えました」と宮嶋氏は静止画へのこだわりを語ってくれた。
手の影も同様で、CGの実写的な影を情報を整理したアニメ風の影にするために積極的にレタッチが施されている。一方で、体にはほとんど手を入れず、めり込みの修正とラインを軽く整えた程度だ。他に、アイドルによっては鼻の位置や目の位置を多少変えているとのこと。
また、本編と大きく異なるのが、キャラクターのアウトラインの太さだ。静止画にすると、動画の場合よりもラインがかなり細く見えてしまうため、今回の表紙ではかなり太めに描かれている。レンダリング時に本編よりも太い設定で書き出し、さらにレタッチでもレイヤーを重ねて太くしている。その上でレンダリング設定で入り抜きを加え、線の表情を豊かにしているという。
01:美風 藍、一十木音也、桐生院ヴァン
※キャラクター名は左から表記
●ポージング監修
左:監修前/右:監修を受け、修正したもの
宮嶋氏による監修コメント(画像クリックで拡大)。藍の頭のサイズと、音也の指、ヴァンの鼻に監修が入っている
手を繋いで掲げている部分のアップ。監修前(左)、監修を受けて修正したもの(右)。指のシルエットを直すため、モデルを修正してレンダリングされた
●レタッチ
左:ポージング監修後の状態、右:レタッチを加えたもの
- ポージング監修後(上)、レタッチ後(中央)のクローズアップ。掲げた手の影や首の影などが修正されており、ヴァンの鼻の影が鼻下から向かって右に変更されている。また、本編ショット(左)と比べると、ラインがかなり太くなっているのがわかる
●完成
レタッチ後AEで最終処理を加えた完成画像。ラフの時点ではヴァンの表情はもっと凛々しい感じだったが、にこやかな表情に変更されている。「音也とヴァンは良い意味で明るい2人なので、大騒ぎするだろうなと。藍はこの2人に引っ張られるんだけど、そのノリは嫌いじゃない。でも、手を挙げても両手ではない、という感じ。表情もイヤイヤな雰囲気が出ないように、楽しんでいる感を出しました」(中島氏)。
02:鳳 瑛一、四ノ宮那月、黒崎蘭丸 ※キャラクター名は左から表記
●ポージング監修
左:監修前/右:監修を受け、修正したもの
宮嶋氏による監修コメント。主に、手の形についての監修が入っている
瑛一と那月の手のアップ。監修前(左)、監修を受け、修正したもの(右)。瑛一のHE★VENSのハンドサインはカメラ正面を外して少し角度を変更。瑛一の肩に乗せた那月の手は添える程度に修正された
●レタッチ
左:ポージング監修後の状態、右:レタッチを加えたもの
ポージング監修後(上)、レタッチ後(下)のアップ。3人とも鼻の影や口の形状が整えられている。「瑛一の表情は悩みました。特に口周りはモデルでニュアンスを表現するのが難しかったので、レタッチで描くことにしました」(宮嶋氏)
●完成
レタッチ後AEで最終処理を加えた完成画像。「蘭丸は本編の中盤でロックポーズをしていたのでここでもさせています。瑛一がしているのはHE★VENSのハンドサイン。違うポーズですが似ているのが面白いかなと思い、それぞれにポーズをさせてみました。那月はポーズを取る印象がないので、肩に手を置いて"仲良し"な感じにしました。それぞれ違うグループだけれど、親密感を出したかった」(中島氏)。
03:カミュ、聖川真斗、鳳 瑛二 ※キャラクター名は左から表記
●ポージング監修
左:監修前/右:監修を受けて修正したもの
宮嶋氏による監修コメント。カミュの手首の角度、真斗の腕、瑛二の掌の角度に監修が入っている
カミュの手首のアップ。監修前(左)、監修を受けて修正したもの(右)。スナップを効かせた角度に修正
●レタッチ
左:ポージング監修後の状態、右:レタッチを加えたもの
ポージング監修後(上)、レタッチ後(下)のアップ。手袋のシワや口元などにレタッチが入っている
●完成
レタッチ後AEで最終処理を加えた完成画像。「真斗とカミュは大人っぽくこういうときでも大騒ぎしない性格なので、楽しくてもこのくらいで。瑛二は元気に可愛くしました。ポーズ的に触れ合いがない分、密着感を重視しています」(中島氏)。
[[SplitPage]]04:神宮寺レン、皇 綺羅、寿 嶺二 ※キャラクター名は左から表記
●ポージング監修
左:監修前/右:監修を受け、修正したもの
宮嶋氏による監修コメント。3人とも主にユリの持ち方に対しての監修が入り、宮嶋氏が自ら撮影した手の写真を添えて説明されている。衣装が黒く手が目立つために、細かくコメントを入れたという
上から嶺二、レン、綺羅のユリを持つ手のアップ。監修前(左)、監修を受け、修正したもの(右)
●レタッチ
左:ポージング監修後の状態、右:レタッチを加えたもの
ポージング監修後(上)、レタッチ後(下)のアップ。それぞれの顔や手の影、綺羅と嶺二の鼻の影などにレタッチが入っている
●完成
レタッチ後AEで最終処理を加えた完成画像。「本編で使っていたユリの花をもたせてみました。肩に手を置いて、仲の良さも少し出しています。」(中島氏)。「楽曲の演出意図でもあったユリを女性のように優しく扱うということで、手の表現に気を付けました」(宮嶋氏)
05:天草シオン、来栖 翔、帝 ナギ ※キャラクター名は左から表記
●ポージング監修
左:監修前/右:監修を受け、修正したもの
宮嶋氏による監修コメント。それぞれの肩の位置と、自然な手の置き方などへの監修が入っている。親密さの演出も考慮している
翔が2人の肩に置いている手の監修前(左)、監修後(右)のアップ。「手のひらで肩を掴むよりは、手首を乗せるくらいの方がより親密な印象が生まれると思いました」(宮嶋氏)
●レタッチ
左:ポージング監修後の状態、右:レタッチを加えたもの
ポージング監修後(上)、レタッチ後(下)のアップ。シオンの口は少し開け気味に、翔の口角を上げ、ナギの鼻は横からの影にレタッチされている
●完成
レタッチ後AEで最終処理を加えた完成画像。「本編のMCパートで翔が2人の肩をガっと掴むシーンがあるので、その雰囲気で。シオンはそんなにポーズをさせていませんが、本編のライブ後なのでやや打ち解けて微笑んでいる。ナギは自己主張が強い子なので可愛いポーズにしました」(中島氏)
06:愛島セシル、日向大和、一ノ瀬トキヤ ※キャラクター名は左から表記
●ポージング監修
左:監修前/右:監修を受け、修正したもの
宮嶋氏による監修コメント。セシルの頭を少し小さくすることと、拳の角度への監修が入っている
セシルの拳のアップ。監修前(左)、監修を受けて修正したもの(右)。指の間隔を狭めることで握った感じを強くしている
●レタッチ
左:ポージング監修後の状態、右:レタッチを加えたもの
ポージング監修後(上)、レタッチ後(下)のアップ。手袋のシワなどはっきりわかるように描き足されている
●完成
レタッチ後AEで最終処理を加えた完成画像。「このポーズは本編でやっているポーズの再現ですが、他のユニットととのバランスもあり、あまり密着させすぎないように気をつけました。セシルは元気に、大和へ寄りかかる感じにしてみました」(中島氏)
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